騎士はここじゃなくて、海の向こう

 二年生になって履修できる科目も増えた。といってもクラス単位で受ける授業も変わらない。二年生になると入学式に出なくてもよくなる。カームと一緒に部屋の引っ越しと今まで使っていた部屋を片付けていたらなにか出てきた。 「なんだこれ」 「なにそれ」 「知らん。捨てる」 「容赦ない……」  それは誰かの髪の毛の塊だった。昔の魔法では髪の毛には魔力が宿るとか色々とあったらしいが今はそういった考えはあまりしない。呪術的な形代として使われることがあってもそこに魔力が宿ったりするわけではないという考え方である。あとで燃やしておこう、と袋に詰め込んだらカームに気持ち悪いなあという顔をされた。 「お前の髪の毛だって気持ち悪いくらいあるだろ」 「僕の髪の毛はそういうもんじゃないから」 「へぇー?」 「僕の髪の毛は意味があるものなんだよ、これでも」  意味のある髪の毛ってなんだよ、と笑ったら「うちの商品をディスプレイするのにこのままのが楽だし!」と叫んだ。 「……。それは、一理あるな」 「ね?」  カームの言葉にうなずいてさっさと部屋の掃除を終わらせた。次来る生徒に「前にいた先輩やばいな」とは言われたくないのでできるかぎり丁寧にやってあるつもりである。ピカピカにした部屋を見てよし、と部屋を出ていく。とりあえず出てきた髪の毛を燃やせるように、と外に出てきたら誰かがうずくまっていた。放置しようかとも思ったがどうにもきになってくる。おい、と声をかけるとのそのそと男が起き上がった。クラスは同じではなかったがマジフトで活躍していた花形選手の……名前は、忘れたが。とにかくその男だった。 「……。そこの、男。起きているか」 「ぐっ。いってえ」 「そんな変な寝方をしているからだろう」 「しっぽが痛むんじゃないか」 「尻尾? こっちは平気だ、いてぇのは首の方だ」 「へぇ」  髪の毛を置いてしゃがみ込むと男の方は#名前2#の顔をようやく見た。 「お前……。ナイトか」 「は? ナイト? なにが?」 「あの女みてえな男といつも一緒にいるだろう」 「ああ、カームのことか。あいつは男だぞ」  それはわかってるっての、と男がめんどくさそうにうなずく。#名前2#は「ナイトなんてものじゃない、俺はあいつのおもちゃだぞ」とぼやいた。 「おもちゃ? あいつの?」 「ああ……」 「そんな風には見えねえぞ」 「花形もカームのことが気になってるとは思わなかった」 「はあ?」  男の顔を近くで見ても#名前2#にはやっぱり名前が分からなかった。こっちが自分を知っていることのほうが驚いたけれど、#名前2#は自分よりもカームの方が有名だから仕方ないなあと何も考えないようにした。 「……キングスカラーだ」 「そうだったのか。俺は#名前2#・#名前1#だ」 「……。おい、これ、俺も名前を言う流れなのか」 「いや、勝手にしてくれ」  キングスカラーってどこかで聞いたことある名前だなあ、と#名前2#は考えながら袋を手に持って立ち上がる。おい、その袋……とキングスカラーに言われたが#名前2#は気にせずすたすたと歩いていってしまう。どうすんだそれ!と声が投げられる。キングスカラーが叫ぶなんてめったにないことだった。叫んだ本人さえも驚いているのに#名前2#は「燃やす!」と映画の主人公のように返事をして立ち止まらず行ってしまう。  後日、ポムフィオーレのナイトが人の頭を燃やしていたといううわさが立つことになった。ようやくナイトと呼ばれていることを自覚した#名前2#は失敬な話だ……とうなだれていた。カームもキングスカラーも#名前2#には伝えなかったが、あの髪の毛の塊の中には人の頭を模した人形も入っていた。それを燃やしたのだから噂がたっても仕方ない。 「俺、先輩になったのに……」  変なことで落ち込んでいる#名前2#にカームはそっとソーセージを渡してやった。