神様へ、こいつに良心を

 ホルツは#名前2#が心配していたよりも「性格のいい」男だった。努力家を認める男である。ただし、一度嫌ったものは絶対に許さないという白黒ハッキリしている性格をしていた。カームはその可愛らしい容貌からホルツに女性のような恰好をすることを勧められた。#名前2#はホルツが男にしか見えなかったが周りからはそうはならなかったらしい。カームはおとなしく女性のような姿になった。綺麗な姿だが声は男である。同じ寮室にいるのが#名前2#だったおかげかカームはそれでものんびりと過ごしていた。 「カーム、お前そんな服着てていいのか?」 「ええ? 何の話?」 「ごめん、言い方を間違えた。そんな服着て楽しいのか」 「楽しいか楽しくないかで服なんて選ぶ?」 「……選ばないなあ」 「でしょ? 僕は好きな服を着るっていうより、周りが服を用意してくれるから楽ちんって感じ」  確かにいろんな生徒からカームは貢ぎものをもらっていた。今日もまたカームはばりばりと持っていた箱の包みを開いている。ほらね、とカームはフリルが袖に着いた洋服を取り出して見せた。 「うちって寮的にもこういう改造はありってことなんじゃない?」 「緩いなあ」 「なんたって優しい学園長だからね」  カームはにんやりと笑った。#名前2#は何か言いたいわけではなかったが隣にどうみても制服を改造していますという人物が隣にいるのが違和感をおぼえていた。なんだろう、初めて会った時のあの姿が忘れられないからだろうか。でも、カームはそういう奴だと#名前2#はもう知っているのに。 「そういえばトレイン先生なんだけどね、」 「あ、ああ……」  話が急に方向転換した。#名前2#の頭の中にいた学園長が飛び立ってトレイン先生がのそのそと入ってくる。カームはいそいそとノートを取り出して#名前2#に渡した。「なんでもノート」と書かれたそれはその名の通り、カームが学業以外のことをまとめたノートである。 「絵をようやく描かせてもらっちゃった」 「気難しいトレイン先生からよく許可を貰えたな」 「ちゃんとルチウスの可愛さをまとめたレポート提出したし魔法史の勉強も頑張ったからね」  へへっと笑うカームはノートを開き、ルチウスのデッサンを色々と見せてくれる。美術部に属しているだけあってカームの絵は#名前2#にはとても上手く見えた。 「本当にうまい」  心から褒めた言葉にカームはあっけに取られたがすぐに笑顔になった。 「#名前2#のそういうところ、僕好きだよ」 「ああ?」 「裏表があるわりに、あっけらかんとしてるよね」 「裏も表もない人間とか逆に怖いだろ……」 「そりゃあそうだけど」  カームは笑ってノートを取り返した。パラパラとページをめくり「#名前2#みたいなやつが貴族になってくれれば僕だって楽なのになあ」という。 「俺は貴族には向いてない」 「そんなに断言しなくてもいいじゃん」 「自分でもわかる。絶対無理」  いーーっと口を開くとカームは腹に手を当ててけたけた笑った。その顔を見てようやく思い至る。  ああ、そうか。違和感にようやく気づいた。#名前2#はカームのその話し方に違和感があったわけではない。ただ、初めて会った時のあの時がいちばん綺麗だったのに今の方がなんだかくすんだように見えるから不思議なのだ。 「カームはそうやって笑ってる方がいいよなあ」 「え? 何?」 「お前は笑ってる姿がいいよってこと」 「うわ、気持ち悪」 「前言撤回、今めっちゃブス」  そのあと、トレイン先生に会うとどうにも生暖かい目線で見られるようになった。不思議だ。ルチウスはいつもと変わらずゴロゴロと喉をならしている。ある日の授業でトレイン先生に呼び止められて「なんでしょう」と言ったらトレイン先生はうーん、と逡巡したあと「頑張りなさい」と一言だけ残して歩いていってしまった。これからお昼なのに食堂とは逆方向に早足で行ってしまう先生を見てカームが何かやらかしたんじゃないかと思った。器用にビーフシチューが服にはねないように食べているカームを見つけ出してトレイン先生の話をしてみたがこいつは口を開けて笑うだけで何も言わなかった。それに口を開けて大声で笑ったせいでホルツ先輩に怒られてしまった。  カームの方にも贈り物は毎度届けられているがだんだんとその中身も変わってきたみたいだった。洋服以外にも日用品なども届くようになっていたからちょっと怪しい気もする。カームはいつもと変わらず「愛用」しているみたいだった。