ガールズバンド作戦
結局ボーカルが決まらないまま話が進んでしまった。#名前2#を入れたらどうかという案は鶴丸と大倶利伽羅によって却下された。歌が下手なわけではないがそんな所に出て動画の身バレされたらたまらない。あんなに楽しいものをみすみす逃すわけにはいかない!というのが彼らの主張だった。そんな本音を上手く隠して女子高生たちを誘導する鶴丸は流石というべきか。とりあえずは楽器の演奏の仕方を1通り覚えることが1歩かなーと話していた時に事件が起きた。 「きゃああああぁぁああ!」 女性の悲鳴だった。耳にびりびりと飛び込んできたその音になんだなんだ?と野次馬のような反応をする#名前2#の目の前で探偵の3人がものすごい勢いで走っていく。私たちも行こっ! 園子の声に蘭も階段の方へ向かう。#名前2#たちは黙ってその様子を見ていた。 「おい、#名前2#」 「待ってくれ。ここの世界の探偵は現場に入り込むのが仕事なんだ。警察って監察が来るまでは殆ど何もしないんじゃないのかっつーツッコミはやめてくれ。ここの犯人ってほとんど逃げないから!! すぐ見つかるから!!!」 「……何の話してるんだ」 「え? 大倶利伽羅ってテレビでの嘘の話には目敏かっただろ。殺人事件の2時間ドラマも見たがらなかったし。今回もそうなのかと」 #名前2#の突然の言い訳に呆気に取られた大倶利伽羅と失笑したまま平常の顔に戻れない鶴丸。なんだこのカオスな状況、と#名前2#は呟いたがそうさせたのは#名前2#のはずだ。 「んじゃ、なんで現場行かねえの?」 「いやなに。探偵の力がどんなものかお手並み拝見と行きたいだけさ。警察が来たら俺達も向かおう」 「警察来た後じゃ入れてもらえないだろ」 「だよな」 笑いの渦から帰ってきた鶴丸のキザなセリフを大倶利伽羅はバッサリと切ってポケットから取り出したティッシュで鼻をかむ。行かなかった理由というのはそれだったのか……と#名前2#が謎の納得を覚えた。階段に上っていく大倶利伽羅についていって鶴丸の襟も引っつかみ歩き出す。鶴丸は不機嫌なままだった。 とりあえずコナンたちがいる場所を確認しようとするとスタジオに設置された監視カメラに安室の金髪が見えた。彼のような少し茶色が淡くかかった金髪は街中ではあまり見ない。(成人男性、それもいい歳してるのに、だ。)瞬間的に見極められることに今度は謎の感動をもちながら第2スタジオにお邪魔するとどこかで見たことのある女性達と蘭たちが扉近くに集まっていた。 「おっと」 「あ、#名前2#さん! 遅かったですね……」 「すまんすまん、ちょっと鼻かんでた。んで、今探偵さんたちは?」 「他殺だって言って今確認してます」 「ほーん。普通のスタジオならカメラあるしそれ確認してみよっか」 「あー、なるほど…って#名前2#! マジに操作に参加してるのか!? やめとけ、お前は探偵じゃないんだぞ!」 「へたに首を突っ込んでもメチャクチャにするくらいなら俺たちは大人しくしていよう」 「ぐへっ」 大倶利伽羅の言葉に鶴丸が部屋を出ようとする#名前2#の襟元を掴んだ。苦笑いでいる園子たちにすまんなーと声をかけて1階の休憩室に腰を下ろす。 今回の事件はあまり世祖に語ることはなさそうだった。 いらっしゃった刑事さんたちに挨拶をしてまた席に着く。するとヒョッコリと蘭と園子がスタジオを出てきて椅子に座った。といっても、鶴丸が座らせたというのが正しい。事件現場には探偵が3人、刑事が2人、被害者と関係のある方が3人もいればあそこは満杯だ。廊下にいた2人を呼び寄せて椅子に座らせた。そして鶴丸はキラリとしたまるで俳優や芸能人のように営業スマイルで笑いかけて「なあ、君たち。安室って人は知り合いなのか?」と問いかけた。セルフサービスで置かれていたコーヒーを思わず吹き出すかと思った。ゲホゲホしながらテーブルをはさんだ2人を見ると「お父さんのお弟子さんなんですよ」と笑う。 「お父さん? 有名人なのか?」 「あ、海外にいつもいらっしゃるなら知らないかな……。結構、有名なんですよ。眠りの小五郎、って。探偵事務所を開いてるんです」 「へぇー。なら、安室って奴は君のお父さんの弟子で…なんでかカフェの店員もしてる、と?」 「あ、それアタシも聞いたことありますよ! 毛利のおじ様の仕事にいち早く駆けつけられるようにあそこでバイトしてるんですって」 「バイト、ねえ。それにしてはやけに#名前2#とも仲が良いらしいんだな? 君たちのことは話しに聞くことがあっても彼のことは知らなくてな……。世祖と#名前2#は保護者と離れて生活しているから何かと心配なんだが…」 チラリと流し目で#名前2#のことを見る鶴丸に大倶利伽羅は頭を抱える。やり過ぎだ。これはまずい。女子高生たちは鶴丸から薫るほどの色気に顔を真っ赤にして「あああ安室さん、世祖ちゃんと仲良くなろうと頑張ってるみみみみたいで!」と叫んだ。 「世祖と? そりゃまたなんで……」 「さあ? でも、鶴丸さんたちみたいに#名前2#さんのこと気にかけてるのは確かですね……。世祖ちゃん預かってる時も安室さんよく事務所に顔を出しますし」 何かが破裂するような音を鶴丸を挟んで座っていた大倶利伽羅と#名前2#は聞いたような気がした。あ、やばいな。勘づいた2人がアイコンタクトをしようとするが鶴丸が野生の勘を働かせているのか白い髪の毛がふわふわと動いて邪魔をする。ちょ、おい! 蘭ちゃんたちに気づかれないようにしたいのに!! #名前2#のそんな心の声が聞こえる。大倶利伽羅も全くもって同意だった。 「ええっ!? 凶器が見つからない!!?」 「はい……」 きちんと探したのかね?と怒る目暮警部に鶴丸は興味を移したらしい。何かあったのか?と首を伸ばす。そしてそのまま椅子から立ち上がってコナンのもとに寄っていった。また面白いチョイスだなあ、と見つめていたら今回の事件について何も知らないと気づく。 「そういや、今回何で死んだのか聞いてねえや」 「世良ちゃんが絞殺って言ってました。ねえ、蘭?」 「うん…。なんとか線がある、って」 「あー。なんかガリガリ引っ掻いた痕のことをなんちゃら線って言うんだっけか。忘れちゃったなー、もう」 普通はそんなの覚えてないぞ、と大倶利伽羅が呟く。それを覚えている小学1年生のコナンくんって、と蘭は苦笑いだ。 「なんだ、何の話だ?」 席に着いた鶴丸がニコニコと話に入ってきた。事件の話だよ、とざっくりした説明に鶴丸はやっぱりニコニコ笑って「今回の事件は早々に片がつきそうだから終わったら#名前2#の家に泊まらせてくれ!」と割と大きな声で叫んだ。ゔぁ!?と思わず声に出した#名前2#は慌てて口を抑え、あたりを見回す。これでアムロという名前の男に聞かれでもしたら最悪だ。絶対、なにか起きる。確認してみると彼の金髪も褐色肌も見当たらない。ふうっと息をついて「ちゃんと挨拶回り、明日いけよ」と念押しして承諾した。 「いいなあ、#名前2#さん。鶴丸さんたちとお泊まりだなんて!」 「長い付き合いだからな。特権だ」 ニヒリと笑った#名前2#に大倶利伽羅が心の中で「それはコッチのセリフだ、」と呟く。#名前2#たちの家に泊まれることが何を意味するのか、家主である彼らは理解していないのだ。 「#名前2#さーん」 「? どった、コナン」 「あのさあ、ドラムのスティックで縫い物って出来ると思う?」 「……あー、うー? どうだろ、鶴丸」 「さあー? 俺は繕いは知らないぞ。まあ、できたら相当に驚くがな!」 「練習とかこなせば出来るんじゃねえかな? 先端につれて細くなってるんだし」 そっか、ありがとー!とコナンがまた去っていく。縫い物と今回の殺人がどう繋がるのかサッパリだがとりあえずここでコーヒー飲みながら待ってようと#名前2#は深く椅子に座った。 結論から言うと、絞殺の凶器は被害者のニット帽だった。なぜ凶器が見つからなかったのかという疑問には、コナンがドラムのスティックで編めばいいんじゃない?とにこやかに言う。非現実的と思われるかもしれないが加害者の方の様子から察するに、そんなことをやってのける執念があったらしく「うわ、してそう…」と言えるレベルに殺意があった。そして犯罪の理由はまた悲しいもので、言葉って大事なんだなと鶴丸が呟いた。その言葉に反応して#名前2#は大倶利伽羅を見つめる。 「……なんだ、」 「お前も、ちゃんと、言葉にするんだぞ」 1節ごとに区切りながら言われた言葉に大倶利伽羅は苦々しく「分かった」と返した。ここで変な反応をすると鶴丸と#名前2#に飛びかかられることを彼は本丸で学習済みである。 無事、解決したことは喜ばしいことだ。あの後は陸奥に車を持ってきてもらい、電車で帰るつもりだったと言う蘭たちを押し込めて帰らせた。さすがに女子高生を残して車で帰るというのは男子大学生としてのプライド的によろしくなかった。安室と共に電車に乗り、米花駅まで行く。そこまではよかったのに。 「ああ、#名前2#くん」 「? どうかしたんすか、安室さん」 #名前2#はこの時背筋がピキンと凍るようなそんな痛みを感じた。え、まさか歳…?と心配になった#名前2#をよそに安室はニッコリと園子に言わせれば王子様のような微笑みで#名前2#に爆弾発言を浴びせた。 「今度は僕の家に来てもいいですよ。前のお礼もしたいので」 今度はピキンだけでは済まない。ビキーン、ときた。そして後ろにいる鶴丸と大倶利伽羅のオーラが怖い。なんかホラーが起きてる気がする。あれ、ここって普通の世界だよな? 実は本丸の中でしたーなんてことないよな? #名前2#の頭はぐるぐると回っている。何とか、「お礼なんてー」と棒読みで告げたが安室はニコニコしたまま何も返さない。あ、これはロックオンされてますね。なんて#名前2#は他人事のように脳内実況をする。彼の言いたい「前」は分かっている。今度は、と言われたように前回確かに#名前2#の家に安室を連れてきた。だがあれは仕方なかったのだ……!! 「それでは、またアポロへお越しくださいね」 「は、はいー」 これは後ろへ振り向けない案件だ……。 「#名前2#」 「はいっ」 思わず自衛隊員の時のように敬礼したくなった。防衛大学校の頃に戻りたい。あそこにいればこんな案件で怒られることは無かったのに。……いや、罰則規定も多いあそこでは#名前2#は何度も怒られていたので最終ダメージは変わらないかもしれない。 「とりあえず、家に行くぞ。そこで思う存分やれ」 この時ばかりは大倶利伽羅が本物の神様に見えた。