ソハヤの話

筵やビニールシート類を片付けながら御手杵は欠伸をした。戦力拡充計画のために休養しているがしすぎるのも問題だ。早く練度上限になれば同田貫みたいに遠征先で遊んで帰ってきたりするのだが。と考えていたら新刃のソハヤがこっちをじっと見ていた。後ろを振り向いても誰もいなくて、俺?と指を指したらうなずかれた。 「なあ、この筵はどこにしまえばいいんだ?」 「ああ、それは遠くの納屋からだから。一緒に行くよ」 「そうか、頼む」 そんな事ぐらいすぐに聞けばいいのに、と御手杵は黙々と片付けに戻ったソハヤを見ながら自分がぐちゃぐちゃに纏めた筵を見た。物吉と2人で向こうはきっちり折り曲げられている。#名前2#に言われてこの分担となったが当てはまってるよなあと感心した。筵はそんなに綺麗に畳むものではない。どちらかと言うと無造作に置いて必要な時にすぐに取り出すものだ。野菜や米を上に置くから汚くなるし。 変わってビニールシートは耕運機が雨ざらしにならないようにかけたり、山に行って遊ぶ時に使う。キレイに畳んでおかないとかさばって邪魔だ。これらを折るのには人の性格が現れる。いや、折るものには大抵性格が現れるか。 御手杵は内心うまいことを言ったつもりだったが、すぐにそうでもないことに気づいてガッカリした。 「おや、御手杵さん。何をしてるんですか?」 「あ、江雪さんと宗三。なにって、#名前2#さんに頼まれて片付け」 「でしたらその筵を貸してもらっていいでしょうか? 兄様がそろそろサツマイモの収穫をしたいそうなので」 「おう、いいぞ。あ、でもソハヤのやつ…」 「何かあるんですか?」 「ビニールシート運ぶ場所分かんないらしいからさ」 「なら僕がやりますよ。場所を教えるくらいなら指南係じゃなくても出来ますから」 「おう、頼む」 ラッキー、と頼もうとすると宗三と御手杵の間にヒョッコリと手が伸びた。手の主を見ると空間が途切れていた腕だけがにょっきりと取っ手かキノコかというように伸びていた。 「……」 怯えてはいけない。この手の主は自分たちの審神者なのだ。空間から生えた手はスルスルと空中に文字を書いた。NOと大きく書かれる。 「ダメみたいですね。では、御手杵さん。筵だけ貸してもらえますか?」 「あーい」 仕方なく御手杵は筵を手渡してこちらを見つめていた物吉とソハヤを納屋に連れていくことにした。 なんでソハヤは兄弟の危機に駆けつけないんだろう、と思う。御手杵には兄弟はいないが、今この本丸では骨喰藤四郎がまるで兄弟のように接してくれる。粟田口という大きくて暖かい兄弟がいるのに、どうして御手杵と一緒にいてくれるのか聞いたら彼は「お前を見つけた時の隊長が俺だったからかもしれない」と言った。 「そうなのか?」 「ああ。うちで初めての槍だったから世祖は喜んでいたし、#名前2#さんも他の刀剣たちも驚いていた。だから俺は御手杵を連れてきたことで嬉しかったし、お前と喋れたら相当嬉しいだろうなと思った」 「喋れたらって普通刀剣男士は顕現されたらしゃべるだろ…?」 「いや。まれに本霊にバグが残って喋れないまま顕現されたり、穢を押し付けられて顕現されたりする。うちでは蜂須賀と青江がそうだったらしい」 「蜂須賀が?」 その頃の御手杵は秋田に青江がいかに優しくてそして本丸に馴染めない存在だったのかを聞いたばかりだった。 「蜂須賀は打刀でも来るのが遅かったそうだ。顕現された時、彼は自慢の鎧と同じ系統の兜を目深にかぶり挨拶もできない刀だったと聞く。沖野さんは刀解することを勧めたそうだが、#名前2#さんが使えない刀だったら自分が使うから心配には及ばないと言ったらしい。その後、蜂須賀は世祖の治療を受けて今のようによくしゃべる刀になった」 だから御手杵、お前が俺たちと喋って動くのが嬉しいんだ。と骨喰は締めくくった。その表情はとても柔らかくて御手杵は柄にもなくありがとうと心から素直に告げた。 「構わない。骨喰藤四郎という存在に新しい兄弟が加えられただけのことだ」 ソハヤノツルキは、どうなのだろうか。兄弟だとしても、まるで兄弟のことを気にしない素振りに御手杵の方がモヤモヤしてしまう。いっそのこと、御手杵が彼の兄弟になるべきだろうか? 「あ、ここが納屋だ」 考えていたらすぐに着いてしまった。何の会話もなく黙りで来てしまったことにバツの悪さを感じたが、御手杵は元から喋るのは得意じゃないのでいいかと開き直った。 「おう、分かった」 ソハヤの目が御手杵を貫いた。真っ直ぐで大きな目。話しかけなかったことが今になってやはりダメだったんじゃないかと思われる。 「戻ろうぜ」とかけた声は震えていた。 ** その日の晩御飯はしゃぶしゃぶとコロッケがおかずだった。ついたキュウリにバシャリとゴマだれをぶっかけてしゃぶしゃぶで包んで食べる。これが美味い。横でそれを見ていたソハヤが真似をし始めたがキュウリをうまく包めない。そう、これは割と練習が必要なのだ。自分も指南係の秋田に教えて貰ったのだがなかなか出来なくて最終的に秋田に教えたという#名前2#さんのもとに泣きついて箸の持ち方をしっかり教えこまれた。 「ソハヤさん、箸は中指を間に入れて上の箸をカチャカチャ動かすんだ」 ソハヤさんは言われた通りに動かすが慣れないのか変な音がする。大典太さんの方はそんなこと無いのに、だ。次第に皆がソハヤさんの方を見つめ始めた。大典太さんと世祖だけが食事を続ける。大広間には変な音が響き渡る。きちゃきちゃきちゃ。 「ソハヤ、一旦箸置いてこんな風に指をさしてみな」 #名前2#さんがついに動いた。ソハヤさんは頷いて三本指を立てる。 「人差し指と中指、中指と薬指の間に箸を入れて。そうそう」 世祖がいじればすぐに済むことなのに#名前2#さんは誰かが箸を持てないといつもこうやってちょっとずつ教える。この間に誰も声はかけない。#名前2#さんと新刃の一種のコミュニケーションだからだ。数分後、ソハヤさんは箸を器用に使いこなした。#名前2#さんが満足に微笑んで「お前達、食べながら聞いてくれ」と話を始めた。 その話というのは前々から予告されていた戦力拡充計画のことだ。前に迎えられなかった不動とできれば太鼓鐘という言葉に燭台切さんと鶴丸さんが苦笑いする。同じ伊達にいた刀として会いたいけれど、自分たちの実力はできればが相応だ。 「今まで通り、第一部隊はE-1マップ。第二部隊はE-2って感じにやるからな。E-2は夜戦だから短刀たちメインにいくぞー」 イベントではいつも大太刀と槍が第三と第四に配られる。俺は第三で蜻蛉切は第四だった。レベル的にまあ妥当。 第一は大典太とソハヤと明石と物吉と付き添いってことで信濃。殿に歌仙。 第二は後藤、乱、厚、秋田、愛染。殿は今剣。 第三は殿のいない全員戦わせるタイプだ。俺、次郎太刀、髭切、大和守、鳴狐、鯰尾。 第四は膝丸、三日月、小狐丸、太郎太刀、蜻蛉切、蜂須賀。 「今回はマップを全部埋めること、2週間以上の出陣、1200回以上の出陣を命令されている。お前ら頑張れよー」 マップを全部埋めるには打刀、脇差、短刀のどれかで6振りの編成をしなければいけない。#名前2#さんは「だから本当はもう1個編成を組まなきゃいけないが面倒だからパネルに出しておいた。各自で確認してくれ。以上!」と話を切ってしまった。 食べ終わったあと、ソハヤさんがこっちをじっと見つめてきた。どうかした?と聞くと「#名前2#さんはなぜ佩刀してるんだ?」と質問された。 「さあー? 俺が来た頃にはあんなんだったけど」 「そうか……」 考え込み始めたソハヤの足の周りを五虎退の虎たちが集まり始めた。白くてふわふわの虎。かわいい。ソハヤさんの腹の鎧に入りたいのかふんふんと息を鳴らしながらよじ登りはじめた。 「!?」 気づいたソハヤさんはなぜか俺にあわわとした表情を見せてきた。ぱくぱくと口が開く。 「大丈夫か?」 「虎! 虎! どうしよう、迷子なのか…? 不思議な気配をしているが…」 「ああ、大丈夫だよ。たぶん五虎退は#名前2#さんのところにいるから。あと、不思議な気配ってのは五虎退が検非違使に捕まってたからそのせいだと思う」 5匹の虎は世祖といるとその霊力でときたま暴走してしまう。流石に危ない、という結論になって五虎退が#名前2#さんの部屋に行く時は粟田口の誰かの部屋に預けていくのだが。 とりあえず虎を鎧の中に入れてやると5匹の虎はゴロォーンと丸くなってソハヤさんの腹にフンスカと鼻を擦り付け出した。 「御手杵」 「よお、骨喰」 「お前に会いに行こうとしたら虎たちもついてきた」 「やっぱりか……」 骨喰藤四郎は固まったソハヤさんの後ろからあとびれも無く現れた。ソハヤさんは鎧を支えながら「これ、どうするんだ?」とたずねる。 「虎たちがずっと気になっていたらしいから入れてやろうかと思ってたんだ。すまないな。良かったら入れたまんまでいてやってくれ」 そう言われたソハヤの顔は満更でもなさそうにしていた。 沖野とのこんのすけを通した電話で短刀たちの極というものを教えて貰った。きわめ、と読むらしい。ごく、とかきわみの方が読みやすくていいよなと思った。 今のところ新規できた刀以外、つまり後藤と信濃と博多以外の短刀は極になれるらしい。極になるには96時間の修行が必要で、その修行には旅道具と手紙と旅装束が必要らしい。そういえば受け取って蔵に放り込んでいた気がする。 「とりあえず1振り、と言いたいところだが政府の方からブラック本丸にいた刀か検非違使にいた刀も修行に出せと言われてね。とりあえず決めてくれるかい? 修行にいけるのは1振りのみだからね」 「あー、なるほど。それじゃあ短刀集めて話をしといた方がいいすね」 「そこら辺は自由で構わないさ。それじゃあ世祖のことを頼んだよ」 切られた電話に世祖はもぞもぞと#名前2#の膝の上から下りてこんのすけを自分の頭の上に乗せた。こんのすけはフルフルと顔を揺らして「どうなされますか、世祖さま#名前2#さま」と聞いてきた。 「とりあえず部屋の周りにいるやつら中に入れるか」と#名前2#が障子を開いて、廊下にいた秋田と五虎退を抱き上げる。世祖が屋根裏の板を斥力で吹き飛ばすとおそるおそると短刀たちの顔が出てくる。今剣と小夜の2振だった。 「……お前らあ」 「#名前2#さんが沖野さんとこんのすけ通してやる時はいつも大事な話だから……」 「小夜、そんな法則見つけなくてよかったのに……」 落胆する素振りを見せた#名前2#の頭を世祖がぽんぽん…いやバシバシ音を立ててなでる。いたい、いたい世祖!という声を無視して世祖は#名前2#の頭を十分に叩いて満足したのか4振りに向き直って「いま 聞く?」と首をかしげた。もちろん、と声が重なった。 話を聞き終わって、#名前2#さんがまずに口を開いたのは練度の話だった。 「60を超えると修行に行けるんだけど、練度は1になるらしい。つまり、60過ぎのレベルの経験値がきっちり極に反映されるってことだな。うちの本丸で練度上限いってるのはゴコと今剣と小夜と薬研だもんな。秋田はもう少し上がるまで待った方がいいかもなあ」 行ってもいいけど、と言われたが秋田は遠慮するように首を振った。カンストした、と呼ばれる仲間たちが本丸でつまらなさそうに過ごしているのを見てきたのだ。修行にはいつか行けると言うし待ってるのも悪くない、と思う。極にならずともいつも通り平等にやるからなと笑った#名前2#さんの目は本気で「ああこれは、」と恐怖を感じる。修行に行くんだからステップアップしなかったら許さないぞという顔だった。 「……」 横に座る3振りが目配せをして頷きあった。何を考えてるのか僕も分かる。#名前2#さんも分かったのかニンマリと歯を見せて笑った。 「ぼくたち せいそに えらんでほしいです!」 「そうこなくっちゃな!!」 世祖は#名前2#さんの膝の上でこんのすけを弄りたおしながら遊んでいたけれど、名前を呼ばれて「ん?」と首をふった。 「世祖、1振り、選ぶ」 うん、と頷いた世祖はピッとこんのすけの手をつかみ五虎退のことを指さした。 「ぼ、僕ですか…?」 「うん」 世祖は頷くと#名前2#さんの胸板に顔をうずめて「ねむ」と呟いた。 「はいはい。ベッド行くか」 「やや。#名前2#も寝る」 「……ダメでーす」 「や」 「じゃあ、ぼくもねます!」 「絶対ダメ」 「やです! さよくんも こうせつさんたちにきょかとって きょうはここにいる みんなでねます!」 いやいや、ちょっと待てという声も聞かずに今剣は小夜と五虎退を連れて走り出してしまった。廊下を駆けながら「あきたのぶんも もらってきますねー!」と声が聞こえてくる。恥ずかしくなってどうしようかと縮こまったら#名前2#さんが腕を伸ばしてくれた。 「おいで、秋田」 世祖は僕の方をちらと見て体をズラしてくれた。いそいそと僕が近寄ると#名前2#さんは僕を引き寄せて座布団の下にどでん!と転がった。 「秋田、ごめんな。お前をまた修行に出せなくて。まだ戦力拡充計画でも頑張ってもらわなきゃな」 頭を撫でられながら僕はそんなことを言われた。気になんかしてないのに、#名前2#さんは本当に申し訳なさそうに言うから僕はそれだけ使われる刀なんだと思うと嬉しくなった。 「気にしてないですよ、僕」 #名前2#さんの胸に頭をこすりつけたら暖かい温度と鼓動が聞こえてきた。その音を聞き続けているとなんだか眠くなってくる。 「世祖、布団運ぶ。から、一旦降りてくれ」 世祖は横で首をふって(髪の毛がパサパサと僕にあたって)ひょいっと手を動かした。ら、布団がどさりと落とされて部屋1面に敷かれた。1人1枚じゃなくてもう雑魚寝しようという思いらしい。 「ごろーん」と#名前2#さんが僕らを落として洋服を着替え始めた。お風呂はどうしますか?と聞くと明日の朝浴びると返された。大きなこたつ布団を広げて#名前2#さんは真ん中に横になる。世祖がごろごろ!と#名前2#さんの横に入った。僕もその反対に入ろうかと思ったけど、今剣や五虎退が入りたがるかなあと思って世祖の横に入った。 「ほ、骨喰兄さん!」 五虎退の叫び声にん?と御手杵と骨喰が今剣たちを見つめた。今剣は五虎退と小夜を引っ張っていたのを車の急ブレーキをかけたように止まって「ここにいましたか!」と駆け寄ってきた。五虎退はなんとか普通の顔を装っていたが、小夜の方はどれだけ振り回されたのか青い顔をしている。 「と、虎くんたちは…?」 「この中だ」 ひょい、と指さされたのは御手杵の後ろにいたソハヤノツルキの鎧だった。御手杵はその時ヒエエエとい五虎退の叫び声が聞こえた気がした。 「と、虎さんんん…! ソハヤさんすいません、僕の虎さんたちがあああばばば」 「あ、いや。構わねえよ」 ここが気に入ったみたいで眠りそうだったらしいが、とソハヤが虎を床に下ろしていく。コロリンとボールのように床に転がった虎たちは冷たい床に降りて自分が飼い主の元に戻ったことを知ったらしい。ひょこひょこ五虎退の周りをなにかの儀式のように回り始めた。それを見ていた今剣は「よし、これで じゅんびおーけーです!」と叫び五虎退を捕まえてまた走り出してしまった。 「あうう、虎さんたちぃ。お話は後で聞くからねえ」と五虎退の声が小さくなるように聞こえてくる。あまりの早さに五虎退の虎たちは一瞬何が起きたのか分からなかったようだがすぐに今剣を追いかけ始めた。可愛いな、とソハヤの声が骨喰と御手杵の耳に届いた。 その後今剣たちは飛ぶように入ってきて、結局今剣が#名前2#さんの隣に入って小夜が今剣の隣で五虎退と虎は僕の方に来た。 「あのね、秋田。虎さんたちはね、ソハヤさんのところにいたんだよ。あの鎧の中に包まるのがとっても気持ちいいんだって」 ソハヤさんの?と聞き返したかったけど僕は世祖の暖かい手に包まれていて眠くて口に出せずに僕はそのまま寝てしまった。