世祖はずるい

起きてまずしたのはゴコの旅支度だ。朝食を食べる前にやっておこうとこんのすけが用意してくれた旅装束を確認すると振り分け荷物と菅笠、青と藍色のストライプの雨合羽、手工脚絆がひと揃えで入っていた。なんと言うか、江戸時代の旅ーって感じだ。行李の中には財布とか手帳とか旅行に必要そうなもの。手紙は3通分。 「なあこんのすけ、修行って何時間かかるんだ?」 「きっかり96時間にございます。1日1通届けられるように式神が飛脚がわりに飛んでくれます」 「へえー」 何か入れた方がいいのかな?とこんのすけに聞くと「審神者さまから送られたものが1つだけ入れられますよ」と教えてくれた。 今日の朝食は味噌汁とご飯と焼売だった。急いで口の中に詰め込んでご馳走様をする。世祖はなぜか焼売の皮の部分を先にキレイに剥がして中身の肉を食べてその後皮を食べるという謎の行動に出ていた。真似する刀剣たちがいるからやめろと言うのだが止めずに不器用なはずの和泉守が真似していたが失敗していた。だからやめろと……。 「みんな、今日は報告しなきゃいけないことが朝からある。とりあえず寝ぼけて聞いてる刀がいたら叩き起こしてくれ」 ゴン! ゴン!と音がなって鶴丸国永と同田貫正国の頭が叩かれた。フッと2振りは起き上がって「ごめんごめん」と頭を下げる。叩いた大倶利伽羅は素知らぬふりをして茶を飲んでいた。 #名前2#は世祖を抱いて立ち上がる。当番発表よりも大事な話をする時だ。刀剣たちも居住まいを正して#名前2#たちを見つめた。 「あー……。政府から短刀の極が発表された。今のところ、博多と後藤と信濃以外の短刀がなれるようになってる。そんで、沖野さんからの条件を満たしてる刀剣の中で五虎退が修行に行くことになった。今日からきっかり96時間だ」 ほら、五虎退。と呼ばれて五虎退が#名前2#と世祖の横に立った。 「え、えっと…! 今回、修行に行ってきます…! 五虎退、です! 僕……世祖たちの役に立てるように頑張ってきます!」 ぺこりと頭を下げた五虎退に拍手が送られる。頑張れよーという兄弟の声や、どうぞご無事でという励ます声も聞こえる。 「それじゃあ今日の当番はまたパネルに出してあるから。解散」 五虎退の見送りには世祖と#名前2#、そして近侍のみが出来るとこんのすけに制限されて本日の近侍、長曽祢虎徹が門のところに現れた。 「ゴコ、辛くなったらちゃんと手紙に書くんだぞ」 「はい」 「ごこ、これ」 審神者である世祖から五虎退に送られたのは#名前2#が世祖に使わせていたマイクロファイバータオルだった。#名前2#は心得たようにフワフワの手触りなそれを振り分け荷物と肩の間に挟む。 「これで肩も痛くないだろ」 「わぁ……! ありがとうございます」 「お前の新たな力、今から楽しみだな!」 「行ってきまーす!」 五虎退を見送り#名前2#たちは部屋に戻ることにした。今日は#名前2#と一期一振が掃除の当番で長曽祢は馬当番に名前が入ってる。#名前2#はいつもツナギなので着替える必要は無いが長曽祢は内番用の服に着替えなければならない。 「そんじゃ、長曽祢。もう馬に蹴られんなよ」 「分かってるさ」 いつまでも顕現当初の話をしないでくれ、と長曽祢が手を振る。#名前2#はいたずら小僧のように笑いながら「それだけ面白かったんだよ」と言って家の中にずんずん進んでいく。長曽祢はその背中を見送り、あれ?と疑問を持った。 世祖は。 世祖はどこにいった? ** 世祖は畑に走っていた。何がなんでも今日の昼ごはんはアレを作らねばならんと思っていた。畑のところには歌仙と小夜が2人で畑の草取りをしていた。昨日でさつまいもの収穫が終わったので使い終わった畑に残っている拾われなかった根や雑草を抜いているのだ。 「あれ、世祖。どうかしたの…?」 「え? 世祖? なんで1人で……」 「ばちゃ。ゃが、ゃが」 歌仙兼定、通称おばあちゃんは世祖に甘い。同じ細川家にいた小夜ですらも驚くほどに。人見知りするようなタイプであるのに#名前2#の奔放さと世祖の突拍子のなさになぜか婆心を生み出していたのだ。そのせいであだ名はばちゃになっているので演練場では毎回二度見されたりする。 「えーっと」 だが婆心があっても#名前2#の通訳がない世祖の言葉は分からず。小夜の方に助けを求めた。小夜はじっと世祖のことを見つめて「#名前2#さんに 何か…する?」と聞き出した。 「うん」 「それは……野菜を、食べるの?」 小夜の次の言葉に世祖は眉をしかめて唇をかんだ。言ってる言葉のニュアンスが違うかもしくは小夜の言葉遣いが#名前2#に叱られそうなもののどちらかだ。 「……あ、料理…?」 世祖の顔が少し普通に戻った。だがまだ「ゃが」が分からない。 「#名前2#さんの好きな食べ物……」 「彼は大抵なんでも食べるからねえ……ぐにゃぐにゃしたものは嫌いだけれど」 前にきくらげを出した時すごい顔してたよね、彼と歌仙は笑った。肉の脂身も嫌いだそうだが、きくらげの時はさらに顔をしかめて吐きそうなのを我慢しながら食べていたのだ。笑ってしまう。 「……麻婆豆腐?」首をふられた。 「タマゴもの、ではなさそうだね」また首をふる。 「…豚汁とか?」疲れてきたのかすごい勢いで1回首を振ってくたりと座り込んだ。 「あ、肉じゃが?」 世祖の顔が輝いた。 肉じゃがを作りたい、とそれはいい。しかし、残念ながらしらたきの値段が高騰していて本丸に全くなかった。世祖は泣きそうだったが我慢して#名前2#の喜びそうなものを作りたいのだと厨に走る。今日のご飯当番は髭切と乱だった。なぜか包丁の取り扱いがうまい髭切と洋食がマイブームな乱は今日の昼ごはんに低カロリーなロールキャベツを作ろうとしていた。スパゲッティを折ったものでキャベツをしめるのだがこれが意外と難しい。髭切よりも器用な乱でも難しいらしく、奮闘していた。とてとてと音を鳴らして厨にきた世祖は簡単に全てのキャベツにスパゲッティを結び留めた。 「世祖、すごーい!」 スパゲッティを入れるのに合わせてついでにキャベツもキレイに整えられている。レシピ本で見るかのような綺麗さだ。 「ロットカベツ!」 「ロールキャベツ、だね」 「ロットカベツ!」 「もうそれでいいや。世祖、ロールキャベツ煮るの手伝ってくれるかい?」 髭切もマイペースだが世祖もたいがいマイペースだ。ロットカベツ、ロットカベツと呟きながら鍋にポイポイ入れていく。 「世祖、お水を入れるんだよ」 「う?」 「はい、これ入れるんだ」 たっぷりと水の入った大型ペットボトルを乱に渡されてひたひたと鍋にそそいでいく。ストップ、と声をかけられてペットボトルをぐん、と宙に浮かび上がった。髭切はすごいねえ、とそれをつつくが乱は慣れているのでコンソメを落として中火で煮込み始める。 「アクが出る、から、全部とる。わかった?」 「うん」 はいこれ、と渡されたおたまを世祖はくるくる指で操りながらまな板近くにあったお椀にアクを取り除いては入れていく。この時は"力"は使わないんだね、とつぶやいた髭切に乱はくすくすと笑った。 「#名前2#さんが、いっつもこうやってとってるからね。世祖も真似してるんだよ」 「ああ、なるほど……」 ほほえましい行動に髭切もくすくすと笑う。世祖は真剣に鍋の中のキャベツと向き合っていた。 「とる、おわた!」 「うん、よくできた。世祖、あとは30分煮込むからね。#名前2#さんのところに行っておいで」 「やや」 「……まだ、いるの?」 「うん」 正直ここにいられるのは邪魔だ。どうしよう、と乱が考え込むと髭切が世祖に耳打ちをした。ぴこん、と髪の毛がはねてダッシュでどこかへ行ってしまった世祖を見送って「何言ったんですか?」と聞いてみた。 「うん。世祖に、盛り付け用のパセリをとってきてほしいって。あとね、#名前2#さんにお花をあげたらどうかなって」 「ああ、なるほど……」 お昼、楽しみですね。と乱が笑った。そうだね、と髭切も笑う。世祖はまたもや畑に走っていた。 席に着いた#名前2#はなぜか自分の席にパラパラと花びらが落ちているのを見て首をかしげた。おかしい、一期と今日はなんだかんだ叫びあいながらも掃除はしたから変なことされるようなことしてないんだけどなあ、と。 横に座る世祖はうふふと笑いながら体を揺らして#名前2#のことを見ていた。どんな反応をするのか気になっていたというよりも、自分のやったことに満足していた。 「ロールキャベツでーす! 今日は世祖が作るの手伝ってくれたんだよ!!」 それは大事に食べなければな!と長谷部の声があがったが世祖には無視された。世祖の視線は#名前2#に釘付けだった。#名前2#はへぇーと感心して、そして自分の花びらは何かの予兆?と首をかしげた。 「#名前2#さんのは特別仕様だからね! 世祖が盛り付けと、飾り付けしたの!」 マジで?という顔をして長谷部だけでなく加州と薬研も#名前2#のことを見た。つままれた花びらはピンクだとか赤だとか黄だとか暖色系が集められている。 「これ、俺の色?」と#名前2#が聞いてみると世祖はにひりと笑って「うん!!」と#名前2#の膝に飛び乗った。胡座をかいた#名前2#の足の上に小さな尻を乗せて特等席!と腕をふる。 「ありがとうな、世祖」 「うんー」 この調子で刀剣男士たちにもやってやれよー、と言った#名前2#に世祖もうんーと頷いたがその顔はとてつもない笑顔で「ああ、分かってないんだなあ」と刀剣たちも分かった。ロールキャベツはおいしかった。 戦力拡充といっても来るか来ないかは本霊の意思によるので、作戦が成功するのはきちんと来てもらえた時のみだ。#名前2#はそれをきちんと分かってはいるが、来ない時は仕方ないだろと思っている。だがもしその作戦で不動行光と太鼓鐘貞宗が来たならば伊達に集められた面子と織田に集められた面子が揃えられる。なので沖野に今回は条件を出すことにした。不動と太鼓鐘を迎えたら日本号も顕現させてほしいというものだ。沖野の考え方は分からないが、ずっと前からいる彼が最近ガタガタと蔵で揺れているのだ。同じ槍の御手杵が何かしているせいかもしれないし、黒田で一緒にいた長谷部が最近手持ち無沙汰にしているせいかもしれない。日本号が出たがっているのは確かなのだ。もう、青江の時のように顕現して「僕は出たくなかった」ということもないだろうと判断できた。 沖野はその話を聞いて条件を飲み、ついでに新しい条件も付け足した。作戦に伴った任務を全て遂行することまで加えられたのだ。世祖と#名前2#は頷き、今回の作戦に臨んでいる。 #名前2#たちは3日経れば五虎退も帰ってくるのだし、ゆっくり進めればいいだろうと思っていた。3週間ほど行われるのだからそれまでに来てもらえれば御の字、来なければ日本号には悪いが沖野が顕現を許すまでもう少し待ってもらうことになる。#名前2#には特に日本号がどういう槍か知らないが、世間の審神者は機動も早く刀装が3つ持てるということで重用しているらしい。が、そんな日本号の特徴が無くても槍は育つ。なので、今は日本号が顕現されるかもしれないという事態に怯えた御手杵をなんとかしなければならなかった。 「山姥切、すまんがハチミツ入りのホットミルクを頼む」 「ああ、分かった」 「世祖、こっち来いー」 御手杵が部屋にこもったまま出てこない、と言われたのは五虎退が帰ってくる2時間前の朝食の時だった。いつ沖野との交換条件の話を聞いたのか、御手杵は朝から部屋に閉じこもっている。時間に厳しい世祖には1人だけ朝食を食べさせたが、#名前2#と他の刀剣男士は御手杵が出てくるまで食べるつもりはない。ぐぎゅるるる、と鳴る腹をさすりながら「出てきてくれぇ」と悲しげな声を出すしかなかった。 「無理! 戦場行きたくない!!」 「行かんでもいいからとりあえず出てきてくれ…。お前が来ないと食べられねえ……」 「俺がまだ使えない槍だから……日本号がきたら、今度は俺がきっと蔵に入れられるから……」 「入れねえって、なあ世祖」 「うんー」 「世祖のその返事は信用できない!」 「あ、うん、ごめん」 確かにそれは言えてるな。 どうしたもんかなあ、と思っていたら同じく腹を空かせているだろうソハヤが障子にくっついて「御手杵さん?」と声をかけた。 「……お前ら、ちょっと大広間戻るか」 ソハヤの雰囲気に俺はとりあえず2人きりにさせてやることにした。別に恋愛的な気の遣い方じゃあなくてそうした方がいいと思ったからだ。首をかしげながら御手杵の部屋に行きたがる世祖を加州に預けて、山姥切はホットミルクをソハヤに手渡して、どたどた歩く俺の横に並んだ。 「あれでいいのか? ソハヤは俺と同じ写し。本物の話は分からんぞ」 「いいんだよ、御手杵は本物ってことが重荷に感じ過ぎてる節があるからな。ソハヤみたいに写しな俺で何が悪いって開き直るくらいが丁度いいよ」 「開き直ってはいないと思うが……」 御手杵は何で自分が指南係に任ぜられたのか今でも分からない。世祖に言われたからやってるだけだし、責任なんてものも負いたくなかったから信濃みたいに親身になってやることもなかった。だからどうしてソハヤノツルキが今残っているのか分からなかった。 「御手杵さん? 俺です、ソハヤです」 「………」 返事が出来なかった。指南係だからといって敬語を使われるのは変な感じがする。むずむずとかゆい。自分で敬語を使う時はそんなことないのにな。 「日本号さんって、どなたですか?」 何を言うかと思いきや日本号についてだった。それを俺に言わせるのか。御手杵はもぞりと布団から顔を覗かせて「すげー槍だ」と呟いた。 「そんなにですか」 「ああ。俺よりも数倍。……でも、今の知名度は蜻蛉切の方があるって#名前2#さんは言ってた」 審神者という職があっても槍についてなんて知らない人も多かったが、ある時の大河ドラマで蜻蛉切の逸話が放送されて以来は蜻蛉切だけ異様に知名度が高くなったらしい。確かにあいつだけはかっこいい逸話がある。なんで蜻蛉切の話を付け加えたのか、御手杵はよくよく考えて自分は日本号を下げた位置にやろうとしてるのかと思って恥ずかしくなった。悪口ではないにしろ、あまり聞かせていい言葉じゃない。真面目になったり不真面目になるこの心はちくちくと傷んで涙が出てきた。これで泣いたら馬鹿にされる気がした。 「……でも、御手杵さんだって強いでしょう?」 「……そうだな」 そこだけは確実に言える。御手杵という槍は強いのだ。仕舞われる物でも、行列に使われる物でもない。 「ならいいじゃないですか」 「なにが」 「俺は御手杵さん以上の槍なんて知りませんよ。自分に厳しく鍛錬してて新刃たちは皆そのとれいにんぐを真似させてるって、#名前2#さんも蜻蛉切さんも言ってましたよ」 それは、初耳だった。しかしそれは嘘かもしれない、と御手杵の臆病が顔を出す。 「……そんな嘘みたいな言葉、どうやって信じるんだよ」 「? なんで信じられないんですか?」 なぜか御手杵の方がこのままではソハヤノツルキに責められそうな気がしてきた。話題を変えようと口を開くとソハヤが先に話を続けた。 「世祖が俺にその話を教えてくれたんすけど」 「せいそが」 御手杵はまるでオウムのようにソハヤの言葉を繰り返して、「そうか、世祖が……」と深く納得した。 「それじゃあ、本当だなあ」 いつの間にか臆病が形を潜めて御手杵はあっけらかんと部屋を出てきた。ソハヤノツルキはいつも通りに笑っていた。 御手杵の報告書を読みながら沖野は世祖の本丸の異常さが最近際立ってきたなあと思い始めた。元から異常な力を使う世祖が審神者なのだし、仕方ないことなのだが#名前2#が来てからはさらに異常になってきた。異常という言葉を言い換えるならばぶっ飛んでると言えよう。#名前2#のあの考え方はある種イカれているが、それを止めるものも突っ込むものもいない。ブラック本丸にいた刀剣たちはそのイカれた#名前2#と世祖を気に入っていて、世祖の霊力で顕現された刀剣たちは世祖の性格に左右されるからだ。 とりあえず、今は御手杵が引きこもったのにすぐに出てきて事件が終わった話について考えなければならないだろう。沖野は疲れ目の目をもみながら、#名前2#を連れてきて良かったんだか悪かったんだか分からないよなあと自嘲した。今の状況が世祖に対して好影響を与えていることは認める。しかし、わざと時空を歪めて#名前2#という存在を殺してまで連れてきた沖野はこの戦争が終われば戦犯として殺されるだろう。世祖も#名前2#もただでは済まないかもしれない。そうなってしまえば、 「いっそみんなで」 しねばいいのかもしれないけど。 優雅に花が開く。そして花火が鳴らすようなパラパラとした音がする。この音の時は出す刀剣たちの機嫌がだいたい良いのだ。 「……ひっく。俺は不動行光。織田信長公が最も愛した刀なんだぞぉ! どうだ、参ったかぁ〜!」 「待たせたなぁー皆の衆! へへへ。なーんてね。俺が、噂の貞ちゃんだ!」 「日の本一の槍こと、日本号。只今推参。あんた、俺が来るまで何杯飲んだんだ?」 これでようやく集まれたな、と#名前2#が笑う。戦力拡充達成である。いつも通りに頭に本丸の話を刷り込ませて、指南役はつけずに話したいヤツらの元に放り込んだ。織田には織田の話があり、伊達には伊達の話があり、黒田には黒田の話がある。長谷部は忙しそうだがそんな状況も楽しいのかいつもより頬が赤くなっていた。 「#名前2#や」 「三日月。今日は喉の調子は平気なのか?」 「ああ、大分穢れがとれていつもより多く食べられた」 そうか、良かったな。とまるで弟妹を相手するかのような口ぶりで#名前2#が三日月の頭を撫でる。かすかな霊力が三日月に伝わって顔を赤らめさせた。それを見て#名前2#は笑いながら「お前は照れ屋だねえ」とぐしゃぐしゃに髪の毛をかきまぜる。 「!! う! う!」 「世祖もやるか?」 ほぉーら、撫でるぞー。と#名前2#の掛け声に世祖はぴしっと正座して#名前2#の手を待った。撫でるといいながらグリグリの頭を揺らすそれは髪の毛を拭いてもらうよりよっぽど楽しい! 「ねえ、#名前2#さーん。今日は新しい子が3人も来たんだからさあ、お酒飲ませてよぉー」 なあ、いいだろう?と聞いてきた次郎太刀に#名前2#もにんまり笑って返す。 「おう、お前ら! 今日は宴にすんぞ!! 好きなだけ飲め!!」 ヘイパ!と博多に財布が投げ渡されて博多のメガネがきらりと光る。 「値切ってくるばいね!!」 その宣言通りに値切られた酒を持ってくるのは大太刀や太刀の仕事である。博多が大勢の刀剣をつれてゾロゾロと出ていく姿に#名前2#がぽつりと呟いた。 「あ、あれ王様の行列だわ……」 三日月を隣において酒を飲むといつもより酒がうまく感じられる。美しいものが隣にいるからかもしれないし、甲斐甲斐しく酒を注いでくれるからかもしれない。どちらにしろいい気分だった。世祖の方は加州が預かってくれているので心置きなく酒を飲める。 「おお、#名前2#さん」ここにいたのか、と日本号が近寄ってきた。ほかの刀剣たちは庭に集まって酒を飲んだりバーベキューの肉を食べたりと忙しい。日本号は何本酒瓶を開けたのか息は酒臭かった。 「日本号」 お前も飲むか? アルコールフリー、とコップをあげると日本号は「寄せやい」と顔をしかめる。アルコールフリーの酒については次郎太刀から聞いたのかもしれない。やけに苦々しい顔だった。 「なあ。あんたが俺を顕現させなかった理由ってのはよ、」 「ああ、それな。多分だけど沖野さんは……御手杵のこと気にしてたんだよなあ」 言われて三日月は御手杵の方を見た。同田貫と肉を取り合い、骨喰に野菜を突っ込まれ、ソハヤの面倒をみる御手杵がげらげらと笑っている。 「……」 「宛が外れたという顔をしているな、日本号よ」 三日月が笑うと日本号はあぁと苦笑いして「いや? ただ、長谷部の様子がおかしかったからな。そのせいかと思ってな」 「長谷が? いや、問題は御手杵の方だったよ。蜻蛉切より早く来たが、色々あって御手杵は蜻蛉切よりも成長が遅かったからな」 「何かあったのか?」 「ああ。いろいろとな」 それだけ言って#名前2#は微笑むだけだ。これ以上は何を聞いても答えないな、と判断した日本号はそうかと頷いて「なんか、すまないな」と頭を下げた。 「なんでお前が謝るんだよ」 「ああ、いや……」 なにがなんだか分からないけど申し訳なくなったのだから謝っただけだ。日本号の気持ちが三日月に伝わったのか「とりあえず、そなたも飲めば良いではないか」と焼酎瓶をかかげた。 「ああ、ありがとう」 「ほれ、コップ」 ああ、いや。と自分が持っていた熱燗を手にあげると遠くから次郎太刀の声が届いてきた。 「なぁにー? 新しいお酒のお話ぃー?」 「ああ、いや」 「次郎太刀、これも持ってけ」 #名前2#が背中から取り出した無月という酒に次郎太刀の目が輝く。なかなか取り寄せの出来ない酒なのに!! 飲んでいい! と! 「日本号、飲むわよぉ!!」 「え、あ、は!?」 空気を読んだように次郎太刀は日本号をつれてさっさと仲間たちのもとに戻っていく。三日月は苦笑いで「あれでよいのか?」と聞いた。 「なにが?」 「日本号に余計な心配をかけたくないのだろうが、あれでは一層困ったようなものだろう」 「いやあー。日本号にもどうせウィークポイントがあるんだろうし、ああやって仲間を見れる目が有ればいいよなあと思っただけさ」 ういくぽいんと。 三日月の口がもごもごと動くのを見て#名前2#がぶふっと笑う。 「カタカナ苦手なら無理に言わなきゃいいじゃねえか!」 大振りに手をふって酒を庭にぶちまけながらぎゃははははと笑いだした#名前2#に加州と安定がどうかした?と近寄ってきた。世祖は#名前2#があまりにも酒を飲んでいるので顔をしかめている。あんなに、飲むなと言ったのに…! そんな顔をしていた。 「おお、加州。安定」 「なに笑ってんのさ、#名前2#さん」 「いやあ、三日月がおっかしくて」 まだ笑い続ける#名前2#に加州も安定も苦笑いで三日月の隣に座った。酔っ払いの相手は大変じゃない?とたずねた安定に三日月はにっこり微笑んだ。 「#名前2#が相手ならそんな苦労気にせんさ」