大典太の話
全戦敗北だったが#名前2#も世祖も気にしない。観客のブーイングもあったがあんまり酷い野次を響かせる審神者は警備の式神や政府の手の者がペナルティを下すか演練場から連れ出す。#名前2#たちは真っ当な方法で手に入れた刀たちをレベルアップのために演練場に訪れ、戦わせているのだから叫ばれる所以はない。しかも見せびらかすというのには語弊がある。審神者の規約に見せびらかすのは御法度という文章があるがその見せびらかすに入るのは3スロットのレア刀を5振り以上入れた場合と新規に参加した刀剣男士が特レベルになってないままに入れた時のみだ。大典太もソハヤもきちんと25にいっている。文句を言われる筋合いはない。難民と呼ばれる多勢たちには運がなかったと諦めさせるための規約である。 「よし、帰るか」 「やんや」 「はあ?」 「よぉーや いく。せい おっかい もらた」 「はいはい、分かりましたよー」 え、うちの主(世祖)って今何喋ったの?という顔をした大典太たちを引っ張って信濃がけろりと笑う。「今のは、万屋に行く。世祖、お小遣いもらったから。ってことですよ」へぇー。と明石や物吉からも声が上がった。世祖の言葉遣いには慣れがいるのだ。万屋のアクセントもちがうし、もらたという言葉はもはやもlたと英語の子音しか聞こえない時もある。#名前2#は一発でそれを全て把握するのだから彼には世祖と共鳴するところがあるのだろう。御手杵は少し呆れながら「また歌仙あたりがお小遣いあげたなー」とぼやいた。歌仙兼定、通称おばあちゃんは世祖にかなり甘かった。 #名前2#たちが万屋にくるとちらほらと他所の本丸の大典太やソハヤの姿が見えた。顕現されたばかりの刀剣に何かを買い与える審神者は多いため、皆万屋に集まりやすいのだ。 「お前ら、なにか買いたいものあるか?」 #名前2#の言葉に6振りはうーんと考えて特にないという結論にいたった。世祖の霊力で顕現されているせいか物欲というのがあまりない。どちらかと言うといかに楽しく遊ぶかが重要だった。そんな中でとある刀剣が手を挙げる。物吉貞宗だ。真っ白な肌を桃色に染めて耳に手をくっつけるほどに真っ直ぐに手を伸ばしている。 「ほ、本が欲しいです!」 「本? どんなやつだ?」 「あ、えっと組木細工の……」 ああー。と世祖と#名前2#が頷いた。最近、本丸で組み木細工を作る刀剣たちがいる。手先が器用でなくとも自分の刀で大まかに切ってしまえば短刀や脇差たちが綺麗に削り出してくれるので太刀でも楽しそうに作っていた。そう言えば物吉と乱がやけに上手かったんだったか。 「乱ちゃんと新しいもの作りたいって言ってて」 「万屋にはないかもしれねえなあ。ネットで見てみるわ」 「ありがとうございます!」 #名前2#がネットで見てみるわ、という時は自分の視界に現れる電波の線を手繰り寄せて確認することを意味する。世祖がすぐに見つけたのか何も無い空間の上でスワイプしたり拡大するような手の動きをする。 「ある。見た」 「信濃、タイトルはー?」 「組木細工、ズートピアです!」 「ふゅーとぃあ」 「ずーとぴあ」 2人して刀剣たちにとっては何も無い空間を覗き込み、ああこれだと指さした。ぺこん、と#名前2#が何かを叩く音がして「よし、これで明後日には着くな」と笑った。 「明後日なんですか?」 「なんか取り寄せるらしいから遅くなるみたいだな。まだ現世には地方から東京物質交換して届けるーみたいな機械ないんだよ」 「へー、」と物吉や他の刀剣男士も驚いた顔を見せた。昔よりも技術が発達したのだなあと思うものと、地方からではそんなに出来ないのだなあと思うものである。 「……なんか、ソハヤたちはよく分かんねえって顔してるな」 名指しされたソハヤは顔をぐりぐりと動かして「そんな顔してたんすか?」と聞いてきた。 「割とな。とりあえず本丸戻って久々に現世の講座するか」 それを聞いた瞬間に今まで興味なさそうな顔をしていた明石の顔が輝いた。「へぇ、またやるんで?」とニコニコしている。周りの審神者たちが「誰だあの亜種国行…」とつぶやくのが聞こえた。 「おう、やるぞ」 #名前2#はとてもいい笑顔をしていた。 「久々に現世講座やるんだって!」 ごろろん、とローリングサンダーをダンスのように華麗にこなしながら乱藤四郎は自分の兄弟の部屋に飛び込んだ。部屋にいた平野と小夜は驚きながらも嬉しそうに「どこでですか?」とたずねる。 「今日は庭みたい! はやく行かないといい席とられちゃう!」 女の子たちが連れ立って歩いていくかのように3人はきゃらきゃらと笑いながら廊下を走り回る。現世講座やりますよー、と叫ばれた面々がその後をついていきかなりの大所帯となった。 「おう、おかえり乱」 演練に行っていた6振りは庭に大判のビニールシートをしいて待たせている。乱、平野、小夜、鯰尾、鶯丸、長曽祢、膝丸、歌仙とまあバラバラにやってきた。長曽祢の顔をみて陸奥がガタッと刀を揺らしたが顕現はせずに待っていた。物吉と信濃が気をきかせて御丁寧にも靴を脱がせるところが少し離れていて脱いだところからビニールシートに行けるように蓙がしかれている。なんでだろう、と思ったのが顔に出たのかソハヤが「靴はある種の穢れだからな」と教えてくれた。 「穢れ?」 「#名前2#さんたちは言わないか?」 「聞いたことねえなあ」 「昔は自分の足に厄が残るって言って靴を持ったり履かせに来るのは下男たちの役名なんだよ」 「へー……」 そんな話は聞いたことがなかった。本当かどうかは分からないが豊臣秀吉が信長の靴を温めていたというのは彼らにとってかなり衝撃的だったのか。 やってきた刀剣たちは驚きながらも靴をぬいでビニールシートの上に座った。「……なんでビニールシートなんですか?」と鯰尾が聞くから「現世講座だからだな」と返す。なるほどと言いながら胡座をかくものも正座するものもいる。大典太、ソハヤ、鶯丸、歌仙、小夜、物吉は正座をして鯰尾たち粟田口と長曽祢、膝丸は胡座をかいた。御手杵のように片膝たてて座るのはあまりいないが、槍を持って座るにはそれが丁度いいらしい。明石は横になろうとしたから蹴り飛ばして無理やり正座するように世祖の空気の紐が明石の太ももとすねを結んでいる。 「よし、それじゃあ今日は新しい奴らが多いから現世の話を簡単に説明するぞ。まあ、プリントで頭に入ってるとは思うが」 そこで取り出したのは審神者たちが現世や本丸を行き来するために使う羅針盤だ。刀剣たちが時代を遡って出かけるのにも合金の羅針盤が使われるがこちらは真鍮製だ。なぜ真鍮なのか聞くと昔の審神者たちは刀剣男士を付喪神として信仰しその力を借りることに長けた者がなっていたから。つまり、昔は金メダルのごとく輝いた羅針盤を刀剣男士に与えて審神者たちには価値の低い真鍮を使っていたのだ。今は刀剣男士の本霊と政府に最強と謳われた審神者たちとで協定を結び審神者の方が力が強くなっているらしい。 「うちの本丸は世祖が強いからパワーバランス…俺たち全員にかかる平均的力ってのは変わらないけどこれで刀剣男士たちの方が力が強いとなると審神者に負荷がかかりすぎて体壊したりするんだな。だから演練でたまにヒステリックになる奴らってのは力が弱いから押し負けた分を審神者の体一つに受けてるんだよなー」 そう言って羅針盤を胸の中にしまった。前に世祖に持たせていたら現世で川遊びをしてた最中にひょっこり飛び出て壊したもんだから俺の方が持つことになったのだ。 質問あるか?と聞くと膝丸が手を挙げた。 「なぜ審神者の力が強いと俺たちの力は平均的になるんだ?」 「さっきの本霊との協定で刀剣男士にかかる負荷は本丸にいる刀剣たちをまとめて1とみなすことになってるからだな。40振りいたら1振り40分の1の負荷がかかると思えばいい。うちは世祖の押してる分がきっちり刀剣たちの数と合うようにコントロールしてるから世祖とお前達が1:1になってる。んで、俺は審神者でも刀剣でもないけど世祖の作った麻薬のせいで負荷が2分の1だけどかかってる。この本丸で俺がお前達にこうやって命令とか説明とか出来るのはこのおかげ。まあ、その前もわりと命令してたんだけど不具合沢山あったからこのシステム採用って感じだ」 お分かりになった?と聞くと膝丸は深く頷いて「この本丸とはそういった仕組みなのだな」という。 「でもこれうちの本丸が特殊ってだけでほかの本丸はプラマイゼロになるように色々してるらしいけどな。うちは俺が世祖と刀剣男士に優位にいないといけないから。 さて。これと反対の事例がブラック本丸だな。札や呪具で刀剣男士の力を弱らせる。んで、審神者の力で無体を働くのが最近のタイプ。昔は顕現したやつらに食事与えないし睡眠もさせないで出ずっぱりとかだったんだが現世の方で審神者に関しての法令が決められてから検挙数あがったなあ。後は審神者適性試験に合格したけど本当は犯罪行為しまくってたサイコパスだとか、刀剣と遊び呆けて本来の目的を忘れさせたり忘れるってのもブラック本丸に入る。他にも刀剣男士を外に出させなかったりとかだな。小夜はそういやサイコパスの本丸だったか」 「……かなり悪い人だったからね」 そう言いながらも小夜は少し寂しそうな顔をした。彼の元いた本丸の審神者は夜な夜な現世で人を殺し本丸に帰ってきたというサイコパスの一人である。彼よりも酷いやつは沢山いたが、彼ほど長く隠れていたのは今までいない。 「昔は本丸の中に時間の感覚がなかったらしいから審神者たちもブラック企業で働いてるようなもんだったらしいがそれでも条例じゃあ審神者が悪者だから困るよなあ。あ、質問ある人」 ひょい、と明石の手がだるに上がる。 「その法令って何が決まっとりますの?」 「赤疲労が見えたら出陣とりやめとか重症進軍を殺人と同等に見なすとかそういったことだな。刀剣男士も人って考えの元作られてる。現世には人に最低限の文化的生活を与えることが国の義務としてあるんだが、本丸では審神者が刀剣男士たちに最低限の文化的生活を送るようにさせようっていう法令だ。でも、これ反発も多いから現世で政権交代起きたら新しい法令くるかもなあ」 ここで黙って聞くだけだった大典太が顔を上げて 「……おい、政権交代ってのはなんだ」 「そうだなあ、政権交代ってのは要するに国民が殿様をすげ替えることだな」 「……すげ替える? そんな事が可能なのか今の世は」 「可能だ。今は国民主権つって国の中で一番えらいのは国民だからな。そこら辺は刀があった時代とはえらく違うなあ」 だと言うのにここでは俺の方が偉いんだから全く今の日本はおかしいもんだ。 「それじゃあ現世の話はここまでにして、お前さんらがお待ちかねの人間の話をしよう」 きゃあー、と乱から声が上がった。男であるが女の子っぽい話し方だ。一緒にいる平野や鯰尾はひゃほーいと腕を上げた。鶯丸や御手杵はニコニコしながら体を揺らす。明石はそろそろ足が限界らしいが世祖がまだ許してないらしく俺の背中にひっついたままだ。 「人間は進化してる。それこそ2200年も経てばお前らが思うよりも随分とな。俺が生きていたのはこの時代から100年ほど前。まあ俺が喋れるのはそこまでだ」 とりあえずは日本人がいつ刀を認識したのかを教えるな。 「刀はある意味で人間と一緒にあった。昔は武器じゃなくて石切丸みたいに神刀としての方が強かった。日本の昔話じゃあ草薙剣なんてのがあるが実物がある訳じゃないからなあ」 草薙剣が本丸に来るかは分からんけどなあ、と続けながら後ろにいる世祖に「絵本取ってきてくれるか?」と聞いた。世祖はひゅおう、と手を振るとその手に一冊の本が現れた。 「おお……」 「えーっと、因幡の白兎じゃなくて……あ、このヤマタノオロチの話だ。大典太とソハヤは後でこれ読んどけばいい」 #名前2#という男がまだ話し続ける中で大典太は本を開いた。人間として外に出て、情報を詰め込まれ、食事をして、そして戦わされて。今読んでいる本の中にはそんな自分とは正反対な男が草薙剣を手にしていた。好き勝手やって、姉に居場所を追放されて、女を助けるために怪物を倒す……。 「ニセモノだ」 「この時代では刀は怨霊とかそういった類を……って大典太。どうしたんだ」 ひょっとこのような顔を見せた#名前2#に大典太は持っていた本を投げつける。 「こんな本のどこが面白いのだか!!」 叫んでそのまま部屋の方に去ってしまった。#名前2#はキャッチした絵本を手遊びに空に投げながら「ソハヤ、お前行かなくていいのか?」と聞く。 「……大典太には奴なりの考えがあるからな」 「なるほどね」 絵本はお前にも渡しとくな、とソハヤの足に置かれた。そして大典太のことを気にすることなくまた話を始める。 「最初がそれなら最後は何かっていうと第二次世界大戦だった。軍刀と呼ばれるやつらが活躍した時代だな。その後には外国に流出したり個人が買ったりと刀は美術品として扱われるようになった。刀の時代は終わって銃火器が主流な戦争だったからな。みんな刀に頓着しなかったんだ。 さて。俺の2010年代じゃあ美術館が保管していたものが2200年では国有物に指定されて今じゃ本霊になってるのがお前らだ。だがここで注意しておきたいのは実物はもうない奴らもいる。そういった奴らは逸話による信仰の力や、刀に準じて力のある鞘とか古文書とかそこら辺を本霊代わりにしている。 前振り長かったなあー。これが現世でのお前らだ」 頷いたソハヤを確認して#名前2#は地べたに座って世祖を膝の上に乗せた。 「そいじゃあここからは進化した現代のことについてだ」 そっと扉が開かれた。ヒョッコリと顔を出したのは同じ家にいた前田藤四郎とその兄弟である厚藤四郎だった。2人は手負いの獣のように荒い息をたてる大典太を障子の隙間から見ると顔を見合わせてダッシュで庭にやってきた。今、物質交換の話をしているから信濃はきっと抜け出すことに賛成する。そう思ってのことだった。 「信濃ー!」 小声で呼んだはずなのに世祖の目が魚のごとく動いて厚と前田を拾った。ギリギリのところで叫びそうになるのを抑えて「信濃ー! はやくー!!」と呼びかける。何回か分からなかったが2人は信濃が来る頃には冷や汗で背中が冷たくなるほどになっていた。世祖が嫌だといえばこの動きは全てナシにされるのだ。緊張よりもさらに嫌な命を刈られるような緊迫感がある。初期からいる薬研や五虎退、秋田には分からないと言われたがそれはまだ過激なころの#名前2#さんを知ってるから世祖が相対的に大人しく見えるだけだ。世祖は自分に従わない刀よりも、#名前2#の言うことを聞かないで単独行動する刀を嫌っていると厚たちは見ている。あの大倶利伽羅でさえも#名前2#さんの言葉には従っているのだから間違いない。 やってきた信濃はとぼけた顔で「どうしたの?」と聞いてきた。 「信濃、指南係になったのでしょう? 大典太さんを連れ戻してあげてください! このままじゃ彼、また引きこもりに…!」 前田がそういった所で厚が急に耳を動かした。 「やっべえ!」 「え、どうしたんですか、厚」 前田と信濃の反応など見向きもせずに厚は走り出した。この方角絶対やべぇ!! そう思ったのはアタリで厚の耳に届いた三日月の吐く音は大典太の部屋で行われていた。 「よーし、それじゃあ三日月。お前の釈明を聞こうか」 以前ほど激しくなくなった#名前2#である。前だったら大典太が天下五剣の1振りだとか関係無しにブチ切れてリセットしようとしただろうが彼は我慢していた。まさかな事であるがその我慢が1日も経たずにきかなくなった。 「はっはっは、いやなに。同じ天下五剣だというのに挨拶一つしていないからなあ」 済まなかったな、うちに数珠丸がいなくてよ。と#名前2#がこぼした。本当はきちんと鍛刀するはずだったのだが#名前2#が運悪くインフルエンザにかかり世祖は病院から離れようとせず鍛刀も出陣も行われなかったのだ。 「いや? 縁があれば数珠丸恒次も来るだろう。ただ大典太はうちに来たのだから挨拶をだな」 そう言いながら三日月の口からはだらだらと血がこぼれている。あーあーあーと#名前2#がうだりながらティッシュで拭き取ってやると三日月はぺかりと笑顔を浮かべた。 「すまぬな」 「そう思うならもう少し血を口の中に貯めることを覚えろ」 「……さすがに飲み込みは出来ぬぞ?」 「洗面所いけっつってんだよ!!」 #名前2#と三日月のとぼけた会話に短刀たちは笑っていたが大典太には何も面白くなく心の中では早く出てけと思っていた。 「大典太さん」 「……なんだ」 「もしかして、戦うことが怖いんですか?」 「………」 怖いのだろうか。そもそも怖いとはどういうことか分からない。頷くことも首を振ることもできなかった。 「…分からない、ですか?」 「ああ」 素直に頷いた大典太に信濃はにひりと笑って「なら一緒に出陣しましょう!」と誘う。 「……」 「出陣して、ちゃんと敵と向かい合うんです。#名前2#さんが言ってたんですけど、敵も検非違使も刀を使って時間を遡る似たような存在なんだから全てを捨て去ることは出来ないんだって。ほとんどは刈り取れるけど残ったものは受け入れるしかないって。だから大典太さんも出陣しまくって敵をたくさん切って人間の心を手に入れましょ!」 熱く語る信濃に大典太はキョトリとした。先程の現世講座とかいうやつよりもよほど心に響いてきた。 「……倒し終われば、心は手に入るんだろうか」 「それは大典太次第だな」 急に話に入ってきた#名前2#は三日月の吐血の処理をして服が血しぶきをあびたようになっていた。刀剣男士でなければヒェッ!と叫び声をあげるような姿だった。 「オズの魔法使いって話で、」 「また子供だましの話か」 「いや、子供騙しにしてはお前に似た男が出てくる」 「俺に……?」 「ブリキの人形だよ。心が欲しいって泣いていた人形。この話はな、主人公とその仲間達が自分の欲しいものを魔法使いにもらいに行く話なんだよ。人形は仲間のひとり。心がないって涙を流してたんだ。だけどさ、分かるだろ? 心がなかったら悲しくて涙なんか流さねえんだよな。大典太、お前が感情分からねえってんなら、選択肢は二つだ。あるけど気づいてないのか、本当に受け取れなかったか」 受け取る、という言葉に信濃が反応した。#名前2#のもとに近寄って「本霊様がくれなかったってこと?」とたずねる。 「いんにゃ、受け取りミスだな。リレーでバトン落とした時みたいな」 #名前2#の説明に信濃は深くうなずいて「なるほど。取りこぼし」と呟いた。 そんな光景を見ていた大典太は自分の胸に手を当ててみた。トクトクとなる心臓はここにあるのに心は大典太にないんだろうか。だとすると、それはとても不思議なことだった。 「……心は本当にあるのか?」 大典太の哲学的な質問に#名前2#は苦笑いして答えた。 「バカにされた俺が反論しなかったことに苦い味したんならあるって言うんじゃねえかな」 大典太は微笑んだ。確かに心はこの本丸の刀剣男士として存在しているらしかった。