三日月宗近の話
堀川の話によると敵の気配などはなく、ただただ菊池という人間は消えてしまったとのことだった。 俺は「へー」とだけ返していつも通りの仕事に戻る。守っていた和泉守や仲良くなった同田貫が何か言ってくるかもしれないと思ったが彼奴らは何も言わずに遠征も戦いも続けていた。 皆口には出さないが面倒ごとが向こうから去ってくれて良かったと思っている。いや、たぶん世祖は思ってないけど。こんのすけなんかは顕著で事ある毎に「良かったですねえ。無事に終わって」と言っていた。 これでまたブラック本丸だー、見習いの乗っ取りだーとなるのは面倒だったがそうじゃないことは沖野との調査で着々と分かっていた。あの夢の話を聞いて確信を得たので、堀川と和泉守には汚染の枠に入らないようにきちんと言いつけた。蛍丸の精神汚染は実力に見合って広範囲の強力というコンボだからだ。 菊池こと刀剣男士モドキもとい三日月モドキは元審神者である。調べたところ、彼の本丸は俺達がゴコを拾った時のように検非違使にやられてしまったらしい。その後に怨念系の気持ちが本丸に残ってしまったらしくちょくちょくお祓い専門の審神者がそこに出向いていたらしい。俺にはさっぱり分からない話なのだが悪霊退散するためいろんな人間がそこに踏み入ったと見ていいだろう。俺にだって霊感は少ししかないがそーいった経験はままある。 夢の中に出てきた本丸はまさに聞いていたそれだったし、覚えがあるようで覚えのない声は彼が昔に育てた刀剣男士たちの声だ。人はいなくなった人の声を真っ先に忘れてしまうように菊池は声をもうすっかり忘れていた。覚えているのは自分を無理やり本丸から追い出そうとする審神者たちのみ。自分の本丸にいる他の審神者=見習いとなるのは仕方ないことだ。うちみたいに審神者守護なんてするところは滅多に見かけないので演練では俺達も不審がられたりする。菊池に関してはこのまま忘れていくのなら審神者にもなれないし、蛍丸と一緒にいても害もないし(まあ蛍丸を教育係にしたのは偶然であったけど)、刀剣男士としてこの本丸に置いてもいいかと思ったのだが結局彼は本丸を思い出してしまった。こうなると心の中に隠したそれに引き摺られやすい。ちなみに愛染は同じように自分の心に隠していたものを思い出した時、発狂しそうなところをギリギリで立ち止まり回復した。だがトラウマはきちんと生まれてしまったらしくセキュリティ毛布がないと蛍丸とは一緒に寝れないのだ。 さてはて菊池がどうなるか俺も世祖さえも分かってなかったのだが、消えたという事は育てた刀剣男士に連れていかれたか成仏でもしたのか。なーんにも分からないがもはや俺には関係の無いことだ。……いや、もしかしたら佩刀してるコイツが何かしでかしたのかも。ちょん、と触れた鞘はふるりと震えた。 菊池についての書類をまとめていると電話が鳴り響いた。相手を見ると沖野になっている。いつもならこんのすけを通すかビデオ通話なのに。不審な番号だと無理やり切った。 シュー、と吐息がもれた。ここは狭くて狭くて空気がすぐに無くなりそうだ。なんとか伸ばした手がモバイル?にあたり、適当にボタンを押しまくったら電話を鳴らすことに成功した。よしっ!と思ったのもつかの間。すぐに電話が切られてしまった。舌打ちを思わずした。こっちが苦しんでるってのに向こうは何にも対応してくれないのか……。ここはどこだろう。俺はどうしてこんな目に……。そうだ、見習いの審神者が俺の本丸を……。そうだ、それで俺に何かの術を…!! 「おおっ、4時間だ! こい! こい! ソハヤノツルキ!」 声がする。女の声だ。誰だ、コイツは。俺は、なんだ? なんで俺は俺じゃない顔になっている? 「ぅ、ぐ…ゔぅ……」 久々に出た声はひどい声をしていた。思わず喉に手を当てると目の前にいた女はため息をついてきた。失礼なやつだ。だが一緒にいるのは誰だ? 全く知らないやつだ。グレーと青を混ぜたような髪の色でひどく淀んだ目をしている。ここはどこだ、と聞こうとすると女が口を開いた。 「なーんだ、三日月宗近か」 今、この女は何といった? ミカヅキムネチカ。確かにそう言った。そこにいるのは三日月ではない。女はもってのほか。辺りを見回すと誰もいない。まさか、という予感が頭の中をよぎった。また前を向くと女は不思議そうな顔でこちらを見ていた。 「あら? アンタ、本当に三日月? なんか雰囲気違うわね」 「おい主。こいつ……」 嫌な予感が胸を圧迫する。どくん、どくんと鼓動が大きくなる。息が荒くなる。酸素が欲しい。足りない。口の中が乾く。手が震える。汗もだいぶ出ている。 「三日月宗近じゃないナニカだ」 折った方がいい。なにか良くないものが憑いている。 あらそう?なんて女は言いながらこっちに手を伸ばしてきた。嫌が応でも分かる。俺は今三日月宗近になっているのだ。必死に手から逃れようとしても逃れきれない。 俺は捕まった。 「やあ、#名前2#くん」 「あ、沖野さん。やっぱり沖野さんはこーじゃなきゃな」 「は? 何の話だい」 こんのすけの口から「は?」と言われるのはやっぱりショックだ。世祖も口には出さないものの同じ気持ちなのかえぐえぐと泣きそうな顔で服の裾をつかんで俺とこんのすけとを交互に見つめた。こんのすけを通しての会話はかなり久々で世祖にはショックが大きかったらしい。 「いや、さっき沖野って人から電話があったんすよね。でも、沖野さんそーゆーのやらないじゃないすか」 「ああ、それね。なんか、最近審神者の担当の名前でイタズラ電話がかかってるらしいんだ。出る時には確かに担当の名前だけど後で確認すると必ず文字化けしてるんだとか」 「え、それって普通の審神者たち判断出来なくないスか?」 「本丸には穢れに気付く刀たちがいるんだから確認すればいいだけさ。初心者のところには愛染が来るまで鍛刀しろって言われてるらしいけどね」 「愛染明王っすもんね」 「まあ電話に出たところでさして問題は無いけどね。審神者の意識の低さが露呈するだけさ。それで、こっちの用件を言おうと思うが構わないね?」 「もちろんす」 沖野の用件というのは新たな刀剣男士が期間限定で鍛刀出来るようになったからしてみてほしいとのことだった。 「新しいやつらっすか」 「顕現はしなくてもいいけど、とにかく鍛刀できるか世祖に試させてくれ」 「なんで期間限定なんすか?」 「本霊たちの意向に僕らは何も言えないのさ」 あー。なるほど。 「分かりました、やらせてみます」 「そのデータも積んでよろしくね」 ということで未だに泣きそうなままの世祖を肩車して景趣を秋に変えさせた。庭の方で「ほげえっ!?」という声が聞こえてすごく鴬丸っぽかったので見に行きたかったが本日の近侍である博多が既にこっちに来てしまった。景趣変更するとその季節に合わせてイベントごとを提案そてくるのはもっぱら博多だ。さすが金のまわる事には速い。 「秋になったからには焼き芋するばいね! 紅葉狩りと第何回かのカルタ取りと歌合も!」 「その前にサツマイモの収穫だろー。あとカルタ取りはそろそろ普通のにしようぜ。百人一首はきついからまじで」 百人一首はぶっちゃけ世祖よりも刀剣男士の方が早いのだが世祖に花を持たせるべくゆっくりやる。だが俺にはそんな容赦や情けはないのでいつもぼろ負けだ。そろそろ一番好きな君がためぐらいは取れるようになりたい。 「あ、そうだ。博多、鍛刀するから手伝ってくれ」 「わかったばい!」 とりあえず、審神者たちの中で噂になっているレシピと世祖のフィーリングでやるレシピを試してみる。 噂になっているのはall324。世祖の方は468/501/354/423だ。相変わらずの覚えにくい数字だが博多はパパッと妖精たちに資源を渡すのだから商人はすごい。324は3時間。フィーリングの方は4時間だった。 「こんのすけ、新人の時間って」 「4時間であります!」 「だよな、手伝い札使おうか」 博多は手伝い札を手渡した後ににんまりと笑って「また三日月宗近事件が起きたりしてな!」と嫌なフラグを建てた。氏ね、と心の中で思った。 「ソハヤノツルキ ウツスナリ……。 坂上宝剣の写しだ。よろしく頼むぜ」 「……。なあ、おい」 「出ましたね!」 ちなみに、その後324を2回ほど回し、3回目に大典太光世の方を顕現させた。俺はすっかり忘れていたのだがドロップは本丸で顕現させなければいけないが鍛刀は勝手に顕現したりする。ソハヤノツルキも大典太光世も普通に本丸に来てしまった。 「えーっと、これで顕現してないのが日本号だけなんすけど」 「彼はまだいい」 「え?」 「時期が来るまで彼は出さないでくれ」 「へ、あ、はい」 「それじゃあ大典太光世とソハヤノツルキを頼んだよ」 沖野からの連絡はいつもの倍のスピードで終わり、ビデオ通信による検査な嫌いな世祖はそのスピードにビックリとした顔を見せて「う? う?」と小さくて動きにくい体を#名前2#のほうに揺り動かした。 後ろに控えていた大典太光世とソハヤノツルキは微動だにせずに待っておりその姿は正しく置いていかれた刀だった。 「あー……。とりあえず、お前達の教育…いやシナン係? だっけ? そいつらを連れてくるから」 それとこれ、頭に詰め込んでおけよ。とプリントを渡して#名前2#は世祖を抱き上げてここで待ってるんだぞーと言って部屋を出ていった。勿論、プリントによる2人の絶叫を聞かないためである。 「信濃ー、いるかー?」 ガラリと勢いよく刀装部屋を開けると信濃藤四郎は厚藤四郎と共に刀装の整理をしていた。金がよく出てくると言っても、戦場に出ていく刀のために使うものとあまり使わないものをどんどん仕分けなければいけない。今度には政府による戦力拡充計画で新しく戦域が開かれるので今日はその準備をしていた。 「#名前2#さん! 世祖! どうしたんですか?」 信濃藤四郎は秘蔵っ子と自称するだけあって#名前2#たちによく懐いていた。新人の類ではあるがそろそろ先輩という立場に上がってもらわなければならない。 「お前、大典太光世に着いてくれ」 「? 指南係ですか?」 「ああ」 「#名前2#さんー! 俺もまた指南係やりたい!」 「はいはいまた今度なー。信濃、ついてきてくれるか」 「はーい!」 ちぇーっと口をとがらせる厚であるが彼が指南をしたのは三日月宗近であったため周りとはなんだかちがう指南な気がする。というか、今も吐血した三日月を一番先に見つけるのは厚なのだからそれが終わるまでは新しい係など出来ないだろう……。 「#名前2#さん、大典太さんってどんな人?」 信濃は刀のくせに周りを人扱いしたがる。自分は刀として世祖の懐に入れてもらったりするのに、だ。その違いがなんで生まれるのかは分からないが、#名前2#は聞く度に違和感があるなあと思っていた。 「なんか蔵がどーのこーのって言ってたなあ。一緒に来たソハヤもだけど、変にネガティブだから気を付けてやって」 種も派も気にせずに動けるようにならないとな、と#名前2#は続けた。 「もう一振りはソハヤノツルキっつってこいつも霊刀だ。こいつの指南には御手杵にする」 「御手杵さん? なんか意外……。俺と同じ、短刀にするかと思った」 「それも考えたんだが世祖が御手杵にしろって」 へー、と信濃は#名前2#の背中にへばりついた世祖を観察してみた。今日は桃と藤色の混ざりあったTシャツに星柄のゆるいパンツを履いていた。ふわりと揺れるスカートの方が可愛いと#名前2#はよく言うのだが世祖は着させられてはぽーいと脱いで下着姿のまま逃げたりする。こんのすけのしっぽを掴んでびゅんと風をきるように廊下を走っていくのだ。初めて見た時は敵が来たのかと思った。そんな騒がせることの多い世祖は今は昼寝したいのかヨダレをたらした顔でびゅひゅと変な声を出した。可愛いなあと思えるあたり信濃たちはこの本丸によく馴染んでいる。 「御手杵ー」 道場の中に入った途端に飛んできた刀は#名前2#が陸奥守ではじき飛ばし、「あ、入る時のやつ忘れてた」と呟いた。忘れてたのではなくて覚える気がないんだろうなあと信濃は思っているが口に出さずに後ろをついてきた。今日の手合わせの当番は髭切と膝丸だった。兄弟らしくバチバチとやりあう姿は手合わせよりも息の合った組手のようだった。ふぉおと信濃から知れず声が漏れる。自分も他の兄弟たちとあんなふうにやってみたいが如何せん練度が足りない。短刀の中で信濃は今レベルが一番低いのだ。戦力拡充計画できちんと不動行光と太鼓鐘貞宗を手にいられたらそのドンケツから抜け出せるがドロップばかりは世祖の力の届かない本霊たちの域である。来なかったらそれは仕方ないことだ。誉れをたくさん取ってせめて2番目に低い後藤のように70にはいきたい。(今のレベル差は16ほどもあるが。) 御手杵は道場の奥の方で背中に骨喰を乗せて腕立て伏せを行っていた。骨喰はぼそぼそと、でも御手杵には聞こえる範囲の声で数を数えていた。206、207、208…。 「御手杵ー」 「どうした」 御手杵の代わりに骨喰が答えた。ん?と首を傾げると骨喰はあまり変わらない表情で「御手杵が300にいくまでに話しかける奴がいたら代わりに答えてくれ、と言われたんだ」と説明した。眠っている世祖の代わりに#名前2#さんも話すだろう?と骨喰がいうので#名前2#は爆笑して「なるほど、頭いいなあ!」と御手杵の横に座った。背中にいる世祖をはがして片膝にのせ、信濃ももう片方に乗せる。 「250終えて汗臭い体をシャワーで落とすまで待つわ」 「そうか。今、211回目が終わった」 「なんだ話しながら数えられるのか。なあ、骨喰、信濃。お前たち日本号についてどう思う?」 ピクリと御手杵が反応しのに気付いたのは乗っていた骨喰だけだろう。#名前2#は笑いながら「そろそろアイツを顕現させるべきではあるんだがなあ。まだ許可が下りねえんだ」と御手杵にとって都合のいい話をする。 「そうなのか」 「へー……。顕現にも許可がいるんですね」 「うちの場合は特別だけどな。周りは来たら顕現させるのが普通なんじゃねえかなあ」 「今度の演練で聞いてみたい。#名前2#さん、連れていってくれ」 「ああ、いいぜ。それじゃあ編成考えとくわ」 その後は3人でしりとりをしながら御手杵が終わるのを待ち、ようやく部屋に戻ってきた。部屋の中にいた2振りはプリントを自分の前に置いて居住まいを正した姿で待っていた。そんなに堅苦しくいなくてもと#名前2#は思ったがすぐに礼儀を重んじれるのはいいことだよなと頭を変えた。 「ソハヤ、お前の指南係は御手杵だ」 「おう、よろしくなー」 「ああ! 頼んだぜ!」 「大典太は信濃藤四郎な」 「よろしくお願いします!」 「……よろしく頼む」 新しい刀剣男士が来た時には本丸に騒ぎが起きるのはもはや常になっており、#名前2#は今回はどうなるかなあとほくそ笑んだ。 秋に景趣を変えたことで本丸では心機一転と称した山菜刈りが流行ってくる。大体はキノコを狙い、柿や栗、胡桃も探せば見つかる。本丸内は出陣組と遠征組とこの遊び組に分かれる。そんなに遠くに行かなければどこにでも行ってこーいというのが#名前2#の考えで世祖もそれに賛成していた。演練に行って帰ってきたらたくさんの柿が待っていた、というのはこの本丸ではありがちなことだった。 「演練に行くのは、前に言ってた骨喰とあとはレベリングさせたいから明石と物吉と大典太とソハヤが入ってくれ。残り1枠は誰でもいいぞー」 皆がシーンとした。中々に仲良くなるのが難しい面子である。というか大典太とソハヤを連れていったらどんな陰口を言われるかわからない。だから行きたくない。(陰口を叩いた審神者たちを倒しに行くと#名前2#が怒るので触らぬ審神者に何とやらである。) 「あ、居ねえのか。じゃあ……」 「#名前2#さん」 指をさして指名しようかと思ったが、それを止めて骨喰が自分は今回は辞退しようと言い出した。 「いいのか? それで」 「レベリングし終わってから聞いたって遅くないだろう。俺が抜ければ指南の2振り入れる」 「オー、わかった」 それじゃあ御手杵と信濃準備しといてくれよー。と#名前2#は大広間から出ていく。その後を世祖と近侍の愛染がこんのすけの尻尾を掴みながら出ていった。 「………」 #名前2#がトイレに行く時は基本的に世祖を連れていかないのだが世祖は大体着いていきたがりだ。もうすぐで叫び声が聞こえるのだろうな、と刀剣たちは思って耳を塞いだ。怒声が響くまであと40秒。 演練場で青姦イェーと盛ってしまう奴らがいるようにマナーが悪いヤツらなんて沢山いる。今だってこんなふうに睨まれてしまうというのに。 「ねぇ、あなた。そうやってレアな刀を見せびらかすように演練に来させることが迷惑になるって分からないの?」 「はあ……」 「娘さんを連れてくるのは構わないけど、そうゆうのって教育に良くないんじゃない?」 「はあ……すんません……」 「いい、こーゆーことは将来審神者になってもしちゃダメよ。分かった?」 女審神者はそう言って自分も連れている息子にそう話しかけた。彼女の間違いは3つある。 1つ目は#名前2#は審神者ではない。彼は審神者守護だ。2つ目に世祖は#名前2#の娘ではない。守護の対象だ。3つ目にレアのやつらを連れてきたくて持ってきている訳では無い。来るのが遅かった彼らをレベリングするのに演練がちょうどよいだけだ。初めて会う人たちは大体がこの勘違いをするし、#名前2#もあまり気にしたことは無い。誰も何も言わないし、戦って初めて「あ、あっちの子が審神者か……」となるのだ。それをこの女審神者は自分の正義を振りかざして#名前2#にぶつかってきた。正しいことに近しいが違うこともある。 「それじゃ、また演練するときはよろしくお願いしゃす」 ふん、と鼻息を鳴らして離れていく女審神者を見送り刀剣たちの方に目を戻すと皆が嫌そうな顔をしていた。代表してなのか物吉が「なんで言い返さないんですか?」と聞いてきた。 「いや、言っても聞かないだろあーゆー人は」 「そーゆーもんでっしゃろか? 言わな分からんタイプやと思いまっけどなあ」 「んー。なんつーかさ、面倒事出さないようにしようってだけだから」 お前らはそんな気にしなくてもいーよ、という#名前2#の言葉に新たにきた刀剣たちは何も言えなくなった。 主たちにもっと威厳を持っていてほしいと思うことは悪い事じゃないよなと御手杵は思う。だがそんな思いはこの本丸では全く役に立たないようなものだ。威厳などあっても人の心に響くものがなければそんなのは意味がないと#名前2#は言う。 ーー沖野さん見りゃあ分かるじゃねえか。あの人は確かに”すごい人”ではあるが刀剣たちと根本的な考えが違うから人間の方にカリスマ光らせてもお前達にはあの人は世祖の担当としか思えないだろ? 演練でもたまに刀剣たちにめちゃくちゃ愛されてるような審神者もいるけど、それは刀剣たちへのカリスマだか好かれる要素があってこそだ。そうすっと人間とはズレてくる。嫌われることはないだろうがめんどくせえとか変人とか空気読めない奴って昔の友人たちから思われるんだろうなあ。人間と刀剣は根っこがもう違う存在だから仕方ねえんだけどさ。 結局その話では#名前2#と世祖のことが触れずに終わってしまったので体よく話を流されたなあと思っていたのだが。今回、またそれを思い出した。随分と前に聞いたせいですっかり忘れていたのに。また聞いてみた時に#名前2#は今度はどうやって答えるのから逃げるんだろう。 あの女審神者は遠戦の刀装を積んだ脇差6振りで……まあワキザシックスという面子で揃えられておりネット環境では「うざい。面倒い。無駄にレベル高いヤツら揃えてくるよな」と言われる類の編成だった。どうせ今回は勝つ気などない#名前2#には痛くも痒くもなかったが女審神者には「私の方が強いのよ」という自負感がその顔にありありと出ていた。 「うっわ、ブサイクー」 「何ですって?」 「え?」 #名前2#は自分がまさか心の中で思ったことを口に出してるとは思わなかったが戦場にいる御手杵が笑いをこらえながら戦っているのをみると小声にすることもなく呟いてしまったらしい。 「何がっすか?」 ここはもうしらばっくれたほうが早い。下手につつくとこのタイプの女はギャンギャン騒ぎ、裁判で訴えるわよ!みたいことを言い出して担当からこれ以上暴れないでくださいという通達がくる。沖野の影響力はかなり大きいが彼は表舞台に出て名前を売ることがないので#名前2#と世祖は政府の上役の息子か娘か思われている。実際は全く違うが人間の妄想とはよく出来たものでこじつけだろうが何だろうが筋道に合わせて現実を都合よく書き換えてしまうのだ。シャーロックホームズという名探偵が審神者になったらそんなバカな審神者どもを全て論破するだろうがあいにくと#名前2#にはそんなこと出来ないのでどんまい!とキラキラした笑顔でイヤミっぽく言うしかないのだ。