彼女が主になるまで

 足を踏み鳴らし、廊下を歩いていると「#名前2#さま!」とこんのすけが現れた。 「なんだよ、」 「#名前2#さま、世祖さまがお呼びです!」 「…。着替えてから行く」 「でしたら、お部屋に案内いたしましょう! こちらでございます!!」  こんのすけに連れられ、部屋を開けると文机に、パソコン。ダンボールが5箱積んであった。 「……これは? さっきまではなかったろう?」 「政府からの支給品と、沖野さまからのプレゼントです」 「ふぅん…? そういや、俺は何か仕事とかしたほうがいいのか?」  "衣服"と張り紙されたダンボールを開けば、無地のTシャツと黒のツナギ、それにパンツや薄手のインナーが1セットでビニール袋に入っていた。ビリビリに破いて着替え始めると、こんのすけが尻尾で目をかくしていた。……なんか、ごめん。 「週に1度、報告書をお願いしますです。定期的に、沖野さまからビデオ通信が来ますのでその時には世祖さまの体調の報告も」 「ああ、世祖もか…。言うこと聞くかなあ」 「たぶん、大丈夫でしょう。習慣づけておりますから。あとは、鍛刀や手入れ。出撃指示などでしょうか。今までは沖野さまと加州清光がやっておりましたので、」 「2人から引き継げってことか。なるほどねえ。そういや、沖野が俺にいれた色ってのはなんだ?」 「シキでございますね。いうなれば、脳の強制活性化剤。麻薬です」 「はぁぁ!?」 「ご安心ください。中毒性はございませぬ」 「あったら困るわ!……もしかして、俺がいま見えてる世界は人とは違うのか?」 「はぁ。どのようなものが見えているのですか?」 「電波、みたいだな。音が聞こえる。日本語とか、中国語とか、英語とか、フランス語とか。色々だ」 「……どうやら、世祖さまと同じ現象が起きてるみたいですね」 「世祖と?」 「ええ。……あ、そうですよ! 世祖さまがお呼びなんですよ! 急いで行ってあげてください!」 「はいはい」  タオルを頭に巻いて、障子を開くと小さな白髪の男の子が虎を抱えてこっちを見ていた。 「…っあーと、…どうかしたか?」 「主様がぁ、」 「!? 世祖が、どうかしたのか?」 「加州さんに、連れてかれちゃいましたぁ」 「ああ?」  めっちゃ低い声が出てしまった。ごめんな、虎っこ。虎っこは、五虎退というらしい。言いにくかったので、「ゴコでいいか?」と聞くと「はい!!」と涙をたたえた目でこっちを見てきた。はいはい、かわいい。 「そんで? 加州は何したんだ?」 「#名前2#さんにいやがらせするって、言って世祖さんを連れて祭殿に立てこもっちゃって…!」 「はぁ…。しゃあねえな。ゴコ、祭殿へ案内してくれ」 「わかりました!」  こんのすけはいつの間にか消えていて、俺はゴコの後をついていき蔵?みたいな場所に着いた。どう見たって蔵だが、この時代ではこんな場所を祭殿と呼ぶのか。外にあった閂を外して、扉を開く。 「かしゅー? いんのかー?」 「っばか! なんで、来たんだよ!!」 「は?」  ガコン、と扉が閉まる音がした。  お? 「うちには五虎退なんてまだ来てないし! バカじゃないの!?  ていうか、あんたが主を長谷部んとこにやったんだろ!? 自分でしたことぐらい覚えときなよ!!」 「はぁー? 来たばっかりの審神者守護に、なんて言い方だてめぇ」 「しかも、外に閂かかってんだからおかしいとは思うだろ!! そうか、お前脳みそ筋肉しか入ってねーだろ!」 「はぁ? これでも、世祖と同じ頭脳に無理やりさせられたわ!」 「もっと疑えって言ってんだよ、俺は!!」 「ま、まあまあ。そんな怒るなよ加州の旦那。守護さんも悪気とかないだろうし。なあ?」 「おお、まったくないぞ!!」 「悪気なしって、もっとタチが悪い…!!」 「そうだ、俺っちと守護さんは初対面だよな? 俺っち、薬研藤四郎だ。よろしくな」  中には縄で縛られていた加州に、短刀?の薬研がいた。ちなみに俺はそのまんま入れられた。丸腰だからいいらしい。  出られない!と憤慨する加州に、刀になってから縄抜けすれば?と言ったら2人は無言で刀となろうとした。が、薬研の方はうまくいったのだが、加州はうまくいかない。 「…どしたー?」 「主の封が、邪魔をする…!!」 「あー」  鞘にとりつけられた封印の札らしい。そういえばこれ、さっき出会ったゴコにもつけられてた気がするなあ。 仕方なく薬研の方だけ俺は縄を抜き取り、加州の縄を切った。そんで顕現、ってどうやればいいんだ?  さっきからチラつく電波のところで、「顕現」という言葉が聞こえた。スマホの画面のように空をタップするとその言葉がこっちに近寄ってきた。拡大された、って感じか。べらべらと聞こえる声を頭の中で整理してみた。え? ドラゴンボールのカメハメ波のノリ? そんなので大丈夫か?? 「……なるほど?」  とりあえず手をかざして念じてみた。出なかった。……うん、知ってた。  もう一度手をかざしてみる。今度は掛け声をつけた。「オープンザセサミ!!」  ぼふんと煙をたてて薬研が出てきた。顔は横の加州同様ひきつっている。ていうか、陸奥が自力で出てきたり消えたりできるんだからお前らもできるんじゃねーの? 「それは! あんたの霊力が特殊ってだけだよ! 普通はできないの!!」 「なんだ、そうだったのか」 「あ、ありがとう。守護さん…」 「てかなんなのさ、おーぷんざせさみって! ださいよ、そんな掛け声!」 「知らんがな。ところで、薬研。一応言っておくとさ、」 「ん?」 「俺の名前は#名前1##名前2#。守護さん、なんて。そんな肩っ苦しい肩書で呼ぶのはやめてくれ。呼び捨てでいい」 「…」  薬研はちょっと呆気にとられた顔をしてニッコリと笑った。 「わかった、#名前2#さん!」  意外と薬研はかたくなだった。そして加州は「なにしてんだ、コイツ」という目で見ていた。いったい、どうした。  とりあえず、蔵から出ようという結論に至った。 「そんなこと言ったって、どうすりゃいいのさ。薬研は短刀だし、俺も打刀(封つき)だよ? ここの壁、漆喰でかなり分厚いし…。しかも、窓もないし!」 「…この扉、無理に壊したら叱られるか?」 「さあ? 沖野さんとかが何か言ってくるかもしれないが…。まあ、大将は言わないな」 「大将? あぁ、世祖か…。うん、まあ言わないだろうな」 「なにすんのさ? 俺達で壊す気?」  うんにゃ。 「斥力で」  飛ばされた扉は、ゴコにぶつかっていた。  ブオン、と機械的な音がしてゴコの姿がブレる。 「…!?」 「、#名前2#さん…ありゃぁ」 「おうおう、なんだか骨みたいな面になったが…」 「あれ、検非違使だよ!! なに、のんきにしてんのさ!!」  逃げるよ!! と、加州が薬研の首根っこをつかみ#名前2#の裾をつかむ。それでも、#名前2#は加州の腕を振り払った。 「なにさ!?」 「いやぁ…」  #名前2#が指差す先には、5匹の子虎が検非違使の方をじっと見つめている。 「……。いるんだなあ、きっと」  #名前2#はよっこいせと体を起こして、ぱんぱんと体に着いた埃をはらう。ぐるぐると唸る虎をひょいっとつかむと、加州の方に投げてよこした。あわてて加州がキャッチして薬研も2匹ほど手伝ってやる。加州に対してはまだ警戒しているようだったが、薬研には五虎退と同じ感じをかぎ取ったのか(?)普通になついていた。解せない。 「ちょっと!! 人間の…しかも、霊力もほとんどないアンタができるわけないじゃんか!」 「おお、そんでも助けてやんねえとな」  加州の悲痛な声は全くと言っていいほど#名前2#に伝わらない。スタスタと歩いていく#名前2#を見て、薬研はポツリと「あの人本当に人間なのか…?」とつぶやく。加州は悲しきかな、その言葉を否定できなかった。まさか、加州とてそんなことするなんて思わなかったのだ。  #名前2#はなぜか動かなくなった検非違使たちを蹴り上げると、中身を暴きそこからドロドロの粘膜に巻かれた五虎退を引き上げた。  ぐちゃぐちゃに溶けた検非違使の中身には興味ないのか足を一振り二振りゆらしておとした後、加州たちの方を見て笑いかけた。 「んな? 助けなきゃいけなかったろ?」  俺はゴコを立たせると腹に一発決めた。後ろで見ていた薬研が「っおい!!」と叫んできたが無視を決め込んだ。ぐちゃぐちゃの膜から空気と水が抜け出てゴコの体もちゃんと空気から出てきた。  そしてごぼり、と腹から魚みたいなのが出てくる。きもちわりい。 「けほ、っほ…!! ぁ、さっき、の…」 「よく頑張ったな。ほれ、そこにお前の虎たちがいるから」  ゴコを後ろに放り投げて、俺は目の前の検非違使と対峙した。 「お前さん、名乗る名はあるかい?」  俺の言葉に、フシューと息を吐いて検非違使は手を伸ばしてきた。ビッと決められたフィンガーポーズに俺は笑って、「そうか。それがおめさんの意思か」と返してしまった。加州と薬研は怪訝な顔をしていたが、俺は気にしない。 「俺の名前は、#名前1#。名前は言えないが、号は#名前2#だ。仲良くしてね」  俺は獲物の真っ直線に立った。 「ごめんな。お前は、今ここで俺に殺されないといけねえらしいや」  ぴっと、指を動かす。動かしたのは、まぎれもない。酸素である。  検非違使とて刀。100%の酸素は刀には毒である。どんどんサビついていく。さっきのゴコにつけられていた膜をイメージしてどんどん周りに浮遊させていった。 「ひぃっ、」  後ろでゴコの悲鳴が聞こえた。ちょっと後ろ。斜め後ろか。そっちを振り返るとゴコがおびえた目でこっちを見ていた。 「ごめんな、こんなのが審神者の守護になっちゃってよ」  検非違使が悲鳴を上げながら壊れていく。ガシャンッと音を立てて崩れ落ちた。赤錆の粉を手に取り息を吹きかける。 「お、きれいな赤になったな」  俺は本丸の庭にあった草をちぎると、ちょっといじって編みかごを作った。粉をいっぱいに入れて息を吹きかけ、赤粉をつくった。 「加州、あとでこれやるわ」 「はぁ?!」 「爪紅にいいぞー」  けらけら笑った俺を、加州はまるで化け物とでもいうかのようにガタガタと歯を揺らして見つめていた。 ゴコは虎を人質に検非違使の雑用? おとり? をやらされていたらしい。風呂に入れた際に、俺に「ありがとうございます」と礼をしてきたので「こちらこそ」と返してやった。