隣人のような関係性

 新入生の寮の決定は大事だ。そこからの人生に繋がるし、なにより卒業したあとも彼らとの縁があると思っていい。横の関係よりも縦の関係である。そんな大事な時にあの男は遅れていた。ディア・クロウリー。教師陣でも特に謎が深く絶対に裏があるのにそれを見せないタイプの男である。 「お待たせしました、皆さん!」  笑顔で入ってきた男は、男か女か分からない人間を連れていた。先代の学園長の時からここに務めているが……魔力のない人間がこの学園に来るのは初めて見た。鼻が効く人間なもので、魔力量はすぐに分かった。アイツはゼロだった。学園長がそれを分からないはずがないのでは、と思うのだが……。 「お、お父さん!!!!」 「ん?」 「助けて、お父さん!!!」 「………。俺のことか?」  お父さん、と名前を叫ばれたのも人生で初めてである。 「#名前2#!? あなたの隠し子ですか!?」 「俺に妻の類がいないのはご存知でしょう……。あー、君……は」 「ユ、ユウです」 「ユウ? 不思議な名前だな……。俺は君のことを知らないし、君は俺のこれも知らないんじゃないか」  式典用に被っていた帽子をとるといつもは隠れている獣耳が表れる。 「あっ、えっ」 「父親に顔が似ていたかもしれないが俺は父親ではない」  俺の言葉にアズールは舌打ちをした。面白いネタを掴めたと思ったのだろうか。見るとニッコリ笑ってくる。メガネの奥の瞳が胡散臭い。生徒にそんな印象を抱くのはよくないのだが……。俺も人間なのである。  困りましたねえ、と学園長はユウに話しかけている。どうなることやら、と見ていたらクルーウェルが近寄ってきた。 「式典の時だぞ、帽子を戻せ」 「あ、ああ。すまん」  耳をしまいユウと名乗った子どもを見ていたらコソコソと話し合ったあと、モンスターを連れて俺の方にやってきた。そして人間をつん、と差し出す。 「ん!?」 「話がまとまりました。#名前2#、ハウスマスターとしてユウくんのことを見守ってあげてください」 「あぁ!?」 「宜しくお願いしますね」 「おいおい、俺は絶対に職場で休みたくないんだが」 「いいじゃありませんか。これを機にレッツトライというやつですよ」  まるで適当な物言いに腹が立ったがユウという人間が怯えて俺を見ているのがつらかった。俺なんかを頼らない方がいい。その方がこいつの為になるのに。 「……わかった。引き受ける」  どうしてだか、俺はこの手を引きはがせなかった。学園長は俺にオンボロ寮に行け、と言う。魔法を使っていいのか聞いたらOKされた。俺のユニーク魔法でオンボロ寮にまで行ってもよかったが、この子が魔法も分からない人間だと思うと使用するのも躊躇ってしまった。仕方なく、モンスターのグリムを引っ捕まえてもう片方の手で人間を捕まえて、歩いてオンボロ寮に向かった。  子どもに名前を聞くとユウと名乗った。童顔だが16歳らしい。そうは見えない。  男なのか女なのかイマイチ分からず直接尋ねると性自認が曖昧らしく名前で呼んで欲しいと言われた。本当は髪の毛も短くしたいけれど親の手前、出来なかったらしい。 「じゃあ、こっちでは好きにしておけ」 「え?」 「ここが、本当ーにお前にとっての異世界だったらな。小説みたいに、乗り越える試練が待ち受けてる。その時に、親からの束縛なんて荷物になるぞ」 「……あ、あはは! それもそうですね」  髪の毛を着るならクルーウェルに任せるのがいい。どれくらいの短さにするのか決めておけよ、と言ったらニコニコと頷いていた。性根の素直さがなんとなく厄介である。ひとくせもふたくせもあるここの生徒たちに着いていけるのだろうか。今からとても心配だった。