不完全だっていいじゃない

 グリムとユウが入学決定するまでトラッポラとスペードの二人と騒動を起こして俺の仕事が増えるという厄介事もあったが、なんとか彼らは雑用係から生徒に昇進した。それを聞きつけた祝いごとじゃないか!とクルーウェルはユウの髪の毛を整えてくれた。肩まであった髪の毛は無事にショートヘアになった。すっきりした顔つきのユウは髪の毛がないせいか余計に幼くなった気がする。 「へへっ、ありがとうございます。#名前2#さん、クルーウェル先生」 「俺のことも先生って呼べって」 「いたっ」  雑用係のときは生徒じゃないしな、と名前呼びにしていたが今はもう教師と生徒の関係である。#名前1#先生、と呼ばせようとするとユウはむっと顔をふくらませた。 「せっかくうちの寮のハウスマスターなのに……」 「どの寮も今までは置いてなかったのに学園長からの命令でいるだけだからな、俺は」 「でもちゃんと引っ越してきました」 「それはそれ。これはこれ」 「#名前1#がここまで押されてるのは初めて見るなぁ」 「おい、クルーウェル。笑ってないで助けてくれ」 「いやだよ、初のハウスマスター仕事、頑張ってくれ」  クルーウェルは薄情ものだ。ユウに任せようとしていた仕事はそのまま俺にのしかかり、仕方なく寮を片付けながらも俺はいつも通りの事務仕事をすることになった。 「あっ、#名前2#先生」 「はい? なんですか」 「生徒情報を更新しておきましたのでファイルを作っておいてくださいね」 「了解です」  初めての授業を終えてぐでんぐでんと倒れていたユウと授業の復讐をしていたら、トラッポラが寮の中にずかずか入ってきた。ハーツラビュル寮の寮長、リドルの魔法で首輪がかかっている。ユニーク魔法のものだった。 「おいおい、どうしたのかにゃその首輪」 「グリム、あんまり突っ込んでやるな。ハーツラビュルの話に巻き込まれると面倒だぞ」 「やっぱり#名前1#先生の力でも解けない? これ」 「そいつはユニーク魔法だからなぁ」 「あの、ハーツなんとかと、ユニークなんとかって……」 「あー、そっか。まだ覚えられないよなぁ。ユウと一緒に退学になりそうになった2人はハーツラビュル寮っていうところ。あと6つ寮があるんだけど、まあそのうち覚えてくだろうし」 「はあ……」  ユウは困ったような顔をしていたがトラッポラはうんうん、と頷いている。彼も覚えるのに苦労したのかもしれない。いや、グレートセブンが分かれば大体寮も覚えられるが。 「ハーツラビュル寮は規則が異常に厳しいんだ。グレートセブンの1人のハートの女王の規則にのっとった生活をさせられてる」 「グレートセブンの1人に、寮ごと繋がってるって感じ、ですか?」 「まあそんなところだなぁ」 「それで、エースは何やらかしたんだにゃ」 「タルト食った」 「あらら」 「え、それだけ?」  それだけ、で終わらないのが今の寮長だ。先代はまだ緩やかにしていたがリドルが入ってからこんなことに変わったのだ。エースはある意味不運である。 「小腹すいたから寮のキッチン行って何かないかなって」 「まあ、仕方ないだろうなあ」 「仕方ないん、ですか?」 「3ホールもあるのにだよ!? 心が狭すぎるでしょ」 「それもまた仕方ないって納得するしかないのかなあ。それが寮生の仕事ってことだ、トラッポラ」 「納得できね~~!」  ユウもグリムも納得できないという顔をしていたが、明日朝イチで謝るように言って寝かせることにした。もう夜も遅い。まだ授業の復習が終わってないと泣くユウを捕まえて自室に追いやる。分からないところはちゃんと補習させるからとりあえず寝てこい!と言うとピタリと泣き止んだ。やっぱり先生、お父さんみたいって言葉はいらなかった。 「あのぉ、俺も今晩ここに泊めさせてほしいんすけど」 「さすがにユウと一生は無理だからな」 「せんせーの部屋は? ベッドの隣あいてない?」 「グリム置いてるから」 「いいじゃん!!! 俺だって入れて!!!」  うるさくしているとゴーストたちに入れてやれよ、と多数決をとられた。俺が出ていくからな、と行ったのだがグリムがそれにも文句を言うので仕方なく2人と1匹で狭いベッドに寝た。深夜での謎のテンションで寝るべきではない、と反省した。  朝イチ、授業前に出ていく彼らのためにサンドイッチを持たせたら泣きそうな顔をしていた。ユウもトラッポラも料理はできないらしい。俺がいなくても生活できるくらいには頑張って欲しいものだ。  領内の管理はなぜか、なぜか俺の仕事に入っている。ハウスマスターだからいいですよね、と学園長が言い出したのだ。あいつが割った窓ガラスの片付けも俺の仕事に入った。めんどくさい。グレートセブン像を綺麗にしたあとはキッチンの方で食材の買い出しを聞きに行く。 「おや。#名前1#先生」 「あー、シェーンハイト。クリーニング受け取りはまだだぞ」 「大丈夫ですよ、見かけたから声をかけただけですから」 「あ、そう?」  美しさに気をかけるポムフィオーレ寮の中でも一際厳しいと噂の寮長は俺の身だしなみチェックをしてニッコリ笑った。毎度のことではあるが彼のこの視線から逃げられない。ちなみに、ほとんどが不可をいただく。◯◯がいい、と俺の知らないブランドをオススメされるものの給料的に厳しいとか理由をつけて断っている。シェーンハイトはじっと俺の頭を見つめる。慌てて帽子をとるとさらに視線が強まった。 「今日は、やけに髪の毛が綺麗ですね。何かありましたか」 「え? あー、ブラッシングされたからかな」  ユウがめちゃくちゃ丁寧にブラッシングしてきたのである。それのせいかもしれない。シェーンハイトは誰のことか分からなかったらしく「はぁ?」と首を傾げた。 「うちの寮生だよ」 「ああ、なるほど。今後ものその調子がいいと思いますよ、先生」 「はいはい、どうもね」  クルーウェルにも髪の毛のことはよく言われるのでシェーンハイトに言われてもへっちゃらだ。綺麗な髪の毛をなびかせながらコツコツと革靴の音を立てて歩いていく生徒を見ながら「あいつ授業どうしたんだろうな」と思った。