知りたい・怖い
家に帰って神無は怪我はないか、と何度も何度も確認を受けた。神無はその度に「大丈夫です」と返事をする。#名前2#は心配そうな顔を崩さなかった。 ちょっと疲れただけだから寝かせて欲しいというとようやく#名前2#は神無を1人にしてくれた。布団に横たわり天井を見上げる。あの項についていたものは何だったのだろう。祖父母に話した時は「思慕」と言われたがそれだけなのだろうか。あんなおぞましいものが慕うという気持ちなのだろうか。神無は寒々としたものを感じ、宣言通り早く寝ることにした。 翌日、事件に巻き込まれたくないと願う#名前2#の気持ちとは裏腹に#名前2#は木場に頼まれて家を出てきた。神無は行かなくてもいいんだろう、というと「嬢ちゃんにはキツいかもしれないしな」と頷いてくれた。#名前2#は自分がいるからと言って大して状況は変わらないぞ、と木場に念を押したが木場は黙ったままだった。スーツの男と着流しの男が裏路地をからころと歩いていく。不思議な光景だった。地図をみて美波絹子の家を目指す。T字路を右に曲がると黒塗りの柵が見えた。どうすんだい、と#名前2#に言われて木場はこぶしをもって#名前2#の方を見る。 「ここは平等に……勝負でもするか」 「そうだな」 じゃんけんをして勝った#名前2#がそのまま家に響くように戸口を叩いた。奥から歩いてくる音がする。そわそわし始めた木場をぐい、と自分の隣に引き寄せて#名前2#はにっこりと外面用の笑顔をつくった。 「はい……。どちら様でしょうか」 「事件の捜査を依頼された探偵です。こっちは刑事の木場」 #名前2#は巻き込まれたというよりも、首を突っ込まされたという方が正しい。あっけにとられる美波に木場はのっそりと顔を出した。 「すまん……コイツのことは気にしないでくれ」 榎木津に対応しているときのような顔になっていることはひとまず置いておき、#名前2#と木場はとにかく美波の家に入ることに成功した。ふんふふふん、と入っていく#名前2#を見てあら、と美波が首をかしげた。 「すみません。もう一度お名前をうかがってもよろしいでしょうか」 「#名前1##名前2#です」 「あ、あなたが……」 「えっ。知り合いなんですか!?」 連れてきた木場が驚くというのも変な話だ、と#名前2#は明るく笑った。映画で一度お世話になったことがあるんです、と美波に言われて#名前2#は「そんなこともありましたっけ」とのほほんと笑っている。木場は忘れていたが#名前2#は靴職人としてはかなり高名であるらしい。 「あれ、でも靴職人の方は……」 「たまに探偵もやっているんです」 探偵というよりも助手である。二人してよく分からない力を持っているので木場も彼らがそろっているときは説明もつかずに事件が解決することを知っている。今回はそのよく分からない力に頼りたかった。まさか美波と#名前2#が知り合いであるとは思わなかったが……。 仏壇のある広々とした居間に連れてこられた。今お茶を、と言われたので二人していりませんと頭を下げる。 「それよりも神奈川から連絡は?」 「い、いえ……ありませんでしたが」 美波は#名前2#と会話するときはどこか緊張した風になる。それがどことなく木場には面白くなかった。美波はそれよりも、と木場の方に顔を向ける。#名前2#は仏壇を見てこんなに若い子がなあ、と思いをはせていた。自分の姪ができたので仕方ないのだろう。美波はわざとらしく木場の方に体を寄せた。まるで#名前2#から逃れるかのようだった。柴田の家の話をしても美波はとつとつと最初から決めていたような返事をするだけだった。遺産がほしくはないのだろうか。木場の頭に中禅寺の言葉がよぎる。美波を慰めればいいと言っても、彼女を見ていてはそんな気持ちにはなれなかった。事件を解決する。木場は自分の気持ちに嘘はつけなかった。 木場は意を決して美馬坂について聞いてみることにした。美馬作とはどういう関係なんだ。その言葉を美波が口にする前に#名前2#がふと「奥さん、嘘をこれ以上つきつづけてもどっちも手に入りませんよ」と言い出した。 「ああ? 何言ってやがる」 「俺じゃないよ、そういうのが聞こえてたんだ」 あの中禅寺も説明を放棄した#名前2#のこの言葉。大体なぜか後からこの言葉の意味を知るようになる。美波は驚いてくちびるを震わせた。 「あなたは、前もそうでした……。あなたは、私を、どこまで知っているんですか」 「ほとんど知りませんよ、少しだけ知っているってだけです」 友人の#名前2#が時たま怖い。兄の方は平凡な男だった。やっていることは平凡ではなかったけれど、彼の方がまだましである。#名前2#は「それでいいならいいんですけどね」と笑ってまた仏壇の方を向く。木場はもう核心をついてやろう、という気持ちにはなれなかった。おとなしく美波がなぜ嘘をついたのか、美馬坂について知っていることはないのか聞くことしかできなかった。