番外編2
【首筋から覗いた星を見る】 ○再臨段階3、絆レベル5で幕間解放 「首筋から覗いた星を見る」をクリアで解放 オキノの元になった青年は平凡そうな男だった。間違っても彼はサーヴァントになるはずではなかった。運命を狂わされたはずなのに彼はいつも通り笑って「仕方ない」と言う。彼は人理修復のためマスターに多大な貢献をするだろう。しかし、修復をした後のマスターについてくるかは彼は何も決められない。 「おっ、またここに来るとはなー!」 「#名前2#さん、危ないから!! 降りてきて!!」 「はは、すまーん! ちょっと久々にテンション上がった!」 自分が囚われていたはずのアルカトラズ島で#名前2#はげらげら笑いながら走ったりバク転をしたり体をとにかく動かしていた。敵が来るとは思ってないらしい。小石を塀に打ち付けて「やっぱ腕鈍るなあ」と言いながらも威力は中々に高かった。 「マスター、今日は急にどうしたんだ」 「……。#名前2#さん、最近疲れてるみたいだったから」 ぴたりと#名前2#が静まった。マスターの方を向いて「そうか?」と聞く。彼の分かりやすい反応が逆に不自然に思えてマスターは「あれ?」と思った。いつもならもっと誤魔化すようにするのに。 「やあ、参ったね。君にバレたか」 いつもと声色が違う。すぐにガンドを打とうとしたが振り向いた#名前2#の雰囲気はいつも通りだった。ますます違和感が強くなる。 「……やっ」 上げられた手が虚しく空をよぎった。マスターは何もせずに彼を見つめている。今日はマシュがいない時のための訓練の一環だ。いつも通りの#名前2#ならばマスターも気軽に返事をしただろう。しかし彼はちがった。何かが違うと理解出来た。 「貴方は……誰ですか」 「……英霊オキノだよ」 普通のサーヴァントならばただの名前だと思うが、彼の場合は「入れられた英霊」の方だ。いつもは#名前2#が動いてるくせに彼が今回出てきたのは何故なのか。マスターにはまったく分からなかった。 「英霊オキノ」 「そう。いつもじゃないけど、戦闘は僕がやってる。気づかなかった?」 何となくそうかな?と思うことはあったがまさか本当だとは思わなかった。オキノは苦笑いをして手を振った。バタリと後ろで何かが倒れる音がする。 「先輩! 敵性反応が……って、あれ?」 「マシュ、大丈夫だよ。ここにいるのは、あのオキノさんだよ」 彼らが脳の開放を使った技を使えるのは知っていたが、オキノは世祖よりも扱いが上手かった。年の功だとしたら笑えない。こんなサーヴァントをどうやって御せというのか。 「君には話しておきたかったんだよ、色々と」 くいっと指が曲げられて一瞬にして別空間へと移動した。時空の狭間というには物凄く和の空間だった。桜の花びらがひらひらと落ちてどこからか楽しそうにはしゃぐ声が聞こえる。聞き覚えのある声だった。 「#名前2#について、君に話しておこうと思ってね」 「はあ……」 「彼がデミサーヴァントなのは分かってるだろう? セイソと密接な繋がりがあることも」 「はい。それは」 「よろしい」 正座をして向かい合うとなんだか教師と生徒のような気分になった。そんな雰囲気がオキノから出ていた。見た目は#名前2#なのに不思議な感覚だった。 「#名前2#くんは、彼は2015年を生きていた人間だった」 「………。え、あの、僕と同じくらい……?」 「そう。彼はとても現代的な人間だ。それをオキノが未来へ引っ張り出した。世祖のために」 「未来へって、そんなこと出来るんですか?」 「ものすごい力を使ったさ。カルデアを軽く凌駕するほどにね。でも、それをしてまで彼を連れてくる価値が世祖にあった」 「世祖ちゃんは、確か審神者って聞いてますけど」 「審神者は時代修正主義者という異形から世界を守るための人間だ」 「!? じゃあ、僕らと世祖ちゃんはやってることは変わらないんじゃ」 「君らの場合は未来が消えた。僕らの場合はあるべき歴史が姿を変えた。たったそれだけのことさ。しかも聖杯なんていうチートもなかったしね」 他ならぬオキノが「チート」という言葉を口にするとあまりにも安っぽく聞こえた。#名前2#の体がそっと揺れてふうと息をついた。 「#名前2#くんを世祖の体についていかせるために僕はある工夫をした。これは誰にも言えないし、言うつもりもないけれどね。実のところ彼はこの工夫で死ぬ可能性だってあった」 マスターが真っ直ぐ#名前2#を見つめている。その視線が横へ上へずれては戻りずれては戻り、そして一息ついたようにしてまた真っ直ぐ#名前2#の顔を見た。 「彼は死なずに世祖についてまわった。それこそいくつもの特異点を見て回ったように、彼は色んな世界で力を使った。勿論失敗することもあったけどね」 「それを、僕に話してどうするつもりですか」 「ある世界線で僕は#名前2#くんの元いた世界に似たところへ連れてきてしまった。だが彼は何も変わってないと言われた。この意味が分かるかい? 彼は、魔界へ来たのに何も変わらないんだ」 「………」 「可哀想な人間だよ。彼は変わらないまま僕を受け入れてサーヴァントになった。僕は彼をコントロールできるが彼は自分をその実厳しくコントロールしている。僕なんかよりもずっとね。ただ、それに気づいてないだけさ」 「コントロール出来るはずのあなたが、僕にこうやって聞かせる意義はなんですか」 再び問いかけたその言葉に#名前2#は軽く笑った。 「特異点を全て終わらせたその時、#名前2#くんは僕が言うまでもなく選択肢を決めるだろう。彼は無意識なんだよ。無意識に何もかもを決めているんだ」 意識と無意識は同じものだという話を聞いたことがある。海に浮かぶ氷山のように、意識は外に出ていて海の中に潜り大きく広がっているそれが無意識だという話だった。信ぴょう性があるとは言わないがオキノさんの話を聞いていたらそれを思い出したのだ。 マスターは首を振った。拳を握り力を込めて話した。 「それでも僕は彼の、貴方のマスターだ。話を聞かされたからといって貴方たちを特別扱いは出来ない」 「わかってる。わかってるよ、マスター」 #名前2#の顔を見てマスターはまた何か言いそうになったがやめた。刀剣男士がまた来るかも分からない。今のマスターは無防備すぎる。 「マスター。#名前2#くんをよろしく頼むよ」 オキノのその言葉を最後にマスターは知れずアルカトラズ島へ戻ってきていた。横にはセイソが座っている。 「世祖ちゃん」 「おかーり。ますた」 「ーーただいま」 カルデアに戻ると#名前2#は何も知らないという顔をして食堂でご飯を作っていた。日常生活を送る彼は本当に、昔のマスターと変わらない。 「おう、おかえり。マスター」 「ただいま、#名前2#さん」 #名前2#にマスターもいつも通りの笑顔を返した。