01
冬木で出会った少女は人を探していた。#名前2#を探してるの。喋りはせずに文字を書いてくれた。オルガマリー所長はその野良サーヴァントを不審がっていたけれど、僕らに協力してくれたってことで何も言われなかった。 冬木では色々あったけど、1番大きかったのはオルガマリー所長を世祖ちゃんという野良サーヴァントが助けたことだろうか。殺されなかっただけいいわ、とオルガマリー所長は言っていたが世祖ちゃんの力により彼女の宝具をしまう異界へと現在療養にいっている。所長の体は素粒子レベルに分解されかかっていたのだ。それを何とか引きずり戻したので所長の足は今動けなくなっている。治療は無理だろうと思われたそれに、世祖ちゃんは「治せる」と言った。 「ただし、あなたは人間から離れることになる」 カルデアには2年しないと戻らないだろうとは世祖ちゃんに言われたことだ。前にもこんなことがあったらしい。 冬木から帰ってきたら、キャスターのクーフーリンとバーサーカーの世祖ちゃんがカルデアにふたり一緒にやってきた。うちにはもう槍のクーフーリンがいたから、冬木の方はキャスターと呼ぶことにする。キャスターは偶然だと言っていたけれど世祖ちゃんとずっと手を握っていたところを見ると、心配してるんだなと思った。世祖ちゃんは前に仕えていた主のことを忘れたくないという理由で仮契約のままだ。 多分だけどその前の主が#名前2#という人なんだろうなと思ってる。その人とどこで会えるかは分からないけど会わせてあげられたらいいなとは思っているのだ。 「こんにちは、世祖ちゃん。ロマニ・アーキマンです」 「こんにちは」と文字が浮かぶ。 「君の宝具について教えて欲しいんだけど……」 「………」 世祖ちゃんは何も言わずにドクターを見つめている。彼女は仮契約だからということを差し引いても宝具を解放してくれない。理由は僕にもマシュにも分からない。マシュのようなデミサーヴァントじゃない世祖ちゃんは能力の制限があるわけじゃないのだ。ヘクトールやディルムッドみたいに宝具の切れ味が悪いサーヴァントもいた。そりゃあ霊基が足りてないから本気を出せないサーヴァントは沢山いる。でも、みんな宝具は動くのだ。宝具が封印されている状態でカルデアにいるのは世祖ちゃんだけだ。 世祖ちゃんは弱いわけじゃない。むしろ、レベル上げも率先してやった子だし絆レベルも高い。宝具を使わなくてもカルデアの中でのMVPは彼女だ。(火力はないけれど攻撃はいつも敵を殺してくれる。) 世祖ちゃんは滅多に喋らない。今回はその珍しい時だった。おそるおそる口を開いてはくはくと動かす。 「……。宝具は、#名前2#がいないと」 「#名前2#っていうと、前に言ってた……」 「うん。#名前2#」 「えっと、その……」 「探してるの」 「そうだったね」 ドクターは世祖ちゃんの頭を撫でて立ち上がった。宝具の解放を無理に促すべきじゃないよね、と僕らは言ってたけどダヴィンチちゃんはそれを強制した。いつまでも甘やかしてられないだろ、というのがダヴィンチちゃんの言葉だった。世祖ちゃんは手をくるくるとこねた後、キャスターに呼ばれたので行かせてあげた。 「先輩、世祖ちゃんのいう#名前2#さんを探しに行きましょう」 「そうだね、マシュ」 「僕もそのつもりだよ」 ドクターと僕の声が重なってカルデアの装置が動き出した。ガチャガチャとボタンが動く。ドクターの後ろ姿を見ていたら、そっとマシュに裾を掴まれた。 「先輩、ダヴィンチちゃんが手招きしています」 小声でそう言われて、後ろを見てみると確かにダヴィンチちゃんがいた。マシュの口調よりも激しく手を振り回している。 「……行こうか」 「はい」 嫌な予感しかなかったが、行かないという選択肢もなかった。なにせ、ダヴィンチちゃんからの呼びかけなんだから。 「立夏くん、マシュ。世祖の様子はどうだい?」 「いつもと変わりませんよ?」 「そうかい。ならいいんだ」 「? ダヴィンチちゃんは……世祖ちゃんのことを何か知っているんですか?」 ダヴィンチちゃんはけらけら笑って「私は天才だよ?」と人差し指を立ててみせた。いつものダヴィンチちゃんなのに、なぜか今日は不思議と違和感があった。天才なことが当たり前のダヴィンチちゃんが、なぜかいつもより凡俗に見えたのだ。 「ふふ、天才は物事がわかってしまうのさ。でも、あの子は天才じゃない。なのに英霊としてここにいる。審神者というクラスを受け取ってバーサーカーとしてここにいる。この異質さは異常なんだ」 「異質さ……」 「だけど、それだけであの子が特異点を作っている黒幕とは言えない。私や他のサーヴァントたちはみな功績があるけれど、あの子にないからといって! 疑ってはいけない」 「……ああ、えっと、はい」 「そう。そうなんだけど、疑わざるをえないんだ。だから立夏くんとマシュには早くに#名前2#という人を連れてきてもらわねばならない。彼女を見極め、契約を行うために」 仮契約のままの世祖ちゃん。ダヴィンチちゃんはきっと世祖ちゃんに対して恐怖を抱いている。だから早くそれを取り除きたいんだ。信じてあげたい子だ。でも疑わしいことばかり。ドクターもきっと同じだ。人理修復として聖杯の回収をしなければならないことは僕らも分かってるけれど、それ以上に黒幕を突き止めなければならない。魔神柱を与えている存在を、だ。 所長がいるという宝具のしまわれた異空間。そこがカルデアでは把握できていない。分かっているのは宝具として刀が何十振とあるということだけ。異質さ。それは世祖ちゃんが誰よりも兼ね備えているものだ。