剣豪4

 炎と燃えカスの臭いをさせた女武者だった。空はまだ赤くないが目だけは爛々と赤くなっている。おぞましい雰囲気をさせてニタリと笑っている。アーチャー・インフェルノだ、とマスターが教えてくれた。まだ会話ができそうな雰囲気ではある。  マスター、武蔵が言葉を投げかけるが彼女はずっと殺す、燃やす、と言う。鬼の角を生やし薙刀を持っている女武士。剣豪というくらないなら名前もさぞ世に通っていることだろう。というか、あの薙刀……。 「反りの大きさから言って巴形なのは間違いないんだろうけど、歴史上の女武士っていうのは俺はそんなに歴史に強くないからなあ」  とにかく、戦わなければならないのだがアイツの攻撃は火をまとっている。一撃かするだけでもやけどを作り時間が経つとじわじわ広がっていく。太刀を陸奥で受け取るのも精一杯だ。世祖がぐずっているのでこちらも急ぎたい。武蔵の重い一撃でインフェルノが後ろにのけた。おや、天気が。彼女は空を見て口をもごもごと動かしていた。その後、何とか彼女を退けたが何かぶつぶつ呟いて姿を消してしまった。 「っぁー! 疲れた、しんどい……」 「#名前2#さん、ごめん」 「いいよ、それよりもマスターは平気か」 「うん、僕の方は平気」  世祖はもう目が覚めてしまったのか初めて見る夜空に興味津々だった。世祖を抱きかかえると、俺の首をぐいっと上に向けた。星があった。満天の星。インフェルノが消えたことでよけいに輝いてるように思える。星座など全く知らないがこれだけの星なんて滅多に見れるものではない。昔、地学の授業で電気のなかった時代には今よりももっと星が見えているだろうと言われた。その時はただ頷いただけだったが、これは想像を絶するくらい、言葉を失うくらいに綺麗な世界だった。 「綺麗だな、世祖」  世祖も笑った。その瞳がキラキラと星のように輝いている。武蔵は星を見て笑う俺達を見て「今日は良い天気ね!」と笑った。 「僕も、こんな星空は初めてです」 「そっか、君たちの時代はこんな風に星が輝かなくなっちゃってるのか」 「悪い事ばかりじゃないですけど、でもこんなにどこまでも続いてる星を見るのは初めてかも、と思って。今までのレイシフトで夜空を見上げるってあんまりなかったから」  美しい星だ。マスターがマシュにも見せてあげたかったなあ、と呟くと#名前2#はへらり、と笑った。 「美しいものを共有したがるのは、自分にとって大切な人なんだぞ」 「! せい、#名前2#と! いっとー!」 「え?」 「一緒ってことかな」 「ふっ、あっははは! あー、だめだ。あんな戦いした後で普通そんなこと言えるかぁ? だめだ、笑っちゃう」  #名前2#は笑い声をこらえてはいるがどうしても笑ってしまう。もう夜更けでここで大声をあげても困る。さっきの戦いの後にそれだけ笑えるあなたも同じくらい変ですよ、という言葉を飲み込んで四人は宿へと帰ってきた。  翌日の天気は晴天だった。日差しで目が覚めて起き上がると横にいたのは世祖ちゃんだけ。#名前2#さんたちはもう着替えて布団も畳んでいた。 「ごめんなさい、遅くって」 「いやいや、昨日は歩き疲れただろうし」  おぬいと田助を見て#名前2#さんはウィンクした。昨日のことは秘密でいよう、と言ったのは僕の方だ。朝ご飯もお願いして僕も服を着替えた。#名前2#さんも世祖ちゃんを起こして下でもらってきたらしいおにぎりを食べさせていた。おぬいちゃんと世祖ちゃんは仲良くやれるのか心配だったけど、刀剣男士の二人がいるから心配ないみたいだ。準備ができたらまた情報収集だよ、と武蔵ちゃんが笑う。それに笑い返して急いで朝ご飯を食べた。  外に出ると晴れ晴れとした気持ちになれる。おぬいがにほんばれ!と笑っているのを見て頭をを撫でた。何もないなら良かったわよね、と武蔵とマスターが頷いている。風魔も動けるまでは回復したのだが霊基は安定していない。もう少し休まないと戦闘に参加は見込めないだろう。それでも話してくれたことを共有できたのはありがたい。マスターの身体がここにない以上、変に戦闘をこなすのだけは避けたいところだ。ここがどこかもわからず、戦えるサーヴァントは3基、武蔵は人間なので魔力で補うこともできない。 「困ったな、世祖のこと庇うにしても俺が消えるとこの世界の方が先に消えそう」 「そうならないように善処します……」 「うわあ、マスターのこと責めてるわけじゃなくて!」 「すみません、自分がふがいないばかりに…!」 「風魔も違うから!! 武蔵も何か言ってやってくれよ!」 「え? うーん、っと。二人ともかっこいいよ! いい顔付きよ!」 「りっぱ、りっぱ!」 「え、あの、僕は忍ですから……。かっこいいとか、」 「喜んでるところ悪いんだけどね、あそこに人だかりがあるみたいだよ」  大般若の声が伝わってきた。悟られないよう刀のまま俺が背中に背負ってるのだがそこから話しかけてきたらしい。見に行ってみるか、とマスターたちを誘った。マスターがおぬいたちと手を繋いだので俺も世祖と手を繋ぐ。人だかりから聞こえてきたのは怪異という言葉と侍という言葉だった。  マシュはマスターにつきっきりだった。それはもう寝る間も惜しんで彼のそばにいたのだ。肌はぼろぼろ、髪の毛は脂ぎって段々と不衛生さがひどくなっていた。 「そんな調子では見舞うというよりもへばりついている、と言った方が正しいでしょうか」 「ナイチンゲールさん……?」 「マシュ、不衛生は万病のもとですよ。ここは私が見ておきますから一度自室に戻り休息をとってください」 「……。でも、私は……」 「いいから行きなさい、すでに待っていらっしゃいますから」  ナイチンゲールの後ろにはジャック・ザ・リッパーと五虎退の二人が手を繋いで立っていた。その頼りない様子に「あの、」と声をかける。 「マシュさん、お風呂行きましょう」 「えっと、」 「お姉ちゃん、手ぇつないで」  握られたと思った瞬間二人が勢いよく走り出す。二人とも手を繋げているためどんどん走っていかなければならない。わぁっと声をあげながら走っていくので何だかいつもの廊下ではないみたいだった。久々に楽しいと思えた。先輩のことばかり考えて、彼が夢の中でどんなことしてるかもわからずただ待っていることは出来なくて。 「はい、到着!」  二人が急に立止まるのでマシュも急いで止まった。自室の中の風呂場に突っ込まれてみたらそこには泡のあふれた湯船があった。泡ぶろだ、と入ってみると少し熱いくらいだった。いや、自分の身体が冷えすぎていたのかもしれない。伸びている爪と触るだけでも不調と分かる肌。洗ってみてもどうにも具合がよくない。いつも置いてあるシャンプーを探してプッシュすると普段とは違う匂いがした。 「……」  もしかしたら間違えたか、と思ったがシャンプーのボトルであることは確かだった。泡立てて髪の毛をこするとどうにも泡立ちが悪い。むむっとした。嫌だなあ、と思った。レイシフトしている時は風呂に入れないことはいくらでもあった。今、マスターもそうなっているかもしれない。自分だけこうやってぬくぬくとしているのだ、と思うと悲しみが勝る。  その反面、先輩の前では綺麗な姿でいたいとも思う。綺麗だね、とずっと思っていてほしい。 「先輩……」  扉の向こうで音がしている。ここに連れてきてくれたジャックたちが何かしているみたいだ。ありがたい、と思いながら体を洗う。まずはゆっくり休まないとナイチンゲールに怒られてしまう。  脱衣所に出るとタオルとパジャマと下着とがあった。恥ずかしくなったがジャックが持ってきてくれた、と信じたい。パジャマに着替えると心が少しだけゆるんだ。部屋に戻るとジャックと五虎退がベッドの足の部分で丸まっていた。まるで猫だ、と思い頭を撫でる。ありがとう、と呟いたが彼等には伝わらないだろう。  人は寝ているものを見ると本能的に眠りが感染するらしい。ここには敵がいない、安心できる場所だと本能が判断されるというのだ。それを今思いだしたのはふわぁ、と欠伸が出てきたからだった。二人をそっと移動させて自分も端に入れてもらった。暖かい。心音が聞こえる。 「……おやすみなさい」