剣豪1

 目が覚めるとそこは古い日本だった。刀剣男士たちと遊びで向かった時の空気の感触と似ている。横を見ると陸奥守はちゃんと持っていた。念のため声をかけると「なんじゃあ?」と出てきてくれた。 「ちょっと変なところに呼び出されたっぽい。世祖はどこかにいるかなあと思うんだけど」 「わしも主じゃない人間の居場所なんか分からん」 「うん、そこは大丈夫」  世祖がいるんだったら沖野さんの力でなんとなく感じ取ることはできる。今のところはこの場にいなさそうだ。自分の服を見てみたがさすがにスーツを南蛮衣装とは言えないだろう。霊力を割いて洋服から和服に変えた。マスターの礼装がどう見てもロボットの搭乗主に見えても誰も何も言わなかったのだから適当な和服でも許されるだろう。  念のため顕現させた陸奥守を連れて歩いていく。道はあるし歩き続ければ里にでも村にでも出るだろうと思ったが甘かった。全く人の気配を感じないのである。川もないので段々心配になってきた。仕方なく陸奥と共に木々を飛び越えてショートカットすることにした。風を切り、すり抜け、枝を蹴る。久々に体を存分に動かせて心地よい気分になっていた。しかしそれもすぐに終わっってしまった。陸奥に止まれという合図を受けたのだ。下を見ると坊を連れて歩いている男が見えた。その気配はすぐに分かったしその姿に俺は息を飲んだ。 「……。陸奥、戻ってくれ」  陸奥は何も言わずに刀の中に戻っていった。深呼吸して下に降りる。できるだけ着地音は消したつもりだったが向こうは俺に気づいたようだった。警戒した気配が殺気じみたものに変化する。ふと、手を繋がれていた坊……いや女の子だ。その子が振り向いた。こっちを見ると「わぁ!」と顔をほころばせる。 「旅行ですか?」 「……ああ、いや。俺はちょっと人探しをしてる」  手を繋いでいた男も振り向いた。俺の恰好を見てはぁとため息をつく。顔を見ると完全に士郎だった。俺も何か言い難い気分になる。カルデアに娘と同じ顔のサーヴァントがいるのも変な気分なのにコイツもいつか来るのだろうか。というか、礼装で彼を見なかったか? バスター性能アップだかであんまり俺は使ったことがないんだよな。 「かたき討ちか」  たっつけ袴に刀を付けて歩いているのだから武士のひとり旅行か何かと思われたんだろうか。普通は武士にそんなに気安く話しかけるものではない。身分に沿った領分があるからだ。彼等が喋っているのは日本語だがここは俺の知っている日本ではない、ということらしい。かたき討ちなんて言葉もあるのだから江戸寄りの時代で合ってるんだろうか。 「まあ、そんなもんだ。俺は#名前1##名前2#」 「私はぬい。おぶってるのは田助。こっちはじいちゃま」 「なあ、ここから城に行くにはどのくらいかかる?」 「お城? 土気城のこと? それなら街道を歩いていけば半日で着くよ」  土気城、と言うと千葉県か。この時代の地図では、えーっと……。上総の国じゃき、と頭に声が響いてきた。やっぱり時代遡行軍と戦っていた刀剣男士たちは日本については詳しい。ありがとう、と小さく呟いておぬいと視線を合わせるように座った。 「じゃあ、ここは上総国で合ってるかい?」 「ううん、下総国だよ」  ん?と頭を傾げそうになった。陸奥からさらに情報がきて、土気城と言えば豊臣の時代に廃城になっているはずらしい。そんなの日本史Bでも習ってねえよと口悪く呟いてじいちゃまと呼ばれた男を観察してみた。昔士郎は切嗣のことを「じいさん」と呼んでいた。その彼が「じいちゃま」と呼ばれていることに不思議な感覚を覚える。 「……お前、その刀見せてみろ」 「ん、どうぞ」  陸奥守を渡すとすぐに鞘を抜いて刃を見た。 「えーっと、アンタは……」 「俺は村正って名前だ」 「んぐっふ!?」  あの千子村正の刀匠、村正ということだろうか。いやいや、でもこいつの気配は俺と同じ守護者だ。特異点をなくすため呼ばれたサーヴァントだろう。一体何が起きてることだろう。 「む、村正は鍛冶師なのか?」 「ああ」 「……」  ここで千子村正って知ってるか?なんて聞いたら墓穴を掘ることになる。俺はずっと黙ることにしたが陸奥守は幕末の刀。反ってはいないが歴史の流れが違う分、刀の歴史もよく分からない。だらだらと汗を流したが村正と名乗る男は何も言わずに陸奥を返してくれた。 「大事に扱ってるんだな」 「……。まあ、一生にコイツしかいないと思って使ってるからな」  もう何年と共に過ごしたか分からないくらいには陸奥を供していた。陸奥は坂本龍馬の刀としてそのイメージが付与されてしまったが俺にとっては最初に選び取った刀だ。 「俺の庵に来ればいい。研ぐくらいはしてやる」 「やった、ありがたい」 「じいちゃまが人を呼ぶなんて珍しいー」 「おぬいちゃん、そういうのは言わないのが人のためだよ」  おぬいちゃんと歩いていくと庵にたどり着いた。周りには家もない。本当に村はずれということらしい。中に入ってみると刀がいっぱい散らばっている。適当に座ってていいから刀をよこせと言われた。折るなよ?と茶化すと気分を悪くしたらしい。そんなつもりじゃなかったと謝ると村正はキョトンとして「別にそんなに怒ってない」と言う。どう見てもかなり不機嫌そうだったよなあとおぬいを見るとクスクス笑っていた。おぬいの幼さはちょうど世祖と同じくらいの身長だからか、こんなに可愛らしくおしとやかだとまたもや不思議な気分になる。世祖も普通の子だったらこんな感じだったろうか。まあ、あの子にとってはあれが普通だけれど。 「お兄さん、かたき討ちってなあに?」 「親とかを殺されて、そのかたき討ちに行くんだ」 「……お兄さんも?」 「俺のはちょっと特殊だけどね。まあ間接的な意味ではあいつは俺のかたきだ。おぬいちゃん、そんなに悲しそうな顔しなくても大丈夫」  ごめんなさい、とおぬいは謝った。頭を撫でて俺は刀を受けとったら出ていくと言った。 「何だ、もう行くのか」 「村正さん、終わったのか?」 「途中の休憩だ」  陸奥守がそっと現れて彼等の後ろに立っていた。極めになったことで彼等は力の限界を解放させた。刀身に何があるのかは分からないがとにかく陸奥守は強くなっていた。村正に研いでもらってさらに力は強くなっているようだ。……バフでもかけられたのか?  おぬいたちと分かれて栄えた町で世祖を待とうかと思っていたが村正に止められた。もう少しここでゆっくりしていきゃあいいじゃねえか、と。かたき討ちなんかしたってお前は戻れねえぞ、と。村正はなんでそんな知識もあるんだろうか。俺は少しだけ笑った。 「現実を突きつけてくるなあ」  おぬいは近くの人里に住んでいるらしい。夜になるとまた明日ね、と言われて俺は村正の庵に暮らすことになっていた。