刀剣男士と英霊3
【坂本龍馬】 坂本龍馬がカルデアに来た。帝都での一件もあり、いつかは来ることだろうと思っていたが意外と遅くなった。陸奥守には既に好きにしろと言ってある。向こうの刀になりたいと言ったら渡すつもりだった。のだが。 「なんじゃ、その刀、陸奥守吉行だったか」 「分かるのか」 「そりゃあの」 ぐびっと酒を飲んだこの飲んだくれサーヴァントは岡田以蔵。喋るとひどい訛りで陸奥に慣れていなかったら#名前2#も会話出来ないだろうと思うくらいだった。最初はマスター以外のサーヴァントたちに対してツンケンしていたのに書文と一緒にいる#名前2#を見て段々と近寄るようになった。 彼は坂本龍馬と因縁があるようだが#名前2#の知る史実とこの世界の歴史が違っていたり、はたまた小説による嘘の知識があるかもしれなくて深くは突っ込まなかった。それが楽なのか何なのか以蔵はマスターがいない時には#名前2#のもとをちょこちょこくっついてきた。今日もまた飯を食べるのに#名前2#を見つけて近寄ってきたのだ。 「龍馬の刀じゃろ。あいつはよく使ってたき、覚えちょる」 「へー」 ざわりと空気が揺れた。すっと撫でると陸奥守が顕現した。驚く以蔵を横目に#名前2#は「話したくなったのか?」と茶化した。 「何ちゃあない。岡田以蔵が来たき、ちょっくと挨拶したき」 「おまんが刀剣男士ゆうやつか。マスターから話だけは聞いちょった」 「陸奥守吉行じゃ! 坂本龍馬の刀じゃったのを、本霊が政府に力貸して今は#名前2#の刀じゃき」 「その割にはお前俺に厳しいけどな」 刀を扱う時たまに物凄い力で引っ張られる時があるのだ。陸奥守曰く助けているそうなのだが物も言わず突然動くので身体が慣れるのに年単位で時間がかかった。 「なんちゅうない! なんちゅうない!」 ゲラゲラと笑う陸奥守に以蔵が鋭い視線を向けた。自分をほっぽって話をしているのに腹が立ったのか意地悪な言葉だった。 「……龍馬が来たら俺は斬るがええんか」 「っと」 「んー、まあここはわしらの歴史じゃないけんのう」 「ほうー?」 「わしらの歴史はわしらが守る。こっちの歴史は英霊とリツカが守るもんじゃき。そんでもって、こっちの龍馬は英霊の座にちゃんとおる。なら、今ここで負けても仕方ないき」 「チッ、甘ちゃんがぁ」 「まあ以蔵は龍馬殺せないって俺が陸奥に言ったんだけど」 「おまん、龍馬の先に切り捨てるぞ!!?」 どうどうと馬をいなすかのように笑っていたら変な気配が食堂にやってきた。以蔵はすぐにそちらに視線を向ける。陸奥守もすぐに姿を消した。#名前2#は笑ったままだ。 「ほぉれ、来たぞ」 「やあ、以蔵さん。えっと、君は……」 「シールダーの#名前2#だ。訳ありで真名じゃなくて通名で呼んでもらってる」 「へえ、そうか君が……。僕は坂本龍馬。ライダーだ」 「お竜さんはお竜さんだ。お前、クソ雑魚ナメクジと知り合いなのか」 「もっぺん言ってみろぉこのクソスベタ!!!」 「あははは。知り合いというかなんだろ、博打仲間とかかな」 「おまんは博打打たんが」 「だって以蔵見てると可哀想になるし一緒にやりたくない。普段は俺は海賊たちに混ざってるからなあ。お前はこっち来るの早いって。ビリーたちとやってなよ、アイツらの方が易しいって」 「俺は強い!!」 「そうだね岡チャアン」 #名前2#と以蔵が軽口を叩いていると前にいた男の気配が変わった。#名前2#はこういった空気には覚えがあった。刀剣男士が自分の元主を見つけた時のようなそんな感触が肌を撫ぜた。 「盛り上がってて悪いな。ところで、お前。なんでその刀を提げてるんだ」 鋭くなったお竜さんの気配が#名前2#を突き刺す。下手な言葉を喋ったら殺されそうな勢いだったが#名前2#はもう死ぬことへの根源的な恐怖が薄れていた。ここで死んだらしょうがないという気持ちで俺の世界の坂本龍馬の刀だよ、と答えた。 抜いたのは向こうが先だった。研いだ爪と銃が向けられる。私怨とも言える攻撃は#名前2#には効かない。まあこれじゃあ死なないかと呑気に構えていたらアホ!!と叫ばれた。目の前に以蔵が刀を構えていた。龍馬もそれに気づいて後ろに下がる。お竜さんも睨んだままだが龍馬の後ろに控えた。 「何やっちょる、龍馬! #名前2#、おまんもじゃ! なんで避けん!?」 「死なないなーって思って」 「死なん? 何言うちょるじゃが」 「シールダーとしてそういう力があるっていうね。それで、以蔵には悪いんだけど龍馬さんと話し合いするからここ出てってもらっていい?」 「……なんでワシが出なきゃいかんのじゃ」 「……。僕らはそっちの部屋でも構わないよ」 「陣地作成なんてお互い持ってないし平気か。じゃあ案内しますか」 ピリピリした物言いだ。同じ刀が2つ向き合って存在しているのだから当たり前か。#名前2#は刀に手を添えて食堂を出ていった。龍馬は以蔵をチラリと見るがすぐにその背中を追いかける。以蔵は3人を見送って酒を飲み始めた。 「もう出てきてもええんじゃなか」 声を聞いてそっと出てきたのは同じアサシンの佐々木小次郎だった。宮本武蔵のライバルとして有名なのだが、この佐々木小次郎は色々とあるらしく以蔵のことを避けたがる傾向にあったはずだ。 「おまんだったのか」 「なに、分からずに話しかけたのか」 「刀の気配を感じ取った。それだけじゃ」 「なるほどな。それで、お前はあの刀はどう思う」 「陸奥守吉行か」 「坂本龍馬の刀と聞いていた時点でこうなることは誰もが予想していたがな」 「龍馬はあれで誇りがある男じゃ。へたに騒ぐと殺されるんじゃなか」 「その点だけは大丈夫だな。あの男が死ぬことは童女がいる限り皆無だ」 童女と言われてどれのことか分からなかった。以蔵の顔を見て察したのか小次郎は「世祖のことだ」と補足する。 「あいつら、なんかあるんか」 「まあ、色々とあったのだ。あの二人は」 「ほーん」 「何も聞かないのか」 「聞いてもわかりゃあせん。のう、#名前2#と今度博打うつがおまんも参加するか」 「面白そうだ、参加しよう」 以蔵は#名前2#と世祖の話には興味なかったが、今話し合ってるふたりには興味がある。自分の嫌なところと向き合うのはどんな気持ちなんだろうか。目の前にコピーをさせてくれない刀の筋を持つ男がいることに以蔵は唇をなめた。 部屋に入ると世祖がもう待っていた。刀剣男士の動く気配はしていたが極はどうも追いにくい。乱も顕現して待っていたことに驚いた。後ろにいる坂本たちも驚いている。 「えっと、」 「俺の娘です。世祖って言います。刀剣男士について話は?」 「あ、いや……」 「どっか座ってください。陸奥のことも関わります」 言われた通りに席に座るとその真正面に世祖ともう2人が座った。坂本たちは刀剣男士についてはマスターから存在だけ聞かされている程度だ。自分のものが人間になって可愛がられていると考えると嬉しいような恥ずかしいような腹が立つような、とても複雑な気分になる。「それは僕のものだ」と宣言しても仕方ない気がするのに、しないではいられない。そんな矛盾を腹に抱えている。 テーブルに紅茶が置かれた。いい匂いがする。お竜さんが毒味と言って飲んだが何も無かった。 「えーっと、俺と世祖は違う歴史世界にいたって聞いてますか」 「どの歴史世界のことだろう。マスターから色々と聞かされてて」 「うーん、簡単に言えば未来に生きてるサーヴァントってことですね。夢とかじゃなくて、2205年以降の未来」 それは数あるサーヴァントの特殊性の1つとして聞かされている。 「でもここの歴史が過ぎていって俺達の歴史になるかは分かりません。そういう確証のないことは言えない決まりですから」 「それで、君たちの未来にはその、刀剣男士がいるってことかい?」 「えっとですねー、説明が難しいんですけど2200年すぎた辺りから歴史修正主義者っていうテロリストが現れたんです」 「テロリスト……」 「あ、テロリストって分かります?」 「ちゃんと聖杯から与えられてるぞ。日本ではあまりないそうだな。海外だとよく事件が起きてるらしいが」 「よかった。そのテロリストたちはまあ、サーヴァントみたいに力を持ってるんです。それに対抗すべく、殺される人達と縁が深い刀剣たちの付喪神を呼び出して戦ってもらってるんです」 「つまり、そっちの世界の僕は死んだあと英霊として契約するのではなく、歴史修正主義者ってテロリストに殺されるかもしれないってことかい」 「ですね。そういうのを止めるため、陸奥やそこにいる乱藤四郎がよびだされます」 名前を呼ばれた乱が挨拶をする。お竜さんの瞳は何かキャッチしたのか乱のことをじっと見ている。乱はわざと姿を消しているので坂本には見えていない。ちらりと視線を向けたのみでまた#名前2#の方に向いた。 「さらに大事なことに、付喪神を呼べるのは霊力のある人間だけでした。未来の人間達には神社や寺も縁遠くて霊力のある人間は希少です。子どもは出来るだけ使いたくないにせよ、力のある子どもは使ってしまえというわけで」 「おいまさか、そこの世祖とかいう子が働いてたのか」 「働いてたって自覚もおそらくない……かと。職業、審神者っていうんですが、世祖は物心ついたときから審神者なんです。そう設計されています。でも、世祖には一人で生きていく力がなかったので俺が世祖のところにやってきて育ててました」 「だから娘なんだね。でも君は審神者じゃないのかい?」 「俺には霊力…微妙にあるんですけどね。霊感って方向に走ってるやつが。まあ、世祖が力をこじ開けて陸奥を使えるくらいには霊力保ってます」 「……」 「俺は審神者でもないので陸奥があなたの元にいたいなら、もしくはあなたが陸奥を迎えたいならきちんと話す場を設けます。同意なしだと怒られるので」 「あ、ああ。いや、うん、そう、だね」 「龍馬、お前だって持ってるだろう」 「うん……」 「陸奥を使わないのであれば俺はまだ陸奥を使います」 「……うん。ちょっと待ってね、まだ心の整理がつかなくて」 「大丈夫です、何かあったら言ってください。それまでは俺も別の刀を使うので」 「別の刀もあるのか?」 「世祖の刀を借ります。俺が所有する刀は陸奥守だけですから」 逃げるように去っていった坂本たちを見送り、#名前2#は世祖から刀を借りた。戦いやすいという理由から同田貫を選び、素振りをしてみた。久々に振るわれる感覚で同田貫はぽろぽろと桜を舞わせた。 「いい顔してるねえ、同田貫さん」 「うるせ、久々に振るわれてんだ仕方ないだろ」 「#名前2#さん、昔は僕らも振るってくれたのにねー」 「わしばかりすまんのう」 「お前が#名前2#さんの佩刀だろ」 「そうそう。それなら仕方ないよ」 「……」 陸奥守としてはやはりあの坂本龍馬は自分の知る龍馬ではない。だが、懐かしさはあるのだ。それについて#名前2#は何も言わない。陸奥の自主性に任せると言ってくれている。付き合いも長いのだから少しくらい惜しんでくれてもいいと思うのに。 「#名前2#さんね、陸奥さん渡したあと、もう自分の刀は持たないんだって」 「なんちや突然」 「陸奥守さんってずるいんだぁ。最初に選ばれたからって、#名前2#さんの刀として名前残っちゃうんだもん。僕達だって#名前2#さんと一緒にいたかったよ」 「……刀のままでもええがか」 「僕らは刀だからね。誰かに使ってもらうことが嬉しいじゃん」 #名前2#さん、最初は酷かったけど今は手入れも自分で出来るしさ。その言葉を聞いて#名前2#と最初に会ったことを思い出した。ひどく怯えていたのは束の間で、世祖を守るため陸奥守を振るった。顕現されるのはたまにであったが、彼と戦うことは楽しかった。龍馬は自分を使うことはあまりなかったから。 本丸にいる期間は長い。濃い生活をしてきた。昔の主についてとやかく言うのはもうよそうという気分にもなる。だが#名前2#たちは気遣いなのか「ほら、お前達の元主だ」と見せてくる。 その溝は無視していたがいつの間にかこんなにも大きくなっていた。分かりあってるように見えて根本的には全く分かり合えていないのだ。 「わしゃあ陸奥守吉行。坂本龍馬の愛刀にして#名前2#の佩刀じゃ。今更、同田貫に場所を奪われるのはかなわん」 「ふふ、そうだろうなって思った。でも向こうがどうなるか分かんないよ?」 「しゃんと謝る!」 その夜、以蔵は龍馬の酒に付き合うことにした。理由は特にない。ただ横に陸奥守吉行という刀が見えてしまったのだ。興味本位に近づいた。 「何話しとるんじゃ」 「以蔵さん。いやあ、うん、ちょっとね」 「おまんが使わんかった刀じゃき。恨み言でも言われたか」 「……。以蔵さん。僕にはね、残念ながら陸奥守が見えないみたいだ」 「は、」 「刀だけがそこにあるんだ。僕には、彼が人間になった姿を見ることも出来ない」 以蔵は龍馬の横にたつ陸奥守を見ると彼も龍馬と同じ顔をしていた。よく似た泣きそうな顔だった。 「ダ・ヴィンチ女史に聞いてみたら心的要因、僕の気の持ちようと言われてね。今、頑張ってたんだけど無理だったよ」 「……なんか、伝えたいことがあるんか」 「ちょっとね。以蔵さんは陸奥守が見えるかい?」 「ああ」 「なら、彼に言ってくれるかい。君は今、僕の刀じゃなくて#名前2#という英霊の刀として活躍している。僕にはそれを邪魔する権利はないし、そうしようとも思わない。僕は刀を使わなかったひどい侍だ。だけど、あの人生を後悔はしてない。君を持ったことも、後悔してない。君の知ってる僕じゃないけれど、言わせてほしい。ありがとう、と」 以蔵が陸奥守の方を見ると聞こえちょるよという声がかかった。もう涙も堪えきれず顔から出るもの全部出ている。 「龍馬、おまんが英霊になっとって嬉しい。そっちのわしを大事にしとうせ」 「……。おまん、今は刀使っちょるな」 「えっ、あ、うん」 「陸奥からじゃ。刀は大事にしとうせ、今度はしゃんと使いとうせ」 「!!」 もうやってられないと以蔵はその場から立ち去った。明日は#名前2#相手にやけ酒してやると決めるくらいに腹が立っていた。それと同時に、自分の刀のことを思った。 あいつみたく、喋ったりすんのやろか。 どうせならかっこいい面をした男がいいと、そんな絵空事を描くのだった。