エミヤズと

 うちにはエミヤが二人いる。召喚できるサーヴァントの中にはもう一人、新宿で会ったエミヤオルタがいるけどうちにはいない。アーチャーのエミヤとアサシンのエミヤ。僕ははアーチャーをエミヤと呼んでアサシンを切嗣と呼んでいる。  なんで切嗣と呼んでいるかは後で説明することにしよう。マシュは二人ともエミヤさんと呼んでいる。二人一緒にいる時はクラス名も合わせて呼ぶ感じだ。他のサーヴァントも大体そんな感じ。  ほかの呼び名をする人もいる。クーフーリンたちはアーチャー、キャスターは小僧と呼んでる。代わりにアサシンをエミヤと呼ぶ。  そういえば、たまにロビンフッドやアンデルセン、エリザベートは無銘って呼んでる。何でかは知らない。  統一してなくて分からないのかな?と思うけど、エミヤも切嗣も気にしてないみたいだった。  最後に、#名前2#さんと世祖ちゃんだけど彼らの呼び名は独特だ。アーチャーはエミヤ、アサシンのことをケリィと呼ぶ。  俺が切嗣という名前を知ったのは彼を最終再臨させたばかりのその時だ。  アサシンエミヤが召喚されて以来、エミヤがずっとアサシンエミヤを見るようになった。話しかけるわけでもなく、ただ見つめてる。それと、食事にちょっとジャンクなハンバーガーなんかも出るようになった。  彼らはお互いに名前を呼ぶことはない。おいとかそこのとか適当に呼んでいる。意識してるのは間違いないのにそれを無視してるのだ。  アサシンエミヤの方は#名前2#さんを気にしていた。多分そうなんだろうな、っていう感触ぐらいだったけど。最初は包帯で顔を隠してたら#名前2#さんはエミヤアサシン……??と全く視線のことを気にしていなかった。  エミヤという同じ名前でクラスが違うサーヴァント。エミヤアサシンはできるだけ喋らないようにしていたサーヴァントなので召喚のセリフとマスターズルームでの会話ぐらいが聞いたことのある言葉だ。声が違うのできっとオルタ化とかじゃないな、とは思ってた。  アサシンエミヤは最終再臨できるレベルまで一気に育て上げた。種火周回でみんな(特にモードレッド)は死にそうな顔をしてたけどアサシンエミヤは気にもとめなかった。ただ包帯を外してフードを下ろして僕を睨めつけた。 「なんだい、その目は……? あまり期待されても困るんだが」 「え、あ、ごめん」  アサシンエミヤはいつものように#名前2#さんの方を見た。#名前2#さんは再臨したからと顔を見に来たところだった。ばっちりと目が合った。本当にあの時はバチンという音がしたと思う。 「切嗣? お前、切嗣だったのか」  #名前2#さんは目を丸くさせてお前もサーヴァントになったんだなーと話しかける。 「な、あ、……僕はあんたを知らない」 「ん? そっか、そういう世界か。平行世界で縁があったんだよ。これからよろしくな、切嗣」 「………」  握手をして(アサシンエミヤからすればさせられて、)#名前2#さんはそのまま歩いて行ってしまった。後から刀剣男士の……えっと、確か小烏丸さんだったかな? #名前2#よ、風邪をひいてる時は動くんじゃないと叫びながら走ってくる。そういえば風邪気味だからって種火周回をお休みにさせてたの忘れてた。 「……なあ、」 「なに?」 「急いで僕を育ててくれるか」 「うん!? まあ、そのつもりだけど……」  その後レベルマックスまでいって僕はサーヴァントからカードをもらった。レイシフトする時に使うカードだ。再臨した時に聞こえた女性らしき人が写ってる。女性はキリツグと呼んでいた。 「すまない、助かった」  アサシンエミヤ……キリツグはそう言って走っていってしまった。#名前2#さんのことを追いかけて。僕はそれを見送って椅子に座った。  アサシンエミヤのスキルとマテリアルを確認する。 「……聖杯の寵愛かぁ」  きっとこのカードの女性が聖杯を象徴したものなのだろう。マテリアルには愛情であり呪いであると書かれていた。愛と呪いは同じもの。なんかすごく分かる気がする。頭の中に浮かんだ清姫の姿を消して#名前2#さんのことを思い返した。  今度は#名前2#さんのマテリアルを確認する。確か、愛情うんちゃらかんちゃらと聞いたような気がしたのだ。 『彼は誰かを深く愛すことができないと思っている。自嘲気味な恋愛に惹かれて深まるとそこから抜け出せない。それは愛情に見せかけたもので、愛情ではないことをオキノは知っている。マスターは適度な距離を彼とに作らなければならない』  これだ。愛情に見せかけた何か。何かは良くないものとも言い換えられる。深すぎる愛情はただの毒だ。#名前2#さんはそれを知ってる。きっとアサシンエミヤのこともそうやって消してしまうのだろう。なんだか可哀想な気分になってきた。  立ち上がってサーヴァントたちの集まる食堂へ行くと珍しく刀剣男士たちがいた。最近はエミヤやブーディカたちに食堂を任せていたから出てくるのは久々だった。1人は前に挨拶したことがある。確か、大包平という刀だ。もう1人は知らない刀剣だった。 「こんにちわ」 「おお、ますたぁか! 今日はどうした?」 「ちょっと#名前2#さんの話を聞きたくて。えっと、」 「初めてお会いするな。拙僧は山伏国広と申す者」 「山伏さん。よろしくお願いします」 「うむ。こちらこそ、よろしくである」  握手をして2人に暇かどうか聞くと微妙な顔をされた。 「暇かと聞かれれば仕事はあるがな」 「まあ、#名前2#の話をしながらでもいいだろう」 「ごめん、邪魔したいわけじゃないんだけど」 「いや、平気だ。ただの雑用だからな」 「雑用……」 「なに、こちらの話である。マスターも無理に関わると大変な目に遭うぞ」  山伏の目が冗談じゃないことを物語っていてすぐに口を閉じた。大包平が手で遮ってくれなかったら視線で殺されそうだったかも。 「それで、#名前2#の話しか。何を聞きたいんだ?」 「うーん……、#名前2#さんと切嗣さんって人について聞きたくて」 「なんだ、エミヤのことか」 「やっぱりそうなの?」 「マスターはあの聖杯戦争を知らないのか?」 「僕は魔術師じゃないからね。それに聖杯戦争についてはあんまり記録が残ってないんだ」 「あー」と二人が納得した。特殊な聖杯戦争については世祖ちゃんが"見せて"くれることもあるけど、知らせようとしない時もある。 「これは、俺たちの口から言っていいのか分からんなぁ」 「であるな。しかし、マスターが知りたいというのを拒否するのも苦しかろうて。いっそ、#名前2#さんには秘密にして話してしまおうか」 「ぜひ、教えてくださいっ…!!」 「マスター。#名前2#が昔、世祖のマスターであることは知っているか?」 「それは、うん。世祖ちゃん、初めてあった時から探してたもんね」 「その時の聖杯戦争の相手に衛宮切嗣という男がいたのだ」 「衛宮切嗣……」 「アーチャーのエミヤとの話は俺達が話すべきじゃないから端折るぞ。切嗣は聖杯戦争に参加する前に#名前2#に会ってるそうだ。そして、#名前2#に救われた」 「救われた?」 「救われたという言葉が正しいかどうかは拙僧たちにはなんとも言えんな。切嗣殿としては救われたというのが妥当だろう」 「な、なるほど……?」 「アサシンのエミヤもおそらく#名前2#のことはすぐに分かっただろうな。ただ、#名前2#の前では喋らなかったから気づくのが遅くなったというところか」 「同じ声でも違うサーヴァントは多いからな」 「それは確かに言えてる……」  前にキャスターのギルガメッシュとアマデウスの声が同じと気づかないままレイシフトして混乱した覚えがある。 「ますたぁ、これから気をつけておけよ」 「え?」 「アーチャーはアサシンを、アサシンは#名前2#をと一方通行になる。今度マイルームに呼んだらどうなることやら」 「ははは、また話の肴になりそうだ」 「えぇー、なにそれ……」 「切嗣がどう思っていたかは分からんがな。ただ、あの男が聖杯戦争に参加したことのない状態だと仮定する。そうなると、かつて恋した人に何十年ぶりかに出会ってしまうわけだ。切嗣はろくな恋愛を送ってないぞ」 「うわ、やばそう……」  大包平の予想通りになるとはその時の僕は知るはずもなく。ただただ、馬に蹴られないようにしようと思うだけだった。