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 突入した扉の向こうには怒り心頭のエジソンが叫んでいた。横にはカルナとエレナが並んでいる。このチームの主戦力を集めたのだ。彼等にとってはこの突入は総力戦を意味していたのだろう。 「よく来たな、愚か者たちよ! なぜ私の正しさを信じられないのだ!!? さては陰謀説に囚われているな!」 「陰謀説って何よ……」 「エジソンの戯言だ、聞き流せ」 「聞こえているぞ、そこ!! エジソンは資本主義の権化だとかいう噂に振り回されているのではないかね!?と言いたいのだ!」  エリザベートはエジソンに怒られているように思えたのかフンと鼻息をもらした。「知ってるわよ、そんなこと!」と言うが、さっき#名前2#に聞いたばかりだ。横にいるロビンの方が恥ずかしくなった。 「ミスターエジソン。振り回されているのはあなたではないかと。私はあなたの発明は素晴らしいものだと知っています」 「今、発明だけって限定したな」 「ですから、それとは関係なくあなたが病気だと診断しているのです」  ナイチンゲールの断言にエジソンもたじろいだようだ。バーサーカーとキャスターではあるのだが、会話の様子だけ見ているとエジソンの方がバーサーカーのような気もする。その、病人状態のヒステリック気味に喚き散らす姿を見ていると、だ。偉人としてのエジソンのことを考えると悲しくさえ思う。あの、あのエジソンがーー!と。何か見えたのか隣に立つ#名前2#さんはくすくすと笑っている世祖ちゃんを抱き上げて戦いにそなえていた。  厄介なのはエレナのNP配布スキルだ。あれのせいで宝具に手間取ることになる。戦いとしてはもう宝具を撃つしかないとマスターも分かっていた。  アーラシュ、モードレッド、ランスロットの三人が宝具を撃ち、ランスロットがその後クリティカルを出してキャスター二人を倒してしまった。指示したのはマスターなのだがこうもあっさり行くと逆に心配になった。まあ、この3人は周回にも使えるように育成されていたのもある。  あまりにもあっけない戦いになっていまいエジソンはわなわなと震え出した。まだ、まだ屈しない…!と叫んだと思ったら「戦士として及ばないなら科学に身を捧げるまで…!」と言いだした。大英雄と円卓の騎士に科学で挑むのかと思わないでもない。 「トーマス、大変身、大改造の時である! この人間味あふれる体を捨てて今こそトーマス・マズダ・エジソンに変身の時…!!」  さっきの戦いのあとということで今回は戦線離脱していたが、遠くからわかるほどに怪しい薬をエジソンが持ち出した。一目でわかるドーピング剤だった。やばいと思った瞬間、世祖が既に動いてた。突然の風に煽られてぽーんと山なりに飛んだそれを慌ててキャッチする。 「世祖! 投げるならそう言え!!」 「んにゃー!」  世祖はそのままエジソンにとびかかってしまう。感じ取ったのは綺礼の時のような気持ち悪い感触だった。目をそらして手の中のそれを見るが、こっちも嫌な雰囲気をまとっていた。受け取ったはいいがこれをどうしろと……。 「#名前2#さん、それを渡しなさい」 「ナイチンゲール女史……」 「これは薬とは言えません。捨てます」  まっすぐな眼でそう言われて瓶を彼女の手に置いたらすぐに床に落とされてしかも踏みつけられた。病人に害のあるものに容赦がない。 「エジソン、もうやめよう。これ以上進めば滅ぶことになる」 「何を言う、カルナ! ここで私がやらねばならないのだ! この国を守るために!! ええい、離れろ童女!」 「守るにしては非合理的ですね、エジソン」 「なに…!? 非合理と言ったか、今?」 「極めて非合理的だと」 「何をバカなことを…! この国とこの私は合理的に生み出されたもの。非合理でなどあるはずがーー」 「うまぇたの?」 「なに?」 「合理的に生れたんすか、あんた」 「ッ……! そうだと、言っている」 「あんたを世話した母親から? それとも、この国から、かな?」 「グゥッ!!」  エジソンの顔が歪む。どうやらウィークポイントをついてしまったようだ。棒立ちになったエジソンにナイチンゲール女史が追い打ちをかけた。 「この国を守るとしても、その守り方も種類があります。マシュさんのように防御する者。#名前2#さんのように攻撃を撃ち返し大本を叩くもの。ケルトは戦いに明け暮れた戦士たちです。戦う前のスタート地点から違います」 「ましてやあっちはメイヴの聖杯でデメリットなしに無限に生れるし、メイヴのためっていう大義があるもんだから過剰に力を出させてる。数で対応してけばジリ貧だ」  エリザベートが後ろで「敵チームにいたやつは言葉が違うわね」と呟いている。裏切者としているわけじゃないが、メイヴたちについて語るとなると居心地が悪かった。  メイヴたちが悪人なのは知っている。あいつらがやってるのは時代錯誤に土地を選び、チートな聖杯を使ったただの侵略だ。だが、それに呼ばれた俺はその行動を止めることはしなかった。  いつか叶える正義のために、マスターが来るまでの犠牲者は見捨てた。全く。切嗣に対して叱ったことを、今度は自分がやってしまうことになるとは。 「しかし、貴方はその手段をあえて選んだ。なぜなら、大量に生産し、より安価でいい物を作ることがあなたの天才性だからです。あなたはただムキになっていただけ。愚図愚図とした思いが病を増長させたのです」 「んん、ムゥー……。確かに、否定できん」 「生産力だけ買っても守れないという知性は剥がされたのです。そして! 何より最大の過ちがあなたの体です。エジソンが獅子頭という報告は今まで一度もありません、そうですよね?」 「僕は聞いてないな。マシュもだよね?」 「は、はい!」 「ましてこれほどまでに強大な力を持っているはずがない。ならば貴方には貴方たらしめんとする力がある。それは貴方を『王』とする欲望」 「あの、それは聖杯ではないのですか?」 「いいえ、聖杯ではありません。あれは願いを叶えるものであって願いを産み出しはしません。エジソン、あなたの願いはあなた自身によって決定したものではない」 「私はトーマス・アルバ・エジソン。このアメリカの大統王。この国の歴代大統領から力を与えられしもの。それが合理的だからだ」  話をそこまで聞いてようやく世祖がさっきエジソンにしがみついたのか分かった。エジソンの中にあるその力を純粋なものとなるようにくっついたのだ。大統領という存在は「いい人」に見えて政治家だ。その時代の常識に縛られるから、南北戦争だったら先住民を殺せばいいという人もいるし黒人を差別する人、女性を差別する人様々だ。そんな思いの詰まった欲望を体に閉じ込められてエジソンは人間じゃなくなった。 「世界を救わなければならないのに、強いアメリカというイメージを追いかけてアメリカのみを救おうとするから弱いのです。そんなんだからニコラ・テスラに負けるのです」  一番重い所を貫いた。エジソンが叫びながら倒れる。死んでないのか?と思いながらつつくと痙攣した体から脈を感じた。うん、大丈夫そうだ。 「命に別状はありません。エジソン、答えなさい。貴方は、どうしたいのです」 「……そうだな、認めようフローレンス・ナイチンゲール。私は負けるという事実からちょっとだけ道を間違えてしまったようだ。愚かな思考の回路をさまよっていた」 「ちょっとだけ、なんですね」 「全面的には認めないんだな。さすが」 「いいのです。病を治すには認めることが大事ですから」 「それにしても、ここからがスタート地点か。厳しいな、実際。これからどうすればいいのだ……」  エジソンはかなり困った顔を見せていたがエレナとカルナがその手を取って立ち上がらせた。なんだかんだ言っても仲間としてのチームワークがあるようだ。 「ってか、カルデアのみんなもスタートしたばっかりで君ら変わんないよな」 「それ言いますか、アンタ……」 「あはは、つい、ね!」  エジソンはカルデアのマスターを副大統領として迎えるらしい。円卓のようなテーブルに座った。会議を開くらしい。世祖を膝上にのせてマスターからできるだけ離れた先に座った。真正面は、それはそれで疑われそうだったので席を離れるくらいだ。 「はい先生!」とエリザが手を挙げる。 「うむ、何かな?」 「攻め込んで殴るのよ!」 「超却下!! である」 「何でよー!!」 「あ、エリザベートの歌なら敵に大ダメージ与える気がする」 「ダメージ!? なんでダメージなのさ!!?」 「歌だけは却下!!」  一斉に却下された。ナイチンゲールまで却下するとは思わなかった。 「ねえ、ちょっと! ダメージって!!」 「……。あいつらには歌を受け入れる文明がないから、な? 知らないもんやられたらダメージだろ」 「そ、そう。それじゃあ仕方ない……のかしら?」 「そうそう。それで現状を確認してから作戦を考えないと。エジソン、地図はあるか?」 「勿論だ」  出された地図の半分はケルトで、もう半分はレジスタンスだ。東半分は全部ケルト。土地的には……うーん、ケルト側だと戦いやすいだろう。自分たちが戦った時代と似たような土地柄だ。 「最終的に彼等は南北の二ルートから攻め入るだろう。我々が攻め込むということは、どちらかに穴が開いてしまう。圧し負けて敗北だ」  データによると一定量の土地があれば敗北条件にはならないらしい。なんとか今拮抗状態を保っていることが負けない条件だ。ここからケルトを押し返さなければならない。といっても、戦力差は絶望的だ。 「なんで? なんで絶望的なの? ここにはこんなにサーヴァントが揃ってるじゃない! 子イヌのサーヴァントだって!」 「残念ですがカルデアのサーヴァントはマスターを離れて活動できないのです」 「それに向こうはメイヴ、クーフーリンオルタ、アルジュナ、ベオウルフがいる。数では勝っても戦力はたぶん向こうのが強い。あと、単純にケルト系が強い」 「そうよね。そこに加えてシャドウサーヴァントとか、魔物もうじゃうじゃ出てくるし……」  沈黙。まるで今からラスボスに立ち向かうための絶望を味わっているようだ。苦しい。そして、もっと嫌なのは俺がメイヴやクーフーリンオルタを殺したくないってことだ。 「議論が詰まりそうだ。体でも動かすか」 「私もいまそれを言おうとしていた。諸君、特訓だ」  エジソンのバーチャル戦闘に参加して体を動かした。マスターのサーヴァントもいい動きをする。牛若丸と言う相手には今剣が反応していたが何も言わなかった。 「有効な手段。1つは暗殺でしょうか」 「少数精鋭でワシントンDCまで赴き、女王メイヴを暗殺する。あいつを殺せばケルト戦士はこれ以上増えずサーヴァント同士で戦える」 「だが、メイヴは用心深い。あの女は暗殺というか不意打ちに強いんだろうな。それに、一回失敗してるから難易度が上がるぞ」 「すいませんね、失敗して」  ロビンフッドが皮肉るようにそう言ってナイチンゲールの方を見た。案を出せと言いたいのだ。 「……私は何の役にも立ちませんよ」 「いいから言ってみろぃ」 「奇襲が不可能なら正面から。それくらいしか思い浮かびません」 「うむ、実のところ、ナイチンゲールの意見が一番現実に即している」  なら最初からそう提案してほしかった、という言葉を飲み込み話の続きをうながした。 「世祖。お主が機械化歩兵を殺せばいい。あとはサーヴァントたちの力を十分に持ってこれる」 「それだとマスターの力が枯渇するんじゃないの?」 「そのために#名前2#がいるのだろう」  スカサハは色々見通しすぎる。千里眼を持ってないはずなのに。サーヴァントたちがなぜ黙っていたと今度は#名前2#を見つめた。責めるような視線に首を振る。 「やめてくれ」 「……#名前2#さん、お願いします」 「やめろと言ってるだろう!」  青年の手を振り払ってしまった。いや、これは手が勝手に動いたともいえる。手首に傷がぐるりと一周している。手錠だ、とすぐにわかった。自分の首についているそれと同じだ。クー・フーリンの手から#名前2#は逃げられない。 「そなた、その傷は!」 「ごめん、」  そう伝えきれただろうか。#名前2#の体は砂のように崩れて消え去った。  目が覚めるとメイヴの馬車の中だった。メイヴの持つ聖杯は相変わらず力を持っていた。俺に付けた鎖がそれ以上の力を発揮させるくらいには。  倒れこんだ俺を見てメイヴが振り向いた。クー・フーリンは前を向いたままだ。 「おはよう、#名前2#。お帰りなさいって言った方がいいかしら」 「……」 「あなたは私にとっての狗だもの。外へ遊びに行くのはいいけれど帰ってきてもらわないと困るわ」 「俺に、何するつもりだ?」 「ペットには言っても伝わらないわ」  愛用の鞭を#名前2#の首にあてる。ビリビリと電気が走ったような気分だった。メイヴは恍惚とした表情で#名前2#を見下ろしていた。どかりと腹を踏みつける。にじにじとかかとをずらし、足の方へ向かっていく。何を狙ってきてるのか分かったが止められない。目に見えない鎖が体を縛っている。 「……」 「あの時とは逆ね」 「あの時、だ?」 「……そう、覚えてないのね」  なら、いいわ。つまらないもの。メイヴは鞭をとり指を鳴らした。体が一気に軽くなる。 「アルジュナはもう行ってしまったわよ」 「ああ?」 「今度は逃げられないってことよ」 くすりと笑ってメイヴも前を向く。機械的に並んだ兵士たちが周りを囲んでいた。恐ろしい光景だった。まるでヒトラーに妄信したドイツ兵のようだった。「おい、どこへーー」向かっているんだ、と聞こうとしたらオルタの鎧の一部、尾のようになっているそれが#名前2#の顔を叩いた。棘が顔に刺さり重みで馬車にたたきつけられる。 「動くんじゃねえ」 「やだ、クーちゃんたら。もうどこかなんて行かないわよ」 「うるせえ」  馬車が停まり、降りろと命令される。思いのほかダメージが体に積んでいて地面に崩れるように落っこちた。オルタは先に降りていてどこかを目指していた。戦う音が耳を打つ。 「……アルジュナと、カルナ?」  まるで甘っちょろい#名前2#にサーヴァント同士の戦いはこういうものなんだ、と教えているかのようだった。