09

 味方のサーヴァントと敵のサーヴァントについて詳しく聞いたのだがやはり俺は敵側にいたらしい。予感が確信に変わった瞬間だ。 「それで世祖は? 仮契約なんだって?」 「ああ」  くるりと#名前2#が世祖に視線を合わせる。座っているとはいえ、#名前2#は世祖も怯えるほどの威圧感を出していた。キャスターが横で苦笑いして「程々にしろよ」と声をかけた。 「世祖、なにか言いたいことは?」 「#名前2# いない」 「簡潔に答えたけど答えになってないからな、それ」  世祖の頭をぺちんと叩きキャスターの方を向く。キャスターは自分も何か言われるのではないかと思っていたが#名前2#は世祖を抱き上げてぷっと口を膨らませた。 「お前は俺たちと一緒にいたキャスターなのか?」 「どうだかな。お前らと知り合ってるのは確かだぜ」 「マスターの名前は?」 「雨生龍之介だ。殺人鬼で、あんたに殺されたがってた」 「似たような人生っぽいな」 「あんたは龍之介を殺さずにぽっくり車に殺された」 「訂正、俺事故死はしてない」  だがまあ、知ったような過去はあるらしい。うなずきながら#名前2#は立ち上がって空を見つめた。じっと何かを見つめたあと、世祖を背中におぶり「マスターの所へ行かせてくれ」と言う。元からそのつもりだったのだが、雰囲気が一瞬変わったことに違和感があった。  キャスターは思わずルーンを発動させようとしたが、すぐに打ち消した。背中から睨んでくる世祖が指を動かしていたのだ。 「キャスター?」 「……ああ、ああ、行こうぜ」  キャスターの後ろにこつこつと#名前2#はついて行く。後ろを歩く男を警戒しているということは、流石の#名前2#にも分かった。  外へ出るとセイバーの彼が全快した姿になっていた。何があったのかはあえて聞かない。ラーマの顔は清々しさと悲しさが織まざり声をかけることは野暮のようだった。これから東部へ向かうよとマスターが言う。そして#名前2#の顔を二度見して「あ、あなたは……?」と聞いてきた。 「スルーされたからどうしようかと。シールダーの#名前2#。まあ、名前は違う風に登録されるかもしれないが#名前2#って呼んでくれ」  ほい、とマスターに渡したカードにはオキノという名前がShielderの下に入っていた。やっぱり俺じゃなくてオキノさんが主体ってことで登録されてるらしい。 「貴方が#名前2#さん……」 「なんだ、感慨深いみたいな声だな」 「いや、そうではないんだけど」 「んー、全否定」  ちょっとおちゃらけた雰囲気になってしまったがすぐに雰囲気は戻った。あの看護師さんが俺に向けて銃を向けたのだ。そして世祖も。そっと手を動かしたのを気付かないわけがない。 「あなた、なんなんです? 今ここで殺せば彼女の病気が治るのではないのですか」 「こわーっ。病気は知らんが人のことをウイルスみたいに言わないでほしいなあ」  なんなら誓っておこうか。#名前2#の言葉にぴりと空気が変わる。誓いはサーヴァントの中でも重たいものだ。いわゆるセルフギアススクロール。元マスターだからこそ出来る技だ。マスターたちを傷つけたら死ぬ。その紙をマスターのズボンのぽっけにねじ込んだ。 「これなら安心だろ」  マスターはその紙の効果を知らなかったらしくマシュに話を聞いていた。え、という顔を見せたが俺が笑ったままなので仕方なくそれをきちんと折りたたんでしまった。 「っと、マスターくん。外にサーヴァントがいる。この雰囲気はマックールとディルムッドだな」 「…分かるの?」 「まあな。知ってるだろ? 俺はさっきまでメイヴたちの陣営にいたからな、霊基ぐらい見分けがつくさ」  マックールとディルムッドをいなして戦ったが、彼らは俺のことを糾弾することはなかった。俺の選択肢として受け入れるというスタンスだった。どうしてこいつらの女難がなければきっとハーレムも夢じゃなかったろうに。俺はそんなの嫌だが。ラーマは絶好調でふたりの槍をさばいていた。カルデアのサーヴァントも強いがこのラーマ、異様に力を持っていた。テンションがハイになっているのだ。 「やあやあ、これはーー」 「お前らの負けだ、ケルトの騎士よ」  ラーマの剣がマックールの胸に刺され、ナイチンゲールの銃がディルムッドの頭に照準を合わせていた。 「…存分に戦えた。戦いつくした。ディルムッド、お前は不満か?」 「ーーはい。今度こそ、勝利を捧げたかった」 「勝利など、どうでもいいのだ。共に戦えた。勝利を求めた。それだけで私は雪がれた。まあ実際のところ、マシュ殿を得られなかったのは残念だが」  マシュが断りの言葉を口にする。マックールはそれにははと笑って「行くとするか」と目を閉じた。そのまま消えるのかと思いきやナイチンゲールに話しかける。なんだからしいと思う俺がいた。 「バーサーカー。傷ついたのに自分を癒すこともないのかな?」 「必要ありません。私は患者を救うため、ここにいます。彼等がいる限り、私は休みもしないし諦めもしない。あえて言うならば、……患者がいなくなった世界。それこそが私にとっての癒しです」  それまではいかなる傷も受け止めますとナイチンゲールが結んだ。マックールは笑って「そうかそうか」と頷く。そしてナイチンゲールを口説くような言葉を言って霊基が消滅していった。後を追いかけるようにディルムッドも消えていく。間際、俺に微笑みかけたのはケイネスのことがあったからだろう。程よい軽さと心地よさ。これが本当の騎士というものなのか。 「ーー通信が入りました。あれ? ロビンさんです」  誰かわからず世祖に視線をやると情報が頭の中にどさっと詰め込まれた。なるほど、ふたつのチームに分かれて行動していたらしい。しかも、ここにいないチームはオルタたちの暗殺をしようといていたのだとか。 「いやあ、無理だろうな」 「!? 何か知ってるんですか、#名前2#さん!」 「向こうについてるサーヴァントでやばいやつがいるんだよなあ。ラーマと似た…? 感じなんだが」 「どうゆうことだ? 余と似ているとは…」 「インドのサーヴァント、らしい。名前はアルジュナ。半端ない力を持ったアーチャーだよ」  落ち合った座標でアーチャー・ロビンフッドに話を聞くとクーフーリンオルタから逃がしてくれたランサーがいたらしい。クーフーリンの師匠でルーンが使えるということは。キャスターがぽつりと「やべえ」と漏らした。 「聞こえているぞ、セタンタ」  黒い服を着た清廉な雰囲気を漂わせる女性ーースカサハその人が森から飛び出てきた。アサシンも驚きの気配遮断だったが、これは彼女の鍛錬による能力だろう。スカサハはあのオルタを一刺絶断しようとしたがマスターたちに目をつけてやめたらしい。英霊ではなく人間が解決しなければいけないもの。他のサーヴァントとは一線を画すランサーだった。 「それに、私にはあのクーフーリンには勝てまい」 「な、なんだって…!? 貴女はクーフーリンの師匠。その貴女が勝てないとは……!」  通信でモニターから出てくる噂のDr.ロマン。通信機越しだからか彼の変な空気が感じられた。 「アレは私が知るクーフーリンであってクーフーリンではない。細かいことはその男の方が知っているだろう」  ぴっと指差された俺に「はあ?」と皆の視線が集まる。そんな期待したような眼はやめてほしいのだが。 「俺も詳しくは知らないって。メイヴが聖杯から生み出したとか、なんとか。の割には、オルタはメイヴに従わないし。よくわからん」 「補足すると王になるために不要なものをそぎ落とし、王になるため王から離れていく狂王。それが今のクーフーリンだ」  スカサハの言葉に納得した。俺の知る王様といえばギルガメッシュ王や、アルトリア、イスカンダルがいるわけだが皆「民を、国を思う心」を持っていた。それがプラス、マイナス関係なしに、だ。メイヴは自分の欲のために国を統治して、奪うわけだがオルタにはそんな考えすらないのだ。空っぽの王様とでも呼ぼうか。 「ねえ、ちょっと! 奴らがまた襲いに来たわよ!?」 「迎撃だ」  マスターの声がかかり俺も戦うこととなった。さっきのランサー二人にはラーマが使われたが今回は俺らしい。世祖と横並びに配置された。ワイバーン、ドーピングのケルト、シャドウサーヴァント。クラス相性が関係ないのでどんどん戦う羽目になる。久しく忘れていた感覚だったが、陸奥は今もこの手に吸い付くように収まる。これで必殺技とかがあればよかったのになあ。戦い続けていたら殺気を横から感じた。世祖を抱き上げて体をかがめると鋭い槍が俺の頭があったところに伸びていた。 「む? 呵々、これも神の思し召しか。いや、相性…か?」 「お前…!」 「さっきぶりだ、#名前2#」  李書文だ。厭らしそうな笑顔で微笑みかけられた。獣が獲物を見つけたときの顔とそっくりだ。絶対こいつ悪属性だろ。一緒に戦っていたキャスターがマスターに目配せをした。なんとなく、何を言われているか想像できる。 「お主に会いに来たーーと言いたいがな。用があるのはそこな女槍士よ」 「ほう、私にーー?」  一触即発の空気にひえっと喉奥で声がこぼれた。二人とも強いやつを見たら高ぶりを抑えきれないらしい。しかも、そのまま書文と戦うことになった。嫌だあと泣き言を言いながら勝利を収めた。