08
倒れた。痛いのに血が出ていない。変だ。おい、陸奥。声をかけても男は出てきてくれない。どうしようか。このまま死ぬのか。うん、それもいいだろう。 「お前、死にかけか?」 「……う?」 「刀を持ったお前だ。お前、死にかけか?」 なんで同じセリフしゃべってんだよ、と笑うが口がうまく動かない。倒れたまま人差し指だけ少しのばした。 「呵呵、面白い。死にかけのくせに刃を向けるか」 なんか勘違いされているがまあいい。俺のことを殺す気はなさそうだ。久々に脳の力を使って体を動かした。無理やり仰向けになると赤い服が見えた。皮袋の水がばしゃりと顔にかけられた。目に入って痛い。男はまたカカと笑った。カカカかよ。山伏かよ。くっそ、なんで陸奥の声が聞こえないんだ。 「俺の名前は李書文。ランサーだ」 「……#名前1##名前2#。あ……シールダー」 「シールダー?」 「なんかそんな名前にさせられた」 口がよく動く。今の水がまさか魔力だったとか? ランサーを見つめるとにぃと笑った。やな予感がする。 「なんだよ、今の」 「魔力を込めたものだ」 「だからーー」 「聞かない方が良い」 ランサーの言葉に仕方なく何も言わない事にした。体が持ち上げられた。遠くに陸奥の姿が見える。背中姿だった。どこかへ向かっているようだ。 「……ランサー、お前何しに来た」 「戦いに」 「そうか」 「そなたは」 「俺は、探しに来た。そんでもって、助けに来た」 ランサーは目を丸くして俺の体を真正面に持ってくる。俺より小さいくせに力の使い方はうまい。武術でもやってるのか。いや、中華っぽい姿だと武術っぽいのはわかる。乱馬1/2とかジャッキーチェンの映画見てたらそんなイメージついた。 「お前の目は面白い色をしているな」 「ああ、どうも」 「呵呵! 気に入った、気に入ったぞ! お前は欲にまみれているくせに真っ直ぐだ! 昔のマスターと同じだ!」 ぐいっと顔を近づけられた。何か口にするまもなく、考えることも出来ず、唇がぶつかった。色気も何も無い。魔力供給かと思いきやランサーの目の奥は笑っている。腹が立って頭を掴んで舌をすべりこませた。歯茎をなぞらえながら魔力を吸い取る。途中から興が乗ったのかランサーの方から舌を絡ませてきた。さっきかけられた水と同じような味がする。薄く目を開いて睨むとランサーはニンマリと笑っていた。いらだって舌を噛んでやった。ランサーの目が鋭くなって俺のことを睨む。 「何をする」 「ふざけんな、キスしてきたのはそっちじゃねーか」 「そなたは阻まないな?」 「据え膳は食べる主義に育てられててな」 「オトコでもか。ふっ、雑食が」 「っるせーよ」 ランサーから体を離して陸奥の走った方向に目を向ける。自分の刀だし、刀としての気配は感じたままだ。 「行くのか」 「ああ」 「死ぬなよ」 「お前もな」 ランサーと分かれたあと、俺は陸奥の方向を走りながら世祖の雰囲気を感じ取っていた。 クーフーリンオルタの暗殺部隊とアルカトラズへのシータと#名前2#探索部隊。先ほど仲間になったネロ・ブライドは暗殺部隊になるらしい。エリザベートはマスターと共に歩いてくる。 「ねえ、世祖ちゃん」 「?」 「#名前2#さんっていうのは、どんな人なの?」 「………。バカ」 「バカ!!?」 「雑。テキトー。のーきん」 「マイナス面しかない……」 「でも、助け。くる」 世祖は言い切った。そしてマスターを見つめるとぺろっと舌を出した。 「うそ」 「う、そ……?」 「うん」 世祖はけらっと笑ってマシュのもとに駆け寄る。アルカトラズ島での戦いに参加するつもりなのだ。立夏は世祖のことがまだよく分からない。でも、不思議なことに世祖とのパスはよく分かる。離れるたびにパスの薄まりが分かってしまう。 「世祖ちゃん! 無理しないでね!」 世祖は仮契約のままだから仕方ない。なのでマスターは世祖に向ってそんな言葉しかかけられなかった。 「はーい」 世祖はニンマリと笑った。初めて見る笑顔だった。 世祖はベオウルフを倒した後のことは知らない。マスターにことわって#名前2#を探しに行った。ベオウルフはフェルグスのように何かしゃべってくれることは無かった。世祖とて入る前にスキャンもしたが、なぜか#名前2#は見当たらなかった。そんな事実が許せなくて自分で探しに行ったがやはり見当たらない。一緒についてきてくれたキャスターが世祖を抱き上げる。 「見当たらねえな……」 「っひ、ぅう゛う゛ッ……。ふぅっ、うぅっ、ふぇぇええ」 「世祖!!」 声が聞こえた。何かが割れる音がする。振り向いた世祖の瞳の中に陸奥守吉行を掲げた#名前2#の姿があった。 「おら、来たぞ! 世祖!!」 キャスターの腕から重さが消えた。ジャンプした世祖が#名前2#に飛びつく。うげっと声がして#名前2#が倒れた。龍之介と共にキャスターが何度も見た光景だ。 「おっ、クーフーリンもいんじゃん」 「よお」 「きゃっす」 「キャッス?」 「あー、今いるところにはランサーの俺もいるからな。キャスター呼びなんだ」 「なるほど。………そういや、お前らは聖杯の召喚じゃないのか。マスターがいるんだな」 #名前2#の言葉に世祖がショックを受けた様な顔をした。首を振り続けて「あー、うー、」と言葉にならない言葉を唸る。 「……?? どうしたよ、世祖」 「多分、あんたがマスターじゃないことに伝えたいんだろ」 「あ? ああ、そんなことか。はは、俺だってサーヴァントなんだからお前のマスターにはなれないだろ」 言ってることは最もだが世祖には複雑な気分なのだろう。ううっと泣きながら世祖は#名前2#にしがみついたままだ。 「キャスター、世祖がこんな調子だしな。ちょっと今までの説明をしてくれ」 「はいはい」 しゃがみ込んだキャスターには#名前2#から香る仄かな臭いに気がついた。激しい主張はないが、近づいた人間にはすぐに分かるだろう。 「………。なあ、あんた」 「……あ、あは」 「あは、じゃねーだろ。やべーぞ、この臭い。めっちゃマーキングされてんじゃねえか」 「やっぱり? 消したかったけど陸奥に首を刎ねるしかないって言われて諦めたんだよね」 「いやいや」 「ははー。まあ、いいじゃねえか。ほれ、話をしてくれ」 #名前2#に急かされてキャスターは仕方なく話を始めた。臭いはしっかりと覚えた。これでカルデアに来た時にどうなるか少しだけ楽しみだ。