07

 東部と西部でケルトとエジソンが戦争をしている。#名前2#はこの中ではケルト側にいる。世祖は今のところそれだけを確実に理解していた。他のことも覚えているが理解はしていなかった。助けに来てくれたジェロニモと共にレジスタンスとして動くと言われてもマスターの命令に体が動かされるような感じがしていた。そんな気持ちが伝わったのかカルナとの戦いに世祖は出てくるなと言われた。 「? でない?」 「ああ。君は出ない方がいい。君のような少女は戦いに流されるべきじゃない」 「……わたし、つよい」 「強さの問題ではない。これは戦う味方にも相手にも失礼なことだからだ。君は出るべきではない」 「私も同意です。彼女の病気はひどくなっています。戦いには出さない方がいいです」  ナイチンゲールとジェロニモの言葉に世祖は渋々マスターのもとに近づいた。マシュは戦いに出るそうなのでマスターの守り役になることにしたのだ。  カルナとの戦いはあっけなく終わった。彼は元から世祖たちを殺しに来たのではないようだったからそれもしょうがないことだろう。そしてレジスタンスたちの拠点まで長い移動が始まった。見渡す限り土地が続くここを歩くのは面倒だったが#名前2#の手がかりを落としたくなくて仕方なく地面を歩き続けた。  拠点はちいさな町だった。住人は既に逃げていてレジスタンスたちだけがここに集っていた。奥の家に呪いを持ったサーヴァントの気配がする。まるで掃き溜めの本丸の気配だった。  ゆっくりと歩いてくる青年がいた。赤い髪の毛にあふれた威厳。既にカルデアにいるサーヴァントだった。コサラの王様、ラーマだった。 「せ、先輩。彼は……」 「ああ。うちのラーマとは別人だ」  いつまでたってもカルデアにいるサーヴァントと同じ霊基のことを忘れられない。マシュは少しだけ顔をむむっと歪ませてそして「ラーマさん。お身体は大丈夫なんですか」と聞いた。 「? 余のことを知っておるのか?」 「君はもうカルデアに来てもらったんだよ」  ナイチンゲールの治療を受けながら顔を疑問に染めるラーマの顔はとてもおかしかった。  レジスタンスのサーヴァントに会いに行った。ロビンフッドとビリーザキッド。2人ともカルデアにいるサーヴァントだった。世祖は特に気にすることもなく後ろから戦いを見ていた。戦いの禁止命令はまだ続いていたのだ。  これからの戦いでは、ラーマを回復させて戦力を増やす。そしてケルトのボスの暗殺。戦力拡充という言葉には苦い思い出があるせいかどうにも眉が寄ってしまう。  欲しい戦力としては前衛がいるらしい。世祖が出ると言ったのだがそれはジェロニモたちにまた止められた。暗殺の時ぐらいは出させてくれと懇願したが無駄だった。#名前2#を探すいい機会になると思ったのに。そんな世祖を見かねてかロビンフッドが重い口を開いた。 「ビリーと会う前にランサーとセイバーに会ったんすわ」 「そうなのか?」 「ああ。ただ、すっごい問題児でな……」  その言葉にマスターとマシュと世祖の目線がナイチンゲールのもとに集まった。本人は「どうしたのですか?」なんて気軽に聞いてくる。ラーマも汗をかきながらナイチンゲールを見つめた。その目は「こいつまじか」と語っている。ナイチンゲールより問題児は現れないだろうと思わず心の中で呟いた。  フィンは拠点に戻った時の異様な雰囲気に一瞬呑まれそうになった。すぐに自信を取り戻したが、横にいたディルムッドは戻ってこれなかったようだ。仕方なく女王に謁見するのは自分だけにすることにした。ここで連れて行って狂王に殺されたら大事な手駒がなくなると思ったのだ。  フィンの任務失敗はメイヴもクーフーリンオルタもどうでもいいように扱った。今彼らにとって大事なことは監禁していた#名前2#が逃げてしまったことだった。共犯のアルジュナは今はまだ殺されていない。#名前2#がアルジュナのことを守る仕掛けをしていったのだ。だがクーフーリンオルタの宝具は相手の心臓を必ず突き刺す。#名前2#の仕掛け次第ではアルジュナはすぐに死ぬ局面にあった。  憤怒のままいたぶったあと、クーフーリンオルタはどかりと椅子に座り込む。息をついて「許そう」と言った。 「……? クーちゃん? 何を言ってるの?」 「1度目の失敗は許す。2度目の惜敗は讃える。それが俺の流儀だ。#名前2#のことは許す」 「……。クーちゃんは#名前2#が2度も逃げると思ってるの?」 「思う」  クーフーリンオルタは断言した。メイヴを見つめてニヤリと笑う。久々に戦い以外で見た笑顔は獣のように汚く見えた。 「アイツは人を探してるからな。俺はそいつを殺す」 「あら、殺すの? #名前2#はそれだけじゃ諦めないんじゃない?」 「あいつの前で嬲り殺す。殺し尽くす。頭に焼き付けてやる。絶望したあいつを俺は隣に置く。俺だけを見る存在になってようやくあいつは玉座に登るんだ」 「………」  メイヴとアルジュナは絶句したままクーフーリンオルタを見つめた。#名前2#への執着がおかしい。クーフーリンオルタという存在に反するレベルでおかしい。何が彼をここまで掻き立てるのか。 「あいつは、俺のもんだ」  アルジュナは#名前2#を逃がしたことを間違ってなかったとようやく確認できた。この男に#名前2#を差し出せばどうなるか分からない。ひとつ言えるのは横にいる女王がこの世界を壊したくなるだろうということだけだ。  フェルグスというケルトの騎士と戦った。彼からは#名前2#の気配がする。戦いに出るなという言葉も忘れて世祖は薬研の刀を持ちフェルグスの首元に刃先を当てた。 「……。あと数年もすれば美い女になるだろうな、そなたは」 「#名前2#はどこ」 「……。それを聞いてどうするのだ」 「#名前2#はわたしと、いるの」 「そうか、君がか……」 「はやくいって」 「戦って勝てるなら、な!!」  首を切ることもいとわずにフェルグスの体がくるりと回転した。世祖も飛ばされてマスターのもとへ降り立つ。睨んでもフェルグスは爽やかに笑っていた。その笑顔がさらに苛立ちをかんじる。 「マスタ」 「世祖ちゃん、」 「たたかう。だして」 「おやめなさい。貴方の病気はまだ…!」 「病気は#名前2#に会えば消える。あいつらが、#名前2#、つかまえる。そっちのほうが問題」  それだけ説明して世祖はフェルグスに向かい合った。いつもなら6人のサーヴァントで戦うはずだが、世祖は1人でいいと言った。 「1人でだと? 俺も舐められたものだな」 「違う」 「ちがう?」 「他にいると……邪魔」  一気に魔力が放出された。圧縮した空気が世祖の体を覆い、その周りに刀剣男士たちが現れる。 「いいの、世祖? 宝具なんか出しちゃって」  加州の言葉に世祖はこくりと頷いた。そして指でフェルグスを差した。 「たたかって」  刀と剣の戦いは一方的だった。世祖はバーサーカーであるため攻撃力はあっても防御力が薄い。だったら攻撃を消せばいいというのが世祖の考え方だった。空気の圧はまるでクッションのようにフェルグスの剣をはじいた。一方的な暴力とはまさにこのことだった。 「さあ。教えて」  フェルグスの霊基が壊れたところで世祖はフェルグスの体を持ち上げた。もちろん空気を使って、である。 「……は、はは。そなたは、本当に英霊か?」 「そうだよ。進化した人間のサーヴァント。……うまれた時から、歴史をまもってきたの」  ふははははとフェルグスは笑った。今までの姿が嘘のように世祖は自分のことを苦しそうに語ったのがおかしかった。反英霊でもないのに少女は自ら苦しんでいるのだ。 「#名前2#はアルカトラズ島にいる」 「お、おい! 貴様! シータという女を知らぬか!!?」 「シータ?」 「ラーマが妻、シータだ!」 「……。そうか、お前に似た娘になら会ったことがある。#名前2#と同じくアルカトラズ島にいるはずだ。行ってみるがいい」  フェルグスは後悔するなよと呟いて消えていった。雰囲気からしてアルカトラズ島が面倒な所だというのは分かる。だが行かなければいけない。 「マスタ」 「ああ。行こう、アルカトラズ島に」  フェルグスは#名前2#が既に脱走していたことを知っていた。だがそれは敢えて言わずに嘘を教えた。なぜそうしたのかは自分でも分からない。だが、#名前2#と世祖を会わせるべきではないと自分の勘が言っていたのだ。  この選択は世祖の暴走をさらに加速させることになるとマスターたちはまだ知らない。