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 さて、どこから行こうかな。世祖と桜にはつかなかった刀剣男士とを連れて#名前2#はとりあえず和菓子屋に行って土産を買った。個人的にあんこをチョコでコーティングしたこのお菓子が大好きなのだ。あげなかった分は自分で食べよう、というクズな考え方でまずは一番近かった間桐に行った。龍之介はそこにまだいるそうだし、雁夜や鶴野にはかなり世話になった。 チャイムを鳴らすとばたばた走ってくる音と「桜かなあ!?」と嬉しそうに笑う声がした。慎二、ごめんな。桜は連れてきてないんだぜ……。遠坂家いくつもりだったから…。 がらりと開けられた瞬間に慎二は残念そうな顔をした。こっちが申し訳なくなった。頭を撫でて飴をあげるとションボリとしたまま「お父さんたち呼んでくるね」と家の中に引っ込んでいった。 「#名前2#さん、こんにちはー」 「ああ、龍之介、これお土産」 「何ですかー?」 「和菓子だよ。あんこをチョコで包んである」 「っへえー、おいしくなさそうー!」 そんな本音は大きな声で言わなくていいのになあ、と顔に出ていたのか「ごめんなさいー」とすぐに謝ってきた。 「あ、そうだ。この後、綺礼や時臣のところ行ってくるから世祖預かってもらってていいか?」 「いいよー。ねー、慎二?」 「うん。おいでー、世祖ー」 「あいー」 たったか走っていく2人を見ながら龍之介は「サーヴァントが狙われそうなの?」と聞いてくる。 「いや、そうじゃねえんだけどさ。あんまり聞かせたくない話っつーか、なあ?」 「ああ、確かに2人とも#名前2#さんのこと大好きだもんね」 「っぐ……」 そう言われると嫌だが、まあ龍之介の言ってることは当たっている。これは自惚れじゃなく、世祖は#名前2#のことを好きだと"勘違いしてる"人間に厳しい。刀剣男士は人間じゃないのでまだ良いのだが、それ以外は……芳しくない結果だ。スコッチとキュラソーは良かったのに、フルヤとアカイがダメだったのは世祖のそういったクセのせいだった。それは1度軽減されたはずだった。#名前2#は世祖のことを手放さないと分かったはずなのに、今はひどくなっている。世祖を残して#名前2#が死んだことがトラウマらしい。龍之介にそこまで分かっているとは思わないが、勘付くものはあるらしい。けらけら笑いながら「頑張ってね、カミサマ(マイ ディア)」と奥に引っ込んでいく。キャスターに話を聞かれてないのが幸いだ。  協会に顔を出すと、璃正も綺礼にも会わず、何故か時臣に出くわした。驚く#名前2#をよそに時臣はえぐえぐと泣きながら#名前2#に抱きついた。頭にはてなマークを浮かべながらも時臣の頭を撫でている#名前2#は時臣を甘やかしすぎだ。 「兄様っ、兄様…! うゔっ、ふぅ、ゔ~~!」 「どうしたー、時臣ー」 お前が泣きついたままだと俺は土産も何も渡せないんだが、とは言わないで背中をさすっていたら段々と落ち着いてきた。 「兄様、実は、桜が…!」 「桜が? どーかしたのか?」 「桜は、もうっ! 私たちを許さないでしょうっ、でも、私は……桜のことを、大事にしたい! それっ、は、ワガママでしょうかっ、?」 難しすぎる問題を病み上がりの体によくぶつけてきたものだ。桜は自分の家族について悩んではいたが、まさか入院していた間に何かあったのだろうか。どうしようかと思っていたら背中をつつかれた。刀剣かな?と振り向いてみたらそこに居たのはハサンの1人だった。(名前はみんなハサン・サッバーハなので分からない。) 「私が聞いた話ですと、」 「おう」 「うゔ~~」 「時臣、少しだけ黙ってような」 教会の椅子に座って時臣も横に座らせる。泣いているままだと面倒なので向き合いながら肩に顔を置かせるとなんとなく昔を思い出した。そういえば、昔にもこんなことしたような……。 「お話しても?」 「頼む」 ハサンから聞かされたのは桜が遠坂家に1晩泊まることすらも出来なかったという話だった。どちらも悪いとは言わないし、言えないがただ桜と遠坂の相性が悪い。沖野に染まっているとまでは言わないが、桜はもう遠坂家の考え方はしてないしできそうにない。あえて言うならば、時臣は過去に囚われすぎだ。 「そっか、ありがとう」 「いえ。我がマスターは奥の部屋に待っております」 「あー、うん」 霊体化したハサンのマスターは時臣を相手した後はそこに来いと言いたいらしい。くそめんどくさい野郎どもだが、聖杯戦争に参加している中で面倒くさくない奴などいないし#名前2#はそういった人を周りに集めやすい体質だと最近分かってきた。 「時臣」 まだ泣いたままだったが話を聞く気にはなれたらしい。頭が動かされて耳が上に向いた。まだ小さな時臣のことを、昔こうやって抱きしめた気がする。魔術回路の移植をした時に、泣き出した彼を抱きしめてやった。かつて泣かせた甥っ子と被っていたのかもしれないし、#名前2#のことを心配してばかりな三日月を思い出したのかもしれない。恋人のような甘やかし方は良くないのだが、親からの愛情を受け取ってきたと断言もしがたい。なあなあで流してしまうのが今の状態だ。 「時臣、酷なことを言うがな。桜はもうお前の娘じゃない」 「ッ……」 「もうお前のために魔術を目指すわけじゃない。凛とは違う子なんだ」 「分かってます! ちゃんと、分かってます…!」 「分かってない。桜は、今お前達家族に捨てられたと思ってる。だけどそれらを受け入れて次に進もうとしてる。お前達も、進まなきゃいけない」 「………。私は、桜のためを思って……」 「思いはな、言わなきゃ分かんないんだよ。察してくださいなんて、出来ないよ。桜は家族にいい子だと思って欲しくて頷いたんだから」 「………」 「葵や凛にはお前から話さなきゃいけない。これは本当は俺が入っちゃいけない話だからな。葵から相談されれば答えるけど、俺からは話を聞かない。いいな?」 「……はい」 「よし」 さあ、家に帰りな。タクシーは? 大丈夫か? 時臣がどうやって教会に来たのかは分からないが、とりあえず五虎退に家に送らせることにした。タクシーを呼び止めるまで泣き腫らした顔を誰かに晒すのはあまりにも可哀想に思えたのだ。  教会の奥の部屋ってどこなのか知らない。手当りしだいにドアをノックしていたら3つめぐらいに綺礼の部屋に来れた。(ちなみに前の2つは璃正の部屋とトイレだった。) 「遅かったですね」 「色々とあったんだよ」 「そうですか。……先ほどの乱闘は?」 聞こえてたなら加勢してくれよ、と思いながらも「終わらせたよ」と返す。 「息の根を?」 「まさか。素晴らしいキャリアを、だな」 警察に連れていかれた彼らには悪いが俺は身内以外には厳しくいくスタイルだ。綺礼はへえー、という顔をして近づいてきた。時臣もそうだが、なぜか#名前2#に対してパーソナルスペースが狭いといのは何事か。カミサマ扱いはまあ許せるにしても、そうまでして自分を残そうとするのは………個人的な話だがあまり好きではない。 「お座り下さい」 「どーも」 対面に座れるソファーはない。ひとつ挟んで隣に座ってきた。ワインは飲みますか?と言われたが辞めておく。思いのほか時間がかかったので予定を変更して、家に帰ってすぐに桜と話をしなければいけないようだ。 「そうですか、残念ですね」 残念とは思ってなさそうな残念さで綺礼はワインをあおった。ふんわりと匂いが漂ってくる。品のいいものなんだろうな、と何となく伝わってきた。酒はコードネームを思い出すから嫌いだ。日本酒は好きだが。 「#名前2#さん。大事なものは仕舞っておかなければいけないと思いませんか」 「仕舞い場所を忘れたら仕方ない話だろ」 「ならば、どうすればいいんですか」 ならば、っていう接続詞を使うあたり俺=大事なものという認識は双方ズレなしらしい。嬉しくない話だ。大事にするっていうやり方がおかしすぎるというのに。 「大切に扱えばいい」 「扱っています」 「ほうー?」 「………。足りませんか?」 「神様への供物はもう充分だな、ただプライベートが無さすぎる」 「全てを知りたいだけなのに」 「残念ながらそれはただの言い訳にしかならないぞ」 「………」 じとっと睨み合うがここで負けられない。負けたりしたら最後、俺はきっとこいつに囲われるだろう未来が見える。そうなった時の世祖の恐ろしさと、世祖に何かあった時はこんどこそ俺は生きてられなくなる。何が言いたいかって綺礼のことは大事でも世祖には敵わないってことだ。 「分かりました、なら証明を」 「何のだ」 「私が主のものであると」 訳が分からなかった…………。俺は仏教徒としてそんな考えを持ってたし、刀剣男士たちもそんな考えが流行ってる。キリスト系の考え方はよく分からん。(綺礼の考えがキリスト系なのかも分からないけれど。)考えた挙句、俺はとりあえず綺礼のことを抱きしめた。時臣もそうだが、こいつらは子どもの時から成長してないんだなあってこういう所で実感する。大人っぽい雰囲気だから。魔術師だから。代行者だから。親のいうことをよく聞くから。結婚したから。セックスしたから。そんな理由じゃあ、大人になったとは言えない。大人になるって言うのは、子どもの時の自分から成長して初めて大人になれるのだ。子どもの土台が出来てないこいつらは、上に乗せるものがグラグラと揺れてばっかりで真っ直ぐには育たない。桜や慎二みたいに軌道修正出来ればいいのだが大人であると勘違いしたままのタイプはそうはならない……。 よしよしと綺礼を撫でながら「お前にはまた今度何かあげようなー」と体を揺らす。子どもは何でか揺れるのが好きなんだよなあ。 扉の向こうでうげっという顔をしている王様を発見した。こいつも相手をしなければならないのか、俺は。