09

「えー、これから皆さまを別の時空へと連れていきますが大丈夫、マスターだけですので。サーヴァントとパスは繋がっておりますが魔力供給の遮断が起きますのでご了承ください。ま、大体、こちらの時間では3分ほどですね。それぐらいはうちのサーヴァントがどうにかするでしょう」  他の人間の言うことなど気にせず#名前2#の指の動きに合わせて世祖は指を鳴らした。翻す布のように#名前2#がいなくなって自分と三日月だけが残ることになる。三日月が世祖を抱き上げ、またアーチャーの方を向いた。 「お久しぶりにございます、王よ」 「久々だな、三日月よ」 「う! ぉーも」 「ふむ、口ぶりは相変わらずだがその敬意はきちんと我を敬っていると分かるぞ」 「おい、お前達! キャスターか何か知らないが、マスターはどこへやった!?」  先ほどまでは気付かなかったがランサーの声は数珠丸とそっくりだ。(ウェイバーもまた大典太に似ているが2人に似ていると言っても喜ばないので公言はしない。)三日月は目をぱちくりとさせて「そなた、本当にランサーか?」と聞いた。 「……そうであるが。それがどうかしたのか」 「そうかそうか。ならよいのだ」 「キャスターに問いたい! 貴方のマスター含め、彼はどこに連れていき、何をしようというのか!!」 「どこ、と言われてもなあ」 「………まさか、お前ッー!!」  訂正をしなければならないのは、世祖はキャスターではなくバーサーカーだ。(狂化はしてないのでそうは見えないだけ。)それをどう伝えようかと迷っていたらライダーがチャリオットを消して自分の足で地面に立った。 ーーまあそう騒ぐな。あの男は要するに聖杯がおかしいという話を、サーヴァントのいないところでしたいのだ。そうだろう?とライダーが聞いてくるので三日月たちも地面に降り立ち話をすることにした。マスターを拘束する義務のなくなった短刀たちも集まってくるが地面には下りずそれぞれコンテナの上で立ち止まった。 「俺の名前は三日月宗近。刀の付喪神だ」 「……。付喪神?」 「付喪神だ。だが今は何の因果か宝具なるものをやっている。よろしく頼むぞ」 「馬鹿な、自律性のある宝具だと……!? そんなの、聞いたことも見たこともない……」  叫ぶランサーの声を無視して三日月は話を進めた。その様子はまるでランサーを認めないケイネスに似ていた。だがそれ以上とも言えた。セイバーにはまるでランサーの存在などまるで無視しているように見えたのだ。自分のマスターを思い出してしまう。セイバーは気持ちを落ち着かせるように剣の柄を握り直した。 「そしてここにいるのがサーヴァント、バーサーカー。彼女の名前は指貫世祖。真名は既にどこかへ捨てた。これから210数年ほど未来に生まれ落ちた英霊だ。以後、よろしく頼む」  意味が分からないと切り捨てることは簡単だが、聖杯からの情報に指貫世祖という英霊についての情報があった。ただ、彼女には目立った功績などはなく信仰などもない。あったのは彼女への恐れと彼女の持つ力を求める欲だった。それを以てよく英霊になったものだ。反英霊と取られてもおかしくない存在なのに。 「指貫世祖」 「彼女の弱点はマスターである#名前2#だが、やつを傷つけたらこの世が消えるでな。はは、まあ自滅を狙うならこの陣営と戦うのが1番だ。冬木を壊せば何もかもが無くなるぞ」  そう言いながら三日月はよっこいせ、と胡座をかいた。懐から茶菓子を入れた巾着袋を取り出す。戦いの意思を見せない三日月と世祖を不思議に思いながらもセイバーたちは三日月を見つめた。見つめることしか出来なかった。そしてそれはアサシンも同じだった。変だ、可笑しい。そう思いながらも動けない。空気の圧から抜け出たというのに。 「王よ、食べますかな? ラクガンでございます」 「食べる」  すとん、と三日月の横に下りたって渡された四角の菓子を手にとる。包み紙を破り、ぱくりと口に入れると爽やかな甘味とさらりとした口触りの粉が口にぱらぱらと零れていく。時臣の家にいたら食べられないだろう味だった。 「うん、上手いぞ」 「それは良かった。そなたたちも食べるか?」  そんな呑気に菓子など食べていられない。ランサーもセイバーも騎士としてきっぱり断ったが、ライダーは珍しそうに大きな手で小さなラクガンを受け取った。 「こりゃあ、何だ?」 「落雁という菓子であるな、ライダーよ。ここから随分と離れた土地にて作られているのだがこれがまた上手くてな。#名前2#さんが取り寄せするのだ」 「ほぅー。そのほうらのマスターも通販なるものを使うのか」  自分と同じようにカタログを見たりしたのかと思いきや、「いやネット通販というやつだな」と三日月から返事がきた。 「ねっと? ああ、魔術師の嫌う奴らか」 「ふん、遅れているな自称王よ」 「………なら、お主は使えるのか?」 「当たり前だろう。我を誰だと思っている。王の中の王だぞ!?」  そうは言ってもアーチャーが使えるようになったのはつい昨日のことだ。まさか1時間でネットの機能を全て使いこなすほどハイスペックとは思わなかったが、それを時臣にバラすとも思わなかった。 「………」  ライダーはその言葉を聞いて口をへの字に曲げる。分かりやすい表情だ。三日月は苦笑いで「ライダーもまた家に来れば良いだろう。#名前2#さんは教えてくれるぞ」と言う。彼は基本的に頼られたら応えるのが筋だと思っている人間のためそこら辺は融通がきく。 「……いや、いい。うちのマスターが何と言うか分からないからな」 「そうか」  それならば無理強いはしない。ライダーは考え方に柔軟性があるがランサーとセイバーは一貫して早くマスターをつれもどせと言いたいらしい。#名前2#がいないと分かるのだが、彼がいない時世祖は喋ることを出来るだけしないようにする。昔からいる刀剣たちはよくこの状態に慣れていたものだと感心してしまう。とりあえずは、そろそろ戻る#名前2#に後のことを任せよう。  戻ったアイリスフィールを抱きしめたセイバーは彼女ががくがくと震えてなにかに怯えているのを見てバーサーカーのマスターが何かしたのではないかと勘繰った。原因はそれしかないだろう、と。ライダーのマスターも嘔吐しそうな顔はしているが、なにかに怯えるということは無い。バーサーカーのマスターを睨めつけると「おいおい、何でそんなに睨まれるんだ」と泣き言のように漏らした。 「世祖、俺なにかしたかな」 「うーうん」 「だよな。今こうやって怯えてるのはただお前さんらが疚しいことがあるって分かってるからなのに俺がいけないってのか、ここでも生きるのは大変だ」 「#名前2#よ、そう言うな」 「…………すまん、今のは俺の頭が可笑しかった。セイバー、お前のマスターはただ自分の娘にしたことに怯えてるだけだからそう睨むな」 「……………」  自分の娘にしたこと。イリヤスフィールのことを言っている、と理解できた。アイリスフィールや切嗣が何をしたかはセイバーは聞いていない。だが、モードレッドという子や円卓の騎士という仲間がいたセイバーにとっては無視できない話だった。奥歯を噛み締める。お前に「親」が分かるのか、と聞いてやりたかった。自分のいらだちに任せ、その胸ぐらをつかみエクスカリバーを喉に当てて聞いてやりたかった。だが我慢するしかなかった。セイバーは#名前2#のことを睨んでいたが、アイリスフィールを抱えたまま屋根の上へと飛び出した。  早く拠点に戻った方がいいという判断か、話をしても無駄という判断か。まあどっちでもいいや、と#名前2#はすぐに思考を切り替える。ランサーはセイバーのマスターと思われるアイリスフィールが戻った時点で既にどこかへ行ってしまった。 「おい、坊主。平気か? 何を見たんだ? おい??」 「やめ、はぐっ……!」  悲痛そうな顔をして口を両手でふさぐウェイバーに#名前2#は苦笑いしたまま世祖に耳打ちをした。世祖は最初えぇー、と嫌そうな顔をしたが、三日月と#名前2#に頭を撫でられて仕方ないと諦めた。瞳孔を開かせてウェイバーを見つめると彼の顔色はだんだんと良くなり、代わりに顔が真っ赤になり始めた。どうしたんだ坊主!?と叫ぶライダーに、ん?と#名前2#が世祖の視界を覆うとぶはっとウェイバーは息を大きく吸い込んだ。 「あらら、溺れるツボでも押されたかな」 「ぁに、した…!?」 「坊主、今日のところは帰った方が良さそうだぞ。バーサーカーの目が余たちを睨んでおる」  すっと降りてきたチャリオットに乗り込みライダーは「また会おう!」と宣言をしてから空へ飛び上がる。サーヴァントは空へ飛び上がってから消えるのが約束なのだろうか? 世祖とは普通に車で帰ろうとしていたのだが。 「…………あいつら、帰る礼もせずに行ったな」 「まあいくら王様と言っても真名は誰にも分からないのですから」 「なぜ後世のヤツらが我の顔を知らないのか甚だ疑問であるがな!! 我の偉業を知っているならば崇め奉るのが普通だろう」  #名前2#はこの自信が慢心と変わらないことを祈っておいた。(赤城さんも慢心ダメ絶対と言っていたし。)面倒だが臣下としての礼をとって「時臣のもとまで送りましょうか?」と聞くと何を思ったのか「#名前2#よ、そなたが我を送れ」と言い出した。 「は、はあ………」 「嫌なのか?」 「ああ、いや。そんな訳ありません」 「なら良いではないか。おい、虎の子よ」 「はいっ………」  コンテナの上から大きくなった虎を連れた五虎退が降りてきた。この王様は五虎退の連れている虎が大好きなのだ。虎の方はあんまりの好感度であるが。 「王様、五虎退を一緒に乗らせますので捕まっていてください」 「……王たる我はそのような心配いらぬ」 「この虎は五虎退と繋がっております故、なにとぞ」 「わかったわかった」  うるさそうに手をひらひらされて、#名前2#は苦笑いで極の短刀と三日月を刀のまま装備して千里も走るとかいう馬を呼び出した。(手綱もないままに乗れるようになったのは沖野さんのお陰なのだが、習った当初は全く使えない技術だと思っていた。)  それじゃあ行きましょうか、と声をかければ空の上に世祖が道を作る。一般人に見られて監視役に迷惑をかけるのも嫌な話だからだ。 「…………」  雲の合間をすり抜ける俺のことを王様はじっと見つめなさる。後ろから抱きしめられている五虎退はどうしようとチラチラしているが、世祖はもう眠いらしくふわふわとあくびを漏らした。 「#名前2#よ」 「はい」 「そなたは何故そのように縛られた生き方をする」 「……はぁ? 縛られた、……あ、すいません、敬語」 「別に良い。それよりも質問に答えろ。そなたはこのような生き方をいつまでし続ける」 「…………………」  困った。そのような生き方ってのが分からない。世祖も何も言わないし。あ、すごい綺礼の時みたいな居心地の悪さがする。 「えっとですね、」 「敬語はよいと言ったろう! 何度も言わせるな!」 「すんません。はぁー、生き方ね。うーん、死ぬまでかな」 「………。つまらぬな」  思ったよりも普通の返答だった。#名前2#のその意外性は何か違う返事を返すものかと思いきや、死ぬまでとは。何時もの彼はそのまま続けられて他には見られないというのか。 「しゃあねーだろ。聖杯戦争終わったら俺は死ぬからな」 「#名前2#! まだダメ!」 「世祖、痛いから……」  まだ死なせないからね!なんて言うように#名前2#の太ももを叩く世祖に#名前2#は応戦するように脇をくすぐった。そんな風に笑って、恐れをひた隠しにしているかと言えばそうでもない。#名前2#は死ぬことを恐れていないらしい。まあ、何度も死にそうな体験ばかりしている訳だし別にいいのかもしれない。 「ふっはははは、そうか、そなたは…! 死ぬために戦っているのか!」 「そうゆう訳じゃないっすけど、まあ決まってるからいいんじゃないすかね」  ぐだぐだとした返事にアーチャーは笑みを深めた。こんなに面白い玩具をそんな簡単に失うのは惜しい。それに、聖杯戦争はもう停戦予定だと時臣が言っていた。兄の#名前2#がそうさせるのだ、と。沖野#名前2#。ただの玩具の皮をかぶったその中身は本当は何なのだろうか。#名前2#はもう忘れてしまった自分というものを、ギルガメッシュは暴こうとしていた。 「#名前2#よ」 「はーいー?」 「方向を変えろ! そなたの家に行くぞ!!」 「へぁ!?」  思わず立ち止まった馬に虎が衝突するまであと数秒。