ギスギスしたお茶会

「カップに毒をぬって、自分がいない間に何かされたら怖いでしょう? だからさぁ、外に出るのなんて怖くて出来ないよ!」 「た、確かに……」  唸る目暮と小五郎に高木が慌てて問いかけた。犯人は、毒物を一体どうやって塗ったのか? そして捨てた場所はどこなのか? また病室を徹底的に洗い直すしかないかと思われた時に、軽い声が入ってきた。#名前2#の呑気で軽々しい声である。 「要するに、毒を塗る時間が自由に取れてカップから一度も目を離さなかった人が犯人ってことっすよね?」 「#名前1#? おまえ、どこいってたんだよ……」 「ちょっと野暮用に。ほいよコナン。欲しかったんだろ、これ」 「わぁ、ありがとうー!」 「なんだよ、それ?」 「お湯とレモンっすよ。それで犯人はもうわかったんじゃないすか? ゼロさんは」 「ゼロさん? また#名前2#さんてばあだ名つけたんですか?」 「またってひどいね、蘭ちゃん……。ゼロは安室さんのあだ名だって言ってたから……」 「で、どーなんだよ? 分かったのかオメーは」 「今のヒントでなんとなくは……」  皆の視線が安室さんに行ったところでコナンにお湯とレモンを渡しておく。ありがと!とお礼を言うコナンに笑いかけて病室を出ようとすると蘭に捕まった。 「ど、どこ行くんですか?」 「ちょっとな。大丈夫だよ、家に送ってくのは変わんないから。呼ばれてるから行ってくるわ」 「呼ばれてるって、誰に……」  ほらあそこ、と指差しした先には白衣に緑がかった白髪の男が生真面目な顔をして立っていた。その隣には長髪の少年も立っている。なぜか顔は不満げに口が結ばれていた。  膝丸と不動行光がイマイチ仲が良くなかったのは本丸の頃からの話で、それは今も変わりなかった。学会からの要望でこの杯戸中央にやってきた源氏の重宝たちは名は売れてるらしいのだが、#名前2#はあまり世話にならないタイプらしいので膝丸は脳外科とか心臓外科とかそこら辺だ。(髭切は麻酔医だと聞いている。)  不動の方は中央病院のいつもの皮膚科のところに行ってるのだろうと見当がついた。足裏のイボの通院である。液体窒素で足を低温やけどしているので彼は片足はわざと足裏を見せるように立っていた。 「膝丸、髭切はどうしたんだ?」 「兄者なら今は手術中だ。ここには麻酔医が少ないからな」 「なるほど、んで不動はまた通院中なんだな」 「めんどくせーけど、行かないと面倒だし」 「それにしてもお前らが一緒にいるのって珍しいな? 何かあったのか?」 「……」  どっちから言う? お前? 俺?みたいな視線を交わして膝丸が先に口を開いた。お、と口が開いた時点で予感はしたが案の定「沖野さん」という言葉が聞かされた。 「沖野さんから世祖のバイタルが乱れたから確認しろと言われてな」 「2人して行こうとしたら、ナースステーションとこで#名前2#さんらしき不審者の話を聞いたんで事件にかかわらないようにここで待ってたんだ」  つまりは成り行きで一緒にいたらしい。仲が悪いわけではないのだが、その元主への思いもあってかイマイチ話が合わないのが彼らだ。(ダメ刀と自称する不動と重宝だと豪語する膝丸なのでそのせいもあるかもしれないが。)  それで先程までの不動の不機嫌さは何だったのかと聞いたら、「不動の暮らしの話だ」と膝丸が言う。 「一人暮らしじゃないだろ、一応」 「子どもだけで保護者もいないのにか」 「こいつらは良いって言ってんだからいいだろ」 「良くないだろう……」  ほら#名前2#さんだって許してるじゃんと不動が口を尖らせる。つまりは、先ほどの不動もこんな会話してたのだろう。不動行光は現在包丁藤四郎と2人暮らしである。ただし、大和守が時折様子を見に行くのでそこまで酷い生活をしている訳では無いと報告を受けている。  双方、親元を離れて杯戸町にいるのには色々理由があるのだろうが、まあ2人とも自分だけの世界を持つヤツらなのでこうして1人になれるスペースがある方が良いのだ。包丁藤四郎の方は保護者に一期一振の名前があるが不動の方は#名前2#の名前がある。膝丸はそのことで#名前2#に苦言を呈しているのだ。保護者なのにいいのか、と。 「小学生つったって短刀たちはしっかり学んでることは学んでる。それに、事件性のあるものには関わらないって約束してあるからな」  なー、と声を揃えて頷く不動と#名前2#に膝丸はまた頭を抱えた。#名前2#のことは認めているが、この大雑把すぎる性格は玉に瑕だ。悪い人ではないが…そのせいでタチが悪い。 「薄緑(あさみどり)先生! 休憩時間は終わりですよ!」 「ああ、すまん」 「ん、じゃあな薄緑せんせ」  にへらっと笑って#名前2#は膝丸に手を振る。膝丸も呆れの溜息をつきながら手を振った。小言を行ったとしても大事な存在であることにほかの刀剣男士と同じように変わりはなかった。 「#名前2#さん、車は?」 「別のヤツら送ってくから席がねえなあ。シルビア乗ってきちまったし。来る時はどうしたんだよ?」 「そっか、ならいいや。来るのも大和守にたのんだから大丈夫」 「すまんなあ」  大和守は#名前2#たちと同じ大学生だったが閉じこもって勉強するのもう嫌だ!と叫び、いつの間にか中退しいて今はフリーターである。だが、その力は認められているので三日月の私設ボディガードとなったり長谷部たちの手伝いをしたりと楽しそうに暮らしいてるので沖野も#名前2#も何も言わない。不動と包丁とも変な気負いをせずに話しかけるので、周りにとっても有難い存在だった。 「#名前2#さーん、事件解決しましたよー!」 「あ、蘭ちゃんだ。じゃあな、不動」 「ああ……。またな」  ふわりと髪の毛が風になびく。蘭の視線の奥に何かの記憶が掠めた。さっきの、子……。どこかで会ったっけ? 「#名前2#さん……」 「うん?」 「あの子は…、?」 「ああ、友達?の森行光だけど……どうかしたのか?」 「あ、いえ、何でもないんです」  全く知らない名前だった。じゃあ、どうしてあの髪の毛に見覚えがあるのだろう。すぴー、と世祖の眠る鼻息が耳にこそばゆく残った。  一応だが(事件は解決済であるが)聴取をとるそうなので小五郎たちと#名前2#は警視庁へ行かなければならないらしい。  高木刑事がすまないねえと苦笑いしていたので、書類には第一発見者が蘭を除いたこの5人と書くのだろう。  歩きながらお疲れ様ですー、と頭を下げたら小五郎にがっしりと頭を掴まれた。 「いだっ!?」 「#名前1#、おめー犯人わかってたのか?」 「え?」 「コナンにかこつけて、あのお湯もらってきたんだろ?」 「え? あー……」  視界の端でコナンがごめーん、という顔をしていた。なるほど、さっきのアレは#名前2#がわざとしたことになってるらしい。 「まあ、あの入院患者さんが怪しいとは思ってましたよ」 「ほぉー?」 「聴取待ちの方々に話を聞いてた時に、2人はスマホを見てたって言ってましたから。それって、入院患者さんだけは見てないってことですよね? あの2人が毒をカップに塗ってスマホ見ながらカップをずるずるやったら患者さんに分かっちゃうじゃないですか。だからですよ」 「なるほどな……。しっかし、患者が見舞い客を殺すとはなぁ」 「正直呪われてますよ、この病院……。前にも色々あったみたいですし…」 「色々?」 「ああ。アナウンサーの水無玲奈が入院してるとか、ケガ人が押し寄せてきたりとか、爆弾騒ぎとかね……。大きな被害は出なかったそうだけど」 「た、高木刑事! そろそろ行かなきゃまずいよ! 僕らお腹ぺこぺこなんだ!」 「あ、ああ、そうだよね」 「じゃあ、楠田陸道なんて男知りませんよね…」 「クスダリクミチ? ああ、そういえば爆弾騒ぎの前に不審な破損車両が見つかって所持者は楠田陸道って男でしたよ!」 「え?」 「謎の多い事件でね……。ここの患者さんだったらしいけど、今は行方をくらましてるんだ。それに車内には大量の血液があって、1mmにも満たない飛沫血痕もあって鑑識さんが言うには拳銃だろう、って」 「……そうでしたか」  何で安室さんが楠田陸道について今更ながらに嗅ぎ回ってるのか分からないがコナンの眉間にシワが寄ったところを見るとおそらくヤバい展開が待ってるのだろう。