ギスギスしたお茶会
「#名前2#さん、車出せますか!!? い、いま、お母さんが倒れたって!」 電話で突然、叫ばれてすぐに元来た道を返してきた。丁度ポアロに寄ったあとだったので来やすかったのだ。 毛利探偵とは連絡がつかないらしく、蘭ちゃんとコナンを車に乗せて走った。法定速度ギリギリに病院に駆け込んだ。車を停めるため蘭ちゃんとコナンを先に下ろして駐車場に停める。切符とスマホ、財布をポッケに詰めて世祖と受付へ行った。スマホで病室を聞くわけにも行かず妃英理さんどこにいますか?と聞いて色々と迷子になりそうになりながらなんとか病室へ来た。入っていいものか迷っていたら中から声が聞こえたいる。妃弁護士は盲腸で済んだと笑っていた。 「な、なんだ、よかった……」 「なんだ、とはなぁに?」 「だって、急に倒れたって聞いたから……」 「鶯谷さんはいつも大げさにいうのよ。気にしなくていいのに」 鶯谷? 聞き覚えのある名前にノックして失礼しますーと入ると鶯丸がニコニコと座っていた。 「#名前2#。お前が送ってきたのか」 「ポアロのところいたから。お前は?」 「依頼人を紹介されてな。会いに行っていた」 ちょうどその時倒れたので最初は貧血かと思ったがそうでもなさそうだと救急車を呼んだらしい。相変わらず冷静というかマイペースを貫くというか。 「#名前2#さんは知り合いなのね」 「はは、色々とありまして」 「弁護士をやっている鶯谷という。ブラックバイトなどで困ったら連絡してくれ」 さりげなく名刺を差出して鶯丸は「家族も来たようだしお暇しよう」と俺の腕を引っ張った。 「蘭ちゃんたち、送ってくから外出た階段のベンチのとこで!」 「あ、はい! わかりました!」 病室を出て鶯丸の方を見るとニコニコとしている。いや、世祖と会えて嬉しいだけか。俺と会う時こんな顔しない。 「何なんだよ、このフラグは……」 「さあな? いいじゃないか、別に」 「よくねーんだよ」 「俺はついでに膝丸たちに会いに行くがお前たちも来るか?」 「あれ? 弟者たち、ここだったか?」 別の病院に勤務していたと思った。鶯丸は最近ここに移ったらしいぞと笑う。 「暇になったら顔を見せてやったらどうだ? 奴ら、最近会えてないから苦しんでたぞ」 「苦しむって……」 世祖だけでも行かせるかと声をかけると「ひとり?」と悲しそうな顔をされた。うーん、突っぱねると後が大変そうだ。 「一人で行けないか?」 「俺もいるぞ?」 鶯丸と俺とで覗き込むと世祖はうにゅうにゅと顔を曲げて1度だけ頷いた。 「えらいえらい」 「帰りはどうする?」 「あー、俺のところ連れてきてほしいんだよなー。どうしよう」 「ならばすぐに終わらせる。彼女たちはまだ話すだろう?」 最後の言葉は世祖への確認だ。世祖はちょっと力を使って毛利探偵がいつごろ来るか考えている。また頷いた。 「何かあったら家に送るか三日月のとこか……鶯丸たちの所でもいいけど」 「俺はまだ仕事があるからな」 「おーい、仕事あるのに膝丸に会いに行くのか」 「はは」 笑って誤魔化しやがる。本当にこのあとどうしようと思ったが世祖が鶯丸を俺の元まで案内すればいいのでは?と気づいた。 「できるか?」 「うん」 できるようだ。なら、それで。鶯丸と確認をして世祖を送り出した。その数分後、毛利探偵が病室へ駆け込むのが見えた。ああいう姿を見るとやっぱり奥さんのことが大事なんだなあと思う。暇すぎて鼻歌を歌いながらリズムを刻んでいたら鶯丸がすぐに戻ってきた。世祖はなぜかいない。 「あれ? 世祖は?」 「さあな? 何やら男に会うために俺の手から離れていったぞ」 「はい、青江みたいな話し方しないー」 「はは、ただの冗談だ。よくは知らないが金髪で色黒の男だったぞ」 「OK、理解した」 安室さんと会ったのなら毛利探偵のところに行くだろう。鶯丸とはそこで別れてぶらりとしていたら探偵3人組を見つけた。世祖も一緒にいる。 「あ、見つけた!」 「都大生、なーにやってたんだよ。妹が迷子だったぞ」 「となりのトトロ的なあれです」 「はあ?」 ジョークが通じない。世祖をおぶるとごんと背中に頭突きをしてきた。痛い。 「そういえば、#名前2#さんは楠田陸道という男を知っていますか?」 「え? あー、うーん? 名前に聞き覚えがあるなって感じです」 「そうですか。彼にお金を貸してたんですが、いつの間にか退院してしまって」 「借りパクとか最低ですね……」 また頭突きをされた。俺はそんなのしたことないのに。世祖を背中に持ったままいてえなあ、と頭を揺らして歩いていたら女性の叫び声が耳を貫いた。ああっ、と3人の探偵が病室に向かう。……この5人の中で探偵が3人もいるってかなりシュールだな、と#名前2#は追いかけながら思った。 ノックをしてどうかしましたか?と入ってみると金髪の女性が割れたカップと共に倒れているのを見てしまった。 「ひえっー」 思わず呟いたのは人が死んだからではなく、その人の零した赤いお茶の毒々しさが目に飛び込んできたからだった。見覚えがある訳では無い。ただ、そんな色の飲みのもには苦い思い出がある。まだ高校生の時にドリンクバーのやつを色々混ぜた挙句、おしまいとばかりに赤いドリンクを入れたのだが(そのドリンクは生憎と忘れたが何かの野菜だったはず。)くっそみたいにまずくてファミレスで騒いだ記憶が蘇ってきた。若気の至りといえば何でも済むもんではない。これは思い出してはいけない記憶だ。味さえも思い出しそうになって口を押さえていたら「気持ちわりいのか?」と毛利さんに心配されてしまった。 「ぅぁ、いや……」 「#名前2#さん、大丈夫? 外に行く?」 「ん、ああ……そうだな」 このままここにいたらマジで吐きそうだった。あんなジュースを飲ませに来た陸奥のこと絶対に許さん。 警察が来るまでの間は現場保存としてそのままにしておかなければならないので毛利さんと安室さんは遺体を動かさないように注意させて、被害者と一緒にいた3人を一塊にここにいるように言い聞かせた。これは殺人事件。一緒にお茶を飲んでいた3人が怪しいのは明らかだ。 殺人事件はもう起きてしまったことで仕方ないのだが、問題はコナンと安室さんが俺の両隣に座っている事だ。世祖は眠ったままなのでおんぶからだっこに変えて俺とベンチに座っている。コナンも毛利さんにごちゃごちゃうるさく言われたので俺とベンチだ。安室さんは俺を心配するようにお水を買ってくれてそのまま立っている。 ナチュラルミネラルウォーターって病院とかで買うと高いのに申し訳ないなあと思いながらもありがたく受け取った。口を何かの別の味に塗り替えたかったのだ。水をぐびぐび飲んだ俺に、「#名前2#さん、飴いる?」とコナンからのど飴が渡された。ありがたく受け取ってコロコロ舐めていたら「遺体を見るのは初めてなんですか?」と聞かれた。誰にかっていうと、まあコナンは俺と何度も事件に遭遇しているので安室さんなのだが。言われてみれば安室さんと何かの事件に遭遇したことって無いかもしれない。 安室さんとの初対面は世祖の方が毛利さんについていたので俺は現場を見てないし、ミステリートレインでも殺人事件があったと聞いて動いただけで遺体は安室さんと一緒に見ていない。三毛猫の話でもそうだし、……おお、すげー回避率。コナンに見習わせたい。いや、コナンになる前の工藤からか。 「初めてではないんすけどね……」 ただあのお茶が俺のトラウマをくすぐっただけだ。それを安室さんは都合よく解釈したのか「大変だったんですね」と優しく微笑まれた。コナンが警戒するように俺の服を小さく引っ張る。お前、哀の皮を被ってるんじゃないよな? そこにタイミングよくパトカーの音が病院に響いてきた。ここからでは道路の方が見えないが、「警察が来たようですね」……ということだ。 「じゃあ僕は毛利先生のところへ行ってきます。コナンくんと#名前2#さんは休んでいてください」 「お水、ありがとうございました」 頭を下げると安心したように安室さんはすたすた歩いて行く。やっぱり死んだのには気になるのだろうか。またもくいくい引っ張られるのでコナンの方を向くと「#名前2#さんさあ、絆されてない?」と言われた。 「そうかあ?」 「うん。分かってんの、あいつの正体!?」 「もちろん」 「ならさぁ、」 「でもあの人危険じゃないから大丈夫だって。ほら、水いるか?」 「……いらない」 ぷいっとそっぽを向いたコナンって本当は工藤なんだけどこの年頃のやつは無条件に可愛く見えるから不思議だ。コナンを片膝に抱き上げるとワタワタしてた。 「何すんだよ!?」 「いやー、うざかったから」 「……」 思わず刀剣男士に言うように笑いながら言ったらショックを受けたらしく「ご、ごめんなさい……」と謝ってきた。お前本当に哀の皮被ってない? 「なあコナン。あの女の人なんで死んだと思う?」 「え? さあー。毒殺ってことしか……」 「あそこにあったカップはかなり少なくなってたから多分何度も飲んでるよなあ。それに、入院患者さんこ棚の所にはティーバッグの缶があったしお茶好きなんかね? あ! あとスマホ落っこちてたな。お茶でも調べてたんかや? あー、あと……気になったところは……お茶の色? 赤と青と茶色と黄色だな。まずそうだなーって思ったわ」 「……#名前2#さんってさあ」 「うん?」 「頭いいけどやっぱりバカだよね」 「ハッ倒してやろうか?」 とりあえず事情聴取には興味はないので(基本的に殺人の動機は探偵には計り知れないものがある。)トリックについて考えることにした。聴取を待っていたのか終わったのか廊下にいた容疑者の2人の私服の方たちに話を聞いてみると突然に倒れたらしい。 「でも、あのお茶何度も飲んでたのよ? それなのに、急に……」 「そうそう。それに、カップは適当に取ったのに刑事さんたちは毒はカップに付着してた、なんて話してて……。病室を出た私たちが疑われてるのよ!?」「病室出ても、そんなことやる暇なんてなかったのに!」 「おかしいと思わない!?」 「そっすねえ。病室に出た理由って、何でしたっけ? お湯と……」 「トイレよ! 私は、本当にそれしかやってないのに……」 「お2人が出ていった間は被害者の人と入院患者さんは病室に?」 「ええ。そうだと思うわ」 「へー……」 「じゃあさ、被害者の人にだけレモンが入ってたのはなんで?」 「あら、この子は……」 「知り合いの親戚です。俺が吐きそうになったのを助けてくれたんすよ」 「そうだったの……。あ、レモンは死んだレイナが好きでよく入れてたのよ。お茶の飲み比べなのに、ずーっとレモンを1枚ずつカットしては入れるの。あんなんじゃ、普通の味は分からないわね」 「ん? じゃあ、ほかの皆さんは入れなかったんすか?」 「ええ。あんまり酸っぱいのは好きじゃないのよ」 「私も……」 「んじゃあ、被害者のレイナさんのカップは一目でわかるやつだったんすね。いろんな飲み比べしてても、それだけはレイナさんのだって」 「まあ、そうなるわね……」 「でも、逆にそれで毒を塗るなんて出来ないじゃない? みんなでスマホを見てたんだから」 「スマホ」 「学生時代の写真見てたのよ。ジュリのスマホに入ってるって言うから、レイナを挟んで私とトキエで見せてもらってたの。……あの子ったら、自分の真正面に持ち続けて私たちはのぞき込まなきゃいけなくて……」 「ん? じゃあスマホ持ったままお茶してたんすね?」 「そうよ。レイナだけだけどね」 「八方さん、刑事さんたちが次は貴方の番、と」 「あら、もう? 分かったわ、今行く。それじゃあ」 「どうもー」 入院患者さんに挨拶をしてからコナンと手を繋ぎ、事件現場に向かう。病室の中には遺体もなくなっていて、お茶とカップがあったと示す黒いナンバープレートがあった。 「……なあ、監察さん。ちょっと聞きたいんすけど、」 「…誰だい、君は?」 「あ、えっとー、」 「小五郎のおじさんの助手だよ! 手掛かりになるかもしれないから聞きに行ってくれてって頼まれたんだよ!!」 「眠りの小五郎の? なんだ、そうだったのか……。それで、聞きたいことって?」 「あの、毒はカップに付着してたって本当っすか?」 「ああ。被害者の飲んでいたカップの面のみだよ」 「毒物の入ってた容器とかは? そうゆうのもなかった?」 「ああ。きちんと調べたけど、そういったものは何も無かったよ」 「……。なあ、コナン」 「ああ……。やっぱり犯人は自分のカップとすり替えてるな。でも、どうやって……」 「さあなぁ。世祖がいたら俺達の気づかない点にも気づけるかもな。確かな記憶があれば、真実と間違いに気づけるし」 あざいましたー、とまた頭を下げて病室を出ると廊下を小走りに歩いていた蘭とぶつかった。 「#名前2#さん! ようやく見つけましたよ!」 「どうした、蘭ちゃん」 「どうしたじゃありませんよ! 殺人があったってみんな噂してますし。空はもうこんな赤くなってるし、はやく帰りましょうよ…!」 「空が赤いって、ああ……もう夕方かあ。腹減ったなあ」 「!!! #名前2#さん、おじさんたちんとこ行こう!」 「はあ?」 駆けていこうとするコナンの首根っこを捕まえて「病院内では走るな」と言うと「ごめんなさい……」ときちんと謝った。 「はいはい、それじゃあ毛利さんとこ行くか。蘭ちゃん、この事件解決できたら送れるからもう少し我慢してくんね?」 「えぇー!? はやく、帰りましょうよぉー。私もうお腹ぺこぺこで……」 「あ、じゃあ飴あげるわ。さっきもらったんだ」 「ありがとうございます……」 飴玉を舐めながら歩いていたらコナンが早足でこちらに戻ってきた。 「#名前2#さん、ちょっとさ、看護師さんたちからお湯とレモンを1切れもらってきてくれない?」 「それがいるのか?」 「うん!」 「分かった。蘭ちゃんはコナンと毛利さんとこ行ってくれ」 「あ、はい」 ナースステーションのところに行ったらとてつもなく不審な目で見られた。まさかコナンのやつ、俺を不審者扱いするために寄越したんじゃ……。