警察学校組と
「俺の事ショタコンとか言うけどなあ! スプリッツァー、会った時と今と全く変わってないんだからな!!?」 「嘘をつけ」 「俺たちと会う時は年相応だったけどなー」 「なんだ、ホントに#名前2#に惚れてたのか。いつの間にそんなに一途になったんだ」 「死ぬ直前まで好きだったんだろ? お前とナタリーちゃんと同じじゃん」 「萩原、俺の嫁をちゃん付けすんな」 「うわー! 嫁だってよ!!」 ぎゃーぎゃーといい大人が喚いているのを見ながら不動はナタリーの作った(実際には不動が指示を受けて作った)シリアルをもそもそと食べていた。刀剣男士として隠れることは幽霊たちにはしなくてもよいと分かっているが誰に見られているか分からない。人間のように服を着て朝食を食べていた。 突然現れて今日からお前の両親だ!と紹介されたナタリーと航とはいい関係を築いていると思うが……一緒についてくる3人の幽霊がいるととってもうるさい。 「ゆきくん、おいしい?」 「…うん、ありがとう」 ナタリーは嬉しそうに笑った。本当に子ども欲しかったんだろうなあと思いながらミルクも飲み干す。残念ながら刀剣男士なので成長したりしないし、本当はこの姿よりももう少し年上なんだけれど何も言わなかった。刀剣男士のことや時間遡行軍について聞いたはずのナタリーたちが何も聞かなかった。それならば、と不動たちも何も言わなかった。幽霊と付喪神という不思議な家族は歪だけれどちゃんと繋がっていた。 「ナイフスー、今日はどこか行くのか?」 「おう! 今日は鯰尾兄さんたちがこっちに遊びに来るから薬研兄さんと迎えに行くんだ!」 「へー、いってらっしゃい」 「不動は? 織田組のみんな、今こっちに来てるんだろ?」 「うんー、どうしようかなあ」 「丁度いいや、なあ不動。ちょっと#名前2#の家にいけよ」 「はあ!? 何でだよ、おっさんたちは自分で行けばいいだろ」 「おっさんじゃねーし」 「生きてりゃアラサーだろ? おっさんじゃん……」 「不動、そんなこと言ったら#名前2#さんもおっさんになっちゃうよ」 「あの人は自分からおっさんって言ってたじゃん」 はっとした表情で諸伏さんがこっちを見た。本当にわかりやすいな、この人と思いながら「今日はやめといた方がいいんじゃない?」と善意から忠告した。 今日は確かめんどくさい人達が#名前2#さんと遊びに行くとメッセージを送ってきていた。邪魔をしてくれるなよ、と言葉にはしていないが文字からそんなことが読み取れていた。玄関にいたナイフス…包丁藤四郎がそれを聞いて「そうだな! 今日はオーカネヒラが一番楽しみにしてたもんな!」とわざわざ名前を出してしまった。 にやりと笑った萩原さんに気にしていない松田さん。心配そうな航さんに勝手に自己完結してショックを受けている諸伏さん。あらあらと何だか楽しそうなナタリーさん。いろんな表情を見せている幽霊たちと疲れた表情の俺を置いてナイフスはいってきまーす!と出ていってしまった。残された俺はただただ視線を受け止める機械になっている。 「……。邪魔するなって言われてるんだけど」 俺の言葉は拝み倒してきたおっさんたちに黙殺されて仕方なく俺は出かける準備をしたのだった。航さんはやめた方がいいと言ったがナタリーさんに押し切られた。景光さんは見たくないと航さんと松田さんと留守番。面白がってるナタリーさんと萩原さんを両肩に乗せて俺は家を出た。 「景光も気にするなら見ればいいのになあ」 「でも覗き趣味ですから気にしてるのかも」 「結局幽霊だし気にすることないと思うけどなー」 萩原の言葉に不動は心の中で「鶯丸さんとかは気づく気がするなあ」と呟いた。あのメッセージの送り主も鶯丸さんだ。行動に移したり言葉にはしないけれど一緒に遊ぶことは楽しみにしている気がする。一緒にいる大包平さんはすごく真面目でしっかりしてるけどポンコツ具合もそれなりにある人だ。どうなるか分からない。 「あんまり期待しないでくださいよー」 「分かってるわ」 「分かってるってー」 絶対にわかってないな、と思いながら歩き続ける。何でも弁護士たちの間で有名なカフェに行くらしいという情報は入ってきている。絶対に誰か尾いていってるだろ、と思ってアプリを開いた。三日月は#名前2#さんの嫌がることはあんまりしないし、なんか謎の余裕がある人だからなあ。もっとこう、攻めていくタイプっていうと……。あ、この人がいた。 メッセージを送っていたら名前のところを見て萩原さんが「何この人……」とドン引きしていた。ナタリーさんは顔を赤くさせている。慣れてない人が見たらそう思うよなあと思いながら既読を待っていたらすぐに返信がきた。 「毛利探偵事務所の下、喫茶ポアロのはずだよ。向かい側に僕もいるからおいでよ! ……あの人、暇人じゃねえよな」 「なあ、こいつも刀剣男士なのか?」 「ああ。この名前もそうだよ。本人は気に入ってるみたいだけど」 「へー、なんか変なやつもいるんだな」 まあこの人は名前のように自分の体も縛ってるんだよね、とは言わずにそのポアロに向かうことになった。萩原さんがなんか覚えのある名前だなあと言っていたが結局思い出せなかった。 バスに乗って米花に来た。歩いてそのポアロの向かい、ビルの屋上に白い姿が見えた。どこから登ろうかな、と考えて路地裏のところをこっそりと窓とパイプを伝って登った。幽霊のふたりは浮けるからいいけど、この体で流石にすぐに登ることは#名前2#さんに1発でバレそうなので我慢した。屋上を走って飛んで亀甲さんのところに着いたのはメッセージを送ってから数十分経っていた。もう#名前2#さんはいなくなっているかと思ったが中では何か色々と叫んでいる姿だった。 「#名前2#さんまだいたんだ」 「ああ、ここに来るのも遅かったんだよ。僕が見ているところによると店員さんに来た理由を聞かれて大包平さんが答えて鶯丸さんが引っ掻き回しているっていう感じだね」 「なるほどー」 双眼鏡を手渡されて見てみると確かに#名前2#さんと大包平さんが何か言い合っていた。あの二人はああいう風になるのが通常運転なので鶯丸さんも気にしていない。周りのお客さんも面白がってるのか止めに入ってない。 「あれ、すっげーな」 「あんな感じで盛り上がってるよ……ねえ、君の後ろにいるのって」 「ようやく気づいてくれた……。男の人が萩原さんで女の人がナタリーさん」 「名前は覚えてないのか…。萩原研二です」 「私はナタリーくる、じゃなかった。ナタリー伊達です。こんにちは」 「あー、あの結婚式の人達か」 亀甲さんはびりっとお菓子の袋を開けるともぐもぐ食べ始めた。確か貞宗派はみんな出席したはずなんだけどなあと見つめていたら「ごめーん、忘れてた」と笑われた。この人はこういう人なので気にしない。#名前2#さんたち以外の人間にあまり興味を持たないのだ。 「ほら、たまに視線を向けてくれる。きっと気づいてるんだね」 嬉しそうに笑う亀甲は時たまああっと恥じらうような声を出した。同じ時にスマホのバイブを感じていた不動は幽霊たちの視線を気にせずスマホを確認する。粟田口がチャットを動かしていた。合間に和泉守が「#名前2#さんとこ尾行しにいったやつは自己責任だからな」と送っている。@和泉守とタグをつけて了解と返事を送った。 「あれ? あそこにいるのって……」 「知り合いですか、萩原くん」 「…やっぱり君付け恥ずかしいなー。あー、うん、あの働いてる店員さんね。多分、俺達の同期なんだよなあ。なに、あいつあそこに潜入捜査?」 「あー、バーボンさん、でしたっけ」 不動はこれといって黒の組織の話は聞いていない。チャットが動くのを眺めながらそんなことがあるんだなあと思うくらいだ。バーボンとFBIがバトルした所に#名前2#さんも行ったのは知っている。包丁藤四郎関係だったので不動も話を詳しく聞かせてもらったのだ。 「降谷零。潜入捜査で使っている名前は安室透。ノックとして接触してきたというよりは、えびで鯛を釣るようにスプリッツァーについて仕留めてきた男。同じく潜入捜査を行っていたスコッチを亡くしてからずっとスプリッツァーについて調べてたみたいだけど実際に出会えてから気持ちが暴走気味かな。喫茶ポアロでも仕事に手を抜かず女子高生にも人気。たまに看板娘さんと炎上してるね。女子高生たちからはあむぴって呼ばれてるみたいだよ」 「……だそうです」 は、はあ…とハテナを浮かべるナタリーさんと何こいつという目をした萩原さん。亀甲のこれは仕方ないのだ。沖野さんからここでの接触に制限がかけられた。本丸でならまだしも、ここは衆目のある場所なのでいつも通りの振る舞いは良くないという話だった。その代わりに、と沖野さんは亀甲が多少の犯罪行為をしても見逃そうと言った。このご時世、不審者にはとても厳しいので亀甲が捕まらないようにという配慮だったらしいのだがそれを逆手にとって多少の違法行為までしてでも情報をかき集めてしまった。それを説明するのは難しいので「この人、ストーカー気質なんです」と一言で終わらせた。 「まあね! でも僕が見ていたいのは恋愛ではないから!」 「うん、知ってる」 恋愛だったら多分三日月さんに折られてる気がする。ナタリーさんは「そういう人もいるんですねえ」と笑っているが萩原さんはもう蔑むような視線に変わっていた。 「降谷のことは俺たちのがよく知ってる。アイツが誰かひとりに熱を上げるか?」 「まあ、過去のことはよく知らないけど今なってるからそうなんじゃないかな」 萩原さんは何だかイラついたように消えてしまった。ナタリーさんが慌てて追いかけに行く。たいていの人間は亀甲と相性が合わない。刀剣男士としてこういう性格なんだと理解するのと、突然現れてご主人様!と呼んでくる人を理解するのと想像してもらえば分かるだろう。#名前2#さんは刀剣の個性だなと思うだろうし、一般人からすれば頭のおかしな人がいると思う。一目惚れでもしない限りは、だが。 「彼のこと、追いかけなくていいのかい」 「うん、まあ別に」 「ふふ、厳しいね」 「あっちが勝手に家に来てるだけだしね。ナタリーさんと航さんはナイフスも好きみたいだけど他の人達は…なんか微妙」 「……ああ! 萩原研二さんって#名前2#さんの恩人だったよね、今思い出したよ。今度、お話聞こうかなあ」 「………。多分無理だと思うけど」 るんとした亀甲に不動は溜息をつきながら返事をする。丁度#名前2#も喫茶店から出てきたので亀甲と共に屋上を降りた。ポアロから離れたところで声をかけると大包平からまずお説教がきた。それが済むと今度は不動が幽霊について話を聞かれて、そのまま家まで連れてこられた。もちろん亀甲は家に着く前にお別れしたが。 話を聞いた#名前2#はあーっと頭をかきはじめた。 あの人たち、何、面倒臭い性格の集まりなのか!? くっそ!! そんなことをブツブツと呟いた後で不動と呼びかけてきた。真正面に視線を向けられて負けじと瞳を見つめる。 「あの人たちといるの辛いか?」 「……えっと、」言ってる意味がよく分からない。結局決められたことに何か文句を言う刀なんているんだろうか。 「嫌ならちゃんと話つけるし、こっちに連れてくることも出来る。不動は決められたことに従うって言うけど、当事者のお前やナイフスが嫌なら俺も無理強いしないから」 「……」 そこまで言われて少し考えてみた。別にあの人たちが嫌いな訳では無い。うるさいとは思うが本丸にいた時の方がうるさかった。この気持ちはなんというか、言葉にしにくいが…。 「面倒だとは思うんだけど、嫌ではない、かな。声も似てるしね」 「萩原さんなー、大般若の声と同じだもんなー。向こうの方がちょっとチャラいけど」 「嫌ではないんだけど、ただ……、友達関係のことはうるさいなあって思う時あるかな。大事にしてるのは分かるけどあの人たちはもう幽霊で、生きてる人には話しかけられないし今を生きている人達の邪魔になるかもしれないって考えて欲しい」 「うん。うん」 言葉にするのは難しいがたどたどしくそんなことを言うと#名前2#はきちんとスマホにメモをした。よしっと見せてきたそれを不動も確認する。 「俺の口から言うと多分松田さんたち聞いてくれない気がするから石切丸に頼んどく」 「石切丸さんに?」 「ご自慢の神力でどうにかしてくれる、気がする」 自信はないけどなと笑った#名前2#に不動も笑う。素直に笑えたな、とぐしゃぐしゃに頭を撫でられた。 家に帰るとナイフスと航さんが迎えてくれた。お疲れ様、大変だったろうと航さんが頭を撫でる。あのまま#名前2#さんに何も言わずに帰ったらトゲトゲした気持ちで反発してたんだろうなと思った。ううん、大丈夫ですと返事をしてナイフスとリビングに行きテレビをつけた。眠たいが家のことは頑張ってやらなくては。 「不動、眠いのか? 寝てもいいぞ。今日は安定さんも来る日だから」 「お前こそ……」 「僕は大丈夫だ」 ほら、とクッションを渡されて少し寝ることにした。ソファーに横になると包丁藤四郎がずるずるとタオルケットを引きずってきた。ホコリが大変なことになってるよなあと思いながらも瞼は落ちてきている。自分では気付かなかったが相当に疲れていたらしい。 「おやすみ」 小さく言った言葉は誰の言葉だったのか。男の人の声だったが航さんではなかった。知りたくとも瞼は重くて開かなかった。不動はそのまま眠りについた。