警察学校組と
その日は部下達から急いで家に帰るよう職場を追い出された。風見1人ならまだいいのだが部下達全員が風見の味方になってはこちらも負けるしかなかった。ただでさえ休みを取らないので部下も休みを取れず部下潰しとまで呼ばれるのだ。これ以上評価を下げられなかった。 家に帰っても空虚な気持ちになるだけだ。せめて、と日本の日常を見て回るように歩いていたら梓さんに会った。 「あら、安室さん。こんばんわ」 「え、ええ……。こんばんわ、ポアロはもう終わりですか」 「はい。安室さんがいなくて女子高生たちは残念そうでしたけどね」 「あはは」 「それじゃあおやすみなさい」 「はい、おやすみなさい」 梓さんとの会話でふと自分の家に行く気になった。食材を買って帰り、夕食と明日の朝食の分で多めに作った。これで好きな人に渡せたらどんなにいいことか、と油断しそうになる頭を叩いた。気が抜けるとすぐこれだから困る。 シャワーを浴びてベッドに潜る。こんな早い時間に寝るのは久々で明日は何が起きるんだろうかとそんなことを思いながら眠りについた。 「ゼロ! ゼーロ! 起きろって!」 「…!? ひろ、みつ…?」 「仕事大変なのは分かるけど友人の結婚式に寝るのはどうかと思うぜ」 友人? 結婚式? 何が起きてるのか分からずに辺りを見回すと通路を挟んだ反対側の座席に松田と萩原の姿が見えた。正装に身を包み手を振っている。いつもと雰囲気が違うが間違いなくあの二人だった。横に座る人を見る。無精髭は剃って童顔をさらけ出した幼馴染がいた。 「ほら、ゼロ。もうすぐ来るぞ」 これは夢だろうか。それともいつもと違うことをした自分に神様がなにか見せてくれてるんだろうか。前を向くといつも見ていたピンとした姿勢の男が立っていた。白いタキシード。自分の格好を慌てて見返すと黒い正装をちゃんと着ていた。新婦の登場です、と声が聞こえる。振り向くと外国人の血が混ざっているような女性が仮面をつけた男と歩いてきた。よくよく見ると俺たち以外は仮面をつけて正面を向いて座っている。 「ここは、どこだ」 呟いた俺の声に景光が笑った。何言ってるんだ、教会に決まってるだろ。そういう返事は求めてない。神父はのほほんと女性を待っていた。しずしずと近づいて行った彼女に伊達が笑いかける。その微笑みがあまりにも幸せそうでこちらが辛くなった。 誓いの言葉を確認し、神の前で誓いのキスをする。友人のキスシーンなんて、と昔は馬鹿にしていた。絶対に結婚式に出てやらないと嘯いたこともあった。公安になると決めたあの日から、友人の結婚式は出られないだろうなと確信を持った。友人の門出を祝う場がこんなに幸せなもので素敵なものだと知らなかった。割れんばかりの拍手が送られている。その光景はまるで絵画のようでなにか凄い熱が渦巻いている気がした。 「さあ、時間もありませんのでここで新郎とその友人からのスピーチに致しましょう」 スプリッツァーの機械音声が聞こえてきた。あ、と視線を向けた先の仮面の男が笑いかける。いつもとは違うフォーマルな服装、オールバックの髪の毛。横に座る女の子。名前を呼ぶ前に「降谷」と名前を呼ばれた。 「だ、て……」 「すまねえな、俺までお前を置いて行っちまって」 「本当だ、ばぁ゛ぁ゛がっ! お前までいなくなって、俺に、どうしろって……」 「公安にいて連絡よこさなかったお前もお前だからな!? 葬式呼んでやれなかったろ!!」 「うるさい! 結婚式なのに葬式とか言うな!」 「……俺は見ての通り、死んだ先でも幸せにやってる。お前はよぼよぼのじじいになるまでくんじゃねえぞ。誰かと付き添って幸せになってからこっち来いや」 「……言われなくとも」 「あー、すまねえ降谷。伊達にもだが、相談無しに突っ走って死んだ」 「ホントだよ! ふざけんなよ、報・連・相ぐらいしろよ!」 「だから公安のお前に連絡しても仕方ないだろ……。んー、そうだな。俺は、生き急いでたけどそれでも後輩育てる種はまけたし、今ちゃんと繋がってるって見てきた。だから後悔はない。降谷は後悔するんじゃねえぞ」 「…分かってるよ、そんなこと」 「えーっと次俺だよね。すまんな、ドジった」 「お前が1番腹立つ! 何なんだ、防護服着てないって! タバコ吸ってるって!」 「気ぃ抜いた」 「お前は警察学校からそうだろ! こっちが何言っても聞きやしない! そんなんだからーー! そんなん、だからッ……」 「あらら泣いちゃった。んー、降谷。お前は俺と違って真面目だったけど手を抜かなすぎる所あるから。たまには休憩することも覚えろよ」 「………ああ、ありがとう」 「最後は俺だ、ゼロ」 「景光、ごめん、おれ、おれ……」 「ゼロ、お前は生きろよ」 諸伏の言葉に#名前2#も驚いた。最後まで何を伝えようか迷っていた諸伏は時間が来たら降谷を起こしてくれと頼んでいたのだ。なのに、時間も残して諸伏はその一言で終わらせた。念の為決めておいた終わりの合図が送られる。世祖が頷いた。1つの夢の世界が消えていく。あれだけ頑張ったのに終わるのは一瞬だ。 「ヒロ……」 「生きて、俺たちの分まで生きろ。変な時にこっち来たらぶん投げてこっちに突き落とすからな」 ボロボロになって安室さんは泣いている。トリプルフェイスのどれかの顔ではなく、しがらみが何も無いただの降谷零が泣いていた。言葉もなくただ涙を流している。その光景はとても怖かった。結局これは彼にとっては幻で何も残らないのだと知っているととても怖く後味が悪かった。 テレビの電源を切られたように夢は黒に消える。結婚式が終わりを告げた。 家に置いてあった花束や飾りに使った折り紙、仮面などを袋に詰める。と、まるで機械作業のようにやっていたたころで花はそのままでは捨てられないと袋から取り出した。ゴミにまみれていた訳では無いが水を簡単にかけてから花瓶を用意して飾った。幽霊達のうち、伊達夫妻は不動たちの住む家に行く。普通の人には見えないが彼らにとっては大きな繋がりとなるだろうと判断してのことだ。結婚して子どもを育てるのが夢だったのとナタリーから聞いて#名前2#はそれならと起案したのだ。 幽霊なので家事などは出来ないが話すことと不動たちに触ることは出来る。彼らのメンタル面が少々心配だった#名前2#はこれでようやく肩の荷が降りたと笑った。他の3人は実家に戻ると言い家から消えた。 結婚式と同じように人が居なくなるのも一瞬だった。また静かな家になって世祖はぽつねんとリビングに立っている。 「世祖、疲れたろう。寝ようぜ」 「うん……」 目をゴシゴシと擦りながら近寄ってきた。世祖を寝かしつけた後で自分のベッドに潜り込む。夢を使った分、寝れる時間は少ない。明日の一限は切ろうと決めて目覚ましをかけた。 翌日の朝、幽霊が家にいるなんてことは無く。#名前2#は眠たがる世祖を連れて学校へ送り届け大学で眠りについた。二限の授業からはしっかり出るとそのまま世祖を迎えに行った。沖野さんからビデオ通話するよと連絡が来ていたのでその準備をするのだ。ついでに不動たちの家を覗くと伊達さんとナタリーさんが何やらゴソゴソとやっていた。 「なんか忙しそうだな」 「ん」 話しかけるのはまた今度でもいいか、と自宅に戻ると「わっ!」という大声を聞いた。視界がいつもの白いものでおおわれるのではなく、実体を伴っていた。目がふさがれている状態だった。 「は、ぎわらさん……」 「やっほー」 「なんでここに……」 「なんでって……伊達ばっかりずるいなーって思ってさ」 「はあ……」 「でも#名前2#くん、俺たちのことここに置くと保護者さんに怒られるっぽかったからほかの人たちに頼んだんだよねー」 「!!? 頼んだって、まさか……」 「まあ、そのまさかだよね」 扉から顔を見せたのは意外なことに髭切だった。仕事が忙しいからと結婚式には出席していない。なのになぜ、幽霊たちと話していたんだ? 疑問を持っていた#名前2#に髭切は「休みをもらって顔でも見ようかと思ったら変な気配がしててね。お邪魔したら彼等に会ったんだよ。なあに、僕らの話はしてなかったのかい?」 「ん? ま、まて、お前まさかー」 「あは、話しちゃった」 髭切の声と一緒に松田さん、諸伏さんの二人が顔を見せた。やってしまった。刀剣男士だとバレてしまった。そんな思いを持ったのは何回もあるが、こんなにも大きなショックに見舞われたのは久々だった。足の力が抜けてへたりこむ。ごめんねという髭切に何と声をかければいいのか分からなかった。 幽霊たちに何か話をする前に沖野さんにビデオ通話を繋げた。変にここで動くよりも指示を待った方がいいと判断してのことだ。髭切に三人を任せて世祖と共に部屋に閉じこもる。これで何か責任を取れと言われたら潔く死のうと決意を決めていた。しかし、そんな#名前2#の悲壮な顔を沖野は笑い声ひとつで吹き飛ばした。 「君みたいな男が一人死んだところでなにも意味がないじゃないか。自殺なんてされて世祖に迷惑がかかる方がこちらの不利益だね」 「あ、の……じゃあ、お咎め無し、なんでしょうか」 「全くではないよ。たぶんどこかで届くと思うけど、君には任務をこなしてもらう予定だからね」 「任務、ですか?」 「ああ。日本内で少しややこしいことが起きそうでね。変な奴らに巻き込まれる前に君に解決を頼みたいんだ」 「分かりました」 「刀剣男士の方も分かってるだろうけど世祖の家に幽霊を暮らすことだけはやめてくれよ?」 「はい、その点は大丈夫です」 マイクを外してふう、と息をついた。世祖は#名前2#の顔を見上げて「うーぅ?」と首を傾げた。 「大丈夫だ、世祖」 「あい」 リビングに戻ると諸伏さんが扉の近くで待ってくれていた。大丈夫だったか?と食いつくように聞かれた。 「大丈夫です、とりあえず今後のお話をしたいので座ってください」 「ごめん、俺たちが成仏してないから……」 「諸伏さんのせいではないので……。ほらー、松田さんなんかもう髭切たちとくつろいでますよ」 「きっき」 「世祖、久しぶりー。弟には前に会ったんだよね? ずるいなあ」 「ふふー、ひじゃ」 「はぁー、ほっぺた触るの楽しい」 「えーっと、あいつらは置いといてとりあえず話をさせてただ来ますね。伊達さんはーー。また今度、お話します。ナタリーさんがショックを受けないように色々とセッティングをしたいので…」 「まあ、妥当な判断だな」 「ということで簡単に言わせてもらいますと、こんにちは未来人です!」 ぶふっと後ろから笑い声が聞こえた。髭切の話は聞いてるはずなのになぜか笑われた。とりあえず審神者と刀剣男士について俺でもわかることを説明すると三人の顔がどんどん沈んだような表情になっていく。疑問を持ちながらもとにかく全部話してみようと続けていたら萩原さんにストップと手を見せられた。 「君は俺たちのSAN値を減らしに来てるのか?」 「え、そんなことありませんけど……」 「すまん、少し休憩させてほしい」 「え、あともう少しで終わりますけど……」 「……いや、もう満腹だよ……。でも、最後に…#名前2#くん、聞かせて欲しいんだ。君は本丸に帰りたいのか?」 「そう、ですね。俺は未来に行ってからあんまり自分で決めてなくて。今はちゃんと言葉に出来ないんです。ごめんなさい、ここに居るのも楽しいんですけど」 「そうか……分かった、言葉にできるようになったら聞かせてほしい」 「はい」 諸伏は微笑むと「とりあえず今日は出ていこう」と松田と萩原の背中を押す。まだ他に言いたいこともあったはずなのに、#名前2#の言葉で頭が真っ白になってしまった。幽霊になってこんな重大なことを知って…これからどうすればいいんだろうか。 用意された部屋に戻り空中にぷかりと浮かんでいたら「戻ったんだね」と声がかかってきた。 「石切丸さん」 「気配があったからね、すまないが確認のために来させてもらったよ」 3人いるね、と視線が動く。なあ、と松田が1番に動いた。 「あいつ…#名前2#ってのは、本当に俺たちと同じ世界で生きてた男なのか?」 「あ、ああ……話を聞いたんだね。そうだと僕も聞いているけれど…どうかしたのかい?」 「いや…何だか俺たちの知らねえことを一気に頭に詰め込まれてついていってねえんだ。本当はあいつらやアンタの方が長生きって言われてもなあ」 「ああ、そんなことか。別に気にすることないよ。僕らなんか小学生みたいな子が平安生まれだっているんだからね」 「うん~~、そういう話ではないんだよなあ」 そうなのかい?と石切丸は話を聞こうとしてくれるのだが幽霊たちは話が噛み合わないんだろうなと予想はついた。これから外には出ないから安心して欲しいと石切丸を部屋から出ていくように差し向けた。……なんだかぐったりと疲れてしまった。これからの話は明日にしようと萩原が言って二人ともそれに頷いた。幽霊は寝れるのかなという考えは3人はその時はなぜか持っていなかった。