土星「消える」「まどろみ」「指輪」
IFジンの続き ジンに失言をしてしまったらしく、一気に仕事を増やされた。世祖はそんな俺を見て「やれやれだ」と言うかのように首を振る。いやあ、俺もセフレじゃないなんて思ってなかったし。あの後からジンは俺に対して餌を要求するようになった。それは簡単な要求の時もあれば「まじで?」と耳を疑うような時もあった。 名前を呼べ、料理を作れ、タバコを吸ってみろ、フェラしてみろ、などなど数えたらキリがない。第一、餌というにはこいつはペットらしくないのである。飼い主の自覚もないのに要求されるというのは、野良犬でも飼ってる気分だ。 ある日俺は「餌って言うからにはさ」と話を切り出した。つまり、飼い主との関係をはっきりさせようと言うのである。ボスが飼い主なら俺はそれでいいと思うのだ。組織としてそれはジンにとって正しいと思うのだ。ジンは話を聞いたあとふむ、とそっぽを向いた。考え事をする時俺に見られたくないらしい。 「……なら、てめぇが俺によこせ」 「ん?」 「お前が、俺に、何かよこせ」 俺の方に主人らしくしろ、と言いたいのだろうか。面倒だな、と思ったが逆らう方が面倒だった。着けていたブレスレットを渡したらジンはしょげた顔をした。 「なんだよこれじゃ不満なのか」 にんまり笑った俺にジンは表情を消して「馬鹿言え」と返す。本気の気がして反省した。 次に会った時、ジンは#名前2#の指に光る指輪が気になっていた。普通のリングとは少し違う。それ以降もその指輪は必ずはめられていた。ブレスレットは時と場合で外すくせに。初めて見た時に調べたがレースリングというものらしかった。月がモチーフになって組み込まれたレースの模様。それを見るとジンはじくじくと心が痛む。何処に何をつけていようがジンには関係ないけれど嫌いなものは嫌いなのだ。 「おい」 「どうしたー」 顔が近い。セックスしたあとのくしゃくしゃの髪の毛がジンにかかるほどだった。目を瞑り「その指輪が欲しい」と言う。#名前2#はふふっと笑った。 「残念だけどこれはダメだなあ。貰い物なんだ」 何かほかのやつを買ってやろうか?と#名前2#が言うがそういう問題じゃない。今、#名前2#がその指輪を着けていることが気に食わないのだ。ジンは黙って寝たフリを決め込んだ。#名前2#はそれ以上何も言ってくれなかった。 翌日、ジンがシャワーを浴びていた間に#名前2#は出ていってしまったようだった。もぬけの殻となっていたベッドを見てジンがどれほど辛くなったのかあの男には分からないだろう。次の約束を取り付けることも無くジンにとってのデートは終わってしまった。あの日から何をしてもやる気が出ない。#名前2#が指輪をくれなかったことが頭の中にこびり付いている。あのブレスレットだけでも貰っておくべきだったのだろうか。いや、でもブレスレットはどうなんだろうか。外してもいいものだぞ、あれは。考え込んで居たら#名前2#から連絡が入っていた。空いてる日を教えてくれないか、と言われた。いつもの誘い文句だった。ジンは今すぐこいと返事をして不貞寝を決め込んだ。 ジン。名前を呼ばれた気がした。まっくらな世界の中で#名前2#が見えた。そしてキラキラと反射する何かも。 「かぇってきたのか」 #名前2#が消えてしまったと思った。愛想をつかして誰か別のところに行ったのだ、と。自分が輝くそれを欲しがったからいけなかったのだ、と。きっとジンには求めてはいけないものだった。まどろみの中に沈むジンの顔をなにかが撫でた気がした。#名前2#だろうか? いや、それはない。彼が、向こうから触ってくれることは、きっとない。 ことの始まりは世祖にシルバーアクセを見せたことだった。出かけた先の駅でハンドメイドの店が集まったイベントがあったのだ。せっかくだから、と渋る世祖を連れて#名前2#は中に入っていった。情報量の多さに世祖は泣きそうになり#名前2#の背中の中で縮こまっていたのだが視界の中にキラキラと光るものが飛び込んできた。いけ、いけ、と#名前2#の背中を蹴ってその店に近づいた。自分の手で加工している、と見せられたシルバーアクセサリーたちだった。どうやらここではシルバークレイという粘土を加工して作っていたらしい。それらを目にしっかりと焼き付けていた世祖は家に帰ったあとさっそくシルバーアクセサリーが作りたいと我儘を言い出した。#名前2#は作るのは構わないが必ず自分で処分しろ、と言った。世祖はアクセサリーをつけるのが大嫌いだったからだ。 案の定作られたアクセサリーたちは家に少しずつ溜まるようになった。あまりオリジナリティー溢れた品物とは言いがたく刀剣男士たちに最初は配っていたのだがなかなか捌けない。仕方なく#名前2#は自分でつけて過ごすことにした。こうすれば少しは興味を持ってもらえるかもしれない、と思ったのである。 そうして出来上がったブレスレットやレースリング、ピアスたちは#名前2#が着けたりして「どこで買ったのそれ?」という一言を待っていたのである。 ただひとつ。レースリングについては世祖がわざわざ#名前2#のために作ったものだった。 「こぇ」 「んー?」 世祖は#名前2#の手のひらを無理やりに開けてそして指輪をつけた。ちゅっ、と可愛らしいリップ音を鳴らした。審神者としての世祖が#名前2#に祝福を与えてくれたのだ。そんなわけでこの指輪は#名前2#には外せなかったし、あげることもできなかった。 「んー、どうしようかなあ」 #名前2#はジンの機嫌をどうやってうかがおうかと考えていたが、その目論見はぱっと消える。部屋の中にいたジンがぐずぐずと涙をにじませながらベッドにくるまっているのを見て、事態はもっと深刻であったと気づくのだった。