ハロウィンの花嫁
千葉刑事たちを助け出したあと、また警視庁へ戻ってきた。どんな会話をしていたのかという聴取のためである。あの組織について知っていることはあるか、と聞かれて「たぶんですけど」と前置きをしたあとナーダ・ウニチトージティという組織の話をした。 「プラーミャの被害者遺族とかの集まりですよ。まあ、ロシアなのでものすごく強いですけど。こんなこと言うと怒られるかもしれないっすね」 根本的な強さの基準が違う、と言えば「君が無事で本当に良かったよ」と返された。そりゃあ公安の依頼だしね、とは言わずに「本当に。結構危なかったですけど」と笑った。加州と世祖はあの後姿をくらませたので、あの場でどうして向こうが立ち去ったのか警察はよく分からないままなのである。 ナーダ・ウニチトージティは逃げて、また事件は振り出しに戻ってしまった。佐藤刑事たちは松田さんと同期だったフルヤという男に目をつけているらしいが、風見さんからその情報にはストップがかけられているのだそうだ。後で風見ざが教えてくれた。 そんな状態だったので、これ以上はここにいても仕方がないと小五郎さんのお見舞いに行ったのだがストップがかけられた。もちろん、幽霊の松田さんに。 「なあ、おい。あのロシア人たちは何者だよ! お前と妹は何に首突っ込んでやがる!」 「ハハハ」 「笑って誤魔化すな……。こっちはな、本気で心配してんだよ」 「いや、死んでる人だからバラしてますけど。そうじゃなかったらどうしてたことか」 「……」 「まあ、詳しくは説明できませんけど。そういう任務を請け負うことが往々にしてあるってことですね。……往々にしてって、使い方合ってるか分かんないですけど」 「そんなしょっちゅうあんのかよ」 「まあ、それなりに」 スプリッツァーとしての悪名は世界に轟いている。スプリッツァーが死んだという話もあやふやにされてしまえば今はもはや信用ならない噂程度でしかない。 松田さんはそれ以上何も言わなかった。 小五郎さんのお見舞いに行くと、やっぱりまだ目覚めていない。蘭ちゃんを連れてカフェにでも行こうかと誘えば「あ、#名前2#さん。このマーク見覚えあります?」と何かの紙を差し出された。 「なにこれ?」 「ほら、あの警視庁前での爆発事故の時にメモが落ちてきて。こんな感じのことが書いてあったよなあって思い出して……」 「ロシア語だね」 「えっっ。……ロシア語、分かるんですね」 「ちょっとした趣味の範囲でだけど。そうか、そういうことだったんだ」 「な、なにがですか?」 「ごめん蘭ちゃん、カフェはまた今度にしてくれ!」 世祖を抱きかかえて俺はすぐさま警視庁へ向かった。移動している間に、世祖がコナンへとメールを送っていた。村中さんの結婚式の予定を俺は知らないのだ。だが警視庁にいっても一課の人々になかなか会わない。みんな出ていることはないだろうが、米花町なので一課の人々は基本的にはずっとずっと忙しい。 「……風見さん! あの人なら、」 #名前2#が電話をかける前に、世祖がすっと自分の携帯を見せてきた。結婚式場へはやく行かないと、プラーミャが何かしでかすとコナンからの連絡だった。 「……ハロウィンに結婚式なんてすんなよなぁ」 泣き言を言う#名前2#は自分が心底いやなことを言っている自覚はあった。 「#名前2#」 「ん?」 「ハロハ。かそー、しっ、よっ」 世祖がそういうことに興味を持つのは嬉しいけれど、今から爆弾魔と戦いに行くんだよなちょっと待ってくれよと考えたのは一瞬のことだった。するか! と勢いよく宣言した#名前2#に世祖はすぐに力を与える。一番好きな、本丸にいた時と同じ姿だった。 渋谷ヒカリエにまで行くと、結婚式の予定が既に書かれていた。エレベーターに乗っても遅いぞ、と思ったがここで世祖にまた力を使われてもストレスがかかるかもしれないとやめにした。世祖の方は久々に本丸にいた時のような#名前2#に会えて嬉しそうだったが。 式場にまでつくと、もうコナンとかぼちゃ頭の集団たちが来ていた。プラーミャはまだ言い逃れしようとしているらしい。彼女のことはなんとなく知っているぐらいだ。息子を殺された、と。理不尽な世界へと突然落とし込まれた母親だった。米花にいてもよく思うのだが、なぜか身内の死に対してみんな敏感だ。 #名前2#自身は自分の家族にそんな強烈な感情を抱いたことがほぼなかった。信用していなかったし、ようやくできた甥っ子に対してもその線引きがあった。 「クリスティーヌさん、あの爆弾の中和する薬は完成したので。もう、これ以上のことは無駄ですよ」 わざと怒らせるように爽やかに言うと、彼女の顔が酷くひきつった。あ、来るなこれは。世祖をおろすとすぐにコナンの元へと近寄った。ちゃんと自分が何をすればいいか分かっている。 フッ、フフフ。彼女の声が一段と低くなって笑いだした。 「まっったく! こんなガキどもに作戦を止められるなんて。わたしのこれまでの成果を全てあわせたってこの屈辱が消えることは無いね」 「そりゃあそうだよ、あんたはこれからも屈辱を味あわなきゃいけないんだから」 はぁ? と顔を上げるプラーミャに俺は銃を向けた。この姿になったら持っていたもの。おそらく、陸奥守が持っていた銃だ。 「#名前2#くん!」 「#名前2#さん!!」 「ここで戦うか、自首するか。どうする?」 「……ふっ、そんなオモチャ一つで止められると思われるなんて」 ばさり、とスカートが翻ったと思ったらプラーミャが襲いかかってきた。これだからスカートは嫌いだ。足さばきが分からなくさせられる。 拳銃が捨てられて、プラーミャは俺を蹴った反動のまま上のテラスへと移動した。逃げるのかと思ったが、世祖に「くる!」と叫ばれてすぐに逃げた。プラーミャは隠し持っていたらしいマシンガンをどんどん放ってくる。 「マツダ、大丈夫か!?」 「……ごめん、俺、マツダじゃない! #名前2#っていうんだ!」 銃撃の中での自己紹介なんておかしなことをしているが。エレニカは「なら#名前2#! お前は子どもたちを連れて逃げろ!」と叫んだ。 「それは無理!」 プラーミャは上からの攻撃で確実な有利をとっている。じりじりと出口に近づいているからこのまま逃げるつもりだ。たぶん、おそらく。あの見学の時に話していた、チャーターしているヘリコプターにのって。 「コナン、屋上行けるか!?」 「わかってるよ!」 俺よりも先に世祖が扉の外へと飛び出した。プラーミャが反応するが、世祖の方がはやかった。急いで俺とコナンも後を追いかける。屋上に行くと、世祖はプラーミャと戦っていた。ヘリコプターはもう近づいているのに。 「世祖、そこは危ないから!」 だが、話を聞いてもらえない。頭に血が上っているのか、それともなにか別の狙いがあるのか。 「コナン、麻酔銃は?」 「あんなに動いてるんじゃ狙えねえっすよ」 「だよな」 やっぱり自分が行かなきゃダメだろうか。そう思っていたら、ジジと電波がつながる音がした。 「君はそこにいてください、彼女達のことは僕が何とかしますから」 「……安室さん!? えっっ、なんで……」 「蘭さんにお願いしておきました。君が会いに来たら、この機械をつけておいてくれ、と」 自分の体を確認すると、確かに腕時計のところに何か着いていた。シールタイプのそれを見てはぁっと息を着く。 「世祖が関わってますね、これ」 「まあそういうこともありますかね」 つまり、世祖があんな風に倒れたのは何かしらの意味があったのだ。小五郎さんがやられて素直に人の言うことを聞くなんてなかったのかもしれない。 世祖とプラーミャはじわじわとヘリコプターの着地地点から逃げている。いや、世祖が誘い出している方が正しいか。 「#名前2#さん、今安室さんって……」 「あのヘリにいるのが安室さんっぽい」 「え゛っっ」 「プラーミャの考えがよく分かんねえ。コナン、俺たちは下へ行こう。あのハロウィンのかぼちゃ、嫌な予感がするんだ」 「う、うん……」 世祖のことはいいの? と視線が語っている。だが、今回だけは世祖と安室さんのコンビに任せた方がいいと思ったのだ。階段のもとに行こうとしたコナンをとっ捕まえて#名前2#は屋上の端へと向かう。 「……#名前2#さん?」 「うん、死にゃしないから」 「そうじゃねーよ! 階段使えばいいじゃねーかよ!」 「時間かかる」 本丸にいたころの装備だったのでこっちの世界じゃ持ってなかったものも入っている。あっちの世界じゃ刀剣男士たちを捕まえるのも一苦労だったよなあとなんだか懐かしくなった。 「はい、これパラシュート」 「……なんでそんなの」 「ハロウィンの仮装だから!」 「ハロウィンの仮装でんなの持ってるの聞いたことないっすよ!」 「持ってるんだから仕方がない」 背中に背負い、コナンを自分のツナギの中にしまいこんだ。ついでに彼の持っているサスペンダーでコナンと自分を結ぶ。 飛び降りると、コナンはぎゃーぎゃー騒いでいたが2234年製作のタイプなのでそんなに古くない。金具を引っ張れば、ちゃんと軌道に乗った。上から見るとよく分かる。あの爆弾と同じ液体の光をしたジャック・オー・ランタンが見えている。 「コナン、あれ見ろ!」 「んぁあ!?」 「あの水色とピンクのかぼちゃ! あれがそのまま混ぜ合わさったら渋谷どころか東京の半分くらい吹っ飛ぶんじゃねーの!」 コナンはようやく重大さが分かったのか、止めなきゃ! と叫んだ。 「そう、今から止めるんだよ、俺とお前で!」 中和薬はできているのかどうかは知らない。世祖があの調子ならすぐにできると思う、もしくは安室さんがあそこに来たということは爆弾に対する解決方法がひとつできているはずだから。 俺たちは今こっちで頑張るしかないのだ。 #名前2#たちがいなくなるのを見て、世祖はぺっと唾をはいた。殴られたところから血が出ている。自分がこんなふうに戦ったのは久々だった。それこそ、何百年ぶりかもしれない。 ヘリコプターがとまる。警察の足音が聞こえている。まだ来ないけれど。 プラーミャはさっそく乗り込もうとするが、そこにいる男があのフルヤレイだと気づき顔を顰めた。 「お前、どうしてここに……」 「あんたを……地獄へ道づれにするためさ!」 ぐっとプラーミャがヘリコプターの外へと押し出される。嫌な音がした。関節が外れる音だ。 「お、お前……」 プラーミャが懐からなにかとりだそうとしている。世祖は自分の持っていた髪飾りをとるとぎゅっと圧縮させた。弾丸なようにとがらせたそれをプラーミャめがけて投げた。 安室に向かって投げられそうになったそれは世祖の投擲によってあらぬ方向へと飛ばされた。だが屋上の上の範囲内だ。ぐっと世祖は手を伸ばした。不自然ではない程度の風を巻き起こす。上空高くへと飛ばされたそれはそのまま爆発した。 「チッ! お前……。お前がいると、」 プラーミャが世祖の方へと向かってきたが、安室の方が上手だった。「こんな少女相手に、お前は大人気ないな」なんてお前も普段は大人気ないだろうがという言葉を言いながら。 戦い始めたふたりはプラーミャの作戦が勝った。また爆弾をとるフリをしたと思ったら、ヘリコプターの方に飛びうつったのだ。あの戦いのさなかにヘリコプターのキーは盗んでいた。 「あばよ、探偵!」 くそっ、と安室が舌打ちをする。世祖は意を決して「こっち!」と叫んだ。 「とぶ! はやく!!」 土台にはなりきれないが、その背中を押してやることぐらいはできる。世祖に言われて安室は「これで死んだら恨むからな」と呟きながら屋上から飛び跳ねた。前の時のように誰かの土台はない。それに、ヒカリエの屋上だ。失敗すれば死が待っている。それでも飛んだのは、あの子どもの信頼に負けたくなかったからだった。 手が届かないかと思ったが、ぐいっと謎の力に引っ張られてヘリコプターにたどり着いた。後ろを見ると世祖は一課の刑事たちに保護されていた。プラーミャの顔は阿修羅のようにひどい顔をしていた。 「プラーミャ。あの時の決着をつけよう」 ならば、自分はこっちで仕事をするまでだった。