赤と黒のクラッシュ
駐車場で車を待たせていた#名前2#は世祖を乗せるとそのまま発進させてベルモットのバイクに貼り付いた。 「#名前2#、いいの?」 「何がだ?」 「みんな おわかれ」 「そうは言っても仕方ないだろ……。赤井さんは死ぬしかないんだよ。キールのためだし」 「んーん。アンジー 赤井のこと あこがれ。……かなしいね」 「キャメル捜査官のことか……。んー、へたにつつくと俺達が怪しまれるし」 がりがりと頭をかきながら運転していたら、ベルモットのバイクが動き出した。やべえ、と口が動いて世祖はパーカーの帽子を目深にかぶせられた。ハーレーとシルビアがすれ違う。プラチナブロンドの髪の毛はなびきながらもシルビアの中をしっかりとのぞき込んでいた。エンジン音は遠ざかり世祖ももぞもぞと動き出した。 「よーし、ベルモットのバイクは確認できたな」 「うん」 「乗り方のクセも分かれば変装されても分かるもんなー。えーっと、これで俺たちのやること終わりだよな?」 「んー……うん」 「そいじゃあとりあえず帰っていいかな」 「うん!!」 病院の方に戻るとジョディが泣きながら「貴方達も共犯だったの!?」と聞いてきた。 「な、何の話っすか?」 「作戦よ! キールをわざと戻したなんて……」 「ああ、あれ……。はい、盗聴とかはされてないんで」 「もう! 男ってみんなそうなの!? 人の気も知らないで!!」 苦笑いで「世祖も黙ってたんじゃ?」という言葉は黙っておいた。へたにつつくのは得策じゃないというのは女が怒ってる時にもあてはまる。 「あ、そうそう。世祖ちゃんが作戦前に何か言ってたんだけど……」 「? へー、でもまあ気にしなくていいと思いますよ」 「そーう…?」 「世祖が俺がいない時に話したことは大体がよく分からないことっすから」 その後はジェイムズさんと少しだけ話して俺と世祖は病院を出てきた。キャメル捜査官や宗三が何か言いたげにしてたが世祖は俺を引っ張ってそのまま帰ろうと言ってくる。 沖矢昴という人間を用意するため、コナンたちに呼び出されるのはまた後日の話だ。 その日は朝から呼び出しを食らってしまい、かなり眠くてフラフラな頭を世祖に叩かれ珍しく車ではなく歩きで工藤家の邸宅にやってきた。前日にレポートのやり直しをしていたせいか頭の中は数字と文字がずっと羅列している。 「…お邪魔します」 「はーい!!」 可愛らしい声が聞こえた。どちら様だ……。と#名前2#が顔を上げると昔懐かしのスターと呼ばれた女性がこちらに手を振っていた。 「おわっ、藤峰有希子だ」 「やだ、私のこと知ってるの?」 「映画見ましたよ。トットチャンネルではガチ泣きしてましたし…」 「やだぁー、デビュー初期の作品じゃない! 嬉しいわぁ、こんな可愛いファンがいるなんて!」 そう言えば工藤はあの藤峰さんの息子さんだったか。すっかり忘れていたが。 「さぁさ、上がって! しん…コナンちゃんとFBIの彼はもう来てるから!」 「あざいますー」 ぺこりと世祖もお辞儀をして家にあがらせてもらった。青のスリッパはフサフサで気持ちいい。赤井さんを別人に仕立てあげるため、藤峰さんが呼ばれたらしい。 服部から聞いた話によると自分じゃなくて他人すらも変装させることが出来るらしい。ベルモットと戦った時に色々あったらしいが、生憎とその時は俺は世祖に言われて哀と蘭ちゃんを助けるのに忙しかったので今回が初めて顔を合わせる。 中に入ると細目の練習をしている赤井さんとチョーカー型変声機をいじっているコナンがいた。 「お、来たな世祖たち」 「俺はついでか……。まあ、いいが。赤井さん何してんスか?」 「変装の練習中だよ。赤井さんってほら、目つきがね」 「隈はひどいし目つき悪いから子どもにビビられるもんなあ」 「聞こえてるぞ、#名前2#くん」 ありゃ、すんません。と#名前2#は軽く頭をさげて藤峰に頬を弄られる世祖を呼んだ。ひょこひょことやってきた彼女の後ろから藤峰はきゃーとでも言いたそうな顔でついてきた。なんと言うか…親子よりも孫……? 「えーっと、藤峰さんは何て呼べば…」 「あら、私の事は有希子さん、って呼んでくれていいのよ」 「あ、じゃあ有希子さん。変なこと聞きますけど俺は何をするために呼ばれたんすか…?」 「うふふ、それはね……」 「#名前2#さん、赤井さんに家事能力を教えてあげて」 「はぁ? コナン、お前今なんつった?」 「赤井さん、まだ日本での生活に慣れてないんだってー」 「……有希子さんは?」 「私も忙しいから中々日本には来れないのよ……」 「ああー……。んで、なんで俺? 蘭ちゃんとかは?」 「事情知ってて1番動けるの#名前2#さんでしょ! 世祖はもう働いたんだから今度は#名前2#さんの番だよ!」 「うへえ、面倒くさ……」 「面倒でもやるの!」 赤井さんが変装したらえー、沖矢昴という名前になって阿笠博士の近くの木馬荘という所に住むらしい。定期的に沖矢さんとこ行って料理とか教えてやってくれって……。なんて面倒な。 「はーい、世祖ちゃんは私と遊ぼうねー」 「#名前2#……。やんやー……」 泣きそうな顔で世祖が俺のことを見ながら有希子さんと遊んでるし。 「赤井さん、とりあえずレシピ通りにやって作りすぎるのはやめません?」 「すまん……」 赤井さんの料理はまだまだ危なっかしいし。なんて面倒な役回りなんだ……。 米花百貨店にやってきたのは偶然であったというのに、そこで爆弾事件に巻き込まれるのはもはやわけがわからないと#名前2#は頭を抱えたい。デパートで爆弾と言えば松田さんと萩原さんとが生きていた時にいろいろあったのだが、その時に学んだことはむやみにバトるのはいけないということだ。というので、今回は何もせずに大人しくしようと思っていたのだが。 「おや、君はーー…」 「え?」 「この前、僕が放火犯でないと言ってくれた子だよね?」 「……昴さん、とりあえずコナンたちは俺たちのこと気づいてないみたいなんでその胡散臭い雰囲気出すのやめてもらっていいっすか?」 「おやおや、失礼な人ですね……」 沖矢昴につかまってしまった。沖矢昴という架空の人間に成り済ました後も#名前2#は彼と会っていたのだが、世祖は赤井のことはもとから気に食わない人間と認識していたせいか沖矢の姿になってもフーッと威嚇するネコのようになっている。苦笑いしながら世祖を抱き上げて、#名前2#は何か用事でも?と聞いてやった。 「帝都銀行で知り合いの顔を見つけましてね…。気になったので行ってみることにしたんですよ」 「それでここにも立ち寄ったってことすね。えーと、それで俺に何をさせるおつもりで?」 「いえ、さすがにそこまでは。彼女に"昔の話"も聞きましたし」 「へー、昔の話」 にっこりと笑う大学院生とひきつった顔で女子小学生を抱き上げる大学生というのは周囲からすればかなりひどい絵面だろう。#名前2#は苦虫をかみつぶした表情を隠そうともせず、親切心で警告しますけど。と一言おいてからすうっと口を開いた。 「何か知ってても言わない方があんたの身のためっすよ」 「ホー……。気を付けておきましょうかね」 「はい。そうする方が、」 今は殺されないで済みますよ。という言葉は飲み込んだ。