赤と黒のクラッシュ
「あ、そーだ。その作戦にはキャメル捜査官がいいっすよ」 #名前2#が突然名前を出したのでコナンはてっきり#名前2#の友人かとも思ったがどうやら違うらしい。 「キャメル捜査官? #名前2#さんの知り合い?」 「前に会ったことがあるんすよね。あの人のドライブテクはすごいっすよ。俺も教わりました」 「そうだったのか…。彼と俺は少しばかり縁があってな。何かあれば協力させてほしい、と言われていてな」 「好都合っすね。んじゃあ水無怜奈を運ぶドライバーはキャメル捜査官。万一死ぬかもしれないけど……予定は死んだように見せかける」 #名前2#の言葉に赤井とコナンがそれぞれ頷いた。仲間が死ぬかもしれないのにシビアだなこいつら、と#名前2#は思った。自信の表れとも取れるがそんな傲慢な考えは出来ないのが自衛隊にいた人間の性である。 「えーっと、そんで赤井さんは水無の誘いに乗ってどっかで射殺される……。ほんとに頭撃たれるかぁ?」 「それは大丈夫だよ。ピスコが殺された時頭を1発撃たれてたから、多分ジンは頭を狙って確実に殺すんだよ」 「へー…」 「射殺してその後は車を燃やす。焼死体にしないと俺が生きているとバレるからな…。ケータイについてはさっき言ったとおりだ」 うんうん、と#名前2#は頭に叩き込むように頷いてふっと首をかしげると「世祖は何かするのか?」と言った。 「世祖には細かいところを調整してもらわなきゃいけないんだ。頼むよ、#名前2#さん」 「了解」 #名前2#に他に確認することはないかとコナンが聞いてNOという返事が来た。この作戦で一番心配なのは#名前2#が情報を漏らすことだった。 病室にひっそりと佇むコナンと世祖。赤井はFBIの作戦会議に連れられていくように水無怜奈の病室を出ていった。#名前2#はあまりにもフラフラと壁にぶつかりながら動いていたので仮眠をとっておいた方がいいと言われて世祖に盗聴器をつけて車の方に行った。眠気に襲われているのは演技ではなく本当のことで、頭は酔っ払いのごとくふらふらとしていた。 #名前2#のことを見送ったあと、世祖は水無怜奈の病室でこっそりと身を隠していた。本丸で培った脇差から逃げるための隠れんぼの技術が生かされている。準備は万端だった。 水無はまだ昏睡状態で病室に酸素マスクをつけられて呼吸だけがされている。そおっと扉が開いた。メガネの色が見える。ひょっこりと顔を出した本堂瑛祐はハサミを片手に水無怜奈に近づいた。 「おい、起きろよ…。お前が起きなきゃ、瑛海姉さんのことを聞けないじゃないか! お前、どこかに連れてかれちゃうんだろ! …おい! おい!! 起きろって…! 起きろって、言ってんだよ!!!」 瑛祐は叫んでいた。母親も父親も亡くして残る肉親はたった1人の姉のみ。しかもその人は家出をしてしまい、今は知り合いの家にいる。 それがどんなに辛いことかは世祖が一番よく知っている。ひとりぼっちの苦しみ。人に自分を理解してもらえない寂しさ。何より辛いのは自分の立ち位置の曖昧さ。だからといって彼を止めたいとかは世祖には思えない。#名前2#が止めさせたいと言うからやってあげるのだ。 瑛祐が逆上して振り下ろされたハサミはパシリ、と乾いた音で掴まれた。 「ダメよ瑛ちゃん、人を傷つけるような人になっちゃ…」 「ね、姉さん…!?」 昏睡状態に見せかけていた水無怜奈は弟のためにその演技を解いた。作戦通りである。隠れていたコナンと世祖も瑛祐の前に現れて、水無怜奈が本堂瑛祐の姉であることを説明したのだった。 水無怜奈は正真正銘の本堂瑛海という瑛祐の姉であること。本堂瑛祐はO型ではなくAB型だということ。それらを順序よく説明するが瑛祐は信じられない、という顔をした。 「ええっ!? 僕はO型って母子手帳に書いてあったじゃないか!!」 「瑛祐兄ちゃん、白血病の手術したんだよ。お姉さんの骨髄を移植されてAB型になったんだ」 「そんな、嘘だ……。なら、なんで姉さんって言ってくれなかったんだよ!!?」 「言えなかったんだよ……。言いたくてもね」 「え…?」 続けて話されたのは水無怜奈がCIAの諜報員であったこと、父親のイーサン・本堂もCIAだったことだった。信じきれないままに混乱をきたした瑛祐はキャメルに連れていかれてしまった。黒の組織については彼には何も言えないということは世祖もコナンも分かっている。 盗聴はまだ続いているのだがそのまま#名前2#はうたた寝におちてしまった。 「それで、貴方達は私に何をさせようって言うの? まさか、組織に戻れとでも…?」 「その、まさかだ」 ビクン、と脇腹が痙攣して体が飛び上がった。 ーーああ、寝落ちするところだったのか。 何とか起きてイヤホンを耳に装着すると水無とコナンが赤井暗殺についての作戦会議をしていた。綿密にたてられたこの計画はどこかがズレると戻すのが難しい。 問題の3人と世祖が計画について事細かに話している。ジンがキールに赤井を殺させようと仕向けるため、キールは組織に少しの不信感を持たせていなければいけない。赤井秀一はFBIを全員欺いてまで殺されなければいけない。コナンはFBIたちを誘導して本部にある指紋ではなく楠田陸道の指紋がついたケータイを赤井秀一の指紋がついたものとしなければいけない。とてつもなく大掛かりで、#名前2#からすれば”とてつもなくやべえ”計画だった。 赤井秀一は「死んだ」後、変装してまた灰原哀の保護に戻るらしい。亡き恋人が助けられなかった妹を、今度は自分が守ろうと彼は日本に来ていたのだ。 「………。よく、やるなあ。あの人」 #名前2#はあくびを噛み殺してそう言った。その時バタン、と後ろのバンが開いた。2人乗り込む。どちらも知っている気配だった。 「お疲れ様です」 「眠そうだねえ」 「世祖があいつらに仕事させようとするんでまあ手間かかっちゃって……」 「それは良いけど。今回で向こうに感づかれそうな?だって?」 「はい……」 「世祖がどう思うかは分からないけどね、騙すのも潮時だ。話の誘導だけじゃここまでだろう」 「新しい設定ですか?」 「これ以上設定つけたらめんどくさいだろ。そんな漫画読みたくない」 「……。さいですか」 「反省が足りてないのかい、自殺未遂でもして一時離脱したいのならーー」 「いえ、何でもありません。世祖のことはどうすればいいでしょうか」 「……。楠田陸道についてはこちらも調べておくが、恐らく探り屋の仕事だろう。ノックだからと見逃していたが邪魔になるようならこちらも対応を考える。それまでは君がスプリッツァーだ」 「了解しました」 男の片方、沖野が出ていく。久々に日本に来たと思ったらこれでまたどこかの外国へ飛んでいくのだから工藤新一の両親を笑えない。 「? あれ、宗三出ねーの?」 「沖野さんからの伝言です」 「はあ? さっきの続きで言ってくれよ……。心臓に悪い…」 「口には出せなかったんでしょうね。どうぞ、これを」 差し出された紙を見るとそこには小さな字でこう書かれていた。 『世祖を落胆させるなよ』 1番の無理難題をなんでこうやって紙で書くんだろうか。 水無怜奈の病室から戻る際にコナンはずっと聞きたかったことを尋ねることにした。 「赤井さんってさ、スプリッツァーについて何か知ってる?」 「なぜ、そんなことを聞く?」 「ちょっと気になっただけー」 へへーと子どものような微笑みのコナンに赤井はタバコの煙をはくと「よくチームを組んでいた男が、ずっと気にしていた」と言った。 「その男の人って今は? 何してる?」 「亡くなった。それがどうかしたか?」 「う、ううん。別に。そっか、死んでるんだね……」 宮野明美が死んだときの#名前2#の表情、世祖から聞かされた「ついてくのを許さなかった」話。世祖がスプリッツァーであるにしても、もしかしたら#名前2#がスプリッツァーのバックにいることに気づいた誰かが殺された、という可能性があるのではないか。そしたら、そしたら……#名前2#さんは、今、危ないのではないか。 「……ぃ、おい! ボウヤ、前を見ろ!」 「え、あ」 「ボウヤ、大丈夫なのか? 考え事しながら歩くのは構わないが壁にぶつかりそうなのはどうかと思うぞ」 「ご、ごめんなさい」 出っ張った壁に危うくぶつかりそうになっていたらしい。しっかりしろよ俺!とゴンゴン頭を数回叩く。脳細胞が死ぬのと頭を覚醒させるのとでは覚醒させる方が大事だ。 またドアが開く音がする。足音がせずに椅 子に座る音がした。世祖だな、と何もせずとも分かってしまう。後ろを振り向くとやけに瞼が落ちている世祖がいた。 「空飛ぶなー、世祖」 「ゔぁー」 「おかーり」 「たあぁま。寝ていいー?」 「おう。リクライニングシート倒せよー」 「うんー」 何かあった時のために用意されている毛布と#名前2#の上着を身につけて世祖はこてんと横になった。今日はめいいっぱい働いたから簡単に寝れそうだ。寝息が少し聞こえてきた。それに安心して#名前2#も車を動かし始めた。 家から戻り地下駐車場へ車を着けると、ようやく鳴り響いていたスマホを取り出せた。電話がずっと鳴っていたのだが、世祖はとりたがらず仕方なく#名前2#が急いで車を到着させたのである。 といっても病院は3つの事故(食中毒に火事に異臭騒ぎ)でてんやわんやで駐車場に着くのも難航したが。 「こちら、#名前1#! 病院に着いたぞ」 「#名前2#さん? 電話に出るの遅すぎだよ!!」 「世祖が取ってくれなかったんだよ…。それで、俺は何すればいいんだ?」 「病院内に爆弾が仕込まれた荷物が患者さんたちに運ばれてる。だから、急いで回収して!」 「了解」ほら行くぞ、世祖。 世祖は面倒だなあという顔を隠さないまま#名前2#に手を伸ばした。 「んだよ」 「おんぶー」 「やだ」 「だっこー」 「無理だ」 「むむ」 「むむむ」 世祖と少しの間睨むと2人してはあと息をついて 「こんのすけがいれば楽なんだけどなあ」 「こんのすけ……」と被さるように言う。 本丸ではキツネかあと思っていたがいて欲しいことの方が沢山ある。彼は有用な管狐だった。 「わかったわかった。世祖、おいで」 ぎゅっとおんぶすると世祖は#名前2#の耳に口を寄せて「ばんばん 探す?」と聞いた。 「ああ」 「壊す?」 「いや、物を確認してからでいいだろ。何かあったら壊せばいい」 「うん」 #名前2#の背中に顔をうずめて世祖はふあとあくびをする。昨日と今日とで働いたのだから、作戦が終わって赤井に会ったらたくさんの我が儘を言ってやろうと思っていた。#名前2#は気にしていないようだが今回はFBIたちと関わりすぎだ。きっと沖野から怒られる。 「すんませーん、失礼しますねー」 「なんだい、君…?」 「さっき運ばれてきた荷物…。ちょっと見せてもらっていいですか?」 「えぇ?」 「不審物入ってるっぽいんすよねー」 「はぁ!?」 #名前2#の緩い空気でそのまま果物の入ったかごをあさると爆弾らしいクリーム色の箱とケースが出てきた。 「お、これだー。すんませんねー。果物には異常ないと思うんで食べっちゃってくださーい」 「は、はあ……」 のんべんだらりとした男(しかも少女が背中にいる)の言うことなんて信じられないだろうなーと#名前2#は自分でも思ったが気にせずに部屋を出ようとする。と、そこにテレビから水無の声が聞こえた。入院服でテレビの向こう側である#名前2#達に微笑んで「視聴者の皆様にはご迷惑をおかけしました。私はもう大丈夫です」と話しかけている。……話しかけている? 「おぅっ、水無ちゃんだ!」 「……これ、合成っすね」 「はぁ? お前、何言ってんだよ…? 水無ちゃんが休業してた理由が入院っていう挨拶だろ?」 「どこの病院にわざわざ電波飛ばすテレビを呼ぶとこがあるんすか。それじゃあ」 生憎と#名前2#はFBIたちに話しかける無線機は持っていない。可哀想だがこの事態を止める手立てはない。病院という場所では電波を飛ばす電子機器類は使えないのでこのテレビジャックにわざわざジャックすることも出来ないのだ。 「世祖、これからどうする?」 「キールはダメー。しんくかんは?」 「真空管なら今とるとこ! コナンたちどうするかな?」 「キールのところに集まるー。#名前2#はー、」 「俺は?」 「駐車場に行くの。せいはキールねー」 「了解だ」 病院の中なので本当は走ってはいけないのだがどうせFBIたちが走った後だろうと検討をつけて全力で走った。この状況にすげえ、面白いと思う気持ちが#名前2#の足を動かしている。世祖にはもしかして気づかれていたのかもしれない。 一方で世祖はコナンを通しての意思疎通をはかっていた。#名前2#という便利な翻訳機械がいないのでひとつひとつ説明しなければいけない。 「だからー。ジンたち バイクで ドーンなるから バイなのー」 「………」 ジョディやジェームズ、赤井は世祖といる期間が短いのでさっぱり分からない。キャメルもいる期間はこのFBIの中で1番長いがさっぱりわからない。ジンたちが爆発する訳では無いらしい。 コナンもよく分からなかった。確認していることが全くつながらないのだ。 「ジンたちがバイクに乗るのか?」 「うーん」 「ドーンってなるのは?」 「これ キール」 「キールが轢かれるのか?」 「うーうん」 「………。バイするのは?」 「皆だよー」 「????」 話がさっぱり通じない。はぁとコナンはため息をついてお手上げだとジョディたちに自分の手のひらを見せた。 「仕方ない。お嬢さんの話はまた後で#名前2#くんに確認することにしよう。今は水無怜奈を移動させることの方が先だ」 #名前1##名前2#の有用性をこういう時に至極実感させられた。