彼女の本丸運営がまとまるまで
大広間では燭台切が食器を並べていた。短刀たちは行儀よく並んでおり、「ほれ。お前らも行ってこい」と送り出したら、一度行ったあと今度は薬研を連れて帰ってきた。 「俺っちも世祖んとこで食わせてくれ」 「?? いいよな、世祖?」 なんで俺に聞くのか分らなかったが、一応世祖に聞くことにした。背中にいまだにカタツムリの殻のようにひっついている世祖は「うにゅうにゅ」と意味の分からない言葉をつづけた。 「おう、いいっぽいぞ」 「#名前2#さんも大概適当だな…」 なんだかんだ言いながら薬研は近くに座った。遠くにいるのは燭台切と秋田と小夜だ。今剣やゴコもたぶん、あっち側。こいつらは俺についてきてるだけであって、世祖の味方じゃない。うーん、困った困った。 「ごちそうさまです」 秋田がいの一番に食べ終わり、食器を片手にぱたぱたと駆けて行った。 「? おい、秋田」 「ッ」 秋田がぐにんと体を文字通りゆらしてこっちを振り返った。 「…なんで、すか?」 「帽子ずれてんぞ」 瞬間に傾いた帽子をまっすぐにかぶりなおすと、「ごめんなさい!」と叫びながら行ってしまった。また帽子が傾いたのは言うまでもない。 「なんだぁ、アイツ」 「あんたさぁ、そういうことあんま言わない方がいいよ。アイツらは、こっちとは違うんだから」 加州の言葉に俺はちょっと詰まった。確かに今のはぶしつけだったかもしれない。 「なあ、長谷ーって、おい! お前、なにしてんだ!?」 「なにって、世祖が水をこぼしたから拭いてるんだろう」 「だからって、そんな高速でこすってんじゃねえよ! もっとやさしく! あーゆーおーけぃ!?」 「???」 「そのほよっとした顔やめて!」 なんとか長谷に人間に与えるスピードうんぬんかんぬんを話し、とりあえず加州と薬研から話を聞くことにした。燭台切はいつのまにか食べ終えて、小夜は今剣とゴコを引き取り庭へと行った。今のところ出陣予定がないので放置しておく。 「んで、どうゆうことなんだ? 秋田には関わっちゃいけないのか?」 「んー…」 薬研は渋々と話し出した。あまりにも話が長かったので短く簡潔にまとめた加州の言葉によると、 「夜伽してたんだよー。なんか初恋の人に似てたんだってー」 「へー。ヨトギってなんだ?」 「…そんなことも知らないの? ほんとバカだね」 「るっせー。はよ教えろ」 「だからー、セックスしてたの。女の人と!」 「はあ、女の人って…審神者か!?」 「そうだつってんじゃん!!」 「いやー、男の夢だわ~」 「は?」 「どう考えてもおねショタじゃねーか、エロ漫画かよ。うらやましいなあ」 「……ほんっと、バカ」 「まあ、冗談はこれくらいにしようや、#名前2#さん」 「おー…」 冗談ではなかったのだが…まあ、勘違いされててもいいか。いつか気づくだろ。 「それで? 秋田には結局話しかけちゃいけないのか?」 「今のところ俺っちと燭台切の旦那ぐらいしか話してないな」 「ふーん…。昨日は五虎退と一緒にいたよな?」 「あのときは俺っちがこっちに来てたからなあ」 「そうなんだ」 「? 理由とか、聞かないんだな」 「なんで? 聞く必要あんの? それって世祖や俺に関係なくない? 昔のことより今のこと考えなきゃな。新しい秋田を呼ぶこともできっけど、今ここにいるやつと折り合いつけとかなきゃだろう」 「ねえ、みったださん」 舌ったらずな言葉づかい。秋田君は、前の本丸でずっと囚われの身だった。魔王での宗三君みたいな感じだ。 僕は違う意味で本丸にとらわれていたけど、秋田君は審神者の部屋に閉じ込められていた。 幼いまま、頭も心も体もすべてを作り変えられたと彼は身の上を言っている。 前の審神者を許すことはできないけど、今の審神者を許さない理由にはならないとも言っている。ある意味、きれいごとと思われるかもしれないが皮肉なことに作り変えられた余韻なるものがかの心に残っているらしい。幼き、無垢な心だ。 特に、今の審神者は秋田君と似たようなものだから同情かなにかを抱いてるのかもしれない。全部想像だけどね。 「僕、みんあともっつぉ、お話ひぁいなあ」 「そうだね」 「えきぅかなあ?」 「ああ。できるよ」 僕は心にもない嘘をついた。僕は、本丸を変わってさえもいまだにこの嫌な癖はなおっていなかった。 僕は、刀として本丸にはいられなかった。初太刀だから、と最初は使われていた。 でも、いつしか刀が集まり始めて。僕はいつのまにか厨(くりや)に城を築いていた。食事を作り、冷蔵庫の中身を管理し、つまみ食いをするものを叱咤し、本丸のみんなの健康管理をする。役割はそれだけ。掃除は他の刀剣男子が役割を持っていた。彼にかかれば、本丸内での姿は逐一監視されていて汚れた姿で廊下など歩けなかった。懐かしいな、元気でやってるのかな堀川君。 馬当番はくりちゃんだった。いつも、くりちゃんだ。生存も偵察も十分あがったのに彼はそこに城を築きあげた。畑は江雪さん。洗濯は確か、蜻蛉切さんだったかな。身長で選ばれてたはずだ。 みんなみんな城を築いた。一軍は固定。二軍も固定。三軍も固定。四軍は数字が縁起が悪いといってついぞ使われなかった。僕の前の主は縁起を担いだりする人だった。食事は精進料理。石切丸さんと太郎太刀さんらとで禊をし、辻占いをする。大安の日に手に入った刀剣男子の顕現を行い、契約を交わした。 悪い人ではなかった。でも、いい人でもなかった。一軍の人がレベルマックスになっても変えず、厚樫山へと歩を進めた。三日月さんがほしいという理由ではなかった。行く場所がなかっただけのことだ。夜戦には打刀以下が活躍すると知ったとき、主は無言で夜戦禁止令を出した。打刀となって夜戦を楽しみにしていた同田貫君や、和泉守君は残念そうだった。戦場に出られない、僕らのことを気にした様子は一度とてなかった。 ここにきても、生活はほとんど変わらない。 相変わらず食事を作り、洗濯をし、掃除をする。まったりとした雰囲気で、ここが本当に本陣なのか心配になるときもある。それほどまでに今の審神者はのっけらかんな人だ。秋田君と仲良くなったのは偶然だったし、いまだに長谷部君は僕のことを嫌っている。加州君はどうでもいいやと思ってるらしいし、短刀君たちも食事を作ってくれているならいいというスタンスだ。 こうやって過ごすと、ときたま思う。 僕は、本当に刀剣の付喪神なんだろうか? 本霊様はイエスと答えてくれるけれど、その答えだけが僕を存在たらしめているとも言えず、僕はこの本丸に来ていまだに宙ぶらりんな存在として居場所を確認せざるをえなかった。