彼女の本丸運営がまとまるまで
俺の部屋の前でこけて泣いていた世祖をとっつかまえて部屋ーというか離れに戻ることにした。後のことは加州や長谷がなんとかしてくれるだろうと思う。世祖の自室に設置された異空間の(ここにはつっこめない。世祖の霊力がチートなのだ。気にしない)露天風呂に2人で入って、寝かしつけた。そうっと部屋から出て自室へ帰る。本丸うちは把握してないと思っていたがなんでか足がすらすらと動いて部屋に帰れた。解せない…が、つっこめない。 とりあえず仕事に取り掛かろう。執務室のパソコンの前に座ると、そっと障子から声がした。 「お?」 「その声は#名前2#か」 返事があったと思ったら、礼儀もなしに長谷部は障子をあけてきた。こころなしかふんぞり返ってるようである。 「んだよ、長谷」 名前を呼んだら怒ると思ったので、あえてこっちにしたのだが…「やめろ、その呼び名」ともっと怒られた。 「じゃあ、なんて言えばいいんだ」 「他にもあるだろう」 「いいじゃねえか、さっきは何も言わなかったし」 「あのときはある…世祖がいただろう! ていうか……べ、は?」 「しょーりゃくー」 ひどく不満げな顔をしながら「まあ、へし切よりは…」と思案していたのでこのまんま行こうと思う。 「世祖は?」 「部屋。結界貼らせて寝かしつけた」 「なんだ、その調子じゃあ知ってるのか」 「まあなあ…」 パソコンのディスプレイにはこの本丸の刀剣男士たちの過去の話がびっしりと載せられている。ここにいる刀剣男士のほとんどは、他の本丸から引き取ったものである。主と死に別れたもの。主に虐待を受けたもの。主に見捨てられたもの。ゴコの経歴と同じくらいに悲惨なものたちだ。同じ本丸から来た刀剣男士はいないらしい。みな、それぞれから引き取っている。 加州は初期刀、薬研はチュートリアル鍛刀、長谷部はその後の初鍛刀で出てきたらしい。つまりは、主=世祖と体で覚えているってわけだ。 「……」 「どうしてこんなにワケアリが集まったんだ?」 「世祖は、沖野…さんに連れられよく現世へ行く」 「おう、敬語苦手か」 「うるさい! …そこで、出会う審神者のことを…見抜いてしまうのだ」 「見抜く?」 「仲がいいところには何も言わん。可愛らしく笑っておられる。だが、ブラック本丸についてはいかん…」 そこで、長谷は言葉を切った。酒を飲みたそうな顔をして、ぐいっと手を仰ぐ。 「よとぎ。かんきん。ころした。世祖の鈴の音のような声で、何度もつぶやかれる。審神者たちは、その主のお姿を見てくるってしまうこともある。 そして、一緒についていた刀剣男士がこの本丸についていくる。主と認めたわけではない。だが、ここにいれば安心と言う一種の確信があるのは確かだ」 「ほーん」 「なんだ、その表情は」 言われて、自分の顔をスマホで確認してみると何とも言えない微妙な顔をしていた。まだ青い渋柿でも食ったような表情だ。 「別に。気にすんな」 「…気になるぞ、そんな表情は…」 「へーへー、…。ん? じゃあ、俺がここにいる意味なくねーか?」 「大方主の精神安定剤。セキュリティー毛布というやつだろう。さっきは礼儀うんぬんかんぬん言っていたがあんなの詭弁だろう?」 「スヌーピーかよ…。あと詭弁については大当たりだ」 「ピーナッツだ」 「るっせえな、知ってるよ!!」 話がそれてしまった。そういや、さっきの今剣との会話もこんなんだった気が…。いかんいかん、これ以上考えても埒があかないし。 拝啓沖野殿 俺にはこんな小難しい役合いません。助けろください 次の日の朝。なぜか布団が昨日よりも心なしかあったかい。 「……」 違和感ありすぎる布団に、思わず開いてみると 「#名前2#さまぁ、おはようございます」あれ、ゴコだ。 「#名前2#さま! おはようございます!!」あれ、今剣だ。 「なんでいんの? お前ら」 俺が声を出した瞬間、障子をぶち壊しながら沖野が世祖を抱きかかえながら入ってきた。 「君! なんで、契約してんの!!?」 「はあ!?」 寝起きの大声はのどをメタくそに痛めつけた。 「ぼ、僕と…」 「ぼくとで!」 「契約しました…」 「こうじょうをのべて、へんじをしてもらいました!」 「だそうだけど??」 ゴコと今剣が交互に自分らの詭弁を述べた。沖野はピキピキと血管を震わせてこっちを見てきた。俺は悪くない、と言える雰囲気では……なかった。でもまあ、なんとなくつながっているのは分かる。あと、世祖が俺を見た途端に寝に入ってスコースコーと 「俺、返事なんかしたかー?」 「はい! ねごとで!!」 まさかの寝言だった。 沖野はあちゃーと頭を抱えた後、「#名前1#君。世祖を起こしてくれるかい?」と言う。 「…なんでだ?」 「契約を塗りなおす」 「なんでだ?」 「君は審神者になるために連れてきたわけじゃない。ここで踏みとどまらなきゃ、君は元いた時代に帰れない」 ぎゅっと、ゴコと今剣が俺のパジャマの裾をつかんだ。世祖はやっぱり寝たままだ。 「……」 「俺は、それでもいいさ」 沖野さんが、言った。 「なーんて、簡単には言えないだろう? だってここは君を連れ出してきたときから200年も経っているんだ。君の子孫だっているんだ。……。それでも、生きたいかい?」 「……ああ」 「…。本気か」 「本気、ですよ。子孫つったって、どーせ俺のことなんか分らないでしょうし…。それに、」 言葉を切って、前を向いた。この決断がいいものかどうかは分からないけど、待っているより全然ましだろう。 「今、ここにいる体の小さい奴らを守ってやりたいんです。今剣やゴコは年上だけど、人間としてはまだまだです。陸奥と話すと思うんです。人間として慣れてないんだなあって。こいつらは人を安全に運び方も知らないし、人の話を黙って聞くこともできないです。でもそれは、世祖もできません。だったら、俺は一緒に教えていきたいと思います。俺がしてやれるのは…せいぜい、それくらいですから」 カタンと布団のそばに置いていた陸奥が鞘をゆらした。世祖はぴくりと揺れて「んー? キノ??」と目に入った男の名前を呼んだ。可愛らしいその姿に毒気がぬかれたのか、ため息をついて「仕方ない。措置はこちらで考えておこう。それまでは、今剣と五虎退は世祖の刀剣。陸奥守のみを#名前1#君の刀とする。いいね?」 ゴコがぷくーっと頬をふくらませ「陸奥守さんだけずるいなあ」と言うが、刀解されなかっただけずいぶんとマシな措置である。 「さっ、お前ら飯くいにいくぞー」 世祖を背中に、腕には今剣とゴコ。腰には陸奥(刀)をひっさげて俺はなんとか大広間へと向かうのだった。