今日もいいことあったみたいね「記録的」「燃える」「布告」
記録的大雨だ。外に出るのも一苦労する。靴下はびしょびしょ、スニーカー吐くのも一苦労。革靴は手入れが大変。制服は毎回風魔法である。いや、自分はまだいい。問題はカリム様である。 「ど、どうしよう俺の教科書も濡れちまった!」 「カリム、いいからそれを一旦こっちに渡せ。お前は早くシャワーを浴びてこい」 「わ、わかった」 どうしたもんかな、と頭を悩ませるジャミルから教科書を受け取り、氷で外側を固めた。 「これで重しをかけながら直せば大丈夫です」 「本当に? 嘘じゃないだろうな」 「大丈夫ですよ」 ジャミルは疑わしそうに俺から教科書を受け取った。そろそろ1年が過ぎるというのにまだ警戒されたままである。 「……そう言えば、宴に使う用のヨーグルトを切らしていた」 「今から購買に行けばよいですか?」 「ああ。頼む」 今しがた乾かしたばかりの制服をまた濡らすことになった。まあジャミル・バイパーの性格の悪さは聞いていたことなので気にすることも無い。この雨の中でほうきに乗るのはホウキを悪くさせてしまう。購買に行くのは徒歩だった。 傘をさしながら歩いていたら前の方に傘もささずにフラフラと遊んでいるやつがいる。同じクラスではなかったが有名人なので名前走っていた。ただどっちかは知らない。こいつらは双子だった。 「リーチ。そんなことしてるとカゼひくぞ」 迷った末に苗字の方で読んだ。なぁーにー?とゆったりと振り向いたこいつは何分雨に打たれていたのか分からないくらいにびしょびしょの姿になっていた。 「なあおい、さすがにそれはまずいだろう。傘の中に入れてやるからこっちに来い」 「傘……あはは、なにそれ。面白い。陸のやつってそうやってすぐ水から逃げたがるよね」 「はあ……? 何言ってるか分からないが、折角のそのスニーカーを濡らしたままにするなと言ってるんだ。高いやつだろそれ」 リーチはスニーカーを見たあと「これって濡れたらやべーの?」と質問をしてくる。靴紐までほどけたそれはどれだけ踏まれたのか泥とホコリで汚れていた。 「少なくとも生地が痛むのは確かだな」 「……。俺がこのガッコにいる間は?」 「どうだろうな。今の履き方をしていたら1年そこらで処分することになると思うが」 えっ、やだそんなの! 彼はそう言って急いでその場で靴を脱ぎ始めた。真っ白な素足がべちゃり、と水溜まりの中に落とされる。カリム様でもこんなことしない、と心の中で毒づいた。 「おい、ひとまずこっちに来い」 「? くつ直せる?」 「いいから」 びちゃびちゃと泥を跳ねさせて制服が汚れていくのを見ていた。ひとまず男の制服を脱がしたいが俺がそんなことをしたら怒られるだろう。 「とりあえず、自分で洗濯はしろよ。スニーカーは何とかしてやる」 「……洗濯…」 「おい、まさか洗濯も知らないのか?」 「そんなんする必要なかったし」 こいつもカリム様みたいな金持ちなのだろうか。従者もいないところを見ると相当に問題児じゃないか。 「洗剤で汚れを落として、乾かす。それだけだ、細かな技術は必要ない」 「乾かす……」 リーチはぼっと杖から炎を出した。危うく俺の制服も燃えるところだった。スニーカーに溜まっていた水をぶっかけるとリーチもビックリして炎を消した。 「何すんだよ!? 乾かすって言うからちゃんと火を出したじゃんか!」 「それはな、乾かすって言わねえんだよ。燃やすだ。dryとburnの違いも分からないのか」 リーチはムッとした顔で俺を睨んできた。 「俺だってその洗濯?ぐらいできるし!」 「へぇー、やってみろよ」 洗濯のための宣戦布告なんていう変なことをしてしまった。スニーカーはそのまま預かってきたのでカリム様に問い詰められたのだ。事の顛末を話したらカリム様は大笑いされてジャミルは「お前……」と恨みがこもったような視線を投げかけてくる。 「そいつらはオクタヴィネル寮の…おそらく、フロイドの方だ」 「ああ、双子の名前がハッキリしてなかったんだ。あれがフロイドか」 「面倒事に首を突っ込んだな。あいつらは人魚だぞ」 「え?」 「人魚には服の概念も洗濯の概念も薄いだろうからな。これで面倒を見ることになったら#名前2#、全部お前がやれよ」 うわ、面倒臭い。俺の言葉にジャミルは「それはこっちのセリフだ」と返した。