「優先的」「晴れる」「女神」
最近#名前2#は女神様たちに頭を撫でてもらっているらしい。色んな仕事よりも優先的に会いに行こうとするもんだからたまに叱られているのを見る。それでも#名前2#はめげなかった。 「ステンノ様! エウリュアレ様!」 「あら、今日の報酬は何かしら?」 「見てくださいアステリオスと2人で木の実を潰して作ったクッキーです」 「へー」 エウリュアレの嬢ちゃんが楽しそうにクッキーを見て綺麗に作られていたそれをぱっきりとへし折った。そして砕け落ちた破片をぺろりと舐める。 「まあまあね」 「まずくはないんですね! よかったー」 #名前2#は楽しそうに笑いながら頭を下げた。ふわりとショールが#名前2#の帽子の上を揺れてまたエウリュアレのところに戻る。今日はステンノはなしだった。 「はい」 「ありがとうございます~! 明日はもっと頑張りますね!」 期待はしてないわよ、とステンノが声をかけた。#名前2#はまだカルデアにいる女神様に頼みに行こうとさっさと背中を向けてしまった。最近はずっとこんなことが続いている。 「で、ありゃあ一体なんなんだよ」 最近レイシフトの度に組まされているアキレウスが面倒くさそうに話しかけてきた。彼の手には最近ハマってるらしいカツ丼定食の札があった。出来たてが食べられると喜びながら席を探していたのにアーラシュを見つけた途端「あーー」と表情を変えるから面白い。彼はカルデアには来たばかりなので#名前2#のあの変な行動が分からないらしい。 「女神の信仰ってやつだよ」 はあ?とアキレウスの顔がさらに歪んだ。同じギリシャ神話にいると神様ってものがどれだけ横暴で理不尽で、自由なのかよく分かるのだろう。 「いやいやいや、信仰っつーかありゃあ頼み事じゃねえか! よく神たちがそれを許してるな」 「お遊びさ、結局は」 #名前2#はものを捧げる。女神たちは祝福を与える。たったそれだけの、ままごとであった。だからロマニもダ・ヴィンチも何も言わない。カルデアの中でだけ許されたスタッフたちのたわいも無いお遊びとして見ないふりをしている。 「で? #名前2#の願いってのは?」 「ん? 身長伸ばすことらしいぜ」 「はあ~~? それだけのことを女神に願ってんのかよ」 「らしいなあ」 #名前2#は今アーラシュと同じくらいの身長である。アキレウスともそんなに変わらない。彼のいたドイツという国をアーラシュは知識でしか知らないのでどうとは言えないが、スタッフたちの中ではかなり身長が高い方である。そんな#名前2#が女神に頼んでまで何を願っているのか。 「奇跡を願ってる割にゃぁ、やけに軽いよなあいつ」 アキレウスの言葉にアーラシュもそうだよなあ、と頷いた。#名前2#は欲が深いが業は深くない。例えば「とりあえず神様らしいから」という理由でステンノに「明日はコロッケが食べられますように」なんてお願いを捧げるような男である。結局その願いはブーディカが叶えていた。ドイツ人はみんなああなのかと思ったら他のスタッフから文句が出てくるくらいには#名前2#は変な男だった。 ある日、#名前2#は晴れ晴れとした顔をして医局から出てきた。やったよ、パールヴァティー様~~!と叫んでいたせいでアシュヴァッターマンが即座に#名前2#を追いかけてきて騒動になった。タメ口を使うんじゃねえ、とそこまで怒られたあと#名前2#の願いごとがようやく明らかになった。 「好きな人より身長が伸びたんです」 「……それだけのことをパールヴァティー様に言いに行ったのか?」 「えっ、勿論ですよ。今まで頑張って祝福をもらいにいってたのはそういうことですから」 噂はアーラシュとアキレウスの耳にも入ってきた。#名前2#のちっぽけな願いのせいでアシュヴァッターマンがキレたというふざけた噂だった。 「あいつ、神に祈ってまで身長伸ばしたかったのか」 「みたいだなぁ」 アキレウスはつまんねえなあと鼻で笑っていたがアーラシュはそれよりも「好きな人より」という言葉が気にかかっていた。#名前2#よりも身長が高いというと限定されてくるだろうと英霊たちの身長を調べたあとで、カルデアにその人がいるとは限らないと気づいた。 ちゃらんぽらんな信仰しかなくても今を必死に生きている#名前2#。彼には身長がのびる喜びだとか、好きな人よりも背が高いと誇れるだとか、ご飯がコロッケでワイワイ騒げるような優しい部分があった。生きている者だけの特権だ。だというのにアーラシュは気分が悪かった。自分の身を犠牲にして国境を分けた当方の大英雄はそんな#名前2#に「好きな人がいる」ということで気分を悪くしていたのだった。それなりに仲良くしていた。ふざけた所も真面目なところもずっと見ていた。女神たちに喜んでもらおうと頑張っていたのも知っている。それが、最後は、好きな人のため? 面白くない。全く面白くなかった。アキレウスの「つまらない」という言葉とは違う意味でモヤモヤせざるをえなかった。 後日、立香は名前を叫ばれていたパールヴァティーに会いに行き事の顛末をちゃんと聞いた。#名前2#は全く話してくれなかったからである。質問を受けたパールヴァティーはふふっと小さく笑って教えてくれた。 「具体的にはですね、#名前2#さんの願いは身長を伸ばすことじゃなかったんです」 「そうなの?」 女神の中では比較的話しかけやすいパールヴァティーにも#名前2#は突撃していたらしい。全く知らなかった。立香の驚いた顔にパールヴァティーはまたもやふふっと笑う。 「仕事をきちんとしていれば私は祝福を与えます、ってそう言いました」 「なるほど。#名前2#さん、確かに頑張ってたかも。ね、それで#名前2#さんの願いってなんだった?」 「ああ……。こんなことを言うのは私も少し恥ずかしいですが……。好きな人よりも、身長が高くなりたかったんですって」 「……。好きな人?」 「はい」 とっても小さな願いだった。笑っちゃうくらいに小さくて、可愛い話だった。 「それで#名前2#さん、医局であんなに大喜びしてたんだ……」 「身長なんて気にすることないんじゃありませんか、って言ったんですけどね。#名前2#さん、夢だったんだって言ってました。昔見た絵本で、自分より身長の高い人がしゃがみこんでプロポーズをしたらしいだす。それを見ていつか自分も「初めて見せたつむじ」が思い出になりますようにってお願いしたって言ってましたよ」 #名前2#が帽子を被ったりタオルを被ったりとしていたのはそういう理由だったのか。本人は楽しそうに「俺の好きな映画でさ。風邪をひかないように帽子をかぶる殺し屋がいたんだよ」と言っていたが。 「……#名前2#さんの好きな人って、誰だったんだろう」 「さあ……そこまではさすがの私も聞いていないので……。ただ、あの帽子に飾られた星はそういう意味じゃないかと私は考えていましたが」