ただ笑うだけのお前たちが嫌い
#弱虫ペダル #東堂尽八 #女体化 #女主
先天性女体化のお話です。
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あんたは何もしない子だ、と言われて育った。それはわたしが双子の兄は何もせずに遊んでいるのに、女の子だからという理由でわたしはキッチンに呼ばれて料理を作ったり座布団を敷いたりしなければならないと言われ続けて反発したせいだった。
兄は父親たちに可愛がられてお金をもらっている。じゃあわたしは? 無理やりに引っ張られて洗われたコップを布巾でふいてお盆に並べて歩いていくわたしは一体なんだ? 人が集まるから、と座布団を敷いてちょっとズレていると文句を言われた。そんなんじゃ男にもらってもらえない、と言われるわたしは「お前らみたいな男だけは絶対嫌だ」とまだ幼稚園児なのに言い放ってしまったらしく、その時の親戚の顔と言ったら悲惨なものだったらしい。幼稚園児に嫌われるレベルの親戚に囲まれてやる必要があるのか分からない行事をこなして高校は寮生活をすることにした。
反骨精神があるから「何もしない子」になったのだと思ったのだが。性根がそもそもわたしは面倒臭がりなところがあるらしく、寮生活をはじめたらわたしは随分と雑な生活をしていた。
おやつに食べたいと買ってきたパスタとソースは一緒に茹でていたし、すぐにビニール傘を買ってしまうし、ゴミの仕分けはいつも雑で怒られることばかり。例をあげればキリがないくらいに雑な人間だった。
恋人との付き合いもそうだった。わたしは雑な人間だ、と言って「分かってる」「それでもいいんだよ」という男たちを信じて甘えて、「やっぱり無理だ」「我慢できない」とフラれるのだった。
そんなわたしの人生に光を与えてくれたのは今の恋人である東堂だった。彼女は東堂庵という老舗の旅館の若女将になる立場である。正直、そんな立場の人の恋人……同性の恋人になるというのは心が折れそうになるのだが、本人曰く兄弟がいるから自分は女将にはならないから大丈夫とのことだった。でも、どうなるか分からないからわたしは怖かった。彼女は女だが、長子なのである。兄弟に何かあれば彼女が呼び出されることは想像にかたくなかった。それと同時に、自分の人生から彼女がいなくなることも想像できなかった。
彼女を自分のそばに置いておきたいが、それが恋愛としての話なのか、便利な人間を置きたい話なのか自分でもよく分からなかった。
彼女はわたしとずっと一緒にいる予定だった。恋人になる時の告白の時点で「あなたを世界でいちばん幸せな女性(ひと)にするのは私のはずだ。私を選んでほしい」と花束を用意してきた。全く自分の話だとおもえないし、今思い返してもわたしは息をしていたのか心配だが、わたしはそれに頷いて文化祭で盛大にカップルとして有名になったのだった。
高校は小さな社会である。おあそびとして消費したあとに残るのは隠しきれない小さな差別意識だった。
東堂はファンも多く、本人も自分が美形である自覚をしていた。だからこそ消費は激しく、わたしはそれに巻き込まれる形で舞台にのせられた。あがりたくない舞台の上の景色はそれはもう醜悪だった。
親戚たちと同じ。目の前の女が自分の思い通りになればいいという視線だった。
好奇の視線の奥にある「レズビアンはどうやって生きていくのか」という心にわたしは疲れてしまった。
そんなわたしを守り、愛してくれたのは東堂だった。申し訳ないと言いながらも絶対にニコイチで扱われるわたしは言われるがままに東堂との未来を約束しつづけた。それまで双子としてみられていたわたしは、今度は東堂の女と見られるようになっていた。
東堂は大学でも自転車を続けていた。双子の兄は東堂と同じ大学に進み、東堂ほか何人かと自転車競技部を設立したと聞いている。
わたしはと言えば、夢があるわけでもないまま大学へ適当に進み、卒論を書いていた。東堂は部活でも勉強でも成績をのこした。そうしてお互いに留年もないまま卒業をして、同棲をはじめた。
女二人で住むということで不動産には「ルームシェアですか?」なんて言われたが東堂はその度にキッパリと「いえ、恋人です」なんて返していた。不動産屋は顔を顰めたり、理解がある顔をしたり、お祝いをしたりしていたが東堂は話をさっさと進めたそうにしていた。
東堂はプロの道へと進むから、自転車を置いておかなければならないし、わたしの職場の距離も気になるし、大家がわたしたちへの差別を持ってないことも重要だし、女同士だから2階以上でオートロックが必要で……。いちいち挙げられる言葉にわたしは横でなぜか恥ずかしい気持ちになっていた。
レズビアンふたりが同棲したいということが、こんなに不動産屋を困らせる話題だろうか。男女だって別れる可能性はあるし、トラブルを起こさないことはないし、ルームシェアの時だってオートロックを必要にすることはあるだろう。なのに、東堂の要望を聞いていくうちに不動産屋たちは顔を暗くさせていく。大家の差別なんて知ったこっちゃない、と言いたいのは分かる。でも、わたしたちには大事な話だった。
家が決まった時、わたしは一安心して泣いた。東堂のことを離さなくてもいいのだとようやく自分で理解できたのだ。
わたしはいつ東堂と別れるかもわからない、と自分に言い聞かせていた。結婚もできないまま、きっと一生を終えるのだろうと思った。この人生で東堂以上に好きになる人間はいない。便利な人間を置きたいだとかそんな嘘をかぶせた奥にあったのは、ひとりぼっちになる自分が怖かったという情けない気持ちだった。
引越しの費用であんまりお金もないのに、東堂はわたしに豪勢な刺身の盛り合わせを作ってくれた。彼女曰く、サクを買って切っただけということだがわたしにはこんなのは作れない。いつもはただ食べるだけの食事に、なぜか熱い気持ちが込み上げてくる。
「東堂、わたし、あんたとずっと一緒にいたいなぁ」
泣きながら言うわたしに東堂はすごく焦った顔をしていた。わたしは普段は雑な反応しかしないので、急にこんなことを言ったから焦らせたのかと思った。
「そ、そんなの……! 当たり前じゃないか!! わたしなんか、いつでも共同用墓地のあたりだってつけてるし結婚するための資金繰りだって考えてるんだからな!!?」
彼女はわたしを世界でいちばん幸せにする、と言っていた。彼女は嘘はつかない。いや、言ったことを本当にできるように誠心誠意の行動ができる人なのだ。
もう一口食べたビンチョウは世界でいちばんうまいマグロだった。