恋の話と誤解していたかった
#相田リコ #黒子のバスケ #百合夢
わたしは少しばかり人間の観察能力が長けているのだと思う。それは人間の数値の能力とかじゃなく、好意の話だ。
うちの部活のマネージャーとして入った-名前1--名前2-はその可愛い姿とバスケのセンスと負けん気からうちの部活のメンバーひいてはライバル校たちみんなに可愛がられている。かく言うわたしも可愛い後輩だと思ってみているけれど。
うちで一番-名前2-と仲良くしているのは伊月くん。他校だと意外なところで氷室さんと仲がいいらしい。その他いろんな人から可愛がられているし、恋愛的な意味でもモテている。だが、残念なことに-名前2-が好きなのは日向くんらしい。うちの部活でいちばん奥手な彼である。
合宿の時に-名前2-から「日向さんって、彼女いますかね? リコさん仲良くしてますもんね!」と聞かれて、この子ってああいう男の子がタイプなのかと思った。
「いないわよ」
その一言を言うのに苦労した。いると嘘をついたら、この子はどれほど悲しむのかと思った。
カントクと主将という立場から、わたしたちが付き合ってるんじゃないかと勘ぐる女子はこれまでだっていた。わたしは予防線を貼るように「年上が好き」「大人っぽい人が好き」「口が悪くない人が好き」と言い続けてきた。-名前2-にそれをしなかったのは、ひとえに彼女が色んな男子に愛されているからそのラインナップの中からいちばんの男を選ぶと思っていたのだ。
しかし、わたしは自分が思っているよりも-名前2-のことを可愛がっていて、男子にとられたくないと思っているらしい。わたしは日向くんと-名前2-をできる限り同じ視界に入れたくなかったけれど、主将とマネージャーなのだから話さないわけにはいかなくて。-名前2-を見る度になんだか恨めしい気持ちになっていた。
-名前2-の髪の毛はよく手入れのされた黒髪ロングだ。部活をする時にはそれをポニーテールにしている。うなじの部分が少し刈り上げられていて後れ毛のひとつも出させないような努力をしているところが気に入っている。
ブラが透けて見えないように気を遣ってベージュの半袖タイプの下着の上からTシャツを着ているのも知っている。着替えをしているときにわたしにだけ可愛い下着をつけた、なんて笑う彼女のことが好きだった。
それでも現実は-名前2-を甘やかしてくれることはなかった。日向くんに恋人ができたというのだ。ウィンターカップの活躍を見て好きになったと。
-名前2-という高嶺の花ではなく、自分の好きでいてくれる女を選ぶのはどうかと思うし、なんなら高嶺の花はあんたの事が好きだったんだぞと言ってやりたいが。それも後悔先に立たずってやつだ。
-名前2-の方をちらりと見るとなぜか。それはもう不思議なくらいに笑顔で日向くんのことを祝福していた。彼女の演技は完璧で、わたしの方がその-名前2-の気持ちに泣きそうになってしまった。
――
日向さんはリコさんのことが好きなんだ、と気づいたのは入部してからすぐのことだった。最初のうちはリコさんよりも自分を振り向かせようと思ってのことだった。男たちの間でうまく立ち回ることは簡単だ。そうしなきゃ女としての価値がないし、人生うまく生きられない。自分のことだけが好きで、将来安定しそうで、DVとかしなさそうで、周りから妬まれないほどほどの男。そんな男を探したかったのに、わたしの中に入り込んできたのはリコさんの方だった。
ただしリコさんの方はわたしなんて全く興味がないみたいだった。
年上がタイプ。大人っぽい方がいい。口調が悪いとダメ。
わたしはリコさんの後輩だし、男の子から可愛く見られるようにしてきたし、正直口調はひどいものだ。でも、なんとかしなきゃと思った。リコさんのためにわたしは自分を変えることにした。
年齢は無理なので、見た目だけでも、口調だけでも頑張った。子どもっぽいカラフルなアクセサリーはやめた。もっとシンプルなモノトーンのものに変えた。髪の毛もゆるふわパーマとかはやめて、ただのストレート。スポーツをやるのに邪魔になるからポニーテールにして。リコさんに後ろ姿も正面の姿も横からの姿も綺麗に見られたくてめっちゃ整えた。
口調はむずかしかったけど、でも、リコさんのためだからと思って頑張った。その頑張りはリコさんじゃなく別の男たちを呼び寄せたがわたしはどうでもよかった。
リコさんは、日向さんのことをどう思っているのか。わたしはそれがずっとわからないままだ。もしも日向さんがわたしみたいな男に好かれる女じゃなくて、自分のそばに居てくれるリコさんみたいな優しくていい女に惹かれたらどうなってしまうのか。
それがもう心配でたまらなかった。
だからわたしは、友達を日向さんにすすめた。日向さんのことが気になっているというあの子に、アプローチの仕方を教えた。男に好きになってもらうやり方はよく分かっていたから。
日向さんは友達からの告白にOKを出した。わたしは「まじでもうエンジェルってやつだよ!」と褒められたけど、わたしからすればうざい敵を無力化してくれてありがとうって感じだ。
日向さんが彼女ができたと報告をした時、わたしはものすごい達成感にみまわれた。本当によかった、と拍手をするわたしの横でリコさんはなぜか泣きそうな顔をしていた。
リコさんの気持ちは日向さんの方にやっぱり向いてしまったのだろうか。
わたしはそれでもリコさんのことが大好きなのに。わたしは笑顔をつくった。リコさんが悲しむのならば、それを慰めるわたしの立場だってあるはずだ。わたしとリコさんはとっても仲のいい先輩後輩なのだから。
「リコさん、泣かないでください」
リコさんは、あんたが泣かないからよと言った。わたしだって泣きたいのだ。無力化させたと思っても、恋ってのは厄介すぎる。