ホログラムと罪
漫画のように上手くはいかない。ガラスは蹴破ると危ないのだ。千咒という女はしかし漫画の中の女だったらしく、彼女がガラスを突破ってまで喧嘩をした。その突き破ったガラスの向こうに人がいるだとかそういったことは考えていなかった。わたしは降り注ぐガラスの破片たちに怯えて頭を抱えた。わたしの制服がズタボロになり人が落ちてきて自分にぶつかりまたよろけてガラスにぶつかり、自分が結局どうなったのかを考えるととてもじゃないが正気を保っていられなかった。
千咒はまだ人を殴っていて、わたしはぼんやりと自分の血が流れていくのを眺めていた。自分の傷ではないと言い聞かせながらも痛みはわたしをむしばみ仕舞いには意識さえも奪っていった。
次に目が覚めた時にはわたしは体全体に引き攣るような痛みと熱を感じていて自分がどれほどの傷を負ったのかを知った。体を少しでも動かしたくなくて目玉だけを必死にぐるぐるとまわせば近くに母親と千咒がいるのが分かった。
母親から言われたことはわたしの体は今はボロボロでなんとか顔だけでも修復したということと、まだガラスの破片全てが取り切れたわけではないということ、千咒の家が治療代を支払うということだった。
母はわたしに「結婚する時に大変にならないように」とわたしの顔を治してくれたそうだが、わたしが一番好きなスキーをやるための足は治してくれなかったのでわたしは医者から「本当に申し訳ないのだけれど……」と諦めるように言われたのだった。ガラスの破片というものは鋭利で細かくてわたしの足をズタボロにした為にスキーのブーツのような硬いものに包ませてでもスポーツをやることは難しいと言われたのだった。硬い方が固定されるのでは、と思ったがまた別の医者が「スキーはむしろ脚を動かしていないとバランスがとれませんよね。体重をかけるのも、そのブーツにあわせるのも、今の脚では……」と言われて納得してしまった。
わたしは千咒に怒る気持ちはなかったけれど、泣きじゃくる彼女を見てざまあみろと思ってしまった。わたしより可愛くて、男の子たちから人気で、かっこいいお兄さんがいる彼女から「ジブンたちはずっと親友だからな!」と言われることがどんなに苦痛だったのか彼女は知らないだろうから。
これから一生彼女がわたしへの罪悪感で縛られているのかと思うとそれはとても楽しいことに思えた。
――
ジブンのことをなんと言われようと気にしないけれど、ナマエのことはダメだ。ナマエの下着が見えそうだとか、あの胸のあいだに手を突っ込みたいだとか、恋人になれそうだとか、男たちのきたない欲望にナマエが晒されるのはいやだ。
それで、ひとり、どうしても許せないやつがいた。ナマエが告白されたという話をしていたやつ。今はお試し期間とか言っていたやつ。そいつが、ナマエのことをバカにしていた。ナマエのこと、胸だけで選んだって。さっさとヤれないかって。
ぶん殴って反撃されて、そのまま廊下へと男を蹴り上げたときに教室の窓が割れてしたにナマエがいるのが見えた。ジブンの反射神経ならナマエのことは助けられたはずなのに動けなかった。このまま怪我したら、ナマエは、男たちにあんな目線で見られることなんてないんじゃないかって、そう思った。
ナマエはケガをしたあともやっぱり綺麗なままだった。傷だらけで、修復したという顔だって前よりはひどい顔だ。でも、ジブンはどんな時でもナマエのことが好きなんだと思えた。