優しいを目に見える形にしたら
喧嘩した友がいる。喧嘩、と呼んでよかったのか。ただの向こうからの一方的な拒絶だったものがわたしも思わず反応してしまったのだ。
「もう山田のことなんて知らんわ!!」
そこまで言ってしまって自分がひどく幼稚なことを言っている気がしたが、山田はもっと幼稚で「じゃあ絶交だからね!!」と言った。今思うといい歳した女たちが「絶交」と言い合うのもひどい。
些細なことでの喧嘩だったように思うけどきっかけなんて忘れてしまった。最初こそ、「あんなの嘘」と言いたくてメールを開いてこまめにメッセージを送っていたが全く相手にされず、スーパーで会ったときにだって無視されるので自分が向こうに嫌われているのかもとようやく思い至った。
そしてそれが自分にどれほど大きなダメージを与えているかも。
「うぅ、いやだぁ、山田ぁ!! 山田と絶交したくないよぉ……」
「いい歳した女がハンカチもなく泣くなよ……」
「上田さん、いい男は泣いている女性を見たらハンカチを差し出すんですよ」
「どこにそんな可憐な女性がいるというんだ」
「……ふんっっ!! あーあ、山田と仲のいい上田さんなんか嫌いです……」
「それならな、ここに来るんじゃない。ここは俺の部屋なんだから」
「相変わらずここ汚いですね、生徒たちも困ってませんか?」
「おい。おい、話を聞けよ」
山田と最近仲がいいらしい(本人たちはとても否定してくる。)上田さんのもとに来たのはわたしの愚痴を聞いてもらうためだった。大学教授というが、遊びに来る度に大体この部屋にいるような気がする。まあ長期でいない時には山田もいないのだ。山田が何かしらのショーに出る時には上田さんはここにいる。そういうもんである。
山田とはスーパーのパートとして仲良くなり、彼女があの店を辞めたあとも会えば店に出て会話するぐらいのことをしていたのだ。それが、なにか忘れた喧嘩のせいで彼女と絶交してしまった。情けないけれど、山田のことを考えると涙が出てくるのだ。
上田さんがおそるおそるというふうにくしゃくしゃのポケットティッシュを渡してくれた。風俗店らしき名前が書かれているが気にせずわたしは鼻をかんだ。
と、その時、後ろでドアが開く音がした。生徒さんが来たならさすがに邪魔か、と動こうとしたら「ミョウジ!?」と叫ばれた。そしてその声はよくよく覚えがあった。
「や、山田ぁ!!」
山田はいつものノースリーブタイプの洋服でビニール袋を片手に来ていた。そして向こうもわたしのことに気がついていたのか指さししてわなわなと震えていた。まさか、上田さんに愚痴りにきていたのが悪かったのかと思ったが、山田はつかつかとわたしのもとに駆け寄ってきた。
「何であんたがこんなところに、ってまさか」
「な、なによ」
「上田に惚れてるとかじゃないよね!? こんなやつ、あんたには似合わないからね!!?!?」
いや、それはない。わたしと上田さんの声が重なった。山田は「本当よね!?」とがくがくと肩を揺さぶる。
「大丈夫だって……。上田さんとは山田の方が」
「それ以上は言わないで」
「おいやめろ、まじで鳥肌が立ったじゃないか」
山田はふぅ、と息をついたあとハッとしてわたしから離れた。
「ミョウジとは絶交したんだから! その、さっきのは、えっと……」
「……わたしは絶交するなんて言ってないし」
「はぁ!?」
「上田さん、絶交するってお互いに了承がなければ成立しませんよね?」
「ん? ああ、まあ、そうかもしれないな」
「おいこら上田! 丸め込まれるな!」
「山田の一方的宣言なので無効でーす!! 残念ですが山田はわたしとずっと友達でーす!!」
はくはくと山田は口を動かしていたが、くっと目を開いてわたしに向き直った。わたしは山田のこういう表情が好きなのだった。
「仲直りの、握手ね」
「うん」
上田さんはパチパチと拍手を送ったあと「それで、喧嘩の原因はなんだったんだ?」と聞いてきた。
「忘れました」
「たしか、ご飯にシチューをかけるとかそういう……」
「……お前たち、そんなことで絶交してたのか?」
「そんなことじゃないですよ!」
「そうですよ! 目玉焼きに何をかけるかと同じくらい大切です」
ねー、と笑い合うわたしたちを見て上田さんは「ついていけん」と呟いた。
わたしはこっそりと山田の肘をつついて囁いた。ばつのわるい顔をしている山田をわたしは初めて見た。
「ごめんね、山田」
「……私も、絶交とか、久々に言っちゃった。ごめん」
「んふふ、いいよぉ」
「もう山田のことなんて知らんわ!!」
そこまで言ってしまって自分がひどく幼稚なことを言っている気がしたが、山田はもっと幼稚で「じゃあ絶交だからね!!」と言った。今思うといい歳した女たちが「絶交」と言い合うのもひどい。
些細なことでの喧嘩だったように思うけどきっかけなんて忘れてしまった。最初こそ、「あんなの嘘」と言いたくてメールを開いてこまめにメッセージを送っていたが全く相手にされず、スーパーで会ったときにだって無視されるので自分が向こうに嫌われているのかもとようやく思い至った。
そしてそれが自分にどれほど大きなダメージを与えているかも。
「うぅ、いやだぁ、山田ぁ!! 山田と絶交したくないよぉ……」
「いい歳した女がハンカチもなく泣くなよ……」
「上田さん、いい男は泣いている女性を見たらハンカチを差し出すんですよ」
「どこにそんな可憐な女性がいるというんだ」
「……ふんっっ!! あーあ、山田と仲のいい上田さんなんか嫌いです……」
「それならな、ここに来るんじゃない。ここは俺の部屋なんだから」
「相変わらずここ汚いですね、生徒たちも困ってませんか?」
「おい。おい、話を聞けよ」
山田と最近仲がいいらしい(本人たちはとても否定してくる。)上田さんのもとに来たのはわたしの愚痴を聞いてもらうためだった。大学教授というが、遊びに来る度に大体この部屋にいるような気がする。まあ長期でいない時には山田もいないのだ。山田が何かしらのショーに出る時には上田さんはここにいる。そういうもんである。
山田とはスーパーのパートとして仲良くなり、彼女があの店を辞めたあとも会えば店に出て会話するぐらいのことをしていたのだ。それが、なにか忘れた喧嘩のせいで彼女と絶交してしまった。情けないけれど、山田のことを考えると涙が出てくるのだ。
上田さんがおそるおそるというふうにくしゃくしゃのポケットティッシュを渡してくれた。風俗店らしき名前が書かれているが気にせずわたしは鼻をかんだ。
と、その時、後ろでドアが開く音がした。生徒さんが来たならさすがに邪魔か、と動こうとしたら「ミョウジ!?」と叫ばれた。そしてその声はよくよく覚えがあった。
「や、山田ぁ!!」
山田はいつものノースリーブタイプの洋服でビニール袋を片手に来ていた。そして向こうもわたしのことに気がついていたのか指さししてわなわなと震えていた。まさか、上田さんに愚痴りにきていたのが悪かったのかと思ったが、山田はつかつかとわたしのもとに駆け寄ってきた。
「何であんたがこんなところに、ってまさか」
「な、なによ」
「上田に惚れてるとかじゃないよね!? こんなやつ、あんたには似合わないからね!!?!?」
いや、それはない。わたしと上田さんの声が重なった。山田は「本当よね!?」とがくがくと肩を揺さぶる。
「大丈夫だって……。上田さんとは山田の方が」
「それ以上は言わないで」
「おいやめろ、まじで鳥肌が立ったじゃないか」
山田はふぅ、と息をついたあとハッとしてわたしから離れた。
「ミョウジとは絶交したんだから! その、さっきのは、えっと……」
「……わたしは絶交するなんて言ってないし」
「はぁ!?」
「上田さん、絶交するってお互いに了承がなければ成立しませんよね?」
「ん? ああ、まあ、そうかもしれないな」
「おいこら上田! 丸め込まれるな!」
「山田の一方的宣言なので無効でーす!! 残念ですが山田はわたしとずっと友達でーす!!」
はくはくと山田は口を動かしていたが、くっと目を開いてわたしに向き直った。わたしは山田のこういう表情が好きなのだった。
「仲直りの、握手ね」
「うん」
上田さんはパチパチと拍手を送ったあと「それで、喧嘩の原因はなんだったんだ?」と聞いてきた。
「忘れました」
「たしか、ご飯にシチューをかけるとかそういう……」
「……お前たち、そんなことで絶交してたのか?」
「そんなことじゃないですよ!」
「そうですよ! 目玉焼きに何をかけるかと同じくらい大切です」
ねー、と笑い合うわたしたちを見て上田さんは「ついていけん」と呟いた。
わたしはこっそりと山田の肘をつついて囁いた。ばつのわるい顔をしている山田をわたしは初めて見た。
「ごめんね、山田」
「……私も、絶交とか、久々に言っちゃった。ごめん」
「んふふ、いいよぉ」