デートに誘いたい

 うちの班長と、伊達班長はどうやら幼なじみのライバルというやつらしく。何度も対決をしかけては負けたり勝ったりとほんとに遊ぶような仲だった。  うちの班長のことはいい人だと思っていたし、たまに人に対して期待してない冷めた目線を送る人だよなとは思っていたがこちらの嫌がることをしないという線引きはうまい人だった、うちの班は伊達班と負けず劣らず仲がいいチームだったのだ。  班ごとに行動するのが基本だが、一緒に行動するということもままあった。合計十人という多さはサザエさん一家よりも多いと諸伏は笑っていたがあまり笑えない話だった。十人は団体行動するにしては多すぎた。そも、おれは団体行動のなんとなく流れる「グループ分け」が苦手だった。結局、伊達班は伊達班、うちの班はうちの班のメンバーと絡むようになるのである。こんなお遊び無駄ではないかと心配することも仕方がない。  そうやってストレスを貯め続けた結果、段々と「伊達班と一緒」と聞いた時にはおれは遠慮するようになっていった。彼らは悪くないし、うちの班のメンバーはみんないいやつだが。自分がその無意識の分かれ方にハマっていくのが怖かったし、いつかとんでもないことを起こすんじゃないかとこわかった。  伊達班はみな個々の個性が強すぎるという難点はあるものの成績は優秀な人間の集まりだったのも起因するかもしれない。彼らにはエリート意識はなかった。ただ「知ってて当然」とばかりにこちらに話を向けるので、無知である自分が恥ずかしく申し訳なく感じるのだった。あとから自分の部屋で思い返してみれば「いやギリシャ神話の英雄たちの家系図なんて分からなくても仕方がないよなぁ!?」と思ったりするのだが彼らにとっては「当たり前」なのだった。  当たり前。それは、人によって違うけれど。それこそ周りの世界によって刷り込まれるせいで「ちがう人もいる」「知らない人もいる」ということが忘れ去られてしまうのだけど。彼らはそれを知らないようだった。  ある日、どうしても班長に来てほしいと頼まれて待ち合わせの玄関に行くと諸伏が待っていた。うちの班長の代わりに来たという彼はもぞもぞとして「ひ、久々だね一緒に出歩くのって」と言い出した。  こういう人間の仕草は、きっと多くの人間が同じようなものなのかもしれない。いや伊達班のメンバーを思い浮かべると「多くの人間と同じか……?」と疑問がうかぶが少なくとも諸伏はおれが今までみてきた人間と同じ仕草をしていた。  それは、人が、人を好きになったという仕草だった。  人が人を好きになることは根源的な欲求である。まるかばつか。  答えはばつ。性欲と恋愛はノットイコールだから。  おれは別にセックスが嫌いなわけではなかった。シたいと言われたからシていた。でも、そこに「恋人」とか「好き」とかいう枷がつくと一気に義務的な気持ちが生じ「自分はどうしてこんなことをしているんだろう」と意味や意義を求めるようになってしまった。  人が人を好きになることに理由はないというならば。おれのこの「そんな義務を背負わなければならない理由を知りたい」という気持ちは一体なんなのかとても不思議だった。  成長し、自分の世界をもっと広げられるようになった頃には自分は恋愛感情がない人間なのだろうと思い至った。ないものの証明はできないけれど、少なくとも「恋人としてあれこれ頑張ることがとてつもなく苦痛である」だとか「恋人でなくとも好みの相手ならばセックスができる」という気持ちを持っているのは恋愛感情に起因しない性欲があるのだろうと思っていた。  うちの班のメンバーにはまだこのロマンティック性について伝えたことはなかった。マイノリティといわれるおれたちは、言わなければ存在しない透明人間だとは分かっているが「ヘテロセクシャル・ロマンティックと思われている」という誤解は適度に生き方を楽にしてくれるのでそこにノーをつきつけられるなかったとも言える。  ただ、その誤解のためにおれは他人の恋愛に巻き込まれてしまった。男同士ということをうちの班長がどう思ったのかは知らない。もしかしたらネタにするためにカメラを構えているかもしれない。諸伏はきっと、そんなこと、考えてないのだろうけど。彼はどこへ行くかをニコニコと話していた。おれはそれをずっと聞き流していた。行く気はさらさらなかった。 「おれ、騙すようにしてセッティングする人、好きじゃないよ」  おれが諸伏を遠回しにフッた話は伊達班を駆け巡ったらしく、降谷を筆頭に「わざとじゃなかった」「そうでもしなきゃ逃げると思った」「あんな風に言うことない」などと言ってきた。  おれは。ただ班長に呼ばれたから行くことにしたのだ。それは班長への信頼だった。それを裏切ったのは班長だったというのは分かっている。班長はすぐに謝ってくれた。応援という名目で、お前の気持ちを無視した行動なんてすべきじゃなかったと誠心誠意謝ってくれた。おれは班長をゆるした。班長のお人好しさが、今回は悪い方向に働いてしまっただけだと分かったから。  だが、諸伏たちのことはよくわからなかった。なぜこうして責められるように言われるのかも。 「おまえたちの人生は、恋愛しないという選択肢はないのか?」 「は?」 「おれには恋愛感情はない。ああやって騙しうちみたいに呼び出されてデートっぽく振る舞われたって迷惑だ」 「ヒロはお前のことを本気で……!」  本気で好きな人間には、本気で対応すべきじゃないのか? おれは、おれは。 「おれに、もし、恋愛感情があったとしてもさ。諸伏みたいなやつは好きにならないよ」