ほぼひとしいから大丈夫
その婚姻届が出された日よりも前に、彼女の夫はすでに死んでいたことが明らかになっている。つまり、彼女は死体と結婚したことになる。 どんな罪になるのか、と色々ともめたが死体遺棄容疑で捕まることとなった。彼女は現行犯逮捕をされた。微笑んで死体に向かって「わたしたち、いつまでも一緒ですからね。大丈夫ですよ」と声をかけていた。 彼女は事情聴取の場でとても丁寧な受け答えをした。精神的に不安定ということはなかった。まっとうに、あの男が死体とわかったうえで、結婚をしたことを話した。 「あなたの夫は、死体ですよね?」 高木刑事に出された質問に彼女は「そう見えていませんでしたか……?」とまるでこちらの頭がおかしいように問いかけてきたのである。 「……。死体であるとわかった上で、婚姻届を出したんですか?」 「はい。あの方はわたしが出会った時には死体になっていました。でも印鑑等はありましたから」 別の人間にサインを書かせ、そして婚姻届を提出した。もちろんこれも犯罪にあたる。彼女は「あらあら、悪いことしちゃったわ」とサインを書いた人間にさして悪いとも思ってないような顔でそう言った。 彼女はまぎれもない犯罪者である。証拠は出揃っておりすぐにでも裁判にかけられるだろうとは思う。けれども、佐藤美和子は彼女の結婚したかった理由がいまだによくわかっていない。それなのに、もう裁判にかけていいものか分からなかった。 缶コーヒーを選ぶとピピピ……とルーレットの音がしてもうひとつ選べることになった。迷いながらももう一個コーヒーを選ぼうかと思ったら「悩んでるね、佐藤刑事」と声がかけられた。ひゃっ、と指がボタンにかかる。エナジードリンクが落ちてきた。 「……ごめん、変な時に声かけちゃった?」 「大丈夫よ。……コナンくん、コーヒーって飲める?」 コナンにコーヒーを、自分はエナジードリンクを飲む。なにか悩んでるの? と繰り返すコナンに「ちょっとねぇ……」と佐藤はにごした言葉で答えた。死体と結婚をした女、という話はなんと説明すればいいか分からなかったのだ。小学生に変なことを教えたくないという気持ちもあった。 「……いま、巷を騒がせている死体愛好家……の話だったりする?」 げほ、とむせた佐藤に「大丈夫!?」とコナンは心配したような声をあげるがむしろ佐藤からコナンに聞きたかった。どこでそんな言葉おぼえてきたの? と。 「……君に隠し事はむずかしいね」 「えへへ……」 「照れることじゃないわよ。……全く、こんなことにまで首を突っ込まなくてもいいのに」 「だあって……」 コナンが苦笑いしながらも話を聞きたそうにしている。本来ならば絶対にしゃべらないが、佐藤はこの立ちはだかる「黙秘の謎」を小さな探偵に依頼して解いてもらうことにした。 「……彼女はね、死体とわかった上で結婚したらしいの。その理由についてはまだ黙秘されたまま。現行犯逮捕だったし、このまま裁判に持っていってもいいんだけど……」 「それはまだ、って思ってるんだ?」 「……。結婚って、大きなイベントじゃない? それを、死体とわかった上でするって結構なことでしょう? しかも彼女は別に死体愛好家とかそういうのじゃないらしいのよねぇ」 「そうなんだ?」 「本人曰く、ふつうに男の人が好きってことらしいわ。このふつうにっていうのは、生きているって意味らしいけど」 コナンはふむ、と顎に手を当てて考えていたが情報があまりにも少なすぎる。レクター博士を相手してるみたいな気分よ、と佐藤が言うので「じゃあさ、映画みたいになにかお話をしてみたら?」と試しに言ってみた。せめて情報がないと推理もなにもないのだから。佐藤は「そうね……」と気のない返事をしていた。 #名前2#は連れ出されてもニコニコとしている。佐藤はふと、「あなた結婚式とかあげた?」と聞いてみた。 「いえ、彼は死体だったので」 「それじゃあ、ウエディングドレスとか憧れはないの?」 「着れなくてもわたしはわたしですから」 「……死体とは、どこで会ったんだっけ?」 「樹海です。自殺しにいっていたので」 「そこで、死体と出会った?」 「はい」 「どうして結婚しようと思ったの?」 「さあ、どうしてかしら。でも、しなきゃいけないと思ったの」 #名前2#はけたけたと笑うだけだった。そこから何度も聴取が行われたが#名前2#はのらりくらりと躱すだけ。佐藤の方も上から「さっさと検察に引き渡せ」という命令がのしかかり終いには#名前2#を見送ることとなってしまった。 今日で終わりよ、と言う佐藤に#名前2#はふっと笑った。 「わたし、あの方が男性とは一言も言ってないでしょう?」 女の死体と、結婚した女はその後の裁判で自分の無罪を主張しようとすることもなかった。裁判官にも結婚の理由を明かすことはなかったので陪審員たちの印象もよくなかった。 ただ一言、彼女は奇妙な言葉をのこしている。 「死んでみないと、自分の夢って叶えられなかったりしますから」