矛盾の海に沈む

 女のことが好きらしい。女なのに。  それがどうにも不思議でしょうがなかった。鶴蝶たちは気持ち悪いだろと言っていたが、俺にはそれよりも「どうして女を好きになるんだろう」とそれが不思議だった。男は女を好きになる。女は男を好きになる。そういうもんのはずだ。だが、目の前の女はちがうという。  男相手に体を売る仕事だと、どうしたって色恋沙汰が発生するもんだが、この女に関してはそれが必ず「仕事仲間」と発生する。そのまま事故って人が消えるという知らせは何度も耳に入り、ついにはあの女と出会ってしまった。自分の人生の中に恋があるとは思わなかったし、失恋からはじまるとも思わなかった。  顔はそれなり。セックスのテクニックはうまい方。聞き上手で話はしやすい。ただ、プライベートだと女を求めている。そうして相手の女を使い物にならなくする。  客は新しく引き寄せられても、女たちを使い物にするためには時間も手間もかかる。というか、女がいればいるほど金を運ぶ駒が増えるのだから女たちが消えていくのはデメリットしかなかった。  どんな女がいいんだよ、と思わずでたのは自分のことをわざと傷つけるようなものだった。聞いたところで俺は女にはなれないし、この女は俺を好きになることはない。 「……どんな人がタイプかと言われるとむずかしいけど……。手が」 「て?」 「手がしわくちゃになっても、可愛いと思ってくれる人がいいな」  そんなの、俺だって、と思う。あんたの顔に火傷があっても、髪の毛がきえて禿げたとしても、しわくちゃだらけの腰の曲がったばあさんになっても俺はこの女を好きでいる自信がある。ただ一点、おれが男だからこいつの「好きな人」にはなれない。  俺じゃダメか、と聞きたかった。そっちの方が楽だろ、とも言いたかった。けれど、言ってしまえばこの女から好かれることは一生ないだろうことは分かっていた。  もし、こいつがまともな人間だったら、俺はこいつを世界で一番幸せな女にしてやれるのに。 「イザナはどんな人が好き?」  女がすきな女。そう答えられたら、どんなによかったか。  ふつうに恋をすればいい。ふつうに結婚して、ふつうに子どもを産んで、ふつうに家族になればいい。なのに、この女はそれだけがふつうじゃないと言い張る。  殴ってでもこいつを自分のモノにしてやろうかと思ったけれどそれは俺にとって「ふつうの恋」じゃないから。だから、仕方なく、話を聞いているだけにしている。この女がまともになるまで、死ぬまで付き合ってやる。