愛してるよ(びっくりした?)

 ともだちはとても美人だ。エマと仲が良くなったのは町で子供たちを集めて遊ぶ会だった。同い年の女の子はエマとわたしだけだった。  エマは初対面でつっけんどんに「わたしの友達にしてあげるよ」と言った。あとから、彼女の好きなドラケンに「友達を作れ」と言われてわたしに声をかけたのだと知った。  それを知るまで、わたしはエマの横にいるのが結構不思議だった。エマとわたしはジャンルが違う。よく、そう言われた。女のジャンルってなに。わたしは聞きたかったけれど、周りはただ笑うだけ。そういうんじゃない、と否定するやつもいた。そういうやつってなに。なにを否定してるの。どうして笑ってるの。わたしはエマといるとイライラすることばかりだった。  エマとわたしの趣味は全く違う。ギャルのエマと、趣味がなんにもないわたし。エマの夢は女の子らしく可愛く、お嫁さんだった。いつか大きくなったら母がすてた家業を継ぐんだろうな、というわたしはのんびりといつか仏教系の大学へ進むんだろうなとざっくりした考えはあった。  エマには彼氏がいた。幼い頃からずっとその人だけを追いかけているらしい。わたしは恋人ができたことがない。ほしいと思ったけれど、どうやってできるのか、つくるのか、それすらもよく分からなかった。  わたしは怯えていた。男が怖かった。でも、周りは恋愛の話ばかりで、男に憧れるものばかりで、わたしは何も言えなくなってしまうのだった。  エマは嫌なことがあってもすぐに切り替えてしまう。都合のいい頭、と心の中では笑っていたけれどそれが羨ましくもあった。  いいなあ、エマは。わたしは何もしないのにただ羨むだけだった。  エマが死んだとき、わたしはざまあみろと思った。そしてわたしは泣いて泣いて学校を休んだ。小学校同様に皆勤賞を狙っていたのに、エマのせいで諦めることとなった。  翌朝、ベッドの上でエマが浮かんでいた。  あんた死んだよ。  わたしが教えてやると、エマは「えー!? うっそ、ほんとに死んだんだ!」とはしゃいだような声を出したあとはーーっと大きなため息をついた。 「知ってるよ、そんなの」 「残念だったね、夢が叶わなくて」 「……ドラケンに、もし好きな人ができそうになったら阻止してよ」 「やだよ」 「なんで」 「好きなやつの好きなやつに新しい恋人ができたら喜ぶでしょ、フツー」  わたしは佐野エマのことがそれなりに好きだったのだと思う。エマといるとイライラする。でも、それ以上に楽しくもあった。わたしよりも本気で怒って「ジャンルってなによ!」「彼氏とかいなくたっていいじゃん別に!」「あんたら怖いんだからもっと気ぃつかってよ!」といろんなことに叫んで、走って、叩いて、わたしのことを誰よりも愛してくれたこの女のことが本当に好きだった。  みんながわたしのことをナメた目で見ていた。ブスだから。おもしろくないから。エロくないから。いろんな理由でわたしのことを品定めしては不可をくだす男たちにエマだけが怒ってくれた。それがどれほど嬉しかったのかきっと彼女はしらないだろう。それを知らないから、彼女のことを好きになった。 「……ごめん」  彼女はわたしの目を見て謝った。わたしはいつも告白の不可の返事が「ごめん」というのが納得いかなかった。人間の気持ちにどうして謝罪することがあるのだろう、と。でも、実際にうけてみるとよく分かる。  心からの気持ちを突き返さなければならない彼らは誠意をもって謝るしかなかったのだろう。 「しってる」  だから、わたしも笑った。あんたが泣きそうな顔しなくていいよ、と言いたかった。あんたが死んでからじゃないと告白もできない馬鹿な人間を笑っていいんだよ、と。 「わたし、ずっと、これからもドラケンがすき」  しってる。しってるよ。 「わたしのこと、好きになってぐれで、ありがどう……」  泣かないで、エマ。わたしもありがとうって言いたいの。わたし、恋をしていいんだって思ったの。みんなが男の話ばっかりして、そうしなきゃいけないかと思ってたの。でも、ちがうって。女が女を好きになるっておかしくないって、うれしかったの。  エマはびゃんびゃん泣いたあと、ドラケンのことを見守るためと言ってわたしに取りついていた。自分を殺した男が憎くないの、と聞けば「そういう気持ち、あんまり持てたことないんだ」と笑っていった。わたしが好きになった女は、とてもかっこよかった。