額縁をかけて永遠になる

 わたしの小学校時代の初恋の相手がしんだ。ニュースで名前が流れていたが、しらない名前だった。 「三億円強奪事件の犯人……」  彼女は、まったく犯罪なんて似合わない顔で犯罪者としてニュースで死んだ報道をされていた。  彼女が死んだところでわたしの人生が変わるわけではない。翌朝、わたしは普通に職場へ行かなければならない。掃除のパートさんに挨拶をして、わたしはデスクについた。授業の準備をしながら、わたしは彼女のことを思い出しては「銀行強盗をしたのか」と考え込んでいた。みんなに優しくて、クラスの中では人気者。わたしはそんな彼女の親友になりたくて、でも彼女は人気すぎてきっとわたしのことなんかただのクラスメートとしか見てなくて。  わたしは彼女のことが大好きで、本当に大好きで、いやになってしまったのだった。  わたしは漫画の主人公ではないので、仕事帰りに突然タムリープするということはなかった。わたしの家は朝のほったらかした食器と共にわたしのことを出迎え、わたしは彼女の死を受け入れるしかなかった。  かぴかぴになったご飯粒と格闘しながら宮野明美のことをずっと考えていた。あのテレビに映っていたのはわたしの知らない宮野明美だった。彼女にどんな事情があったのかはよく分からない。ただ、彼女の夢は叶わなかったのかもしれないと思った。  小学校のころ、自分の夢を語る機会があった。わたしは素直にアイドルになりたいと書いた。みんなにバカにされた、消したい歴史である。わたしは本気でアイドルになりたかった。それが、わたしが人を救う職業だとおもっていた。  明美ちゃんは「妹と一緒に暮らしたい」といった。妹さんは、どうやら今は外国で暮らしているらしく、いつか一緒に暮らすのが夢だそうだ。わたしも彼女もおなじ。家族のために夢を持っていた。  わたしの姉は引きこもりで、いつも家でアイドルを見ていた。その粘着質な性格のせいで姉はネットではもしかしたらキモいやつになっていたのかもしれないが、わたしは姉に見てもらえるならばとアイドルを目指していたのだ。結局それは叶わなかった。姉はわたしが知らないうちに勝手に立ち直り、自らアイドルを目指したからだ。わたしの夢はどうしようもないくらいに行き止まり、否応なしに変更させられた。  自分の顔がそんなに可愛くないことは知っている。ふつうの顔と自分では思っているけれど、ある日クラスで男子たちが「自分のこと鏡で見たことないのかも」と言っているのを聞いて恥ずかしくてしかたがなかった。  ――ある。あるよ。でもアイドルにならないとお姉ちゃんが部屋から出ないんだよ。  明美ちゃんは次の日、わたしに手紙をくれた。クラスでずっと流行ってた、秘密の手紙交換。クラスの女の子たちが先生の目を盗んでひっそりと回してくれたもの。丁寧にめくると、そこには明美ちゃんの綺麗な字で「絶対にアイドルになれるよ」と書いてあった。彼女がなぜそんなことを書いてくれたのかは分からない。わたしの夢を本気で応援してくれた人は初めてだった。今振り返ると、あれは宮野明美の本心だったのか可哀想と思ったがための同情だったのか。彼女のことだからきっと本心だとは思う。いや、本心だとほかでもないわたしが信じていたいのだ。  わたしはあの時ようやく宮野明美が好きだと自覚したのだった。  もう、いないんだなあ。  ずっとずっとお守りのように大切にしてきたそのメモを見て、わたしは彼女の死を受け入れた。