あいしてるって聞きつけてくれないの
ジェイドが誕生日だからなにか渡してやって欲しい、とNRCの双子から連絡が来た。読みにくい下手くそな字である。なんで俺があいつのお祝いしなきゃならないのか。嫌だ、とすぐに返事を書いて送った。返事はまたすぐに送り返された。向こうは魔法を使っているのか異様に返事が早かった。今度からこの瓶に入れて送れ、とも言われた。郵送代がかからない代わりにあいつらにすぐに届くのだろう。それは嬉しいと思うべきか、面倒と思うべきか。 仕方なく瓶をごちゃついた机の上に乗せてペンをとる。バイト先で優秀賞をとったという理由で受け取ったペンは、陸でやっているゲームキャラクターのものだ。中にはサカナのキャラクターもいる。にっこりと笑うこのサカナはとても可愛らしい。俺の知る人魚とは大違いだ。 「#名前2#、手紙? 今どきよく文通なんかできるね」 「あいつらにスマホの番号なんて教えたくないから」 「……性格悪いねえ」 「うっさい。……あれ、マックィーンは?」 「今日は体調が悪いから休むって。いいよね、彼。普段の性格はくそなのにこういう時だけの演技はうまいから」 「いやあ……先生たちにもバレてると思うぞ」 「ほんと? そうだったら面白いけど」 掃除用具を持ったロジャースを見て「今日だっけ?」と思わず聞いてしまう。掃除当番は定期的にまわってくるはずだが、ついこの前にやったような気がした。 「ううん、取引しただけ。ピザ食べたいから」 「ピザぁ?」 「そう。農業科のね、やつが。面白いことするらしくて、ちょっと手伝わせろって」 「いいじゃん、俺もやらせてよ」 「自分で言えって」 「あいつら、俺のこと怖がるんだよ」 ふたりでガショガショと車の掃除をする。実習で使う自分たちの車は整備しておけと言われている。わざと冬ゾーンを通り抜けたものは整備を丁寧にやらないと下が錆び付いてくる。その錆で減点をされるので、授業外の仕事も馬鹿にならない。ガソリンやブレーキオイルの確認に加えて今日は見た目も綺麗にしたかった。 「いいよなあ、ここの車。年季が入ってて」 「#名前2#のその美学はどこから来るんだろうな」 「海から」 「海かあ」 海の生き物は車など使わない。自分たちで泳いだ方が早いからだ。たまに遅い生き物もいるが、そこは助け合いの精神である。だから、海からきたものが自動車学科にきたと噂になった時俺はいろんな人間に「どうして?」と聞かれた。気分をよくしていた俺は毎度聞かれるそれに丁寧に答えた。クソ野郎の幼なじみたちは絶対に来ない場所だから。周りの温度が下がろうと気にしない。俺は、あのウツボたちから逃げるためにここに来ていたのだった。 なのに、その逃げさせた相手……あいつらからしたら、いつの間にかいなくなっていた幼なじみか? からやってくる手紙というものはどう考えても面白くない。掃除をしながら頭の中に浮かぶジェイドとフロイドは笑顔で俺を追い詰める姿だった。なんで今更誕生日プレゼントをあげなきゃならないんだ。1年時にはそんなこと言わなかったくせに。 夕飯時も考えていたが結局答えは出なかった。風呂は毎度別の学年と争いながら入るので考え事には向かない。風呂上がりにいつものように卓球をして遊んだ後は部屋に戻って自習、就寝である。この自習時間にぱぱっと返事を書いてやろうと思ったのだが、今更のこの連絡になんの意味があるのかを考え始めたら止まらなかった。 手紙には「なんでそんなに言うんだよ」と書いて送ってやったら、すぐに瓶に新しい手紙が出現した。魔法とはいえこういうものは怖い。誰かのユニーク魔法なのかもしれない。 フロイドからの返事は「俺が言うのもめんどくさいけど。ジェイドはお前のことが好きなんだよ」とあった。 ジェイドが俺のことを好き? おれに流氷の切っ先をつきつけたり、意味わからない陸の食べ物を押し付けたり、俺の好きだった子の視線を尽く自分に向けさせたあの男が? 「……」 「#名前2#、早く寝ないと先生に叱られっぞー」 「なあ、お前ら……」 「なんだよ」 「んぅ……」 「おれに尖った氷を向けてきたり、食べ物押し付けたり、おれの好きだった子が全員とあるやつを好きだったんだけどさ」 「うわ、またその話かよ? さっさと寝かせろよ、明日はプゥチャー先生の授業あるんだぞ」 「ロジャース、チェイミー先生だ」 「いやー、あれはプゥチャーだよ」 「おれの! 話を! 聞いて!?」 「聞いてるよ」 「らいじょーぶ、寝る1分前」 「……そいつが、おれのこと好きだったって言い出したんだけど」 二人はベッドからのそのそと起き上がって「マジで?」と聞いてきた。おれは深刻そうな顔をして頷いた。 * * * ジェイドはため息をつきながらミニカーのおもちゃを見ていた。#名前2#に内緒で彼の学校の文化祭に遊びに行ったときにもらったものだ。#名前2#はジェイドのことなど気にもしないで学校の友達らしき人と騒いでいた。その姿を見て自分はずっと彼と笑顔で会話してなかったことを思い出す。 #名前2#を喜ばせたくて色々とやってみましたが、失敗しましたしねえ……。 それでも頑張ろうと思っていたのだ。だが、#名前2#は毎年送りあっていた誕生日プレゼントすらも送ってくれなかった。ジェイドは自分が貰えなかったことに驚いて、#名前2#にプレゼントを送れなかった。せっかく、同じ誕生日なのに。 あの日は大泣きしてベッドで丸まっていた。クラスの人がおめでとうと声をかけに来ても嬉しいと言えなかった。そんな自分を見ていたためか、今年はフロイドがこそこそと何かしていた。 「フロイドは何をしてるんでしょうか」 「……あの#名前2#とかいう生徒とこそこそ連絡を取りあっているようですが」 「えぇ?」 「僕はのことはよく覚えてませんが。ジェイドは気にしてましたものね」 欲しくないと言ったら嘘になる。でも、フロイドに任せるのは何か違う気がした。ミニカーがかしゃり、と机の上を滑っていき両親からお祝いでもらったディップペンにぶつかった。インクも、セットでもらっている。サムさんの店にもレターセットはあるだろうが、自動車のものはあるだろうか?