君の真っすぐを少し止めて
!オリキャラ 「哀ちゃん、泊めてくれてありがとう」 泣き腫らした顔で明美は人形を抱きしめた。彼女が入院しているときの大切な友人はこのぬいぐるみだったらしい。保護者である#名前2#が原田と一緒にい過ごせるように明美はぬいぐるみに体を埋めて待つのである。自分の姉と同じ名前を持つ彼女はずっとそうやって我慢していた。 「別にいいわよ。それで、初めての家出はどうかしら?」 たった1軒先の家にやってきて家出なんて変な話だが彼女にとっては家出したということがいちばん大事なことなのだ。家の人に何も言わないで動くこと自体が彼女には初めてだ。 明美はひとつ年上なのに、入院生活が長引いたので下の学年に混ざり勉強をしている。それでも何ら違和感がないほど彼女の成長は遅かった。小さくて細い体にたくさんの不幸を背負った。哀にはどうもこの子の困っていることを素知らぬ振りをすることが出来なかった。 質問を受けた明美の顔は病院に行く時のような憂鬱な表情を隠さず、にがく笑った。私ね、お父さんが死んでるって知ってるのよ。そう言った時の顔と似てたのがなぜか哀には腹が立った。 「……やだね、こんなの」 ほんとはいけないことと分かってる。それでも明美は逃げることにした。逃げなければいけなかった。自分の汚らしく辛い思いから逃げるように。 「私、原田さんも#名前2#おじさんも好きなの。でも、でもね。…私も、抱きしめて欲しいなあ」 ぬいぐるみの体が明美の腕で潰れる。恋人を抱きしめるのと同じようにどうしてこの小さな体を抱きしめてやれないんだろうか。#名前2#という男はよく分からない。原田は原田で、自分の境遇と似ている明美を可愛がっているらしいが彼ではなく#名前2#に抱っこされたり褒められなければ意味がない。 #名前2#はよくいろんな女性に話しかけられている。ホテルマンとしての職業柄か、優しい言葉遣いで気遣いもあって、顔もかっこいいのだから当たり前かもしれない。でも、そこで女性の子どもには話しかけられるのに、明美には出来ないのは何故なのか。#名前2#という男はよく分からない。 「さあ、これをお飲み。体があったまるじゃろう」 ホットミルクを博士が持ってきてくれた。はちみつ入りのそれは明美の体を包み込みぽかぽかとした気持ちにさせてくれる。 明美はおそるおそる哀と博士をのぞいて見た。こんなことして怒られないかな、という目をしていた。父親も母親もいない彼女には#名前2#だけが頼みの綱だ。それをこうやって#名前2#の好意を置き去りにしているのではないかと思うと明美の体は血の気が失せていく。ホットミルクを飲んだはずなのにどんどん手足の先が冷たくなっていくのだ。泣きたくなった。鼻の奥がつんとする。喉からひねり出すように明美は哀にたずねた。 「哀ちゃん」 「なにかしら?」 「私、いけない子かな?」 そんなこと。あるわけないのに。 子どもがそんな遠慮することないのに。母親も父親も亡くして、ずっと入院生活をしていてようやく小学校に入ったというのに。なんでそんなに震えているのだろうか。寂しいとも言えなくて、心配してほしくて、でも行動したらそれだけ嫌われるんじゃないかと怖くなる。#名前2#にはそうするんじゃないかという怖さがある。 「ちがう、わよ」 哀にしては声がらしくもなく、震えてしまった。目の前の子にはどう見えただろうか。少しだけ心がいたんだ。 「そっかあ」 明美は力なくふにゃりと笑ってぬいぐるみをまた抱きしめる。今度は力強くしめるのではなく、ふんわりとそっと抱きしめていた。肩は震えたままで繋いだ手は冷たい。気持ちが届いてくれなかった。 ** 「明美!」 「おじさん!!」 明美を#名前2#が抱きしめる。玄関の元には原田がそんな2人を見ていた。斜に構えてじっと#名前2#と明美を見つめている。殺された父親のことを思い出したのかもしれない。それにしては表情があまり浮かなかった。 「明美、どうしてこんなこと……」 どうして、どうしてだって? 哀は頭にカッと血が上った。もう何かを考えて話すようなことじゃない。 「どうしてじゃないわよ!!」 哀は拳を強く握りしめて憤慨した。目の前の男は何もわかってないんだろうか。少女がどれだけ我慢していたことを。原田を抱きしめるのに彼女の頭をなでるだけで終わる男を。こんな、こんなやつ……。 「何でわからないのよ、……。#名前2#さんに対してどれだけ我慢してるのか……」 どういうことだ、と#名前1#の口が動く。博士が哀の肩を叩いて止めようとしたが哀は止まらなかった。明美も泣きながら哀を見つめる。「やめて」と口が動いた。 「あなたが手を出してあげなきゃ! 明美はずっと1人でいなきゃいけないんじゃない!!」 #名前2#はおそるおそる明美を身体から離して見つめた。本当なのか?と小声で聞いた。 すると、うわああああん、と明美が泣き始めた。ぬいぐるみを抱きしめてそこに口を押し当ててこぼれる涙もそのまま吸収されていった。言葉は何も作られず、ただ叫ぶだけだったがなんとか息を吸い込みながらも正直に話し始めた。 「わだ、わだしぃ…!」 鼻水でぐっしょりと濡れた#名前2#のシャツにしがみつく。耳元できちんと届くように明美は言った。 「わたじも、おじちゃんと一緒にいたい…! 1人で待つのはもうやだよぉ……」 原田さん、私も連れていって。置いてかないで。病院には、もう帰りたくない。 #名前2#や原田について言っていたのに、いつの間にか病気の不安の話になっていた。背中を叩かれる度に明美の口から不安がぽろぽろと出てくる。手術をした後でもまだ病院に通院しなければならないが、再発になったら病院に帰らなければならない。そうなったら明美はまた#名前2#や原田がいなくなるんじゃないかと心配していた。 「ごめん、ごめんなぁ、明美…!」 そんな言葉で終わらせるのか、と哀は思ったが明美にはそれで充分だった。抱きついた明美を#名前2#はずっと抱きしめていた。 そんな2人を見ていた哀のもとに原田が近寄ってくる。身をかがめて「#名前2#もね、どうやってお話しようか困ってたらしいよ。お父さんが亡くなったのをまだ伝えてないからね」と教えてくれた。本当は明美は知っているのだが、#名前2#は知らないと信じているらしい。 こんな2人でこれからもちゃんと親子をしてけるのか心配になったが、原田は「俺もちゃんとフォローするからよろしくな」と手を差し出すのでぺちんと叩いておいた。友人を泣かせた罪は、友人が結婚するその日まで償ってもらわねければ。 終わったあとの補足 ☆主人公 #名前2# 明美という少女を引き取った壮年の男。子育てって分からない。 ☆恋人 原田 #名前2#にアタックしつづけてようやく恋人におさまった。 ☆娘 明美 母親は自分が生まれると同時に死んだ。仕事で遠くに行っていると聞かされた父親が死んだことはなんのなしに分かっている。(でも父親はまだ生きてると信じたい。) 家族でもない#名前2#にワガママを言うことがはばかられ、ずっと我慢してきた。 原田のことはいい人と分かっているが#名前2#をとられたようで悔しさらしき何かを思っていた。 明美は宮野明美となんの関わりもない。 ☆友人 哀 友人のために怒れる女の子。うわじょししーがくせいつよい。