愛に種類があるなんて知らなかったから。
レオナは何度もその手紙を読み返す。何度も開いたせいでボロボロになったそれはわずかばかりの補修がされていた。 何回読めばその手紙の内容は変わってくれるのだろうか。そんなことは有り得ないと分かっているのにレオナは手紙を開く。その手紙は#名前2#・#名前2#が行方不明になった、ということを知らせるものだった。 * * * レオナの従者がいなくなって三日。小さかったレオナは迎えにこない#名前2#にしびれを切らした。バハリに初めて話しかけた。#名前2#はまだ来ないのか?と。バハリはなんと答えればいいのか分からず、困ったような表情で、しかし確かなことを説明してくれた。 「#名前2#さんは、恐らくずっと戻って来られません」 「ずっと? そうなのか?」 「はい」 「だれが! 誰がそんなことを決めた!!」 「……お父上に、ございます」 父の決めたことにはレオナも撤回させることはできなかった。王が第一のこの世界で発言を撤回させるのは、つまり王が間違ったことを命令したと言わせるようなものである。それをすることは、提言した者が死ぬことを意味していた。 レオナは涙を流した。大声で泣くことはなかった。レオナとてそれなりに成長している。 ただ、#名前2#とは、あいつとは約束があった。だって、また会えると思っていた。 「あいつはな、私と、約束した」 「……はい」 「私が18になるまで、めんどーを見るそうだ。嫌そうな顔をしながは、しらが頭の老人になるまで、私のそばにいると。そう言ったのだぞ」 「んっ、#名前2#さんがそんなことを?」 「ああ。どうせ40半ばだろうに、あいつはしらが頭になっても俺のそばにいる、と」 言ってくれたのだ。レオナは最後まで言いきれなかった。バハリがレオナを抱きしめたのだ。 #名前2#の手とは違う。女の暖かくて短い手だ。長い髪の毛が首元にあってそして、#名前2#とは違う匂いがした。#名前2#はいないのだ、と実感したときレオナは泣いた。すすり泣く小さな声だった。 その夜、バハリはレオナのもとには来なかった。#名前2#はいつも夜に来ては何かよく分からない話をしてレオナを笑わせて寝かしつけた。寝れない!とわがままを言うレオナに#名前2#は頭をなでる。 ――いいですか、レオナ様。眠る前に笑うといいことがあるんですよ。明日はきっといい一日になるんです、すごいでしょ。 そんなことあるはずが無い。それでもレオナは#名前2#の毎夜の話が好きだった。それが今は聞くことができない。ぐい、と自分で自分の口をあげる。#名前2#にはない、とがった牙が見える。笑わなければ。そう思えば思うほどに涙があふれてきた。 「#名前2#」 短い愛の言葉は口の中に消えてしまう。喉の奥を通り抜けて胃まで落ちた。寂しい気持ちを口にはできなかった。 翌朝、バハリがレオナを起こしに来るとレオナは自分で服を着替えてベッドに座っていた。 「おはようございます、レオナ様」 「……カルダモンティーを」 「はい」 レオナはワガママを言わなくなった。今まで#名前2#を困らせて自分を見てもらうために話していた幼さを捨てた。その代わりに彼はバハリ以外の人間を信用しなくなった。どうせ誰もが嘘つきだ。たわいのない口約束も、自分を褒める言葉も、どもれが嘘だ。 #名前2#、はやくむかえにこい。 夜はたったそれだけを願って寝た。こればかりは嘘でもいい。嘘でも幻でも構わないから会いたかった。毎朝起きて笑わないバハリの顔を見て願いは叶わないと知った。それを何年も積み重なればレオナとて何とか折り合いがついた。なるほど、優等生になっても意味が無いのだとその時ようやく思い知らされた。それならば、何もかもを自堕落に、叶わないことを願うのはやめにしよう。レオナがまたワガママでよりいっそう暴力的になるのをバハリは止めなかった。 レオナは父親のことがどんどん嫌いになっていった。そして父の跡を継ぐ兄のことも。自分が王になれば#名前2#を今すぐにでも呼び戻せるのに、と思った。そんな歪んだ思いを抱えながら入ったナイトレイブンカレッジで#名前2#と約束していた18歳を迎えた。 #名前2#は約束を破った。レオナの国では約束は大事だ。破ったものは厳しく罰せられる。罪人として#名前2#を呼び出そう、これで結婚の約束も忘れてたらあいつぶっ殺そう、と。そう思っていた。 ナイトレイブンカレッジは長期休みにならないと実家に帰れない。レオナは結局ワガママでめんどくさい第二王子として育ったため、今でも仲良くしているのは#名前2#と共に自分を見てくれたバハリしかいない。 バハリはこまめに手紙をよこす。大抵は暴れていませんか、とか壊していませんか、とか書いていて最後には「お勉強はしっかりしましょうね。#名前2#さんは馬鹿は嫌いでしたよ」と言うのだった。レオナはさすがに勉強だけは真面目にやっておこうと思った。 罪人として#名前2#を呼び出した時に誰かに邪魔されたらたまらない。きちんと自分の手で裁き、彼を自分の元に置かなければならない。未来の旦那様のためだからな、と自分に言い聞かせていた。 バハリとの手紙のやり取りを見られてアズールとの契約に使われたこともあったが何とかそれもすり抜けた。レオナの出席日数が足りず留年したときはバハリからお怒りの手紙が何通も届いたし兄や父からも来た。彼女以外の手紙は全て無視した。お前らだって好きにやってるんだから俺だって好きにさせろ、とレオナは手紙を送り返した。ラギーは毎度レオナの手紙を送る羽目になっていたのでバハリという女性はレオナの恋人だと思っていたらしい。 「バハリってのはうちのメイドだぞ」と言うとラギーは相当驚いた顔をしていた。アホみたいな顔晒すんじゃねえよ、とレオナにつつかれたがラギーは気にしなかった。 「だっって、それって! ちょーー、身分差じゃないっすか!!」 「はぁ??」 #名前2#とは身分差があるがこいつがそれを知ってるはずもない。この会話でラギーの誤解はとけたがメイドに手紙を送るレオナという印象がついてしまったのは面倒だった。こんなことになるくらいなら、バハリ恋人説の方が楽だった。 そんな手紙のやり取りをしていたある冬のこと。一通の手紙がいつもより嵩張った姿で届いた。冬の寒さを心配してるのか?と思いながら開くと封筒の中にまたひとつ封筒が入っていた。 バハリの手紙にはたった一言、落ち着いてくださいと書いてあった。何言ってんだコイツ、と。封筒を見るとそれは手紙だった。新聞がホッチキスで貼り付けられている。知らない人間の文字だった。 息子の探索が終わりました、と。あの子はもう戻らないと思います、とへたくそな字で書かれていた。新聞には#名前2#・#名前2#が洞窟での事故で行方不明になったことを知らせるものだった。2週間も前の新聞だ。バハリだって見ていただろう。2週間。彼が見つからなかった。捜索も終わらされた。#名前2#は法律でもう、死んでいることになったのだ。 それが自分にとってどういう意味を持つのかレオナはよく分からなかった。バハリがなぜ今、知らせてきたのか。それすらも考えられなかった。 レオナは吠えた。何もかもを砂に変えたかった。 だが本当に叫んだのかどうかレオナは覚えていない。気づいたら自分は呼吸できていたのかも分からなかった。息苦しくて仕方ない。ただ己の部屋で突っ立って手紙を握りしめていた。 にじんだ視界の中で体はゆっくりと動いていた。生きてるのか、と自分で自分に驚いた。自分の体を傷つけることはなかったようだ。手の温度はどうだ? 熱くなった体は感じるのに、手紙を握る指ばかりが冷えて固まっている気がする。 ゆっくりと動かすと指はきちんと動いて手紙のしわを伸ばし始めた。レオナはひとまず手紙を大切に机の中にしまうとベッドに横たわった。 #名前2#と再会することが生きる意味になっていた。それがなくなって、自分はどう生きればいいのか分からなくなった。レオナに突然死の概念が襲いかかってきた。#名前2#が生きているとは思えなかった。バハリのことも恨んだ。なぜ教えてくれなかったのか、と。自分に#名前2#を会わせた父も恨んだ。会わなければ、もしかしたら。#名前2#は生きていたのかもしれない。王宮でのんびりと彼は下働きなんかをしていたのかもしれない。そう思うとレオナは自分のことさえも許せなかった。 レオナはもう、何もかもがどうでもよくなってしまった。いっそのこと、何もかもを巻き込んで消えたい。心の中に密かに住まわせていた幼い自分が叫んだ。 「#名前2#はしんでない!!」 いいや、あの男は死んだ。あの男はレオナとの約束を破った。幼いレオナはなんで信じてやらない!と叫んでいる。信じたところで18になる前に会いに来てくれなかった。 レオナは久々に自分が泣いていることに気がついた。 [newpage] マジフト大会が始まった。サバナクロー寮はオンボロ寮の監督生たちにやられて始まる前からボロボロな状態。虚しくも惨敗だった。せっかく客が来ていたというのにひどい有様だった。 あーあ、とラギーやは文句を言っていたがレオナにとっては何だか笑える結果だった。#名前2#が昔いたころは惨敗するのは当たり前だった。その度に#名前2#に文句を言ったら、俺の力で勝負したんだから当たり前じゃないですかと笑っていた。寮に戻るぞ、と声をかけて運動場を歩いていたら男が1人出口で待っていた。 「いやぁ、すごい負けっぷりでしたねえ」 「え? 誰っすか、あんた……」 「療養してたらなんかキツネ耳生やした男に呼ばれまして……ここで待ってろって。杖まで貸してくれてんですよ。あの人って一体なんですか……。あ、俺はそこの偉ぶった男の保護者です。どーも」 #名前2#だった。幽霊でも幻でもなく、生きて、立っていた。#名前2#は片腕をなくし、ひどい傷を負っていたが生きていた。生きて、あっけらかんと笑っていた。生きていることへの喜びよりもレオナはまず怒りの方が先に生まれた。 「今更何をノコノコと出てきやがったクソ野郎!!!!!!」 あのレオナが叫び飛びかかり人の顔を殴ったのは、後にも先にもあの1度だけだった、と寮生たちは語った。 #名前2#さんはまだ本調子じゃないんだから!!と#名前2#を呼び出したファレルが慌てて間に入る。レオナを引きはがそうとしたがレオナは#名前2#の服を掴んで離さない。いっそのこと2人で保健室に行け!と叫ばれてレオナはさっさと#名前2#を引っ張り歩き出した。 あのレオナが人を担いで歩くなんて光景もこの1度だけだった。 保健室に行って#名前2#をベッドに放り込むと「いたっ」と声が聞こえた。無視した。 「それで、お前何してたんだ」 「あっはは」 「あっははじゃねえ」 ベッドを蹴ると「やめろよ、俺けが人なんだけど」と笑っている。笑い事ではない。全然。#名前2#はボロボロの身体だが生きていた。洞窟の事故でうまって、行方不明だと新聞では言われていた。それはいつしか死に繋がったはずだった。だからレオナは諦めたのだ。何もかも。#名前2#を待つことも、未来に期待して生きることもやめた。それが、なぜ今になって。 言葉にならない気持ちが胸の中に湧き出てはまた消えていく。何を言えばいいのか分からなかった。ただ、生きていることが夢ではなかったことにどこか安心している自分がいた。殴った右手はじんじんと痛み、彼を抱えた左腕は重さのせいでだるくなっている。怪我をしたとはいえレオナに抱き抱えられるなんて#名前2#は相当に痩せてしまったらしい。#名前2#を見るだけで涙が止まらなかった。あの熱が自分の元に帰ってきた。そう思っただけで本当に泣きたくなる。 「なんか仮面をつけた人が俺の事を助けてくれたんですよ」 「へえ」 「そんで、病院でなくした片腕と仲良くなるためにリハビリして傷も治療受けてってやってたらキツネ耳の男が俺のところに現れてナイトレイブンカレッジに来いって言いましてね。いやー、ホウキで旅行するなんて人生で初めてですよ。片腕がないもんだからベルトで固定されちゃって」 ファレル先生のことだ。ということは、#名前2#を助けてくれたのは学園長だろう。#名前2#はけたけた笑いながら「ナイトレイブンカレッジに入れるとは思わなかったけど寮長も似合わないなー」と言う。 「うるせえ、好きでやってるわけじゃねえ」 「あっそう」 #名前2#は白髪頭にはなっていなかった。日に焼けた姿と半袖のシャツ、ゆるいズボンを履く姿は昔よりも生き生きとしている気がした。レオナは#名前2#が自分から離れてからの方が楽しかったのか、と聞きそうになった。そして止めた。聞いたところで意味は無い。#名前2#の人生は彼自身のものだ。そして彼の道と交わるのをひとりで愚かにも待っていたのも自分だ。 「元気にしてますか。レオナ様」 #名前2#はレオナの頭をゆるりと撫でた。昔と同じ手つきではなかった。肩が動かないらしい。いてて、と#名前2#はごきごきと肩を揺らす。 「………。お前が居なくなって、」 「はい」 「王宮は、馬鹿みたいに静かだった」 「っふ、あっはは! そりゃあそうだ、うるさいレオナ様も静かになりますもんね。バハリも静かな子だし」 「俺はずっと泣いてた」 ぴたり、と#名前2#は笑うのを辞めた。レオナは視線を合わせないまま話し続けた。 「三日だ。三日待っていた。お前は来なかった。バハリは俺のためによくしてくれたが、お前とは違う。俺は毎夜枕を濡らしたよ。寝る時に聞いていたお前のアホみたいな話がないんだからな」 「アホみたいって……」 「実際、アホだっただろ。でけぇゴリラが人を助けるだとか、砂漠にサメが出てきて人を襲うとか」 「そういう映画ですよ」 「じゃあ映画を作った奴がアホなんだな」 そうかもしれませんね、と#名前2#は笑った。その笑い方は変わっていなかった。昔と同じところ、変わってしまったところ。一つひとつを確認したい。#名前2#が生きていることを確認したい。それでも、レオナはいつかまた#名前2#が「さようなら」と消えるのが怖かった。このまま会話が続いてくれればいい。#名前2#が帰らなければいい。そう思った。 「俺が居なくなってレオナ様が泣いているとは思いませんでした。レオナ様にとっては、長い人生で、数ある大人の中でたった一瞬だけ関わったような男ですし。大きくなって真面目に会いに行って「誰だ」と聞かれたら怖いなあって。そう思ってましたよ」 そんなことない、とレオナは叫んだ。そんな、一瞬で終わるような男ではなかった。 #名前2#は幼いレオナにとっては彼と歩いたところだけが世界だった。#名前2#はレオナを見て片腕しかない手をのばした。座ってください、王様がひとり立ってるなんて。誰かに見られたら困りもんですよ、と#名前2#が笑っていう。そんな風に窘められるなら、レオナは王になんてなりたくなかった。 「レオナ様のことは、バハリから聞いていましたよ」 「! お前、あいつと……」 「返信は出来ませんでしたけどね。いつも手紙が送られてきました。レオナ様がひとりで起きましたよ、とかレオナ様は三つ編みが上手になりましたよ、とかそんな他愛もないことをいっぱい書いて送ってくれた。俺もちゃんと見ていたかったけど、それは……残念ながら無理だったので」 レオナ様、本当に大きくなりましたねえ。もう18歳なんて歳も通り過ぎちゃって、と#名前2#が笑った。あの約束を#名前2#は忘れていなかったのだ。 「お前も、白髪頭じゃねえな」 「あー、レオナ様のワガママに振り回されてもっと老ける予定だったんで仕方ないです」 「はあ? ワガママなんて言ってねえだろ」 「言われてましたよ」 #名前2#と軽口を叩きあい、昔を懐かしんだ。#名前2#とはずっとこんな会話を続けていくものだと思った。ナイトレイブンカレッジを留年したと聞いたら#名前2#はきっと怒っていただろうし、そんなに学生時代を伸ばしますかと面倒くさがっていたかもしれない。王位継承の儀式だって#名前2#が呼び寄せればレオナとて出たことだろう。昔のレオナ様に似てなくて可愛い子ですね、なんて嫌味を言うにちがいない。そんな、未来が、あったはずだった。 「#名前2#、お前は、約束をやぶったぞ」 震えた声でそう言うことしかできなかった。寮生の前では見せてなるものか、と我慢していた涙が止まらなかった。#名前2#を愛し、そして愛されたかった。ただ、それだけの小さな願いだった。 「どうせ俺は第二王子だ、お前は俺の地位が大事だと言っていたがな。もう王にだってなれない、ただ使えない王族だ」 「そんなこと……」 「そんなことある!」 だから、早く迎えに来い。ずっとお前を待ってたんだぞ、とレオナは鼻水をかみながらしゃべった。#名前2#は困ったなあという顔をしている。 「おい、なんでそんな顔をしている。お前、まさかあの約束を…!!」 「い、いや、ちゃんと覚えてますって!! そんな怖い顔しないでくださいよォ」 「信用ならん! 人間は誰もが嘘つきだ!!」 「俺も?」 「ああ」 「バハリも?」 「ああ」 「……お兄様も?」 あの人は……あの人は、嘘はつかない。秘密は多いけれど。嘘だけは器用なことにつかない。黙ってしまったレオナを見て#名前2#はけらけらと笑う。 「ファレルって言うんだっけ? あの人と仮面の人が手伝ってくれまして」 「ああ?」 「駆け落ちの許可を貰ってきました。卒業したら一緒に暮らせますよ、1度死んだ男とだし、レオナ様も死ぬかもしれないけど」 そう言って#名前2#が渡したのは兄の押印がついた手紙だった。駆け落ちの許可なんて変な話だが、その手紙は確かに許可証だった。 「面白い人ですね、新しい王様は」 #名前2#はまだけらけら笑っていたが、レオナは何だかまた怒りがふつふつとわいてきた。さっきまでの感動的な気持ちはどこに行ったのやら。ばしん、と#名前2#の腕がないままがら空きの脇腹を叩くと「いっだぁ!!」と叫んだ。 「次の休みにはお前の元に行くからな!! 手紙をちゃんと書け!!」 #名前2#にそれだけ叫んでレオナは保健室を出てきた。うわっ、と走っていく生徒たちの服が見える。あのカラーリングは、うちの、寮生だ。 「お前ら……!!!!」 「逃げろ! 寮長がご乱心だ!!」 「またオーバーブロットされるぞ!」 「待てお前ら、みんな砂にしてやる!」 赤くなった顔は走っているうちにおさまった。バクバクと高鳴る心臓は走ったせいだ。廊下を走るな、とファレル先生に捕まりサバナクローの生徒はいっせいに寮に戻された。寮生たちはへらへら笑っていたがレオナがユニーク魔法を発動させると一気に顔が青ざめて「すみませんでした!!」と叫びながら部屋に戻っていく。クソ野郎ども……と呟いたレオナにひょいっと影が近寄ってきた。 「そりゃあうちの寮長が卒業したら駆け落ちするって言われてるんだから盛り上がりますよ」 「てんめっ……!」 「おっとー! やめてくださいよ、#名前2#さんのスマホの番号が砂になっちゃいますよ」 はた、と立ち止まった。バハリが機械が使えずずっと手紙で書いていたせいで忘れていたが世の中にはスマホというものがあるではないか。そんなこともすっかり忘れていた。ラギーはメモ帳をひらひらと揺らしてみせる。 「はい、これ。#名前2#さんからレオナさんに渡してくれって」 「……」 ばつが悪そうにそれを受け取るとラギーはししっと笑った。 「よかったですね、ほんとの恋人とまた会えて」 ラギーは、#名前2#のことを知らないはずだが、恋人と言われて悪い気はしなかった。鼻で笑いながらもメモ帳を受け取り無造作にポケットにしまった。 「いやー、これでレオナさんの恋人さんに逐一報告できるのかと思うと楽ちんですね!」 「しね」 前言撤回。ラギーに知られたのはかなりまずかった気がする。