はっけよい曲がり角
あのランサムにクリスマスに一緒に過ごす人がいないとは思わなかった。 せわしなく押されたチャイムにうんざりして扉を開くと彼がいたのである。ニューヨークの街中からは外れた安アパートに彼のような金持ちがいるのはどう見ても似合わなかった。相変わらず好きセーターを着ているのか、首元からはくすんだ色の毛糸が見えていた。 なんでここにいるの、と聞いたらランサムは鼻で笑いやがった。恋人ないしは家族と一緒に過ごすものだろう、と言ったら「ふん、どうせお前がひとりぼっちだろうと思ったからな」とずかずか家の中に入ってくる。彼の手には買ってきたらしいチキンがあった。ケンタッキーではなく、チャイニーズのものである。高校生の時にはふたりで好奇心から食べに行ったことを思い出す。思い出しただけで味まで出てこなかった。まずかったから記憶から消したのかもしれない。ランサムは俺のことなどお構いなしにコートを廊下に脱ぎ捨ててリビングに行く。おいやめろ、と声をかけてもランサムは聞かなかった。高そうなコートがしわになってしまう。ハンガーを持ってきて扉の隙間にかけた。うちのクローゼットにはもう入る場所がない。 いつもの様に自分の家のようにくつろぎ始めた奴を見て今年のクリスマスのにケーキワンホールをひとりで食べるという目標はできなさそうだと思った。チキンうまいのか? と聞いたら多分なと答えた。あとで絶対口に突っ込んでやると決める。 ランサムとはハイスクールで会ってからなんだかんだと連絡を取りあっている仲である。ずる賢いランサムといじめられっ子だったおれが仲良くなった理由はコンビになって組まされた詩の授業だった。おれのことをバカにしたようにウェールズ語を操ったランサムにおれも対戦した。ふたりで異国の、それもあんまり知られてない言語を操るものだから教師も周りの奴らもビックリしていた。なにあれ気持ち悪い、と言われたら反撃するかのように詩を読み上げてやった。楽しかった。その時にはランサムも笑ったが、そこからすぐに仲良くなれた訳では無い。その後も時たま二人で出くわしたときに相手が知らなそうな単語を投げかける遊びをした。元々はランサムから始めたことである。彼は自分の祖父とこんな遊びをしていたらしい。俺もせっせと頭をはたらかせては答えと新しい問題を出していた。それがいつしかチェスに変わり、二人で対面でチェスをやるようになった。おれはランサムのことを友人と思ったことは無いが、ライバルと言われたらそれも違うと言う。彼との関係はうまく説明できないのだ。ただ、連絡はそれとなくする仲だった。 ランサムに恋人ができるのは定期的だった。彼の愚痴を聞いたり、デートがあると断られることもしばしばあった。彼の顔はおれが見ても整ってると言えたし性格と口の悪さに目を瞑ればそれなりにいい男である。クリスマスを一緒に過ごしたことなど今までなかったのに。 「急にどうしたんだよ、家に来るなんて」 「いいだろ別に、恋人は?」 「向こうが仕事」 「ふーん」 恋人とは1月からまた再会する予定だ。向こうは泣きながらおれに電話してくれたが、こっちとしては無理して休みをもぎ取るよりも体をいたわって欲しい。おれがそう言うと恋人はズビズビと泣きながら「1月はアメリカのニューヨークで腐った水飲もうね!」と叫んだ。恋人にしておいてなんだが、この変人これでよく「恋人」というものをやっていられるよなと思ったりする。ランサムに笑い話として腐った水事件を教えたら眉間にググッとシワがよった。そしてそのまま、おれが取ってきたシャンパンを水でも飲むかのようにぐびぐびと腹に流し込んだ。元から酒は好きじゃないので別に構わないのだがランサムが酔っ払うとめんどくさい。吐いたあとの始末をしないから。 「……#名前2#、おまえ、いつからゲイって気づいた?」 「え? 結構前だけど。ああ、お前のこと狙ってたか心配してたの? あっはっははは、ないない。お前のことは友だち……とも言えないけど、絶対に恋人にはしなかったと思うよ」 おまえのこと浮気とかは疑われないだろうから安心してくれ、と笑ったらランサムはしかめっ面のままシャンパンを入れたはずのグラスを開けてケーキに突っ込んだ。底まで入れるとぐいっと持ち上げる。グラスの中に綺麗にケーキが入り込んでいた。 「おれも食べよ」 「おまえは食べるな」 しかめっ面で言ったランサムは呆気に取られたおれの顔を見てげらげらと笑いだした。お前なんかに恋人ができるなんて! と笑う彼の脛を蹴りあげた。絶対に祝わないが、ゲイを否定はしないこいつのことをおれはそれなりに気に入っている。友でないけれど、いい関係性だと思う。