無垢のおわり
※刀剣男士主 朝起きてみたらなにかが自分の上に乗っかっていることに気付いた。腕だ、と気づいたのはその一瞬あとのこと。慌てて刀を掴むと「どうしたんだい……」と寝ぼけた声で南海がメガネをかけた。 「……南海、おまえ、あの、あー、もう! 驚かせんなよ!!」 「僕が来ても起きない君のほうが心配だけど」 それは正解だ。こんなんじゃ主を守れない。いくら南海だからといって気を抜いてしまうなんて。 「昨日は自分の部屋に戻るまでがおっくうでね。君の部屋にお邪魔したんだ」 「言ってる意味がわかんねえ……」 めんどくせえなあ、と俺が立ち上がろうとすると南海はがっしりと俺の服を掴んでいた。せっかく主からもらったパジャマがよれよれになるからやめろ、と言うとさらに体重をかけてひっぱってくる。最悪だ。 「いいからいいから。ねえ、昨日はいつもより早く寝たんだよ。0時半だ、すごいだろう?」 「すごくない」 「僕のことを褒めてくれてもいいんだよ」 「すごくないって言ってるだろうが!!」 南海は俺の足元でほら、と頭を差し出している。仕方なくぐしゃぐしゃと髪の毛をいじったら南海は楽しそうに笑っていた。 「ふふふ、どうだい僕の撫でられっぷりは」 「はいはい。可愛いですよ」 「そうかい? それはおめでとう」 これは#名前2#が簡単に褒められたことへの褒め言葉である。変な話だが、南海は#名前2#が褒めるという行為をしやすいようにこんなことをしているのである。 南海を褒めたのはいつからだったのか。色々とあるのだが、練度が上限に達してしまって暇な時間があったのが悪い。主からもらった本はとても面白くて勉強になった。今まで見ていたあの星とは何だったのか、時間の区切りが変わったのはなぜだったのか。色んなことを知識として吸収していたら、ほかの刀剣男士も気になるやつらが出てきて、一緒に勉強していたのだ。短刀たちには星座盤をわたしたりして、みんなで星を見上げた。本丸は普通の空間とは違うから、と主がわざわざ現世の星をこの空に投影させたのだ。どうしても天体観測したかったら現世に行かなきゃいけないと言われて、主が午前二時に踏切にいくの!?と言っていたんだっけ。南海はその現世への出張に一緒についてきたのだ。本丸に来て日が浅いやつを連れていくのはどうかと思ったが、主から午前二時に歩いてるのはよっぽどのやばいやつしかいないから平気と言われて彼の故郷を歩いていた。 もう終電が走ることはないらしい踏切近くで望遠鏡をセットした。南海は子どものように楽しそうにそれを眺めていた。そうだ、確か、あのとき秋田に似ているなと思ったのだ。はじめて星を見たがった彼はもう極になって俺よりもだいぶ強くなった。頭を撫でるのも一瞬警戒されてから名前を呼ばれる始末である。そんな寂しさがあったせいか、南海の頭をクシャりとやってしまった。 #名前2#は勢いよく謝った。 すまん、子どもと同じとかそんなこと考えてないから。最近、可愛がる機会が減っててつい手が出たというか、だから、つまり、そんな泣きそうな顔をしないでくれ……!! 南海が泣いたという事件はすぐさま肥前や陸奥守の耳にも聞き届けられたが話を聞いたら「なんだそんなことか」という顔をする。審神者は彼らはもっと怒るのかと思っていたので肩透かしを食らってしまった。#名前2#はほんとうに申し訳ない、と何度も謝って部屋を出ていった。謝罪の付き添いは終わったというのにまだ残る主を見て肥前は渋々「なんだよ」と聞く。 「だって。南海が泣いたって聞いたときはあんなに怒ってたのに、今はすごい大人しいから」 「………話を聞いたら別にそんな思わねえよ」 「なんで? 嫌がったとかじゃなかったんだ?」 肥前はうーーんとうなったあと、#名前2#に撫でられて嬉しかったんだろうなと呟いた。ん? と審神者が思うまもなく、肥前は審神者を立ち上がらせて部屋に追い出した。南海って#名前2#に好意でも抱いてんのかな。そんな疑問を持ちながら、あの夜以降褒めてくれてもいいんだよと#名前2#にくっつく南海を見つめる。 1週間ほど見てみたら分かったのだが、南海はわりと確信犯である。あの#名前2#の狭いパーソナルスペースに入り込んでは許されているのだから。短期間でそんなことやれた刀剣男士は見たことがなかった。 「ははーん、なるほどね!」 「何がなるほどなんだ」 「恋してんね、ってこと」 これで新しい刀剣男士が可愛がられるタイプだとしたら、#名前2#はさっさと南海から離れてそっちに行くのか南海のもとに留まっていられるのか。少し見てみたい気持ちになった。