あなたとの夜はどこかしら

 ケイトの家には綺麗なバラが植えられている。俺はそれを見る度に「綺麗だね」と笑っていた。ケイトはすごく嬉しそうに#名前2#くんに褒めてもらえるなら俺もっといっぱい育てようかな、なんて言うのだった。  同じナイトレイブンカレッジに入学したのは奇跡だったと思う。あの名門校に行けるなんて思わなかった。ここに来てからもケイトはバラを育てるのが上手かった。だけど新しくは植えられないから、とケイトは丁寧にバラの花びらを凍らせて保存し始めた。 「なになに、ハーバリウムにでもするのか?」 「まさかあ。そんなキレイなものになるわけないよぉ」  俺はケイトの育てたバラが好きだったからそんな言い方をされるとは思わなくてケイトをきょとんと見つめてしまった。俺の顔を見てケイトはにへらっと笑った。 「これはね、#名前2#が思ってるようなものじゃないよ」  そうなのか?と小さく呟いた俺にケイトはうん、と悲しそうに笑った。  #名前2#は色んな人に好かれる。たぶん、そういう星のもとに生まれたのだと思う。可哀想だけど#名前2#にはそんな運命から外れてもらおう、と思った。#名前2#に告白しそうな女の子には俺から声をかける。本当にアイツでいいの?と。ユニーク魔法はそれなりに使えていたし、俺は変装も得意だったから。女の子たちが目をそらす度に「そんな気持ちで#名前2#を好きになってんじゃねえよ」と思っていた。ひどく身勝手なことを言っている自覚はあった。  たまによそ見もせずに#名前2#を好きになるやつもいた。そういう奴はやっぱり俺のユニーク魔法が効果的で。加害者としても、発見者としても俺はうまくやってみせた。#名前2#は俺のものだ、と思っていた。  そうやって人をいなくさせる度にバラを植えた。誰にも知られない俺の成果だ。バラはまるで誰かの怒りを吸い取ったように生き生きと花開いてはすぐに萎れてしまう。#名前2#はたった一瞬の輝きを見るために「いつ見ても綺麗だな!」とにこやかに俺の家にやって来るのだ。誰にも知られない英雄はこうやって心を慰めることがあったのだろうか。俺は#名前2#に褒められるこの位がちょうどいいや、と思った。  学園に入学してからはバラを無闇に植えてはいけない、と言われた。赤い薔薇が好きなんだけどなあ、と言ったら#名前2#に「ケイトはバラを育てるのがうまいもんなあ」と頷かれた。そういう話じゃないんだけど、と思ったけど嬉しかったので黙っておいた。  #名前2#は相変わらずモテていた。男にもモテんのかー、と思いながら自分のことは棚に上げてやっぱり排除していた。徹底的に。誰かが俺を睨む度に笑える気分になってバラの花びらを飾るようになった。1枚ずつ増える度に額縁の中は赤く染まっていく。その様子が家に作った薔薇園に見えてきて笑えるのだ。  ずっとそんな調子でいると思っていたのに。 「……いま、なんて言った? けーくん、まだ若いから耳がおかしくなったとか疑いたくないんだけど」 「だ、だからぁ! 騙されたんだってば!!!」  #名前2#曰く、いい雰囲気になったからとそのままセックスに持ち込めると思った、と。童貞らしい言い訳で呆れるけど問題はその先だ。結局セックスはしないまま財布から金を取られて終わったらしい。 「……ばっかじゃない?」 「うるせーー!! イケメンたちには俺のこんな気持ちなんて分かんねえよ!!」  #名前2#は顔よりも性格がイケメンだから大丈夫、というのは置いといて。#名前2#が童貞のままはいいが、あの#名前2#に選ばれたくせにそれを捨てて金だけ奪ったというのが無性にイライラしてしまう。 「ねえ#名前2#」 「……慰めの言葉なんかいらねえから……!!」 「慰めるわけないじゃん~~。#名前2#ってば自業自得ってやつでしょ」 「うぐっ……。じゃあなんだよ、傷でもえぐろうってか」 「んーー。あのさ、その女の子の特徴とかって覚えてる?」 「は?」 「いいから。答えてよ」  何でそんなこと聞くんだよ、と疑問になりながらも#名前2#は素直に答えてくれた。さて。今回は何枚の花びらを飾ろうかな。